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タイから陸路でラオスに入国するのはとても簡単でした。国境を越えるバス=特別なバスという印象がありますが、実はお手軽。 今回は、安くて便利!タイからラオスへ陸路で入国した時のお話です。
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その日、私は下見のつもりでバスターミナルに行きました。 雨よけの天井と、待合い用の木のベンチが何台か設置してある、そこそこ立派なバスターミナルだった記憶があります。 切符売り場には「バンコク」や「パタヤ」など、さまざまな行先が書かれた小さな窓口が並んでいます。閉まっていたり、開いているのに人がいなかったり、営業しているのかしていないのか良くわからない不明な窓口もありました。
目的地である「ラオス」の文字が見つけられなかった私は、制服を着ていた男性に声をかけました。 警備員?それともバスの乗務員?彼の職業はよく分からないままでしたが、親切な彼は私を一つの窓口へ案内してくれました。
窓口には30代後半に見える女性が座っています。 「ラオスに行きたいんだけど、バスの値段を教えてくれる?」と聞いたところ「今すぐ乗るの?すぐ出発するバスがあるよ」と明るい声が返ってきました。 まるで市内を巡回する路線バスを案内するような軽い感じの口調です。
「違うの。明日か明後日ラオスに行きたいから値段と時刻が知りたくて」と答えると、女性は「ラオス行きのバスはいっぱい出ているから心配しなくていい」と教えてくれました。 少なくとも1日6本はバスが出ているようでした。色々と旅のプランを考えている私に、女性が衝撃の提案をします。
「せっかくここまで来たんだし、バスも出発するし、乗ったら?」 島国・日本で生まれ育った私の考える〝国境越え〟と、国と国が陸続きになっている人たちの考える〝国境越え〟は、まるで別モノでした。
幸いなことにと言って良いのか、それが運命だったのか、私はその日、荷物一式を持ち歩いていました。 少なくとも、もう1泊はタイで過ごす予定でしたが、本日の宿は未定。 時間も余っていることだし、隣国ラオスにも行ってみようかな~、バスはいくらかな~という軽い気持ちで、宿を探す前にバスの時刻を確認しておこうと立ち寄っただけの事でした。
「せっかくだから、乗っちゃったら?」
女性の提案に心が揺れます。時刻は午前9時。国境を超えるなら早い時間に動くのがベストです。 普通ならNoと言うところですが、私の心は〝そんなにすぐにバスが出るのなら、今すぐ乗ってもよいかも〟なんて思い始めていました。
女性は私の心を知ってか知らずか、ニコニコ笑っています。 タイに滞在して数日。行きたい場所の観光を終えた私は、余白の時間を楽しんでいるだけでした。後ろ髪をひかれるような心残りは何もありません。 気付いたら私はバスのチケットを買っていました。
窓口の女性は切符を渡すと「向かい側からバスは出るから、近くで適当に座って待ってて~」とにこやかに告げます。 女性の視線の先には国境を越えるにふさわしい立派なバスが停まっていました。
木で造られた清潔なベンチに腰を掛けます。 〝今からラオスに行くことになっちゃった〟自分で下した決断ですが、にわかには信じがたい現実でした。でも、ワクワクしていました。未知の国へ足を踏み入れる時のドキドキ感。
トキメキのようなものが、じわじわと体を巡っていくのを感じながら目の前に止まっているバスを観察します。 排気ガスで汚れ切った車やバイクばかり見てきた私の目に、その大型のバスはとても清潔に映りました。内部にはタイの装飾なのか、日本ではみないようなデザインのカーテンが掛けられていて、ピカピカと輝いてさえ見えました。 〝こんな立派なバスに乗るのは初めてかも知れない〟期待に胸が高鳴ります。
例えばマレーシア⇔タイを移動した時に利用した国境バスは、バスと言う名前がついたバンでした。 運転手を含めて7人しか乗らないバンは普通の道でさえガタガタと揺れ、とても観光客を乗せて国境を越える車には思えませんでした。
私は未だ利用したことがありませんが、アジアには観光客だけを乗せるハイグレードな観光客用バスがあります。 座席はふかふかでリクライニングも可能。大型の荷物を積む専用スペースや、冷暖房・Wi-Fi完備といった快適さを売りにしたバスです。値段はもちろん高め(現地バスの2倍かそれ以上)。本数も限られていますが、色々と便利なうえ何より快適なので旅行客に人気だそうです。
それまで、ボロボロのバスしか利用したことのなかった私。目の前に止まっている大型バスは、そんな観光客バスを思い起こさせるほど立派に見えました。
やがて、天井の荷台にバイクが積み込まれました。剥き出しのバイクが一台、二台…。 ロープで軽く固定するだけの積み方に、ちょっとだけ不安になります。
そして、いつまでたってもバスに案内されないことにも不安になりました。15分か20分は経ったでしょうか? 〝アレ?すぐに出発するんじゃないの?〟木のベンチに座る前、念のために確認はしてありますが不安になった私は、再度尋ねます。「ラオスに行くバスに乗りたいんだけど」。 英語がイマイチ伝わらないものの、答えは先ほどと同じ「大丈夫!ここで待っていて」でした。心配になって周囲に座っている人にも確認します。みんな同じように「ここにいれば大丈夫だから」という反応でした。
ベンチに座って様子を見守ります。私が勝手に乗るつもりでいた立派なバスは、どうやら別の場所に向かうようで走り去ってしまいました。だんだん雲行きが怪しくなってきます。 〝あれ?私のバスは?すぐに出発するんじゃなかったの?〟 それからバスを1本、2本と見送ったところで「あれがラオス行きだよ」と職員が声をかけてくれました。そこには、車でもなくバンでもなく、ちゃんと大型のバスの形をしたバスが止まっていました。
喜んで入口へ向かいました。でもバスの入口でチケットを見た職員に追い返されます。「乗ってもいいけど、まだ出発しないよ?バスの中は暑いよ?」 職員の言葉通りでした。一歩踏み入れたバスの中は熱気でムンムンしていて5分といられない雰囲気です。仕方なく、またベンチに戻ります。 バスの天井には次々と荷物が積まれていきました。でも何故か出発する気配が全くありません。〝私のバスはいつ発車するの?〟素朴な疑問が生まれました。
すぐ出発するはずのバスが全く出発する気配を見せないというのに、焦っているのは私だけでした。隣のベンチにいる人も職員もの~んびり。談笑しながら笑顔を見せることさえあります。
私に「すぐ出発だから」と言った女性がいる窓口は休憩に入ったのでしょうか?閉まっていて女性の姿も探せません。 ラオス行きのバスに乗るお客さんはポツポツとやってきて、バスの運転手から直接切符を買っていました。 私も特に急ぐ旅ではありません。でも初めて行く国です。国境を越えるのだから、絶対に明るい時間帯に到着したい!と思っていました。
1時間経ち1時間半経ち…不安が増してきた私は職員を捕まえて再度問いました。
「ラオス行きのバスはいつ出発するの?」
「すぐだよ。あのバスだから」
「1時間前も〝すぐ〟って聞いたの。一体、何時に出発するの?」
「何時かなんて、それは分からない。でも座席がお客さんで一杯になったら〝すぐ〟出発だよ」
びっくりなカラクリでした。これではバスの時刻表など、あってないようなものです…。 色々と思うことはありましたが、自分の力ではどうにもならないと分かった私は、諦めて再度ベンチに腰掛けました。なぜか晴れやかな気持ちです。 それまでは、いつ出発するか分からない不安から動けないでいましたが、道の向こう側にある商店まで行きジュースを買ってくる余裕さえ生まれました。
周囲を見渡せばみんな、思い思いに過ごしていました。お菓子を広げたり、タバコを吸ったり、カードゲームをしたり、携帯でお喋りしていたり…。 〝なんだ。全然焦ることなんてないんだ〟ジュースを飲んで落ち着いた私は、仙人のような釈迦のような気持ちになります〝どうにもならない事を思い悩んだって仕方ないし〟と。
3時間は待ったでしょうか。結局、満席にならないと出発しないはずのバスはお客さんが7割乗ったところで出発となりました。 時刻はお昼を過ぎたところです。4時間ほどでラオスに到着する予定なので、心配していた日暮れ問題もこれならセーフ(のはず)。 予想外のことが沢山起こった半日でしたが〝これだから、旅は面白い〟そう思わずにはいられませんでした。
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大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。 マイナーな国をメインに、世界中を旅する。 旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。 出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。 公式HP: Lucia Travel
タイから陸路でラオスに入国するのはとても簡単でした。国境を越えるバス=特別なバスという印象がありますが、実はお手軽。
今回は、安くて便利!タイからラオスへ陸路で入国した時のお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
国境越えに見る価値観の違い
その日、私は下見のつもりでバスターミナルに行きました。
雨よけの天井と、待合い用の木のベンチが何台か設置してある、そこそこ立派なバスターミナルだった記憶があります。
切符売り場には「バンコク」や「パタヤ」など、さまざまな行先が書かれた小さな窓口が並んでいます。閉まっていたり、開いているのに人がいなかったり、営業しているのかしていないのか良くわからない不明な窓口もありました。
目的地である「ラオス」の文字が見つけられなかった私は、制服を着ていた男性に声をかけました。
警備員?それともバスの乗務員?彼の職業はよく分からないままでしたが、親切な彼は私を一つの窓口へ案内してくれました。
窓口には30代後半に見える女性が座っています。
「ラオスに行きたいんだけど、バスの値段を教えてくれる?」と聞いたところ「今すぐ乗るの?すぐ出発するバスがあるよ」と明るい声が返ってきました。
まるで市内を巡回する路線バスを案内するような軽い感じの口調です。
「違うの。明日か明後日ラオスに行きたいから値段と時刻が知りたくて」と答えると、女性は「ラオス行きのバスはいっぱい出ているから心配しなくていい」と教えてくれました。
少なくとも1日6本はバスが出ているようでした。色々と旅のプランを考えている私に、女性が衝撃の提案をします。
「せっかくここまで来たんだし、バスも出発するし、乗ったら?」
島国・日本で生まれ育った私の考える〝国境越え〟と、国と国が陸続きになっている人たちの考える〝国境越え〟は、まるで別モノでした。
唐突に決まったラオス行き
幸いなことにと言って良いのか、それが運命だったのか、私はその日、荷物一式を持ち歩いていました。
少なくとも、もう1泊はタイで過ごす予定でしたが、本日の宿は未定。
時間も余っていることだし、隣国ラオスにも行ってみようかな~、バスはいくらかな~という軽い気持ちで、宿を探す前にバスの時刻を確認しておこうと立ち寄っただけの事でした。
「せっかくだから、乗っちゃったら?」
女性の提案に心が揺れます。時刻は午前9時。国境を超えるなら早い時間に動くのがベストです。
普通ならNoと言うところですが、私の心は〝そんなにすぐにバスが出るのなら、今すぐ乗ってもよいかも〟なんて思い始めていました。
女性は私の心を知ってか知らずか、ニコニコ笑っています。
タイに滞在して数日。行きたい場所の観光を終えた私は、余白の時間を楽しんでいるだけでした。後ろ髪をひかれるような心残りは何もありません。
気付いたら私はバスのチケットを買っていました。
窓口の女性は切符を渡すと「向かい側からバスは出るから、近くで適当に座って待ってて~」とにこやかに告げます。
女性の視線の先には国境を越えるにふさわしい立派なバスが停まっていました。
タイの現地バスと観光客用バス
木で造られた清潔なベンチに腰を掛けます。
〝今からラオスに行くことになっちゃった〟自分で下した決断ですが、にわかには信じがたい現実でした。でも、ワクワクしていました。未知の国へ足を踏み入れる時のドキドキ感。
トキメキのようなものが、じわじわと体を巡っていくのを感じながら目の前に止まっているバスを観察します。
排気ガスで汚れ切った車やバイクばかり見てきた私の目に、その大型のバスはとても清潔に映りました。内部にはタイの装飾なのか、日本ではみないようなデザインのカーテンが掛けられていて、ピカピカと輝いてさえ見えました。
〝こんな立派なバスに乗るのは初めてかも知れない〟期待に胸が高鳴ります。
例えばマレーシア⇔タイを移動した時に利用した国境バスは、バスと言う名前がついたバンでした。
運転手を含めて7人しか乗らないバンは普通の道でさえガタガタと揺れ、とても観光客を乗せて国境を越える車には思えませんでした。
私は未だ利用したことがありませんが、アジアには観光客だけを乗せるハイグレードな観光客用バスがあります。
座席はふかふかでリクライニングも可能。大型の荷物を積む専用スペースや、冷暖房・Wi-Fi完備といった快適さを売りにしたバスです。値段はもちろん高め(現地バスの2倍かそれ以上)。本数も限られていますが、色々と便利なうえ何より快適なので旅行客に人気だそうです。
それまで、ボロボロのバスしか利用したことのなかった私。目の前に止まっている大型バスは、そんな観光客バスを思い起こさせるほど立派に見えました。
一向に出発しないバス
やがて、天井の荷台にバイクが積み込まれました。剥き出しのバイクが一台、二台…。
ロープで軽く固定するだけの積み方に、ちょっとだけ不安になります。
そして、いつまでたってもバスに案内されないことにも不安になりました。15分か20分は経ったでしょうか?
〝アレ?すぐに出発するんじゃないの?〟木のベンチに座る前、念のために確認はしてありますが不安になった私は、再度尋ねます。「ラオスに行くバスに乗りたいんだけど」。
英語がイマイチ伝わらないものの、答えは先ほどと同じ「大丈夫!ここで待っていて」でした。心配になって周囲に座っている人にも確認します。みんな同じように「ここにいれば大丈夫だから」という反応でした。
ベンチに座って様子を見守ります。私が勝手に乗るつもりでいた立派なバスは、どうやら別の場所に向かうようで走り去ってしまいました。だんだん雲行きが怪しくなってきます。
〝あれ?私のバスは?すぐに出発するんじゃなかったの?〟
それからバスを1本、2本と見送ったところで「あれがラオス行きだよ」と職員が声をかけてくれました。そこには、車でもなくバンでもなく、ちゃんと大型のバスの形をしたバスが止まっていました。
喜んで入口へ向かいました。でもバスの入口でチケットを見た職員に追い返されます。「乗ってもいいけど、まだ出発しないよ?バスの中は暑いよ?」
職員の言葉通りでした。一歩踏み入れたバスの中は熱気でムンムンしていて5分といられない雰囲気です。仕方なく、またベンチに戻ります。
バスの天井には次々と荷物が積まれていきました。でも何故か出発する気配が全くありません。〝私のバスはいつ発車するの?〟素朴な疑問が生まれました。
タイ人の言う「すぐ出発」の本当の意味
すぐ出発するはずのバスが全く出発する気配を見せないというのに、焦っているのは私だけでした。隣のベンチにいる人も職員もの~んびり。談笑しながら笑顔を見せることさえあります。
私に「すぐ出発だから」と言った女性がいる窓口は休憩に入ったのでしょうか?閉まっていて女性の姿も探せません。
ラオス行きのバスに乗るお客さんはポツポツとやってきて、バスの運転手から直接切符を買っていました。
私も特に急ぐ旅ではありません。でも初めて行く国です。国境を越えるのだから、絶対に明るい時間帯に到着したい!と思っていました。
1時間経ち1時間半経ち…不安が増してきた私は職員を捕まえて再度問いました。
「ラオス行きのバスはいつ出発するの?」
「すぐだよ。あのバスだから」
「1時間前も〝すぐ〟って聞いたの。一体、何時に出発するの?」
「何時かなんて、それは分からない。でも座席がお客さんで一杯になったら〝すぐ〟出発だよ」
びっくりなカラクリでした。これではバスの時刻表など、あってないようなものです…。
色々と思うことはありましたが、自分の力ではどうにもならないと分かった私は、諦めて再度ベンチに腰掛けました。なぜか晴れやかな気持ちです。
それまでは、いつ出発するか分からない不安から動けないでいましたが、道の向こう側にある商店まで行きジュースを買ってくる余裕さえ生まれました。
周囲を見渡せばみんな、思い思いに過ごしていました。お菓子を広げたり、タバコを吸ったり、カードゲームをしたり、携帯でお喋りしていたり…。
〝なんだ。全然焦ることなんてないんだ〟ジュースを飲んで落ち着いた私は、仙人のような釈迦のような気持ちになります〝どうにもならない事を思い悩んだって仕方ないし〟と。
3時間は待ったでしょうか。結局、満席にならないと出発しないはずのバスはお客さんが7割乗ったところで出発となりました。
時刻はお昼を過ぎたところです。4時間ほどでラオスに到着する予定なので、心配していた日暮れ問題もこれならセーフ(のはず)。
予想外のことが沢山起こった半日でしたが〝これだから、旅は面白い〟そう思わずにはいられませんでした。
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お隣のタイにビザなしで長期滞在する裏技▼
ビザなしで?!タイに"合法"で長期滞在する秘訣
美しい自然と素朴な暮らしが垣間見えるラオスでの旅行記▼
ラオスってどんな国?一度は感じてほしい「何もない」が故の魅力
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP: Lucia Travel