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fgo、れじぇくろ!で有名なパールヴァティーは、破壊神シヴァの妻です。
温和で慈愛の心を持つ彼女が、長年シヴァに片思いをしていたことや妻として強い力を持ち、怒ると恐ろしい女神になることを、あなたは知っていますか?
今回は、パールヴァティーのプロフィールにシヴァとの恋愛やシャクティズム、彼女やシヴァに関連したお祭りについて、ご紹介します。
【出典・参考文献について】
出典・参考文献は文末にまとめてあります。本文内のローマ数字をクリックすると出典・参考文献に飛びます。出典・参考文献から本文を見たい場合も、ローマ数字をクリックすると該当箇所に飛びます。
パールヴァティーはシヴァの最初の妻サティーの生まれ変わりです。もう一度愛するシヴァと出会い、結婚するためにサティーは輪廻転生。女神パールヴァティーへと生まれ変わりました。
パールヴァティー(Parvati)の意味は「山の娘」、「山の女神」です。これはヒマラヤ山を具現化した神ヒマヴァットと女神メーナー、または山の神パルヴァタの娘であることが由来とされています。別名はウマー、ガウリー、シャイラジャー[ⅰ]です。
彼女には両親や父親だけでなく兄弟がいました。それは……インドで有名なガンジス川を具現化したガンガー女神です。彼女はパールヴァティーの妹にあたります。また南インドでは宇宙の維持神ヴィシュヌが兄[ⅱ]とされていますよ。創造神ブラフマーとともに宇宙の誕生と破壊をあらわすトリムルティ(三位一体)に数えられるシヴァを夫に、ヴィシュヌを兄に持つなんて豪華ですね。
おしどり夫婦として有名なパールヴァティーとシヴァには子どもが、ふたりいます。ひとりは足が速いことで有名な韋駄天……軍神スカンダ(カールッティケーヤ)。もうひとりは、歓喜天または聖天として日本で知られているゾウの頭をした幸運と富の神ガネーシャです。インドにはシヴァ一家(シヴァ・ファミリー)の姿を描いたイラストや像が多くあります。
夫や子どもを大切にし、慈愛に満ちて愛情深く、母性愛のあるパールヴァティー。インドの女性たちの鑑であり、良妻賢母の女神として親しまれている存在です。
パールヴァティーは優雅で女性らしい性格をそのまま体現した女神だといわれています。
宇宙のエネルギーをインドの大地へもたらし、豊穣をつかさどる大地母神(デーヴィー、マハーデーヴィー)である彼女は美しいだけでなく、柔和な顔つきをしています。
時間が経過するうちにヒンドゥー教内で彼女は、シヴァの力の源であるシャクティとなりました。そして血と争いを求め、世界を滅亡させる力を持つ恐ろしい顔を持つ化身とされたのです。
普段は優しいパールヴァティーが怒った姿……それがドゥルガーとカーリーです。
【ドゥルガー】
神や人と敵対する悪鬼を倒すため、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの力により生み出された存在がドゥルガーです。残忍な彼女は何万という敵を殺して赤い血を浴びながら美しい微笑みを浮かべていました。ライオン(トラ)にまたがって戦場を駆け、敵を容赦なく葬りさるドゥルガーの血なまぐさい姿は、こちらから見られますよ。
【カーリー】
カーリーはドゥルガーの額から生まれた女神です。神にあだなす悪鬼の血を飲み干し、勝利のダンスを踊って一度世界を滅ぼしかけました。ヒンドゥー教の神々や夫シヴァが止めようとしても、かなわない……ヒンドゥー教で最強の力を持つ神と言っても過言ではありません。夜中にひとりで見たら身の毛もよだつカーリーの恐ろしい姿を見て涼しくなりたい方は、こちらの記事をお読みください。
パールヴァティーは前世でシヴァの妻であり、生まれ変わってからもシヴァの妻となって、ふたりの息子の母となりました。運命の赤い糸で結ばれているパールヴァティーとシヴァ。
サティーが亡くなった理由やパールヴァティーとなってシヴァと出会い、結婚し、息子が誕生するまでの一連のエピソードをご紹介します。
サティーとシヴァは相思相愛の仲でした。
彼女はシヴァだけを愛していたので花婿を決める花輪を宙に投げる際は、見事にシヴァの首へ花輪をかけ、結婚へと至りました。
しかしサティーの父親だった聖仙ダクシャはシヴァが嫌いで、ふたりとの結婚を猛反対!ふたりが結婚してからもシヴァへの非礼や、いやがらせを行います。
そんな父の姿に怒りと悲しみ、恥ずかしさを感じ、夫であるシヴァへの申し訳なさからサティーは自ら炎の中に飛び込んで、死んでしまったのです。
愛する妻の死にシヴァは激しく怒り、ついには狂気にとらわれた状態で世界をさまよいます。そうしてカイラーサ山にたどり着いた彼は昼も、夜も関係なく苦行をするようになってしまったのです。
サティーはパールヴァティーとして生まれ変わると神々からシヴァと結婚し、悪鬼と戦えるスカンダを生む使命を与えられます。愛するシヴァと今度こそ幸せな結婚をして子どもを授かるため、パールヴァティーは苦行を行っているシヴァのもとへ向かい、彼に愛の告白をしました。
ところが、シヴァはサティーを失った悲しみに囚われ、サティーの生まれ変わりであるパールヴァティーには見向きもしません。それでも彼女はめげず、シヴァの花嫁となれるよう礼拝をしたり、ともに苦行を行った[ⅵ]のです。
愛する妻を失ったシヴァの悲しみは想像を絶するものだったでしょう。せっかくサティーがパールヴァティーとして生まれ変わって、また会えたのに……パールヴァティーを目に映そうともしないシヴァ。ふたりのすれ違う姿に、なんだか切ない気持ちになります。
シヴァは三つ目で額にも目があります。
シヴァの額にある目に関連したエピソードをふたつ、ご紹介します。
ある日のこと、いつものようにシヴァは修行に意識を集中させ、自分を好きだとアピールする美しいパールヴァティーのことが気になりながらも、そっけない態度をとっていました。シヴァの生真面目な姿を目にしたパールヴァティーは彼の気を引くために、いたずらを考えつきます。煩悩をなくす修行に専念しているシヴァの背後にそっと近寄り、彼の両目を手で塞いで目隠しをしました。
すると世界は闇に包まれ、恐ろしい悪がはびこり、この世に終わりが訪れようとします。そこに突然、シヴァの額に目が現れると世界に光が戻ってきます。
悪は打ち破られ、世界は破滅せずに済んだ[ⅶ]のです。
なんだか、とても不思議な話ですね。シヴァが第3の目を出してくれたおかげで、この世の終わりが訪れなくてよかったなと思います。
パールヴァティーがどんなにシヴァを愛していても、シヴァはサティーを失ったショックが忘れられず、ひたすら苦行を続けました。
このままでは悪鬼と戦えるスカンダが生まれなくなってしまうと焦った神々は、シヴァがパールヴァティーに恋するよう、愛の神カーマを呼んで愛の矢をシヴァに射るよう頼みます。シヴァは修行を邪魔しようとするカーマに気づくと目から光線を出し、跡形もなく焼き払ってしまいました。悲しみに暮れるカーマの妻に同情したパールヴァティーは、シヴァの花嫁となったら必ずカーマをよみがえらせると約束します。
そうしてパールヴァティーはシヴァの妻となるための過酷な苦行を行います。みすぼらしい格好をした見知らぬ老人が「美貌を損ねる修行をやめて早くほかの男と結婚しろ」と言ってくるのです。パールヴァティーは「シヴァのためなら、どんな苦しみも堪えられる。この気持ちは変わらない」と語ります。すると老人に化けていたシヴァが姿を現します。パールヴァティーの一途で健気な心に胸を打たれ、ついにパールヴァティーを妻として迎え・受け入れることを決心したのです。ふたりが結婚することになった当日、パールヴァティーはカーマの妻のためにカーマをよみがえらせてほしいとシヴァに頼みます。
シヴァはカーマの肉体を再生し、生き返らせました。
たったひとりを思い続け、愛する夫を失ったカーマの妻に寄り添うパールヴァティーの姿は純真そのもの。やっとシヴァの花嫁になれてよかったなと安心するエピソード[ⅷ]です!
パールヴァティーはスカンダだけでなく、ゾウの頭と太鼓腹をしたガネーシャの母親です。
幸運と富の神であるガネーシャは、どうやって生まれてきたのか、なぜゾウの頭をしているのかを知りたい方は、こちらをご覧ください。
シヴァ派が、シヴァとインド各地の女神を結婚させ、シヴァ信仰を普及していくうちにシヴァの妃であるパールヴァティーはシヴァの力の源とするシャクティズムが発生しました。またパールヴァティーとシヴァの合体した姿についても解説します。
シャクティは大地に豊穣を与える宇宙の創造エネルギー[ⅸ]で、ヒンドゥー教やインド哲学の宇宙の根底理念とされています。その形は変化し、シヴァの妻である神妃を通して現れるシヴァの潜在エネルギーとなりました。このシャクティをもとにして作られたのがタントラです。タントラは東洋医学のツボのようなチャクラを人間の絵であらわした人間の生命エネルギーの説明書になります。タントラ仏教(密教)の信者はシャクティズム(大地母神から派生した女神たち)を崇拝し、ヨーガや瞑想などを通じて悟りを開きます。
シャクティズムの信者の中には男女の性交によって宇宙のエネルギーを受け取ることができると考える人たちがいました[ⅹ]。
宇宙の男性的エネルギーと女性的エネルギーの合わさったエネルギーを具現化したのがアルダナーリーシュヴァラ神です。この神はシヴァとパールヴァティーが合体した姿で両性具有[ⅺ]になります。右半身がシヴァで左半身がパールヴァティーです。
身体の右側は脳の男性的特性を持っています。
身体の左側には心臓があり、女性的特性を持っています。
パールヴァティーに関連したお祭りは、ふたつあります。ひとつは彼女の息子に関連したもの、もうひとつは夫シヴァに関連したお祭りです。どんなお祭りか、ご説明します。
ひとつはタミル人コミュニティで行われるタイプーサム。1月中旬〜2月前半に行われるお祭りです。
ヒンドゥー教の神々は悪鬼アスラ(阿修羅)との戦いに頭を悩ませ、ときには敗北してしまいます。
神々が劣勢になるとパールヴァティーは息子のムルガン(スブラマニヤ=スカンダの別名)[ⅻ]に悪を討ち滅ぼす槍を渡し、ムルガンはこれを使って悪鬼に勝ちました。このことからタイプーサムは神々の勝利と力、若さや美しさのご利益と家内安全、無病息災、子宝を祈るお祭りになったのです。
壺(カラガム)を頭にのせたり、天秤棒(カーヴァディ)を肩に担いだ男性がムルガンの祀られた寺院まで歩いていきます。花やクジャクの羽で飾られた神輿(カバディ)を担いで町を行進する人は、スパイク針という針を身体中に刺し、串を舌に刺している[xiii]ことも!
苦行のお祭りなので、つらく苦しいことをあえて行う[xiv]のです。
タミル系の移民が多いシンガポールとマレーシアの一部地域でも見られますよ。
もうひとつは徹夜で行うシヴラットリー。2月の終わりから3月の始め頃に行われるお祭りです。
何億ものヒンドゥー教信者がパールヴァティーとシヴァの結婚を祝います。地域によって内容が多少異なるそうです。
シヴァ寺院からパールヴァティーの寺院へとシヴァの像を運びながら信者はダンスを踊り、音楽を奏でて行進します。寺院についたらふたりの像を並べ、花輪をつけ、ごちそうが振る舞われる中、明け方まで結婚式を行います。
インドを旅行した際は、実際にどんなお祭りなのか体験してみてください!
今回の記事でパールヴァティーやシヴァ一家が、どんな存在か知ることができましたか?
パールヴァティーは……
です。
パールヴァティーの日本での名前は烏摩(うま)妃、または大自在天妃です。シヴァの日本の姿である七福神のひとり大黒天(大自在天)の妻として、やってきました。仏教ではカーリーやドゥルガーとして血や争い、生贄を求める姿が伝わり、悪い女神とされてしまい、夫のシヴァも世界を統べる危険な神と見られました。パールヴァティーとシヴァは、怒りでもって悪を改宗させる明王のひとり、降三世明王から踏みつけられる存在に!こうして調伏され、教えを説かれたふたりは、仏教へと改宗[xv]したのです。
確かにカーリーやドゥルガーは冷酷無慈悲な女神ですが、パールヴァティーの温和で思いやりがあり、夫や子どもを大切にしている印象が薄れてしまうのは、なんだか悲しいです。
この記事を読んだ皆さんはパールヴァティーのよい部分について、ぜひ覚えていてくださいね。
ガネーシャ、ラクシュミ、ハヌマーン……人気のインドの神様が入ったランダムくじです。最強のレアみくじが、シークレットデザインが低確率で入っています。※一袋一枚入り。ランダムでのお届けとなりますので、柄の種類は選べません。どの神様が届くかお楽しみに!
神秘的な香りをお届け。インド神話の神様をイメージした香り。シヴァとパールヴァティーの愛の力を宿したシャクティは「MUSK」の香り。
カジュアルに神様を纏う。綿素材でサラッと着られる。
パールヴァティーの兄とされるヴィシュヌについてはこちら▼
パールヴァティーが夢中になるシヴァ神について詳しく▼
出典
◎『ヒンドゥー教の〈人間学〉』、マドレーヌ・ビアルドー、七海田美子[訳]、講談社選書メチエ、2010年、206頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、297頁
◎『シヴァターンダヴァ・ストートラ』和訳研究
◎『インド神話入門』、長谷川明、新潮社、1988年、57頁
◎『インド神話』、ヴェロニカ・イオンズ[著]、酒井傅大[訳]、青土社、2011年、112,113,197頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、247頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、252頁
◎『[ヴィジュアル版] インド神話物語百科』、マーティン・J・ドハティ[著]、井上廣美[訳]、原書房、2021年、63頁
◎『インド神話入門』、長谷川明、新潮社、1988年、80頁
◎『地球の歩き方 W11 世界の祝祭 歴史と文化に彩られた世界のお祭り&祝日を旅の雑学とともに解説』、『地球の歩き方』編集室、GAKKEN、2021年、42,43頁
◎『地球の歩き方 D28 インド 2020~2021年版』、『地球の歩き方』編集室、ダイヤモンド社、2020年、637頁
◎『交歓する神と人―ヒンドゥー神像の世界 DIVINE AFFECTION : ENCHANTING IMAGES OF HINDU DEITIES』、三尾稔[編]、国立民族学博物館、2023年 、186頁
◎『暮らしがわかるアジア読本 インド』、小西正捷[編]、河出書房新社、1997年、251頁
◎『ヒンドゥー教の事典』、橋本泰元ほか[著]、東京堂出版、2005年、278,279頁
◎『日本の神様 解剖図鑑』、瓜生中、X-Knowledge、2020年、78,79,88,118,119頁
fgo、れじぇくろ!で有名なパールヴァティーは、破壊神シヴァの妻です。
温和で慈愛の心を持つ彼女が、長年シヴァに片思いをしていたことや妻として強い力を持ち、怒ると恐ろしい女神になることを、あなたは知っていますか?
今回は、パールヴァティーのプロフィールにシヴァとの恋愛やシャクティズム、彼女やシヴァに関連したお祭りについて、ご紹介します。
目次
【出典・参考文献について】
出典・参考文献は文末にまとめてあります。
本文内のローマ数字をクリックすると出典・参考文献に飛びます。
出典・参考文献から本文を見たい場合も、ローマ数字をクリックすると該当箇所に飛びます。
パールヴァティーは穏やかで心優しい山の娘
パールヴァティーはシヴァの最初の妻サティーの生まれ変わりです。
もう一度愛するシヴァと出会い、結婚するためにサティーは輪廻転生。
女神パールヴァティーへと生まれ変わりました。
パールヴァティー(Parvati)の意味は「山の娘」、「山の女神」です。
これはヒマラヤ山を具現化した神ヒマヴァットと女神メーナー、または山の神パルヴァタの娘であることが由来とされています。
別名はウマー、ガウリー、シャイラジャー[ⅰ]です。
彼女には両親や父親だけでなく兄弟がいました。
それは……インドで有名なガンジス川を具現化したガンガー女神です。
彼女はパールヴァティーの妹にあたります。
また南インドでは宇宙の維持神ヴィシュヌが兄[ⅱ]とされていますよ。
創造神ブラフマーとともに宇宙の誕生と破壊をあらわすトリムルティ(三位一体)に数えられるシヴァを夫に、ヴィシュヌを兄に持つなんて豪華ですね。
おしどり夫婦として有名なパールヴァティーとシヴァには子どもが、ふたりいます。
ひとりは足が速いことで有名な韋駄天……軍神スカンダ(カールッティケーヤ)。
もうひとりは、歓喜天または聖天として日本で知られているゾウの頭をした幸運と富の神ガネーシャです。
インドにはシヴァ一家(シヴァ・ファミリー)の姿を描いたイラストや像が多くあります。
夫や子どもを大切にし、慈愛に満ちて愛情深く、母性愛のあるパールヴァティー。
インドの女性たちの鑑であり、良妻賢母の女神として親しまれている存在です。
温和で思いやりのあるパールヴァティーの容姿と彼女の恐ろしいべつ側面
パールヴァティーは優雅で女性らしい性格をそのまま体現した女神だといわれています。
宇宙のエネルギーをインドの大地へもたらし、豊穣をつかさどる大地母神(デーヴィー、マハーデーヴィー)である彼女は美しいだけでなく、柔和な顔つきをしています。
時間が経過するうちにヒンドゥー教内で彼女は、シヴァの力の源であるシャクティとなりました。
そして血と争いを求め、世界を滅亡させる力を持つ恐ろしい顔を持つ化身とされたのです。
普段は優しいパールヴァティーが怒った姿……それがドゥルガーとカーリーです。
【ドゥルガー】
神や人と敵対する悪鬼を倒すため、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの力により生み出された存在がドゥルガーです。残忍な彼女は何万という敵を殺して赤い血を浴びながら美しい微笑みを浮かべていました。ライオン(トラ)にまたがって戦場を駆け、敵を容赦なく葬りさるドゥルガーの血なまぐさい姿は、こちらから見られますよ。
【カーリー】
カーリーはドゥルガーの額から生まれた女神です。神にあだなす悪鬼の血を飲み干し、勝利のダンスを踊って一度世界を滅ぼしかけました。ヒンドゥー教の神々や夫シヴァが止めようとしても、かなわない……ヒンドゥー教で最強の力を持つ神と言っても過言ではありません。夜中にひとりで見たら身の毛もよだつカーリーの恐ろしい姿を見て涼しくなりたい方は、こちらの記事をお読みください。
前世から結ばれている!? パールヴァティーとシヴァの愛の物語が描かれた神話
パールヴァティーは前世でシヴァの妻であり、生まれ変わってからもシヴァの妻となって、ふたりの息子の母となりました。
運命の赤い糸で結ばれているパールヴァティーとシヴァ。
サティーが亡くなった理由やパールヴァティーとなってシヴァと出会い、結婚し、息子が誕生するまでの一連のエピソードをご紹介します。
父親ダクシャの夫シヴァに対しての無礼な行いに憤り、恥ずかしく思って焼身自殺をはかる
サティーとシヴァは相思相愛の仲でした。
彼女はシヴァだけを愛していたので花婿を決める花輪を宙に投げる際は、見事にシヴァの首へ花輪をかけ、結婚へと至りました。
しかしサティーの父親だった聖仙ダクシャはシヴァが嫌いで、ふたりとの結婚を猛反対!
ふたりが結婚してからもシヴァへの非礼や、いやがらせを行います。
そんな父の姿に怒りと悲しみ、恥ずかしさを感じ、夫であるシヴァへの申し訳なさからサティーは自ら炎の中に飛び込んで、死んでしまったのです。
愛する妻の死にシヴァは激しく怒り、ついには狂気にとらわれた状態で世界をさまよいます。
そうしてカイラーサ山にたどり着いた彼は昼も、夜も関係なく苦行をするようになってしまったのです。
サティーはパールヴァティーとして生まれ変わると神々からシヴァと結婚し、悪鬼と戦えるスカンダを生む使命を与えられます。
愛するシヴァと今度こそ幸せな結婚をして子どもを授かるため、パールヴァティーは苦行を行っているシヴァのもとへ向かい、彼に愛の告白をしました。
ところが、シヴァはサティーを失った悲しみに囚われ、サティーの生まれ変わりであるパールヴァティーには見向きもしません。
それでも彼女はめげず、シヴァの花嫁となれるよう礼拝をしたり、ともに苦行を行った[ⅵ]のです。
愛する妻を失ったシヴァの悲しみは想像を絶するものだったでしょう。
せっかくサティーがパールヴァティーとして生まれ変わって、また会えたのに……パールヴァティーを目に映そうともしないシヴァ。
ふたりのすれ違う姿に、なんだか切ない気持ちになります。
シヴァの額にある第3の目は世界に光を与え、見るものを焼き尽くす
シヴァは三つ目で額にも目があります。
シヴァの額にある目に関連したエピソードをふたつ、ご紹介します。
1.パールヴァティーのいたずらでシヴァの第3の目は生まれた
ある日のこと、いつものようにシヴァは修行に意識を集中させ、自分を好きだとアピールする美しいパールヴァティーのことが気になりながらも、そっけない態度をとっていました。
シヴァの生真面目な姿を目にしたパールヴァティーは彼の気を引くために、いたずらを考えつきます。
煩悩をなくす修行に専念しているシヴァの背後にそっと近寄り、彼の両目を手で塞いで目隠しをしました。
すると世界は闇に包まれ、恐ろしい悪がはびこり、この世に終わりが訪れようとします。
そこに突然、シヴァの額に目が現れると世界に光が戻ってきます。
悪は打ち破られ、世界は破滅せずに済んだ[ⅶ]のです。
なんだか、とても不思議な話ですね。
シヴァが第3の目を出してくれたおかげで、この世の終わりが訪れなくてよかったなと思います。
2.パールヴァティーは、シヴァの目に焼かれた愛の神カーマを蘇らせる
パールヴァティーがどんなにシヴァを愛していても、シヴァはサティーを失ったショックが忘れられず、ひたすら苦行を続けました。
このままでは悪鬼と戦えるスカンダが生まれなくなってしまうと焦った神々は、シヴァがパールヴァティーに恋するよう、愛の神カーマを呼んで愛の矢をシヴァに射るよう頼みます。
シヴァは修行を邪魔しようとするカーマに気づくと目から光線を出し、跡形もなく焼き払ってしまいました。
悲しみに暮れるカーマの妻に同情したパールヴァティーは、シヴァの花嫁となったら必ずカーマをよみがえらせると約束します。
そうしてパールヴァティーはシヴァの妻となるための過酷な苦行を行います。
みすぼらしい格好をした見知らぬ老人が「美貌を損ねる修行をやめて早くほかの男と結婚しろ」と言ってくるのです。
パールヴァティーは「シヴァのためなら、どんな苦しみも堪えられる。この気持ちは変わらない」と語ります。
すると老人に化けていたシヴァが姿を現します。
パールヴァティーの一途で健気な心に胸を打たれ、ついにパールヴァティーを妻として迎え・受け入れることを決心したのです。
ふたりが結婚することになった当日、パールヴァティーはカーマの妻のためにカーマをよみがえらせてほしいとシヴァに頼みます。
シヴァはカーマの肉体を再生し、生き返らせました。
たったひとりを思い続け、愛する夫を失ったカーマの妻に寄り添うパールヴァティーの姿は純真そのもの。
やっとシヴァの花嫁になれてよかったなと安心するエピソード[ⅷ]です!
パールヴァティーの息子ガネーシャはユーモアあふれる食いしん坊
パールヴァティーはスカンダだけでなく、ゾウの頭と太鼓腹をしたガネーシャの母親です。
幸運と富の神であるガネーシャは、どうやって生まれてきたのか、なぜゾウの頭をしているのかを知りたい方は、こちらをご覧ください。
シヴァとパールヴァティーはふたりでひとつ〜シャクティズムと精力信仰〜
シヴァ派が、シヴァとインド各地の女神を結婚させ、シヴァ信仰を普及していくうちにシヴァの妃であるパールヴァティーはシヴァの力の源とするシャクティズムが発生しました。
またパールヴァティーとシヴァの合体した姿についても解説します。
シャクティズムは大地母神を信仰し、男神の妻である女神が持つ力の源シャクティを崇拝すること
シャクティは大地に豊穣を与える宇宙の創造エネルギー[ⅸ]で、ヒンドゥー教やインド哲学の宇宙の根底理念とされています。
その形は変化し、シヴァの妻である神妃を通して現れるシヴァの潜在エネルギーとなりました。
このシャクティをもとにして作られたのがタントラです。
タントラは東洋医学のツボのようなチャクラを人間の絵であらわした人間の生命エネルギーの説明書になります。
タントラ仏教(密教)の信者はシャクティズム(大地母神から派生した女神たち)を崇拝し、ヨーガや瞑想などを通じて悟りを開きます。
シヴァ(男神)とパールヴァティー(女神)のひとつになった姿アルダナーリーシュヴァラ
シャクティズムの信者の中には男女の性交によって宇宙のエネルギーを受け取ることができると考える人たちがいました[ⅹ]。
宇宙の男性的エネルギーと女性的エネルギーの合わさったエネルギーを具現化したのがアルダナーリーシュヴァラ神です。
この神はシヴァとパールヴァティーが合体した姿で両性具有[ⅺ]になります。
右半身がシヴァで左半身がパールヴァティーです。
身体の右側は脳の男性的特性を持っています。
身体の左側には心臓があり、女性的特性を持っています。
パールヴァティーの息子や夫への愛を感じるお祭り2選
パールヴァティーに関連したお祭りは、ふたつあります。
ひとつは彼女の息子に関連したもの、もうひとつは夫シヴァに関連したお祭りです。
どんなお祭りか、ご説明します。
聖なる槍で悪鬼を打ち破り、神々を勝利へ導いた日「タイプーサム」
ひとつはタミル人コミュニティで行われるタイプーサム。
1月中旬〜2月前半に行われるお祭りです。
ヒンドゥー教の神々は悪鬼アスラ(阿修羅)との戦いに頭を悩ませ、ときには敗北してしまいます。
神々が劣勢になるとパールヴァティーは息子のムルガン(スブラマニヤ=スカンダの別名)[ⅻ]に悪を討ち滅ぼす槍を渡し、ムルガンはこれを使って悪鬼に勝ちました。
このことからタイプーサムは神々の勝利と力、若さや美しさのご利益と家内安全、無病息災、子宝を祈るお祭りになったのです。
壺(カラガム)を頭にのせたり、天秤棒(カーヴァディ)を肩に担いだ男性がムルガンの祀られた寺院まで歩いていきます。
花やクジャクの羽で飾られた神輿(カバディ)を担いで町を行進する人は、スパイク針という針を身体中に刺し、串を舌に刺している[xiii]ことも!
苦行のお祭りなので、つらく苦しいことをあえて行う[xiv]のです。
タミル系の移民が多いシンガポールとマレーシアの一部地域でも見られますよ。
パールヴァティーとシヴァの結婚を祝う「シヴラットリー(マハー・シヴァ・ラートリー)」
もうひとつは徹夜で行うシヴラットリー。
2月の終わりから3月の始め頃に行われるお祭りです。
何億ものヒンドゥー教信者がパールヴァティーとシヴァの結婚を祝います。
地域によって内容が多少異なるそうです。
シヴァ寺院からパールヴァティーの寺院へとシヴァの像を運びながら信者はダンスを踊り、音楽を奏でて行進します。
寺院についたらふたりの像を並べ、花輪をつけ、ごちそうが振る舞われる中、明け方まで結婚式を行います。
インドを旅行した際は、実際にどんなお祭りなのか体験してみてください!
神々の敵である悪鬼に対して怒ると最強! でも家族や子ども、神々に対して真心を持つパールヴァティー
今回の記事でパールヴァティーやシヴァ一家が、どんな存在か知ることができましたか?
パールヴァティーは……
です。
パールヴァティーの日本での名前は烏摩(うま)妃、または大自在天妃です。
シヴァの日本の姿である七福神のひとり大黒天(大自在天)の妻として、やってきました。
仏教ではカーリーやドゥルガーとして血や争い、生贄を求める姿が伝わり、悪い女神とされてしまい、夫のシヴァも世界を統べる危険な神と見られました。
パールヴァティーとシヴァは、怒りでもって悪を改宗させる明王のひとり、降三世明王から踏みつけられる存在に!
こうして調伏され、教えを説かれたふたりは、仏教へと改宗[xv]したのです。
確かにカーリーやドゥルガーは冷酷無慈悲な女神ですが、パールヴァティーの温和で思いやりがあり、夫や子どもを大切にしている印象が薄れてしまうのは、なんだか悲しいです。
この記事を読んだ皆さんはパールヴァティーのよい部分について、ぜひ覚えていてくださいね。
パールヴァティー様にあやかりたい!
ガネーシャ、ラクシュミ、ハヌマーン……人気のインドの神様が入ったランダムくじです。最強のレアみくじが、シークレットデザインが低確率で入っています。
※一袋一枚入り。ランダムでのお届けとなりますので、柄の種類は選べません。どの神様が届くかお楽しみに!
神秘的な香りをお届け。
インド神話の神様をイメージした香り。
シヴァとパールヴァティーの愛の力を宿したシャクティは「MUSK」の香り。
カジュアルに神様を纏う。綿素材でサラッと着られる。
関連記事
パールヴァティーの兄とされるヴィシュヌについてはこちら▼
パールヴァティーが夢中になるシヴァ神について詳しく▼
出典
◎『ヒンドゥー教の〈人間学〉』、マドレーヌ・ビアルドー、七海田美子[訳]、講談社選書メチエ、2010年、206頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、297頁
◎『シヴァターンダヴァ・ストートラ』和訳研究
◎『インド神話入門』、長谷川明、新潮社、1988年、57頁
◎『インド神話』、ヴェロニカ・イオンズ[著]、酒井傅大[訳]、青土社、2011年、112,113,197頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、247頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、247頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、297頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム[著]、山本史郎,山本泰子[訳]、原書房、2000年、252頁
◎『[ヴィジュアル版] インド神話物語百科』、マーティン・J・ドハティ[著]、井上廣美[訳]、原書房、2021年、63頁
◎『インド神話入門』、長谷川明、新潮社、1988年、80頁
◎『地球の歩き方 W11 世界の祝祭 歴史と文化に彩られた世界のお祭り&祝日を旅の雑学とともに解説』、『地球の歩き方』編集室、GAKKEN、2021年、42,43頁
◎『地球の歩き方 D28 インド 2020~2021年版』、『地球の歩き方』編集室、ダイヤモンド社、2020年、637頁
◎『交歓する神と人―ヒンドゥー神像の世界 DIVINE AFFECTION : ENCHANTING IMAGES OF HINDU DEITIES』、三尾稔[編]、国立民族学博物館、2023年 、186頁
◎『暮らしがわかるアジア読本 インド』、小西正捷[編]、河出書房新社、1997年、251頁
◎『ヒンドゥー教の事典』、橋本泰元ほか[著]、東京堂出版、2005年、278,279頁
◎『日本の神様 解剖図鑑』、瓜生中、X-Knowledge、2020年、78,79,88,118,119頁