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世界中の人々を魅了するアンコール・ワット。その姿は壮大で美しく世界最大の規模と建築様式美を誇っています。あまり話題になりませんが、アンコール・ワットと周辺の遺跡群は階段地獄とも言える場所です。迎えてくれるのは、限りなく垂直に近い急な階段。滑落する旅行者も後を絶たないそうです。今回は、アンコール・ワットと恐怖の階段のお話です。
前回の記事は こちら
Lucia Travel連載一覧は こちら
アンコール遺跡群を散策していると、信じられないほど急勾配な階段を何度も見かけます。あっちの遺跡にも、こっちの遺跡にも、かなり急な角度の階段がズラリ。時には「え?ここ登っていいの?(下っていいの?)」と周りを見渡すレベルで急な階段も登場します。
さらに、遺跡と同じ石を組み合わせて造った階段なので、一段がとてつもなく高い!場所によっては、日本人女性の太ももの位置までが1段です。そんな階段なので、10代の若者でも「よいしょ!」と足を上げなければ登れません。正直かなり辛い…。そしてアンコール遺跡群はそんな遺跡が何個もあり、想像以上にハードなので、歩きやすい靴と身軽な荷物がマストです。
アンコール遺跡群の遺跡はかなり自然な状態で保存されていて、あまり人の手が加えられていません。そのためメインの遺跡以外は、過激といってもいいレベルの急な階段でさえ、手すりやロープが設置されていない状態です。石の階段はたくさんの旅行者が行き来したせいかツルツル滑り、必然的に両サイドにある遺跡につかまりながら登る形になってしまいます。
最初の頃は、階段を登る度に心が少し痛みました。「この遺跡って世界遺産なんだよね。滑落しないためとは言え、触っていいのかな…?でも遺跡に来たからには、一番上まで行ってみたいし、登るためには遺跡につかまらなきゃいけない。でも…いいの?」。壊さないように、絶対に傷つけないように、葛藤を抱えながら、そろりそろりと階段を登ります。まるでロッククライミングでした。
ただ悲しいことに遺跡を気に留めながら登る人は少ないようで、脆くなった石を蹴り崩すように階段を駆け上がったり、「そこつかむの?」というレリーフに手をかけて階段を登る人を多々見ました。遺跡の破壊も悲しいですが、階段から滑落する旅行者も多いようで、慎重さが求めらます。
ハードな階段を軽々と登って自由に散策をする観光客たち。地元の人も外国人も、たくさんの人が、遺跡の端に座ってお喋りしたり、お菓子を食べたり、絵を描いたり、かなり自由に遺跡を楽しんでいます。ゆったりとした心和む光景。でも、そうではないシーンもありました。
中でも一番驚いたのは、ほぼ垂直の塔のような遺跡の頂上に人が登っていたことでした。マンションの4~5階に相当するレベルでしょうか?空地のような空間に塔のような筒状の遺跡がボン、ボン、と並んでいます。階段は見当たないため、ぐるりと遺跡を周って観察しました。「こんな形の遺跡もあるんだ」と感心していたら、なんと塔の上を観光客が歩いている姿を発見。信じられない思いでした。
「ここを登ったの?どうやって?もしかしてよじ登ったの?」驚く私に彼は手を振ります。でも私はショックで手を振り返せませんでした。階段のない塔です。遺跡の凹凸を利用して、無理矢理よじ登ったとしか思えないこの状況。
全然大切にされていない世界遺産。「こんな状態が続いたら、アンコール・ワットもその他の遺跡も、いつか形が変わってしまう」。一観光客でしかない私が、遺跡の未来を危惧しなきゃいけないほど破壊が進んでいるなんて、とても辛いことでした。
アンコール・ワットを語る上で欠かせない話題に首無し仏像があります。階段同様アンコール・ワットを散策していると、結構な頻度で首のない仏像に出会います。首から上の部分を失った仏像がズラリと並ぶ光景は、正直あまり気分のよいものではありません。
初めて見たときは経年劣化なのかと思いました。アンコール・ワットは、巨大な木に飲み込まれ自然と一体化してしまったゾーンを持つ遺跡です。長い年月の間に重い首はどこかへ転がっていってしまったのかと思いました。もしくは度重なる戦の傷の一部なのかなと。でも何度も目にするうちに、それが人為的なものであることに気付きました。
風雨に晒されて丸くなった扉や門の中に鎮座する仏像。それら全ての首がスパッと平行に切られていました。戦争で誤って壊してしまったのなら、もっといびつなはずです。人為的に切り取られたのは明らかでした。
現地で出会ったガイドさんいわく「仏像を壊したのは、アンコール・ワットを征服したクメール・ルージュたち。本当は全て壊したかった彼ら。でも数がありすぎて手がまわらない…。結果として、数多ある仏像の首を次々と切り落とすことで“良し”としたようです。同じような理由でレリーフも顔の部分だけを削り取りました。それで“消したことにした”と」。
建築美や壮大さばかりが知られ、戦いの犠牲になった歴史はあまり語られないアンコール・ワット。でもガイドさん曰くアンコール・ワットの壁に描かれたレリーフには、神話時代からの争いの痕跡がギッシリ刻まれているそうです。
何も知らずに「アンコール・ワットって素敵!行ってみたい!」と観光していた能天気な自分が少し恥ずかしくなった体験でした。首から上をなくしたモノ言わぬ仏像は、何も言えないまま今も鎮座しています。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
世界中の人々を魅了するアンコール・ワット。その姿は壮大で美しく世界最大の規模と建築様式美を誇っています。
あまり話題になりませんが、アンコール・ワットと周辺の遺跡群は階段地獄とも言える場所です。
迎えてくれるのは、限りなく垂直に近い急な階段。滑落する旅行者も後を絶たないそうです。
今回は、アンコール・ワットと恐怖の階段のお話です。
前回の記事は こちら
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
アンコール・ワットの階段は日本人女性の太ももの高さ!
アンコール遺跡群を散策していると、信じられないほど急勾配な階段を何度も見かけます。あっちの遺跡にも、こっちの遺跡にも、かなり急な角度の階段がズラリ。
時には「え?ここ登っていいの?(下っていいの?)」と周りを見渡すレベルで急な階段も登場します。
さらに、遺跡と同じ石を組み合わせて造った階段なので、一段がとてつもなく高い!
場所によっては、日本人女性の太ももの位置までが1段です。
そんな階段なので、10代の若者でも「よいしょ!」と足を上げなければ登れません。正直かなり辛い…。
そしてアンコール遺跡群はそんな遺跡が何個もあり、想像以上にハードなので、歩きやすい靴と身軽な荷物がマストです。
滑落者も生まれる急な角度
アンコール遺跡群の遺跡はかなり自然な状態で保存されていて、あまり人の手が加えられていません。そのためメインの遺跡以外は、過激といってもいいレベルの急な階段でさえ、手すりやロープが設置されていない状態です。
石の階段はたくさんの旅行者が行き来したせいかツルツル滑り、必然的に両サイドにある遺跡につかまりながら登る形になってしまいます。
最初の頃は、階段を登る度に心が少し痛みました。「この遺跡って世界遺産なんだよね。滑落しないためとは言え、触っていいのかな…?でも遺跡に来たからには、一番上まで行ってみたいし、登るためには遺跡につかまらなきゃいけない。でも…いいの?」。
壊さないように、絶対に傷つけないように、葛藤を抱えながら、そろりそろりと階段を登ります。まるでロッククライミングでした。
ただ悲しいことに遺跡を気に留めながら登る人は少ないようで、脆くなった石を蹴り崩すように階段を駆け上がったり、「そこつかむの?」というレリーフに手をかけて階段を登る人を多々見ました。
遺跡の破壊も悲しいですが、階段から滑落する旅行者も多いようで、慎重さが求めらます。
観光客に破壊されゆくアンコール・ワット遺跡
ハードな階段を軽々と登って自由に散策をする観光客たち。地元の人も外国人も、たくさんの人が、遺跡の端に座ってお喋りしたり、お菓子を食べたり、絵を描いたり、かなり自由に遺跡を楽しんでいます。
ゆったりとした心和む光景。でも、そうではないシーンもありました。
中でも一番驚いたのは、ほぼ垂直の塔のような遺跡の頂上に人が登っていたことでした。
マンションの4~5階に相当するレベルでしょうか?空地のような空間に塔のような筒状の遺跡がボン、ボン、と並んでいます。階段は見当たないため、ぐるりと遺跡を周って観察しました。
「こんな形の遺跡もあるんだ」と感心していたら、なんと塔の上を観光客が歩いている姿を発見。信じられない思いでした。
「ここを登ったの?どうやって?もしかしてよじ登ったの?」驚く私に彼は手を振ります。でも私はショックで手を振り返せませんでした。
階段のない塔です。遺跡の凹凸を利用して、無理矢理よじ登ったとしか思えないこの状況。
全然大切にされていない世界遺産。「こんな状態が続いたら、アンコール・ワットもその他の遺跡も、いつか形が変わってしまう」。
一観光客でしかない私が、遺跡の未来を危惧しなきゃいけないほど破壊が進んでいるなんて、とても辛いことでした。
何の目的で?首のない仏像たち
アンコール・ワットを語る上で欠かせない話題に首無し仏像があります。
階段同様アンコール・ワットを散策していると、結構な頻度で首のない仏像に出会います。首から上の部分を失った仏像がズラリと並ぶ光景は、正直あまり気分のよいものではありません。
初めて見たときは経年劣化なのかと思いました。
アンコール・ワットは、巨大な木に飲み込まれ自然と一体化してしまったゾーンを持つ遺跡です。長い年月の間に重い首はどこかへ転がっていってしまったのかと思いました。もしくは度重なる戦の傷の一部なのかなと。
でも何度も目にするうちに、それが人為的なものであることに気付きました。
風雨に晒されて丸くなった扉や門の中に鎮座する仏像。それら全ての首がスパッと平行に切られていました。
戦争で誤って壊してしまったのなら、もっといびつなはずです。人為的に切り取られたのは明らかでした。
いまだに残る侵略の歴史の跡
現地で出会ったガイドさんいわく「仏像を壊したのは、アンコール・ワットを征服したクメール・ルージュたち。本当は全て壊したかった彼ら。でも数がありすぎて手がまわらない…。結果として、数多ある仏像の首を次々と切り落とすことで“良し”としたようです。同じような理由でレリーフも顔の部分だけを削り取りました。それで“消したことにした”と」。
建築美や壮大さばかりが知られ、戦いの犠牲になった歴史はあまり語られないアンコール・ワット。
でもガイドさん曰くアンコール・ワットの壁に描かれたレリーフには、神話時代からの争いの痕跡がギッシリ刻まれているそうです。
何も知らずに「アンコール・ワットって素敵!行ってみたい!」と観光していた能天気な自分が少し恥ずかしくなった体験でした。
首から上をなくしたモノ言わぬ仏像は、何も言えないまま今も鎮座しています。
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel