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夢を持ち、悩みを抱えて生きている人間にとって、小さなお守りは常についてまわります。
それは昔から変わらないことですが、 最近は国内のものだけでなく、海外のものにも関心が持たれています。 つまり外国のお守りも親しまれて普及してきているのです。
ここでは、アミナコレクションの創業者・進藤幸彦が出版した『世界の不思議なお守り』より、様々なお守りをご紹介していきます。
今回は、壁に描く邪視よけのアート、スルクジャの壁画をご紹介いたします。
インド・マーディヤプラデシ州 ~家々の主婦が壁に描く邪視よけのアート~
インドの村落には家の内外の壁に壁画を描く習慣が残っています。マドバニ地方のミティラ絵画、グジャラト州の白いレリーフ壁画などは、もう日本でもよく知られた民芸です。 ただ内陸部のデカン高原のスルクジャ地方の壁画はまだまだ知られていません。
スルクジャ地方はデリーから飛行機で2時間ほどのライプールという町から、さらに車で350キロメートル北へ走ったところにあります。
村のほとんどの家には、その家の主婦によるいかにも民芸らしい絵が美しい彩色で描かれています。 壁画が描かれるのは基本的には家に入った最初の土間の部屋と、そこから入る四角い中庭を囲む廊下の壁面です。
壁画には孔雀やワニ、あるいは猿や人を遊ばせる樹木や鹿や、なかにはガネーシャやクリシュナといったヒンドゥーの神々、ここらでは牛の神様とされているラクシュミなどが、それぞれの家の主婦たちの感性で描かれています。 こういう家に入っていくとおとぎ話の国に紛れ込んだようで、興奮をおさえられません。
何のために描いているのか聞いてみると「ディワリの祭りのため」と言います。 ディワリはラーマーヤナ物語の主人公が無事故郷に凱旋したのを祝ったお祭りで、毎年10月下旬から11 月にかけて行われます。
祭りの期問、村の人々は親類友人の家々を訪問しあい、1年でもっともにぎやかな日々になります。どの家もこのときに備えて1 カ月も前から絵を描き直し、家じゅうきれいにしておくそうです。
きれいにするのには牛のふんが大活躍します。 牛のふんは乾いたものはよく燃える燃料として、またザルの粗い目をふさぎ容器として完成させるものとして、時には皮膚炎に効く薬として重宝されていますが、水と混ぜて土間や壁を清めるのにも使われるのです。
牛のふんには粘着性のある植物繊維が多量に含まれ、壁や土間の亀裂をふせぎ、塗料がのりやすい土台を作ります。 村の人たちはその上に地下から取れるチュイマッティという白い粘土を布で塗りつけ、さらに手の5本の指を使って扇型のもようを壁面に描いていきます。 この白い扇模様が、スルクジャ地方の壁画のベースになっています。
スルクジャ地方の壁画が有名になったきっかけはプープットラ村のソナバイ(70歳)という女性でした。 彼女は10歳で嫁入りしてから、いつもひとりで物思いに耽っているような孤独な娘でしたが、近所の菩提樹の木に休みに来る行者には、水や食べ物を分けて世話をしていました。
そんなある日、ひとりの行者が「あなたはクレイワークをしなさい」と告げました。 彼女はそれ以来、行者の世話と家の中の飾りつけを自分の仕事とわきまえていろいろ工夫をこらしました。
たとえば彼女は、ザリワークといわれる透かし壁を村で初めて作りました。 これは編んだ竹の上にクレイを草花模様に塗りつけた、風通しの良い透かし壁で、中庭に面した壁にほどこします。
また立体の人形を壁画に加えたのも彼女のアイデアです。あるときうわさを聞いた州都の役人が調査に来て、粘土の人形十数体を600ルピーで買い上げて行ったそうです。
これを機に、クレイワークのようなものが収入のもとになるといううわさがぱっと広まりました。 ソナバイは今ではデリーのクラフトミュージアムの仕事を頼まれるほどで、村長をしている息子のダロガラム(45歳)と近々出張する予定です。
さらに別の村のパンディットラム(40歳)という人の壁画も見に行きました。珍しく男の描き手でした。
人家の壁に彼が描いた、ワニと樹と鹿を組み合わせた壁画には早くも心を躍らされました。 彼の家の中には長方形の広い中庭が広がり、その一面の中廊下の壁に、今までに見たこともないほどの鮮やかな孔雀の絵がありました。
孔雀の絵の横の入口を入ると、お客を接待する薄暗いひんやりした廊下があり、ここで昼食をごちそうになりました。 その廊下からさらに奥のほうには薄暗い米蔵があり2本の柱が立っていました。神聖な柱なのだそうです。
右の柱の奥にはデヴィという神様が祭ってあり、プージャ(祈り)をするところ。左は祭りのときの神聖な炊事場です。 そしてこの神聖な空間をとりまくようにして、納戸の延長のような空間があるのです。ふとみると屋根の上に鳥がとまっています。焼物のようです。
「あれは、ブリナザルワレ・テラムフカラ(悪い視線を置く お前の顔は真っ黒)と言って、妬みの目で見ないでほしいという邪視よけのまじないですよ」と彼は説明しました。
「壁画を描くのも同じことですよ。米客に家の大切な内部から目をそらさせる効果があるんですよ」
壁画を美術のように考えていた私にとってはショッキングな言葉でした。
夢を持ち、悩みを抱えて生きている人間にとって、小さなお守りは常についてまわります。
それは昔から変わらないことですが、
最近は国内のものだけでなく、海外のものにも関心が持たれています。
つまり外国のお守りも親しまれて普及してきているのです。
ここでは、アミナコレクションの創業者・進藤幸彦が出版した『世界の不思議なお守り』より、様々なお守りをご紹介していきます。
今回は、壁に描く邪視よけのアート、スルクジャの壁画をご紹介いたします。
スルクジャの壁画
インド・マーディヤプラデシ州 ~家々の主婦が壁に描く邪視よけのアート~
インドの村落には家の内外の壁に壁画を描く習慣が残っています。マドバニ地方のミティラ絵画、グジャラト州の白いレリーフ壁画などは、もう日本でもよく知られた民芸です。
ただ内陸部のデカン高原のスルクジャ地方の壁画はまだまだ知られていません。
スルクジャ地方はデリーから飛行機で2時間ほどのライプールという町から、さらに車で350キロメートル北へ走ったところにあります。
村のほとんどの家には、その家の主婦によるいかにも民芸らしい絵が美しい彩色で描かれています。
壁画が描かれるのは基本的には家に入った最初の土間の部屋と、そこから入る四角い中庭を囲む廊下の壁面です。
壁画には孔雀やワニ、あるいは猿や人を遊ばせる樹木や鹿や、なかにはガネーシャやクリシュナといったヒンドゥーの神々、ここらでは牛の神様とされているラクシュミなどが、それぞれの家の主婦たちの感性で描かれています。
こういう家に入っていくとおとぎ話の国に紛れ込んだようで、興奮をおさえられません。
何のために描いているのか聞いてみると「ディワリの祭りのため」と言います。
ディワリはラーマーヤナ物語の主人公が無事故郷に凱旋したのを祝ったお祭りで、毎年10月下旬から11 月にかけて行われます。
祭りの期問、村の人々は親類友人の家々を訪問しあい、1年でもっともにぎやかな日々になります。どの家もこのときに備えて1 カ月も前から絵を描き直し、家じゅうきれいにしておくそうです。
きれいにするのには牛のふんが大活躍します。
牛のふんは乾いたものはよく燃える燃料として、またザルの粗い目をふさぎ容器として完成させるものとして、時には皮膚炎に効く薬として重宝されていますが、水と混ぜて土間や壁を清めるのにも使われるのです。
牛のふんには粘着性のある植物繊維が多量に含まれ、壁や土間の亀裂をふせぎ、塗料がのりやすい土台を作ります。
村の人たちはその上に地下から取れるチュイマッティという白い粘土を布で塗りつけ、さらに手の5本の指を使って扇型のもようを壁面に描いていきます。
この白い扇模様が、スルクジャ地方の壁画のベースになっています。
スルクジャ地方の壁画が有名になったきっかけはプープットラ村のソナバイ(70歳)という女性でした。
彼女は10歳で嫁入りしてから、いつもひとりで物思いに耽っているような孤独な娘でしたが、近所の菩提樹の木に休みに来る行者には、水や食べ物を分けて世話をしていました。
そんなある日、ひとりの行者が「あなたはクレイワークをしなさい」と告げました。
彼女はそれ以来、行者の世話と家の中の飾りつけを自分の仕事とわきまえていろいろ工夫をこらしました。
たとえば彼女は、ザリワークといわれる透かし壁を村で初めて作りました。
これは編んだ竹の上にクレイを草花模様に塗りつけた、風通しの良い透かし壁で、中庭に面した壁にほどこします。
また立体の人形を壁画に加えたのも彼女のアイデアです。あるときうわさを聞いた州都の役人が調査に来て、粘土の人形十数体を600ルピーで買い上げて行ったそうです。
これを機に、クレイワークのようなものが収入のもとになるといううわさがぱっと広まりました。
ソナバイは今ではデリーのクラフトミュージアムの仕事を頼まれるほどで、村長をしている息子のダロガラム(45歳)と近々出張する予定です。
さらに別の村のパンディットラム(40歳)という人の壁画も見に行きました。珍しく男の描き手でした。
人家の壁に彼が描いた、ワニと樹と鹿を組み合わせた壁画には早くも心を躍らされました。
彼の家の中には長方形の広い中庭が広がり、その一面の中廊下の壁に、今までに見たこともないほどの鮮やかな孔雀の絵がありました。
孔雀の絵の横の入口を入ると、お客を接待する薄暗いひんやりした廊下があり、ここで昼食をごちそうになりました。
その廊下からさらに奥のほうには薄暗い米蔵があり2本の柱が立っていました。神聖な柱なのだそうです。
右の柱の奥にはデヴィという神様が祭ってあり、プージャ(祈り)をするところ。左は祭りのときの神聖な炊事場です。
そしてこの神聖な空間をとりまくようにして、納戸の延長のような空間があるのです。ふとみると屋根の上に鳥がとまっています。焼物のようです。
「あれは、ブリナザルワレ・テラムフカラ(悪い視線を置く お前の顔は真っ黒)と言って、妬みの目で見ないでほしいという邪視よけのまじないですよ」と彼は説明しました。
「壁画を描くのも同じことですよ。米客に家の大切な内部から目をそらさせる効果があるんですよ」
壁画を美術のように考えていた私にとってはショッキングな言葉でした。