猿神ハヌマーンは王子ラーマに対して忠誠心のある義理堅い英雄

「ハヌマーン」という単語から、あなたは何を思い浮かべますか。

大阪のバンド[ⅰ]やドラクエ[ⅱ]・真女神転生[ⅲ]・ペルソナ[ⅳ]に出てくるキャラクター、タイで制作されたウルトラマンの映画[ⅴ]など、さまざまなものが思い浮かんでくるのではないでしょうか。

ハヌマーンはヒンドゥー教の猿の神様です。

今回は数多くの芸術作品に影響を与えたハヌマーンについてご説明します。

【出典・参考文献について】

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ハヌマーンって、そもそもどんな神様?

ハヌマーンはインドの二大叙事詩のひとつであり、ヒンドゥー教の聖典でもある『ラーマーヤナ』に出てくる猿の神[ⅵ]です。

どんな神様なのか詳しく知らない方もいるでしょう。
ハヌマーンの名前の由来や容姿、神性についてを詳しく解説します。

ハヌマーンの名前の意味は顎骨を持つ者

ハヌマーンの名前の意味は顎骨を持つ者

ハヌマーン(Hanuman)は和訳すると「顎骨を持つ者」という意味です。
別名はハヌマット、ハヌマント[ⅶ]
マルトプトラ(風神の子)、またはランカーダーヒン(ランカーを燃やした者)という名前でも呼ばれます[ⅷ]

父親は風神ヴァーユ(バヴァナ[ⅸ])で母親はヴァナラという猿族[ⅹ]のケーサリンの妻アンジャナー[ⅺ]です。
一説にはハヌマーンはシヴァの化身で、神々から祝福を受けたと考えられます。[ⅻ]
猿族の王スグリーヴァ( Sugriva「よい首をもつ者」)の重臣[xiii]で、『ラーマーヤナ』に出てくるアヨーディヤーの王子ラーマの絶対的な味方[xiv]です。
スグリーヴァが兄ヴァーリンに悩んでいるところをラーマが救ったため、ハヌマーンはスグリーヴァの恩人であるラーマに忠誠を誓ったと言われています。

ハヌマーンの外見とシンボル

ハヌマーンは黄金色の肌に真紅の顔面をして、長い尾を持っており、雷鳴のような咆哮をします[xv]

ハヌマーンの外見とシンボル

図像によっては四つの猿の顔とひとつの人間の顔をあわせ持つ五面十臂の姿で現されています。
手にガダーという大きな棍棒を持ち[xvi]、正義の使者であることを示している姿が多いです。
南インドで古代から信奉されてきた動物神であることを象徴する南インド製の首飾りをし、生涯独身であることを現した苦行者の木靴を履いています。
またヴィシュヌの化身であるラーマを手助けする存在であることを示唆するためにヴィシュヌの象徴である、ほら貝を身に着けている[xvii]こともあります。

元祖スーパーマン

元祖スーパーマン

風神の子どもなのでハヌマーンは空を飛べる[xviii]のです。
それだけでなく、とてつもない怪力持ちで、姿形を大きくしたり、小さくしたりと変幻自在に変えられる不死身の神として『マハーバーラタ』に描かれています。

ハヌマーンの神としてのまた性質とご利益についてを解説!

ハヌマーンの神性(神としての性質)は英雄・勇気、忠誠・献身、自制心です。

最後までヴィシュヌの化身であるラーマに付き従い、命を懸けて戦い抜き、生き残りました。
ラーマから礼を言われても、おごり高ぶることなく生涯独身を貫いたところから、インドでアジア圏で大人気の神様[xix]です。
英雄としての力強さや悪鬼ラーヴァナに負けない精神力といった、ご利益があります[xx]
インドでは村の入口や祠にハヌマーンの像が見かけられ、守り神としてまつられているのです[xxi]

(番外編)タイにおいてはムエタイの守護神?

ヒンドゥー教においてハヌマーンの生き方は人間としての見本のようになっており、曲芸やヨガ、ムエタイにも取り入れられ、名前が使用されています[xxii]

ハヌマンラングール(インドの猿)は聖なる猿

ハヌマンラングール(インドの猿)は聖なる猿

ハヌマーンに容姿が似ていることからハヌマーンの使いと考えられています。
インドのヒンドゥー教の寺院で手厚く保護されている、いたずら好きの猿です。
アジア圏で多く姿を確認されるサルで、地上で生活し、高温・低温どちらにも対応できます[xxiii]

斉天大聖孫悟空のモデル?

斉天大聖孫悟空のモデル?

一説には仏教が中国へ渡った際に、『ラーマーヤナ』のハヌマーンの話が伝わり、『西遊記』に出てくる孫悟空のモデルになったのではないかと言われています。

それはハヌマーンと孫悟空に以下の共通点が見られる[xxiv]からです。

  • 肌が金色
  • 顔が赤い
  • 長いしっぽがある
  • 空を飛べる
  • 身体を大きくしたり、小さくできる

またラーマとハヌマーンの関係性が三蔵法師と孫悟空の関係に似ているため、ハヌマーンは孫悟空のモデルになったと考えられています[xxv]

ハヌマーンの性格がわかる5つのエピソード

続いてハヌマーンが、インドではどんな神として存在しているのかを知ることができる5つのエピソードをご紹介します。

太陽を果物と間違えて食べようとする

太陽を果物と間違えて食べようとする

ハヌマーンは太陽を美味しそうな果物と間違えて取ろうとジャンプをしました。
しかし世界から太陽がなくなってしまったら朝が来なくなってしまい、一大事です。
そこで雷神インドラはいかづちをハヌマーンに落としました。
その雷が落ちた場所が顎だったため、ハヌマーンという名前がついた[xxvi]のです。

ランカー島まで空をひとっ飛びして大暴れ!

ラーマに「悪鬼ラクシュマナに誘拐された正妃シータを探してほしい」と頼まれたハヌマーンは現在のスリランカにあたるランカー島へと飛びました。
ランカー島の中を探すと木立にシータ姫がいるのを見つけます。
しかしハヌマーンは悪鬼ラーヴァナに捕まり、その息子インドラジットによって尾に火をつけられ、市街地を引き回されそうになり、危機一髪…!

ランカー島まで空をひとっ飛びして大暴れ!

しかしながらヴィシュヌの化身の味方で、風の神ヴァーユの子であるハヌマーンは火の神アグニの加護を受けています。
そのため、火に焼かれることもなければ、火傷も負いません。

特撮映画に出てくる怪獣のように巨大化したハヌマーンは、逆に火のついた尾を振り回してランカー島の市街地を火の海にしました[xxvii]

決戦で猿の軍隊を指揮する

ランカー島の市街地を火の海にしたハヌマーンは急いでラーマのもとへ帰り、シータ姫の居場所と無事を伝えます。
そしてラーマたちがランカー島へ行けるよう、橋を作り、その後猿族の将軍として軍隊を指揮監督しました[xxviii]

山をごっそり抜き取る

山をごっそり抜き取る

ラーマたちは雷神インドラを倒したインドラジットの魔法に苦戦します。
とうとう夜中になると、ラーマの右腕である異母弟ラクシュマナが空から降ってくる矢に打たれ、瀕死状態に…ラーマも意識を失ってしまいます。
夜明けまでにヒマラヤ山脈のカイラーサ山に生えている薬草を持ってこなければラクシュマナが命を落としてしまいます。

そこでハヌマーンに白羽の矢が立ちました。
ハヌマーンは雷鳴のような雄叫びを上げながらカイラーサ山まで飛びます。
しかしハヌマーンは薬草がどこにあるかわかりません。
一刻を争う事態のため、ハヌマーンはふたたび怪獣のように巨大化します。
そして山をごっそり抜き取って山を運び、ラーマたちのもとへ薬草を届けた[xxix]のです。

時間を停止する

ハヌマーンはヨガの修行を邪魔する鬼女ダーキニーを抑える神でもあり、月を飲み込んで時間を止める力を持つと考えられています[xxx]

ハヌマーンから勇気と元気を授けてもらえるお祭り

悪鬼と戦うハヌマーンはインドを代表するヒーローで、愛と勇気の象徴です。

最後にハヌマーンにまつわるインドのお祭りをふたつご紹介します。

ハヌマーン降誕祭のスリ・ハヌマーン・ジャヤンティ祭

ハヌマーン降誕祭のスリ・ハヌマーン・ジャヤンティ祭

ハヌマーンが生誕した日を祝うスリ・ハヌマーン・ジャヤンティ祭はチャイトラ月の3〜4月に行われます[xxxi]
西インドのマハーラーシュトラ州では特に、ハヌマーンの祭が活発です。

ハヌマーンの像がまつられた寺院で祈り、シンドゥールという赤い顔料を顔に塗って、ハヌマーンの讃歌を歌い、ハヌマーンの勇姿や献身を讃えます[xxxii]

インド3大祭り「ダシェラー」

ハヌマーン降誕祭のスリ・ハヌマーン・ジャヤンティ祭

ラーマが勝利を勝ち取ったことを祝うお祭りで、インド国内でもっとも人気の高い祭りです。
ハヌマーンの大立ち回りが祭の見どころです。
インドで雨季が終わる9〜10月に行われます。
北インドでは『ラーマーヤナ』の劇を屋外で演じ、ラーマとハヌマーンの勇姿を目にできるのです。
最終日には悪鬼をかたどった人形に火をつけ、花火を上げます[xxxiii]

あらゆる芸術作品に影響を与えた英雄ハヌマーン

今回の記事でハヌマーンがどんな神様か知ることはできましたか?

ハヌマーンは…

  • 風の神の子ども
  • 超人的な力を持つスーパーマン
  • ラーマ王子に忠誠を誓い、囚われのみ身であったシータ姫を救う手助けをした
  • アジア圏で今も人気が高い

神様です。

ハヌマーンはインドのみならず、東南アジア・タイ、インドネシア、カンボジアなどでも人気です。
現在もハヌマーンが活躍する『ラーマーヤナ』の物語は文学、映画、演劇、舞踊、歌、人形劇、影絵などで親しまれています。
2024年現在は尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の主人公・ルフィがハヌマーンをモデルにしているとネット上で考察されています[xxxiv]
ハヌマーンが存在しなければ、世界的に有名な鳥山明先生の『ドラゴンボール』や尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』を見られなかったのかもしれません。

そして、2024年10月には日本でもハヌマーンの能力を授かった青年が主人公の映画『ハヌ・マン』が公開されました[xxxv]

これを機にあなたもハヌマーンについての物語を見てみませんか?

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出典

ⅰ: ハヌマーン official website

ⅱ:

ドラゴンクエストタクト公式 on X: "【ストーリー新章登場キャラクター紹介】

ⅲ:

『真・女神転生』シリーズ公式 on X: "真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY【悪魔全書】

ⅳ:

【ペルソナ5ロイヤル】ハヌマーンの作り方とスキル【ペルソナ5Switch】 - ゲームエイト

ⅴ:

Amazon.co.jp: ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団 [VHS]

ⅵ:

◎『一冊でわかるインド史』、水島司、河出書房新社、2021、79〜81頁

ⅶ:

◎『世界神話伝説大事典』篠田知和基,丸山顯德【編】、勉誠出版、2016、788頁

ⅷ:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

ⅸ:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

ⅹ:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

ⅺ:

◎『神の文化史事典』、松村一男,平藤喜久子,山田仁史【編】、白水社、2013、413頁

ⅻ:

ハヌマーン・ジャヤンティーについて - スピリチュアルインド雑貨SitaRama

xiii:

◎『世界神話伝説大事典』篠田知和基,丸山顯德【編】、勉誠出版、2016、161頁

xiv:

◎『世界神話伝説大事典』篠田知和基,丸山顯德【編】、勉誠出版、2016、788頁

xv:

◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科 [東洋編]エエジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム【著】、山本史朗・山本泰子【訳】、原書房、2000、292頁

xvi:

ハヌマーンの棍棒 - SitaRamaブログ

xvii:

◎『世界の宗教大図鑑』、ジョン・ボウカー【著】、中村圭志【日本語版編集】、黒輪篤史【訳】、河出書房新社、2022、50頁

xviii:

◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科 [東洋編]エエジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム【著】、山本史朗・山本泰子【訳】、原書房、2000、290頁

xix:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

xx:

◎『【新訂増補】 南アジアを知る事典』、辛島昇,前田専学,絵島惠教,応地利明,小西正捷,坂田貞二,重松伸司,清水学,成沢光,山崎元一、平凡社、1992、489頁

xxi:

◎『【新訂増補】 南アジアを知る事典』、辛島昇,前田専学,絵島惠教,応地利明,小西正捷,坂田貞二,重松伸司,清水学,成沢光,山崎元一、平凡社、1992、489頁

xxii:

◎ 【新訂増補】 南アジアを知る事典』、辛島昇,前田専学,絵島惠教,応地利明,小西正捷,坂田貞二,重松伸司,清水学,成沢光,山崎元一、平凡社、1992、558頁

xxiii:

神の使い「ハヌマンラングール」その生態や習性について解説! - 日光さる軍団

xxiv:

◎『神の文化史事典』、松村一男,平藤喜久子,山田仁史【編】、白水社、2013、413頁

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、403頁

xxv:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、403頁

xxvi:

◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科 [東洋編]エジプトからインド、中国まで』、レイチェル・ストーム【著】、山本史朗・山本泰子【訳】、原書房、2000、290頁

xxvii:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

xxviii:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

xxix:

◎『世界神話伝説事典』、かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、402頁

xxx:

ヒンドゥー教におけるダーキニー | 徒然草子

ハヌマーン | べとべとさんの軍団生活

xxxi:

◎『【新訂増補】 南アジアを知る事典』、辛島昇,前田専学,絵島惠教,応地利明,小西正捷,坂田貞二,重松伸司,清水学,成沢光,山崎元一、平凡社、1992、489頁

xxxii:

ハヌマーン・ジャヤンティー2024:信仰と勇気の象徴を祝う日 | SitaRamaブログ

xxxiii:

【インド情報】インド三大祭典「ダシェラ」について - Shin Edupower Pvt Ltd

xxxiv:

『ONE PIECE』ルフィが最高地点の「ギア5」へ突入、噂される「インド神話」との関連性を考察

xxxv:

映画『ハヌ・マン』オフィシャルサイト


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