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この記事の連載一覧はこちらから:地方創生 鯨の町おこし
ブルワリーのオープンの後、古民家は残り四軒。何を開業させるべきなのだろうか。模索と検討を繰り返していた。
それとは別に、コロナ禍のさなか、海沿いに空き家になっていた大きなコンクリートの目立つ建物も買っていた。
観光地でひときわ目立つ大きな建物が空き家になっているのはイメージが良くないからだ。それをサウナ付きのホテルにすることは、ある人の提案でスルッと決まっていた。
サウナ愛好家(サウナー)はサウナを目的に旅するサ旅が当たり前になってきていた。尖ったサウナを作れば、わざわざ目的で呼子に来ていただける可能性がある。
古民家の話に戻るが、朝市にある熊本邸は一番最初に買った古民家だ。
一階は朝市の賑わいと連動させたお店とし、二階は建具もきれいだし宿泊としたい、と朧気に考えていた。海沿いのサウナ付きホテルでチェックインして、熊本邸二階に泊まりにいっていただく。呼子の港町を歩いて滞在してもらいたいという想いとも重なる、いわゆる分散型ホテルの応用だ。
それならば熊本邸の一階は何をやるべきか。
たまたまコロナ禍に別の事業提携で知り合ったMDプラニングの高井社長と定期的に会っていた。その提携は破談したのだが、なぜか高井さんとは縁が切れず、そしていつも「進藤さんの呼子の活動が気になる」と口にしてらっしゃった。熊本邸で何をやるべきか思いあぐね、高井さんに相談してみたら、すぐに新潟市でカキ氷を開業して成功なさっている方を紹介いただいた。
聞けば聞くほど、もう乗るしかないな、と思った。
カキ氷もサウナと同様、カキゴーラーという愛好家たちがカキ氷目的で日本各地を巡っているという。サウナとの相性も良い。
実際に新潟のカキ氷店「団吉」に視察に行ったら、まったく人通りのない農村の古民家にお客様がいらっしゃっていた。夏は満席が続くという。
もちろんカキ氷なら何でもうまくいくわけではない。団吉の旬の地元果物を使いつつのクリエイティブな尖りのあるレシピが素晴らしく、そのノウハウを提供していただくこととなった。
一階がカキ氷、二階が宿泊。方向性が決まってすぐに設計にとりかかった。
施工はブルワリーもやっていただいた國武さん。設計はサウナ付きホテルをやっていただくことになっていた大森設計士にやってもらう運びとなった。
しかし建物のひどい劣化などがあり、どんどん工期が遅れた。特に山側に増床していた建築が雨漏りからはじまり劣化がひどかった。増床部分は撤去しようと一度は判断したが、隣接する両隣の家の壁や生活がむき出しになってしまうことが判明し、補修して使うこととなった。もうその補修たるや、梁や柱も取り替えや補強を重ね、新築よりお金のかかる始末であった。
ただそうやって、元の建築を活かして設計と工事を進めた結果、ゼロから新築しても決して得られない、なんとも味のある建物に生まれ変わった。設計段階でも、既存の建物がたどってきた歴史をなるべく空気として残したいと思った。ですので現場でも、あまりに劣化がひどい壁は壁を貼りなおして新規塗装となるのは仕方ないが、残せる壁はちょっと汚れたままでもなるべく残すよう指示をした。
二階の天井の裏を覗いて見たら、こぶりな建物なのにブルワリーに負けない太い梁が出てきて驚いた。これは活かしたいと思い、天井を撤去。巨大梁の下で滞在する素敵な宿泊フロアが完成していった。
建物がほぼ完成したときは、いろいろな想いが胸をよぎった。
この店のオープンを最初に見てもらいたかった人がいた。呼子八幡神社の八幡さんだ。
私が最初に古民家を買ったのも、町並み保全のリーダーの1人であった八幡さんが繋いでくださったのだ。八幡さんの古い町並みを残したい強い想いがそこにはあった。そして1つ、古民家が守られ、再生されたのだ。
余談でもあるが、八幡さんは台風などが来るたびに熊本邸を含め私の買った古民家を巡回してくれて、多少の修繕であればご自身でやってくださっていた。ある大雨の後に、八幡さんが熊本邸の二階のガラス戸を確認してくれたとき、落として割ってしまった。平謝りしてきたやりとりを思い出す。
空の上にいる八幡さんに伝えたい。「八幡さんが繋いでくださった古民家がひとつ、再生されましたよ。」そして「八幡さんが壊したガラス戸もしっかり新しく修理されています!」と。
オープンして地元の方々を招待したのだが、熊本邸に住んでらっしゃった熊本家の方々も挨拶してくれた。自ら住んでいた家の名残がたくさん残っていて、懐かしいとの声、おばあちゃん家の想い出を語る声、聴いていてとても嬉しく思った。最後にこの家で大事にされてきた神棚の前で写真を撮らせていただいた。(この神棚で開業の清払いをやっていただいたのだが、呼子八幡神社から八幡さんの娘さんがやってきてご神事を進めてくださった。)
カキ氷店は「甚六果実店」と名付けた。先に紹介したホテルを中尾甚六HOTELと名付け、江戸時代に呼子の巨大な捕鯨産業を支えた中尾甚六の名前を使わせていただき、あのときの活況を取り戻す気概を背景にしたいと思ったからだ。
甚六果実店(じんろくかじつてん)
住所:〒847-0303 佐賀県唐津市呼子町呼子3766(呼子・朝市通り 旧熊本邸)
営業時間: 9:00-17:00
公式サイト:https://kajitsu.jinroku-yobuko.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/jinrokukajitsuten/
そして果実店としたのは、呼子、唐津、佐賀を中心に旬の果物をベースに展開していくカキ氷店だからだ。あまり知られていないが、唐津を中心に美味しい果物がたくさん作られている。その美味しさを甚六果実店で発信していくことで、地元果物のブランド価値を引き上げていければと思う。それが甚六果実店のミッション。
夏は多くのお客様がカキ氷を楽しんでくださっている。これから冬に向け、サウナや宿泊などの開業を重ねていって、町の賑わいに相乗効果を図っていくことになる。とにかくやりきることに専念して、身を挺していきたい。
【最初の記事】地方創生〜鯨の町おこしvol.1▼
【前の記事】地方創生〜鯨の町おこしvol.9▼
アミナコレクション創業者 進藤幸彦の次男坊。2010年に社長に就任。1975年生まれ。自然と歴史と文化、それを巡る旅が好き。
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地方創生 鯨の町おこし
ブルワリーのオープンの後、古民家は残り四軒。何を開業させるべきなのだろうか。模索と検討を繰り返していた。
それとは別に、コロナ禍のさなか、海沿いに空き家になっていた大きなコンクリートの目立つ建物も買っていた。
観光地でひときわ目立つ大きな建物が空き家になっているのはイメージが良くないからだ。
それをサウナ付きのホテルにすることは、ある人の提案でスルッと決まっていた。
サウナ愛好家(サウナー)はサウナを目的に旅するサ旅が当たり前になってきていた。
尖ったサウナを作れば、わざわざ目的で呼子に来ていただける可能性がある。
古民家の話に戻るが、朝市にある熊本邸は一番最初に買った古民家だ。
一階は朝市の賑わいと連動させたお店とし、二階は建具もきれいだし宿泊としたい、と朧気に考えていた。
海沿いのサウナ付きホテルでチェックインして、熊本邸二階に泊まりにいっていただく。
呼子の港町を歩いて滞在してもらいたいという想いとも重なる、いわゆる分散型ホテルの応用だ。
それならば熊本邸の一階は何をやるべきか。
たまたまコロナ禍に別の事業提携で知り合ったMDプラニングの高井社長と定期的に会っていた。
その提携は破談したのだが、なぜか高井さんとは縁が切れず、そしていつも「進藤さんの呼子の活動が気になる」と口にしてらっしゃった。
熊本邸で何をやるべきか思いあぐね、高井さんに相談してみたら、すぐに新潟市でカキ氷を開業して成功なさっている方を紹介いただいた。
聞けば聞くほど、もう乗るしかないな、と思った。
カキ氷もサウナと同様、カキゴーラーという愛好家たちがカキ氷目的で日本各地を巡っているという。サウナとの相性も良い。
実際に新潟のカキ氷店「団吉」に視察に行ったら、まったく人通りのない農村の古民家にお客様がいらっしゃっていた。
夏は満席が続くという。
もちろんカキ氷なら何でもうまくいくわけではない。
団吉の旬の地元果物を使いつつのクリエイティブな尖りのあるレシピが素晴らしく、そのノウハウを提供していただくこととなった。
一階がカキ氷、二階が宿泊。方向性が決まってすぐに設計にとりかかった。
施工はブルワリーもやっていただいた國武さん。
設計はサウナ付きホテルをやっていただくことになっていた大森設計士にやってもらう運びとなった。
しかし建物のひどい劣化などがあり、どんどん工期が遅れた。
特に山側に増床していた建築が雨漏りからはじまり劣化がひどかった。
増床部分は撤去しようと一度は判断したが、隣接する両隣の家の壁や生活がむき出しになってしまうことが判明し、補修して使うこととなった。
もうその補修たるや、梁や柱も取り替えや補強を重ね、新築よりお金のかかる始末であった。
ただそうやって、元の建築を活かして設計と工事を進めた結果、ゼロから新築しても決して得られない、なんとも味のある建物に生まれ変わった。
設計段階でも、既存の建物がたどってきた歴史をなるべく空気として残したいと思った。
ですので現場でも、あまりに劣化がひどい壁は壁を貼りなおして新規塗装となるのは仕方ないが、残せる壁はちょっと汚れたままでもなるべく残すよう指示をした。
二階の天井の裏を覗いて見たら、こぶりな建物なのにブルワリーに負けない太い梁が出てきて驚いた。
これは活かしたいと思い、天井を撤去。巨大梁の下で滞在する素敵な宿泊フロアが完成していった。
建物がほぼ完成したときは、いろいろな想いが胸をよぎった。
この店のオープンを最初に見てもらいたかった人がいた。呼子八幡神社の八幡さんだ。
私が最初に古民家を買ったのも、町並み保全のリーダーの1人であった八幡さんが繋いでくださったのだ。
八幡さんの古い町並みを残したい強い想いがそこにはあった。
そして1つ、古民家が守られ、再生されたのだ。
余談でもあるが、八幡さんは台風などが来るたびに熊本邸を含め私の買った古民家を巡回してくれて、多少の修繕であればご自身でやってくださっていた。
ある大雨の後に、八幡さんが熊本邸の二階のガラス戸を確認してくれたとき、落として割ってしまった。
平謝りしてきたやりとりを思い出す。
空の上にいる八幡さんに伝えたい。
「八幡さんが繋いでくださった古民家がひとつ、再生されましたよ。」
そして「八幡さんが壊したガラス戸もしっかり新しく修理されています!」と。
オープンして地元の方々を招待したのだが、熊本邸に住んでらっしゃった熊本家の方々も挨拶してくれた。
自ら住んでいた家の名残がたくさん残っていて、懐かしいとの声、おばあちゃん家の想い出を語る声、聴いていてとても嬉しく思った。
最後にこの家で大事にされてきた神棚の前で写真を撮らせていただいた。
(この神棚で開業の清払いをやっていただいたのだが、呼子八幡神社から八幡さんの娘さんがやってきてご神事を進めてくださった。)
カキ氷店は「甚六果実店」と名付けた。
先に紹介したホテルを中尾甚六HOTELと名付け、江戸時代に呼子の巨大な捕鯨産業を支えた中尾甚六の名前を使わせていただき、あのときの活況を取り戻す気概を背景にしたいと思ったからだ。
甚六果実店(じんろくかじつてん)
住所:〒847-0303 佐賀県唐津市呼子町呼子3766(呼子・朝市通り 旧熊本邸)
営業時間: 9:00-17:00
公式サイト:https://kajitsu.jinroku-yobuko.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/jinrokukajitsuten/
そして果実店としたのは、呼子、唐津、佐賀を中心に旬の果物をベースに展開していくカキ氷店だからだ。
あまり知られていないが、唐津を中心に美味しい果物がたくさん作られている。
その美味しさを甚六果実店で発信していくことで、地元果物のブランド価値を引き上げていければと思う。それが甚六果実店のミッション。
夏は多くのお客様がカキ氷を楽しんでくださっている。
これから冬に向け、サウナや宿泊などの開業を重ねていって、町の賑わいに相乗効果を図っていくことになる。
とにかくやりきることに専念して、身を挺していきたい。
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筆者プロフィール:進藤さわと
アミナコレクション創業者 進藤幸彦の次男坊。2010年に社長に就任。
1975年生まれ。自然と歴史と文化、それを巡る旅が好き。