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ペトラ遺跡で出会ったおじいさんとロバ。導かれるように遺跡の奥へと進んだ先には、小さな村がありました。
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【ペトラ遺跡に通じる幻の裏ルートを発見!~前編~】
これまでのペトラ遺跡の記事はこちらから↓
【ペトラ遺跡を代表する「エル・カズネ」を一望できる秘密の絶景スポット】
【ヨルダンの世界遺産「ペトラ遺跡」の入場料が高すぎる!?】
【ペトラ遺跡内で横行するロバのぼったくりに要注意!】
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青い空に見とれていると、おじいさんが食材を抱えて戻ってきました。私とロバを見つけるとニッコリ嬉しそうに笑います。
「〇×△♯!」
私には理解できない現地の言葉で何かを呟くと、岩の間からゴソゴソと小鍋を出してきました。まるでマジック。おじいさんは、まな板を使わずに果物ナイフで野菜とお肉をザクザクと一口大に切っていきます。たまねぎ、パプリカに似た野菜、トマト、香草いろいろ、そしてほんの少しの鶏肉。それらを小鍋に入れると、マッチ一本で薪に火をつけコトコト煮込みます。
色々と圧倒されている私の横では、ロバがのんびり草をはんでいました。疑問は尽きません。
さっき岩の間から鍋を出していたけれど、ここってベドウィン族の食事場?そういえば来る途中の岩陰には敷物が置いてあったし、よく見たら地面に火を起こした跡がいくつもある。岩一枚隔てた向こう側は観光客のスペースで、こちら側はベドウィン族のプライベートな空間?色々と圧倒されている間に、料理が完成しました。
鍋の蓋をあけると、水を一滴も使っていないのに蒸し料理が出来上がっていました。知っている名前を付けるなら、ラタトゥイユ。でもトマトの味は濃くありません。野菜の滋味をそのまま引き出したような素朴な味で、底の方には野菜から出た水分でスープまで出来上がっていました。
出来上がった料理は、あっという間になくなりました。砂漠の中で作った料理だから、ところどころ砂の味がします。
おじいさんのポケットから出てきたパンで最後の一滴まで残さず食べた後は、食器と小鍋を砂で洗いました。最初こそ声も出ないほど驚きましたが、おじいさんは慣れた手つきで鍋に砂をまぶし手でぬぐい取ります。2~3回も繰り返すと、鍋はあっという間にキレイになりました。
ここは水が貴重な地域。砂漠の民は、水を一滴も使わずに料理をして片付けまで終えてしまえるのです。
おじいさんとは色々な話をしました。でもそれよりも、だんだんと紫色に染まっていく空を2人で眺める時間の方が長くありました。私が帰りの時間を心配すると「大丈夫。送ってあげるから」と。少し心配ではありましたが、おじいさんのゆる~い空気感は居心地がよくて、もっと一緒にいたいと思わせるものがありました。
ロバは私たちが食事を終えた後も大人しく、まるで人間の言葉が分かるかのように良いタイミングで音を出します。そのたびに、おじいさんと私は笑いあいました。
「日が暮れる前に帰ろうか」
おじいさんがそういってロバの手綱を引き寄せます。
ここからは危ないからと、ロバの背中に乗るように私を促します。遺跡とは逆方向へ向かって歩き出しました。ゴツゴツした滑る岩。おじいさんの体は私よりずっと衰えているはずなのに、軽快な足取りで道を進んでいきます。
岩しかない無秩序な空間を進んでいくと方向感覚が鈍ってきました。進んでも進んでも360度すべてが岩です。目印になる看板も人工物もありません。
不安になって上を見上げると美しい空がどこまでも続いていました。自分がどこにいるのか分からず怖くなります。でも私には同じように見える景色なのに、おじいさんには道が見えているのでしょう。やがて獣道ならぬあぜ道に出ました。
さらに進んで行くと小さな村に着きました。小さな家の前を通り抜けます。もう一軒。しばらくしてまた一軒…。温かな雰囲気が家から漏れています。ご飯の匂い、家事をする女性の姿、子どもたちのはしゃぎ声、おじいさんに話しかける誰か。
家が増えてきた(村の中央に近づいた)と思ったら、アレ?また家の数が減ってきてる…?気が付いたら私はペトラ遺跡の外側にいました。いつの間にか安宿に通じる見慣れた道路に立っています。
〝アレ?〟気持ちの整理がつかない私におじいさんが言います。
「ここまで来たら大丈夫だよね?気を付けて帰るんだよ」「暗くなる前に帰らなきゃダメだよ」
そう言い残すと、ロバと共に去って行ってしまいました。
宿に戻った私は記憶を手繰り寄せます。道を覚えるのには自信があります。でも、どこをどう通ってペトラ遺跡の外側に出たのか説明ができません。
ペトラ遺跡の出入口は一つしか無く、観光客は出る時も入る時も必ずその門を通ります。でも私はそこを通らずに外に出てこれてしまいました。
〝安宿で聞いた噂話は本当だったんだ。私、ペトラ遺跡の裏ルートを通ってきたんだ〟
バックパッカーたちの間で幻と呼ばれる裏道に辿り着いたことに気付いた私は昂揚しました。私が今いる安宿には、バックパッカーがたくさん泊まっています。これは誰もが欲しい情報なはず。私ってすごい体験したんだ!!
でも、誰かにお喋りすることはしませんでした。あの裏道は探して見つかるものではないし、裏道を探したいがために観光客がベドウィン族の生活圏を脅かすようなことがあってはならないと思ったからです。
それともう一つ。不思議すぎたからというのがあります。帰り道に立ち寄った村の光があまりに幻想的だったからでしょうか。何だか記憶がフワフワしていて一連の行動を上手に説明できない自分がいました。あまりによく出来すぎていて、自分でもウソっぽいなと思ってしまうほどのストーリー。
日本に帰国した後、信頼している旅仲間の一人に話をしてみました。とっても羨ましがられましたが、その道の行き方を私はやっぱり説明できませんでした。
「ただひたすら岩の砂漠を歩いてたら、突然小さな村が現れたんだよ。その村を左手に見ながら進むんだけど、気付いたらほらあのバス停、あそこにいたの。砂漠の世界がいつ終わったのか全然記憶にない」
多分あの裏道は、おじいさんに出会えた人だけが行ける特別な場所です。友人に「いいな~、ペトラ遺跡の裏道ってウソの噂話だと思ってたよ~」と羨ましがられながら、ふと思いました。不思議な空気をまとっていたロバとおじいさんは、もしかしたら砂漠の妖精だったのかも知れません。
前回の記事はこちら
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
ペトラ遺跡で出会ったおじいさんとロバ。導かれるように遺跡の奥へと進んだ先には、小さな村がありました。
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【ペトラ遺跡に通じる幻の裏ルートを発見!~前編~】
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【ペトラ遺跡を代表する「エル・カズネ」を一望できる秘密の絶景スポット】
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【ペトラ遺跡内で横行するロバのぼったくりに要注意!】
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目次
水は一切使いません!砂漠の伝統料理
青い空に見とれていると、おじいさんが食材を抱えて戻ってきました。私とロバを見つけるとニッコリ嬉しそうに笑います。
「〇×△♯!」
私には理解できない現地の言葉で何かを呟くと、岩の間からゴソゴソと小鍋を出してきました。まるでマジック。
おじいさんは、まな板を使わずに果物ナイフで野菜とお肉をザクザクと一口大に切っていきます。たまねぎ、パプリカに似た野菜、トマト、香草いろいろ、そしてほんの少しの鶏肉。
それらを小鍋に入れると、マッチ一本で薪に火をつけコトコト煮込みます。
色々と圧倒されている私の横では、ロバがのんびり草をはんでいました。疑問は尽きません。
さっき岩の間から鍋を出していたけれど、ここってベドウィン族の食事場?
そういえば来る途中の岩陰には敷物が置いてあったし、よく見たら地面に火を起こした跡がいくつもある。岩一枚隔てた向こう側は観光客のスペースで、こちら側はベドウィン族のプライベートな空間?
色々と圧倒されている間に、料理が完成しました。
鍋の蓋をあけると、水を一滴も使っていないのに蒸し料理が出来上がっていました。
知っている名前を付けるなら、ラタトゥイユ。でもトマトの味は濃くありません。野菜の滋味をそのまま引き出したような素朴な味で、底の方には野菜から出た水分でスープまで出来上がっていました。
砂漠の民の英知!食器は砂を使って洗う
出来上がった料理は、あっという間になくなりました。
砂漠の中で作った料理だから、ところどころ砂の味がします。
おじいさんのポケットから出てきたパンで最後の一滴まで残さず食べた後は、食器と小鍋を砂で洗いました。
最初こそ声も出ないほど驚きましたが、おじいさんは慣れた手つきで鍋に砂をまぶし手でぬぐい取ります。2~3回も繰り返すと、鍋はあっという間にキレイになりました。
ここは水が貴重な地域。砂漠の民は、水を一滴も使わずに料理をして片付けまで終えてしまえるのです。
おじいさんとは色々な話をしました。でもそれよりも、だんだんと紫色に染まっていく空を2人で眺める時間の方が長くありました。
私が帰りの時間を心配すると「大丈夫。送ってあげるから」と。少し心配ではありましたが、おじいさんのゆる~い空気感は居心地がよくて、もっと一緒にいたいと思わせるものがありました。
ロバは私たちが食事を終えた後も大人しく、まるで人間の言葉が分かるかのように良いタイミングで音を出します。そのたびに、おじいさんと私は笑いあいました。
岩道の先に現れたベドウィン族の小さな村
「日が暮れる前に帰ろうか」
おじいさんがそういってロバの手綱を引き寄せます。
ここからは危ないからと、ロバの背中に乗るように私を促します。遺跡とは逆方向へ向かって歩き出しました。ゴツゴツした滑る岩。
おじいさんの体は私よりずっと衰えているはずなのに、軽快な足取りで道を進んでいきます。
岩しかない無秩序な空間を進んでいくと方向感覚が鈍ってきました。
進んでも進んでも360度すべてが岩です。目印になる看板も人工物もありません。
不安になって上を見上げると美しい空がどこまでも続いていました。自分がどこにいるのか分からず怖くなります。
でも私には同じように見える景色なのに、おじいさんには道が見えているのでしょう。やがて獣道ならぬあぜ道に出ました。
さらに進んで行くと小さな村に着きました。
小さな家の前を通り抜けます。もう一軒。しばらくしてまた一軒…。
温かな雰囲気が家から漏れています。ご飯の匂い、家事をする女性の姿、子どもたちのはしゃぎ声、おじいさんに話しかける誰か。
家が増えてきた(村の中央に近づいた)と思ったら、アレ?また家の数が減ってきてる…?
気が付いたら私はペトラ遺跡の外側にいました。いつの間にか安宿に通じる見慣れた道路に立っています。
〝アレ?〟気持ちの整理がつかない私におじいさんが言います。
「ここまで来たら大丈夫だよね?気を付けて帰るんだよ」「暗くなる前に帰らなきゃダメだよ」
そう言い残すと、ロバと共に去って行ってしまいました。
まさかあれが!?ペトラ遺跡に通じる幻の裏口
宿に戻った私は記憶を手繰り寄せます。
道を覚えるのには自信があります。でも、どこをどう通ってペトラ遺跡の外側に出たのか説明ができません。
ペトラ遺跡の出入口は一つしか無く、観光客は出る時も入る時も必ずその門を通ります。でも私はそこを通らずに外に出てこれてしまいました。
〝安宿で聞いた噂話は本当だったんだ。私、ペトラ遺跡の裏ルートを通ってきたんだ〟
バックパッカーたちの間で幻と呼ばれる裏道に辿り着いたことに気付いた私は昂揚しました。
私が今いる安宿には、バックパッカーがたくさん泊まっています。これは誰もが欲しい情報なはず。私ってすごい体験したんだ!!
おじいさんは妖精だった説
でも、誰かにお喋りすることはしませんでした。
あの裏道は探して見つかるものではないし、裏道を探したいがために観光客がベドウィン族の生活圏を脅かすようなことがあってはならないと思ったからです。
それともう一つ。不思議すぎたからというのがあります。
帰り道に立ち寄った村の光があまりに幻想的だったからでしょうか。何だか記憶がフワフワしていて一連の行動を上手に説明できない自分がいました。
あまりによく出来すぎていて、自分でもウソっぽいなと思ってしまうほどのストーリー。
日本に帰国した後、信頼している旅仲間の一人に話をしてみました。とっても羨ましがられましたが、その道の行き方を私はやっぱり説明できませんでした。
「ただひたすら岩の砂漠を歩いてたら、突然小さな村が現れたんだよ。その村を左手に見ながら進むんだけど、気付いたらほらあのバス停、あそこにいたの。砂漠の世界がいつ終わったのか全然記憶にない」
多分あの裏道は、おじいさんに出会えた人だけが行ける特別な場所です。
友人に「いいな~、ペトラ遺跡の裏道ってウソの噂話だと思ってたよ~」と羨ましがられながら、ふと思いました。
不思議な空気をまとっていたロバとおじいさんは、もしかしたら砂漠の妖精だったのかも知れません。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel