ハワイ火の女神ペレの妹で、フラの祖とも呼ばれる女神ヒイアカとは

フラの起源をたどると、その背後には数々の神話が存在します。その中でも特に重要な存在とされるのが、女神ヒイアカ。彼女は火の女神ペレの妹でありながら、その性格は正反対。優しさと勇敢さを兼ね備え、数々の試練に立ち向かったと語り継がれています。

なぜヒイアカはハワイの人々から深く敬われ、フラの女神として崇められるようになったのでしょうか? そして、姉ペレとの違いはどこにあるのでしょうか?

今回は、ヒイアカの神話をひもときながら、彼女の冒険やフラとの関係についてご紹介します。

フラの祖と呼ばれる女神ヒイアカについて

現在までハワイの人々から崇められているヒイアカはなぜ、優しさも勇敢さも併せもつ神として伝えられているのでしょうか。同じ女神である姉ペレとの違いはなんなのでしょうか。
それでは女神ヒイアカについて語られている様々な冒険の物語をのぞいてみましょう。

女神ヒイアカとは

女神ヒイアカとは

フラを学んだり、ハワイの神話に興味がある人は聞いたことがあるかもしれませんが、一般的にはあまり知られていない女神がヒイアカです。
女神ヒイアカは知名度の高い女神ペレの妹にあたります。
ヒイアカは、母である大地の女神ハウメアの手のひらに宿り、卵の形で生まれたと伝えられています。そして、その卵を姉のペレが大切に抱き温めたことで、ヒイアカは誕生しました。

彼女の名前は「ヒイアカ・イ・カ・ポリ・オ・ペレ」、つまり「ペレの胸に抱かれたヒイアカ」という意味を持ちます。
ペレにとってヒイアカは特別な存在であり、数多くいる妹たちの中でも最も可愛がられていたと言われています。自らの手で温めて誕生させたヒイアカを、娘のように愛おしく思っていたのかもしれませんね。

彼女には万人に対しての優しさと、困難にも挑む勇敢さを併せもつ可憐な女神だと伝えられています。

ヒイアカの姉「ペレ」

ヒイアカの姉「ペレ」

<火の女神ペレ>という名前を聞いたことがある人はたくさんいることでしょう。
ハワイ諸島の中で現在も活動しているハワイ島のキラウエア火山に住むと言われている女神ペレは、ハワイの神々の中で最も知られている女神です。
彼女にまつわる神話はたくさんあり、現代でもキラウエア火山が噴火したことを伝える現地のニュースメディアでも「ペレが目覚めた」と表現するほどに、ペレの名前はハワイの人々に浸透しています。
ただ、この女神ペレは嫉妬に狂ったりいきなり怒ったりして理不尽な行いをすることが多く、たくさんの神話にその様子が描かれています。

ペレについて詳しくはこちら

ヒイアカは何人もいる?

一般的にヒイアカといえば、「ヒイアカ・イ・カ・ポリ・オ・ペレ」を指します。ですが、実はペレの多くの妹たちの中には、ヒイアカという名を持つ者が何人もいたと伝えられています。

それぞれのヒイアカには、状況や特徴を表す言葉が添えられ、「ヒイアカ○○」という名前が与えられていました。その数は数十人にも及んだとも言われています。

この記事で紹介するヒイアカはその姉妹の末っ子であり、素直で優しいことからペレの一番のお気に入りの妹でした。

ヒイアカの伝説と物語

①ヒイアカの旅立ち

ハワイ島のプナで、ペレと妹たちは楽しく暮らしていました。ある日、ペレは「9日間眠る」と宣言し、特に末の妹ヒイアカには、目覚めの際にフリヒア(生命を復活させる呪文)を唱えるよう頼みます。また、この眠りの間に結婚相手を見つけるだろうとも告げました。

ヒイアカは姉の枕元に花を並べ、9日後の目覚めを待ちます。その間、ペレの魂はカウアイ島へ飛び、王子ロヒアウと出会いました。美しい女性に変身したペレは王子の心を奪おうとしますが、彼にはすでに3人の妃候補がいました。中でも第一候補のキリノエは抵抗しますが、ペレの力には敵わず退散しました。

ロヒアウを手に入れたペレでしたが、約束の9日が過ぎ、ヒイアカの呪文が聞こえます。ペレは王子に「妹を迎えに行かせるから、ハワイ島へ来てほしい」と告げ、姿を消しました。

目覚めたペレは妹たちにロヒアウを迎えに行くよう命じますが、皆が理由をつけて断ります。最後に呼ばれたヒイアカは、姉の頼みを断れず、出発前に2つの約束をさせました。ひとつは親友ホーポエに手を出さないこと、もうひとつは大切なレフアの森をそのままにしておくこと。ペレは快諾し、ヒイアカに40日以内に戻るよう命じました。

しかし、待ちきれないペレは疑念を募らせ、期限前にもかかわらず怒りを爆発させます。地震を起こし、溶岩でレフアの森を焼き尽くしたうえ、ホーポエの住む村まで焼き払ってしまうのでした。

②ロヒアウとの出会い

ヒイアカがロヒアウのいるカウアイ島へ向かう途中、多くの邪魔が入りました。旅の仲間には「シダの女神」パウオパラエと人間の少女ワヒネオマオがおり、3人で協力しながら進みます。

道中、彼女たちはハワイに棲む邪神たちと戦いました。伝説の怪獣クプア、残忍なマカウキウ、大トカゲのモオなど強敵ばかりでしたが、ヒイアカたちは次々と打ち破ります。この旅の中で、ヒイアカは一度死んだ人を蘇らせる「蘇りの力」も身につけていきました。この力が後にロヒアウを救う鍵となります。

ようやくカウアイ島に到着したものの、ロヒアウはすでに亡くなっており、その亡骸はペレに敗れたキリノエの元にありました。ヒイアカたちはロヒアウの遺体を取り戻し、魂を戻す方法を探ります。残された時間はわずかでしたが、パウオパラエの助けを借り、ついにロヒアウの魂を蘇らせることに成功しました。

③ハワイ島への帰還、そして

ロヒアウを蘇らせるのに約ひと月を要し、ペレが定めた40日の期限はとっくに過ぎていました。さらに、ペレが約束を破ったこともすでに知っていました。それでも誠実なヒイアカは、ロヒアウを連れてハワイ島へ戻り、キラウエア火山の近くまでやってきます。まずは使者としてワヒネオマオをペレのもとへ送り、報告を託しました。しかし、ペレは聞く耳を持たず、ワヒネオマオを牢獄に閉じ込めてしまいます。

その頃、ロヒアウの心はすっかり変わっていました。彼はペレへの愛を失い、誠実で勇敢なヒイアカに惹かれ、ついに求婚します。ヒイアカも道中、ロヒアウへの想いを募らせていましたが、姉ペレの恋人だったため気持ちを抑えていました。しかし、ペレが約束を破ったこともあり、自分の気持ちを受け入れ、ロヒアウと夫婦になります。

この知らせを聞いたペレは嫉妬に狂い、怒りの力を二人に向けます。人間であるロヒアウはペレの放つ溶岩に呑まれ、岩となってしまいました。愛する夫を失ったヒイアカは悲しみのあまり狂い、怒りの炎を爆発させ、火山を噴火させてペレとその姉妹たちを攻撃します。

ペレは驚き、牢獄にいたワヒネオマオからヒイアカの誠実さや旅の苦難を聞くうちに、自らの行いを後悔し、彼女を元に戻す方法をワヒネオマオに相談します。ワヒネオマオは呪文を唱え、ヒイアカを鎮めました。そして、ロヒアウの魂を探し出し、ペレが修復した体へ戻すことで、彼は二度目の蘇りを果たします。

こうしてヒイアカとロヒアウは再び結ばれ、姉妹たちに祝福されながらカウアイ島へ向かい、末永く幸せに暮らしたと伝えられています。

ヒイアカがフラの女神と呼ばれる理由

ヒイアカがフラの女神と呼ばれる理由

ヒイアカの親友ホーポエはダンスが得意で、ホーポエからダンスを伝授してもらったヒイアカが踊ったダンスがフラの原型といわれているそうです。そしてヒイアカが踊ったこのダンスをペレが大変気に入ったことから、フラがハワイ全土に広まっていったと言われています。

ヒイアカにまつわる有名なスポット

モコリイ島(チャイナマンズ・ハット)

モコリイ島(チャイナマンズ・ハット)

ヒイアカの冒険の中で邪神達との戦いが描かれていますが、その中のひとつ大トカゲモオとの戦いの際にできた島といわれているのがオアフ島にあるモコリイ島(チャイナマンズ・ハット)です。
ハワイ神話によると女神ヒイアカがモコリイという名の獰猛なモオ(大トカゲ)を、ペレから授かった稲妻の力を借りて倒し、その尻尾を目印として海に固定したと伝えられているそうです。確かに切ったトカゲの尻尾を海底に刺したような特徴的な形をしていますね。
ハワイ島からカウアイ島までのヒイアカ達の道中には、このようなたくさんの物語が伝わっているようです。

神話に息づくヒイアカの足跡:冒険と恋、そしてフラの起源

姉妹であり、同じハワイの女神でもヒイアカと姉のペレはまったく違う性格の女神であることがおわかりいただけましたでしょうか。
そしてハワイに行くたびに名所や地名の由来が神話にあることを知っていただければ、その伝承を調べたりしてから訪れるとまた違った楽しみ方があるかもしれません。

フラの女神でもあるヒイアカの物語を知り、毎年4月下旬にハワイ島ヒロで開催されるフラの祭典<メリーモナークフェスティバル>を観覧してみるのもおすすめです。
フラの演目にはペレやヒイアカなどハワイの神々の物語がたくさんあります。それらの物語を読んでからフラを観ると臨場感が増し、今よりもっとハワイが好きになるかもしれませんね。


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