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2025年の春、ローマ教皇が亡くなりました。美しいバチカンを舞台にした葬儀の様子に目を奪われた人も多いかも知れません。今回はバチカン市国のちょっと変わった入国方法と、世界一を誇る美術品、そこで働く人にスポットを当て紹介します。
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「バチカン市国」名前は聞いたことあるけれど、どこにあるの?本当に国なの?なんでそんなに有名なの?と思う方もいるかもしれません。そういう方の為に簡単に紹介すると、バチカン市国はイタリア・ローマ市内にある世界で一番小さな国をさします。人口は800人前後。
独立国家として正式に認められており、国旗は白×黄の縦2色使いです(大阪・関西万博では、ローマ教皇の死去を受けパビリオンに半旗がかかげられましたね)。ご存じの通り、カトリック教会の総本山でもあります。
そして個人的に面白いなと思うのが、国内で使用される言語が混ざり合っていること。公用語は何とラテン語!公文書もラテン語です。でも通常の業務にはイタリア語が使用され、さらには国内で警護にあたるスイス人衛兵たちが話す言葉はドイツ語という複雑っぷりです。
バチカン市国に入国するのは簡単です。空港でよく見る簡単な金属探知機の器械をくぐってセキュリティーチェックを受けるだけでOK。何とパスポートさえ必要ありません!一つの国を出て別の国に入るのに、入国審査がなく出入りも自由。それは日本で生まれ育った私にとって衝撃でした。そして同時に混乱しました。一体どこからがイタリアで、どこまでがバチカン市国なの?と。
私はずっとセキュリティーチェックを受けた先がバチカン市国だと思っていました。チェックの先に、あの有名なサンピエトロ広場が広がっているのだと。が、いざ自分が入国の列に並んでみたらアレ?セキュリティーチェック待ちの列は、サンピエトロ広場の中に出来ているのです。
美しい景色を見ながら「バチカンに入国するのに、バチカンの中で並ぶの?」と頭は?でいっぱいです。結局パスポートのチェックがないので出入国のスタンプを押してもらうこともできず、最後まで国の境界線は曖昧なままでした。
またセキュリティーチェックでは同時に服装のチェックも受けます。肩や脚を出した服装はNG等、服装の規定があるのがバチカン市国。そこそこ厳しくチェックされるため、私の前後にいた外国人の女性たちは順番が迫ってくるとシャツの上からスカーフを巻いて肌の露出を隠したりしていました。また宗教の確認もされませんでした。イスラム教の聖地では、信者であるか否かを確認される場合が多いのですが、バチカンはカトリック教会の総本山なのに、そうした宗教チェックもありません。
身分証は不要で宗教も問わないのに服装はチェックされる…。他国とはちょっと変わった入国基準もバチカンの魅力の一つかなと思っています。
※美術館等に入る場合はパスポート必須です。
バチカン市国は世界で一番小さな国でありながら、世界最大級の美術館を持つ国でもあります。具体的には、ミケランジェロのフレスコ画「最後の審判」や「アダムの創造」、彫刻の傑作「サン・ピエトロのピエタ像」、ラファエロの代表作「アテナイの学堂」、レオナルド・ダ・ヴィンチの「荒野の聖ヒエロニムス」、ギリシャ神話の一場面を彫刻した「ラオコーン」などです。
名前からはピンとこなくても、どれも、どこかで一度は目にしたことがある作品ばかりです。私は美術品の観賞が好きなので、それはそれは意気込んでいました。が、バチカン美術館は想像以上の壮大さでした。展示物のほとんど全てが一級品なので、お目当ての作品がなかなか探せません。特に有名な「アダムの創造」を探すのには大変苦労しました。
ミケランジェロの「アダムの創造」はシスティーナ礼拝堂の天井に描かれた作品です。〝それが分かっていれば簡単。有名な作品だから人だかりができているはず〟そう思っていた私は、礼拝堂に入って言葉を失いました。システィーナ礼拝堂の天井は私の想像より数十倍広く(一説では広さ1000平方メートル!)そして少しの隙間もなく絵で埋め尽くされていたのです。
ミケランジェロは、なんと天井に300人もの人物を描いていました。その中からアダムを探すのは至難の業と言い表すほかありません。さらに天井には「アダムの創造」以外にも有名な作品が何十点と描かれています。必死に探せどアダムは全く見つからず、でも全てがミケランジェロの作品なので、ついつい見入ってしまいます。
他の観光客も私と同じでした。首は常に天井を仰ぎ見た状態でゆっくりと前に進みます。時折、観光客同士がぶつかっていましたし、礼拝堂の隅では〝首疲れ〟を起こした観光客たちが下を向いていました。「アダムが全く探せない」状態は続きます。誰かが天井を指さします。でもそれは有名な他の作品でアダムではありません。〝もう見つからないんじゃないか〟諦めの境地に陥るほど天井を見続けました。
首の痛みを堪えてやっと見つけた時は感動より〝思ったより小さい〟という嘆きが先に出てしまったほどです。ミケランジェロの作品はどれも素晴らしいのですが、あまりにも数が多すぎて頭の処理が追いつかず、もったいないことに私は〝お腹いっぱい状態〟でした。
想像の斜め上をいく豪華さは、観る者を疲れさせます。体力と気力がないとお目当ての作品には辿り着けないので、下調べをしてからの観光をおススメします。
バチカン市国の周辺には、キリスト教の聖品を扱うショップがひしめきあっています。聖書、ロザリオ、メダイ、カードなどなど、日本では滅多に見かけない聖なるグッズがズラリと並んでいます。
美術館で美しい作品をたくさん目にしたからでしょうか。窓辺にミケランジェロのピエタ像が飾られたお店を見つけた私は、嬉しくなって引き込まれるように店の奥へと進みました。
そのお店は、ロザリオだけで50種類以上の品揃えを誇っていました。一番記憶に残っているのはバラの香りが練り込められたロザリオ。バラ色に染色された玉の一つ一つにバラの彫刻が施してあり、離れていても濃いバラの香りが鼻に届きました。
それから銀製のマリア像。壁に括り付けられた戸棚には、大小さまざまなサイズのマリア像が鎮座していて、夕日を浴びてキラキラ金色に輝いていました。控え目で慎ましいその姿は思わず「キレイ」と口にしたくなる美しさ。そのうちの一体に顔を寄せると、シルバーアクセサリーの純度でもあるシルバー925の印が刻印されていました。
店内を見つめていると、店長らしき男性が話しかけてきました。ヨーロッパの店員さんは基本ドライなので私は少し身構えます。「買うの?買わないの?」なんて威圧的なことを言われるのかも…。でも、その男性は私の予想に反して満面の笑みを浮かべ「どこから来たの?何か探しているの?」と。その笑顔にホッと肩の力が抜けました。
私が「マリア像を買いたい」と言うと、ビックリするくらい親切にあれこれ教えてくれました。お店には木製、大理石、銀、あらゆる素材のマリア像があります。じっと見ると、全ての顔が違って見えました。
「ここはまるで美術館みたいね」キラキラ輝いている聖像を見ながら私が言うと、「みんな僕の宝物だよ。最高の品を集めている。だから君のベストが必ずある。ゆっくり探すといいよ」という答えが返ってきました。慈愛に満ち溢れた言葉に背中を押された私は、時間をかけてとっておきの一体を選びました。
レジに行くと、先ほどよりもっと素敵な笑顔で私を迎えてくれます。「素晴らしいマリア像だ。君がベストな品を見つけてくれて、本当に嬉しい。心から嬉しい」と言われ、何だか照れてしまいました。と同時に、高い品物でもないのにこんなに喜ばれるの?と不思議な気分になりました。
彼は会計を終えた私を店の外まで見送りながら「これは来てくれたお礼だよ」と例のバラの香りがするロザリオをプレゼントしてくれました。お店を出た私は〝買い物でここまで褒められたり感謝されたりしたことあったかな〟と人生を振り返ります。どう考えても初めてのことでした。
頂いたロザリオはそれから5年間香り続けました。私はその香りを嗅ぐたびに彼と彼のお店を思い出します。
自分の店と職業を凄く誇らしげに語っていた彼。バチカンのお膝元に店を構え、そこで必要な人に必要な品を販売するということは、彼にとって至上の喜びなのでしょう。自分が輝ける場所で喜びをもって仕事をする。それに誇りを持つ。それがどれだけ素晴らしく、難しく、幸運なのか、今やっと理解できている気がします。
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大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
2025年の春、ローマ教皇が亡くなりました。美しいバチカンを舞台にした葬儀の様子に目を奪われた人も多いかも知れません。
今回はバチカン市国のちょっと変わった入国方法と、世界一を誇る美術品、そこで働く人にスポットを当て紹介します。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
バチカン市国ってどこにあるの?
「バチカン市国」名前は聞いたことあるけれど、どこにあるの?本当に国なの?なんでそんなに有名なの?と思う方もいるかもしれません。
そういう方の為に簡単に紹介すると、バチカン市国はイタリア・ローマ市内にある世界で一番小さな国をさします。人口は800人前後。
独立国家として正式に認められており、国旗は白×黄の縦2色使いです(大阪・関西万博では、ローマ教皇の死去を受けパビリオンに半旗がかかげられましたね)。
ご存じの通り、カトリック教会の総本山でもあります。
そして個人的に面白いなと思うのが、国内で使用される言語が混ざり合っていること。
公用語は何とラテン語!公文書もラテン語です。でも通常の業務にはイタリア語が使用され、さらには国内で警護にあたるスイス人衛兵たちが話す言葉はドイツ語という複雑っぷりです。
パスポート不要!?バチカン市国への入国方法
バチカン市国に入国するのは簡単です。空港でよく見る簡単な金属探知機の器械をくぐってセキュリティーチェックを受けるだけでOK。何とパスポートさえ必要ありません!
一つの国を出て別の国に入るのに、入国審査がなく出入りも自由。それは日本で生まれ育った私にとって衝撃でした。そして同時に混乱しました。一体どこからがイタリアで、どこまでがバチカン市国なの?と。
私はずっとセキュリティーチェックを受けた先がバチカン市国だと思っていました。チェックの先に、あの有名なサンピエトロ広場が広がっているのだと。
が、いざ自分が入国の列に並んでみたらアレ?セキュリティーチェック待ちの列は、サンピエトロ広場の中に出来ているのです。
美しい景色を見ながら「バチカンに入国するのに、バチカンの中で並ぶの?」と頭は?でいっぱいです。
結局パスポートのチェックがないので出入国のスタンプを押してもらうこともできず、最後まで国の境界線は曖昧なままでした。
またセキュリティーチェックでは同時に服装のチェックも受けます。肩や脚を出した服装はNG等、服装の規定があるのがバチカン市国。そこそこ厳しくチェックされるため、私の前後にいた外国人の女性たちは順番が迫ってくるとシャツの上からスカーフを巻いて肌の露出を隠したりしていました。
また宗教の確認もされませんでした。イスラム教の聖地では、信者であるか否かを確認される場合が多いのですが、バチカンはカトリック教会の総本山なのに、そうした宗教チェックもありません。
身分証は不要で宗教も問わないのに服装はチェックされる…。他国とはちょっと変わった入国基準もバチカンの魅力の一つかなと思っています。
※美術館等に入る場合はパスポート必須です。
世界最大級の美術館「バチカン美術館」
バチカン市国は世界で一番小さな国でありながら、世界最大級の美術館を持つ国でもあります。
具体的には、ミケランジェロのフレスコ画「最後の審判」や「アダムの創造」、彫刻の傑作「サン・ピエトロのピエタ像」、ラファエロの代表作「アテナイの学堂」、レオナルド・ダ・ヴィンチの「荒野の聖ヒエロニムス」、ギリシャ神話の一場面を彫刻した「ラオコーン」などです。
名前からはピンとこなくても、どれも、どこかで一度は目にしたことがある作品ばかりです。私は美術品の観賞が好きなので、それはそれは意気込んでいました。
が、バチカン美術館は想像以上の壮大さでした。展示物のほとんど全てが一級品なので、お目当ての作品がなかなか探せません。特に有名な「アダムの創造」を探すのには大変苦労しました。
「アダムの創造」探しは至難の業
ミケランジェロの「アダムの創造」はシスティーナ礼拝堂の天井に描かれた作品です。
〝それが分かっていれば簡単。有名な作品だから人だかりができているはず〟そう思っていた私は、礼拝堂に入って言葉を失いました。
システィーナ礼拝堂の天井は私の想像より数十倍広く(一説では広さ1000平方メートル!)そして少しの隙間もなく絵で埋め尽くされていたのです。
ミケランジェロは、なんと天井に300人もの人物を描いていました。その中からアダムを探すのは至難の業と言い表すほかありません。さらに天井には「アダムの創造」以外にも有名な作品が何十点と描かれています。
必死に探せどアダムは全く見つからず、でも全てがミケランジェロの作品なので、ついつい見入ってしまいます。
他の観光客も私と同じでした。首は常に天井を仰ぎ見た状態でゆっくりと前に進みます。
時折、観光客同士がぶつかっていましたし、礼拝堂の隅では〝首疲れ〟を起こした観光客たちが下を向いていました。
「アダムが全く探せない」状態は続きます。誰かが天井を指さします。でもそれは有名な他の作品でアダムではありません。〝もう見つからないんじゃないか〟諦めの境地に陥るほど天井を見続けました。
首の痛みを堪えてやっと見つけた時は感動より〝思ったより小さい〟という嘆きが先に出てしまったほどです。
ミケランジェロの作品はどれも素晴らしいのですが、あまりにも数が多すぎて頭の処理が追いつかず、もったいないことに私は〝お腹いっぱい状態〟でした。
想像の斜め上をいく豪華さは、観る者を疲れさせます。体力と気力がないとお目当ての作品には辿り着けないので、下調べをしてからの観光をおススメします。
バチカン市国の聖品屋さん
バチカン市国の周辺には、キリスト教の聖品を扱うショップがひしめきあっています。聖書、ロザリオ、メダイ、カードなどなど、日本では滅多に見かけない聖なるグッズがズラリと並んでいます。
美術館で美しい作品をたくさん目にしたからでしょうか。窓辺にミケランジェロのピエタ像が飾られたお店を見つけた私は、嬉しくなって引き込まれるように店の奥へと進みました。
そのお店は、ロザリオだけで50種類以上の品揃えを誇っていました。
一番記憶に残っているのはバラの香りが練り込められたロザリオ。バラ色に染色された玉の一つ一つにバラの彫刻が施してあり、離れていても濃いバラの香りが鼻に届きました。
それから銀製のマリア像。壁に括り付けられた戸棚には、大小さまざまなサイズのマリア像が鎮座していて、夕日を浴びてキラキラ金色に輝いていました。
控え目で慎ましいその姿は思わず「キレイ」と口にしたくなる美しさ。そのうちの一体に顔を寄せると、シルバーアクセサリーの純度でもあるシルバー925の印が刻印されていました。
褒められた続けたショッピング
店内を見つめていると、店長らしき男性が話しかけてきました。ヨーロッパの店員さんは基本ドライなので私は少し身構えます。「買うの?買わないの?」なんて威圧的なことを言われるのかも…。
でも、その男性は私の予想に反して満面の笑みを浮かべ「どこから来たの?何か探しているの?」と。その笑顔にホッと肩の力が抜けました。
私が「マリア像を買いたい」と言うと、ビックリするくらい親切にあれこれ教えてくれました。お店には木製、大理石、銀、あらゆる素材のマリア像があります。じっと見ると、全ての顔が違って見えました。
「ここはまるで美術館みたいね」キラキラ輝いている聖像を見ながら私が言うと、
「みんな僕の宝物だよ。最高の品を集めている。だから君のベストが必ずある。ゆっくり探すといいよ」という答えが返ってきました。
慈愛に満ち溢れた言葉に背中を押された私は、時間をかけてとっておきの一体を選びました。
レジに行くと、先ほどよりもっと素敵な笑顔で私を迎えてくれます。
「素晴らしいマリア像だ。君がベストな品を見つけてくれて、本当に嬉しい。心から嬉しい」と言われ、何だか照れてしまいました。
と同時に、高い品物でもないのにこんなに喜ばれるの?と不思議な気分になりました。
彼は会計を終えた私を店の外まで見送りながら「これは来てくれたお礼だよ」と例のバラの香りがするロザリオをプレゼントしてくれました。
お店を出た私は〝買い物でここまで褒められたり感謝されたりしたことあったかな〟と人生を振り返ります。どう考えても初めてのことでした。
頂いたロザリオはそれから5年間香り続けました。私はその香りを嗅ぐたびに彼と彼のお店を思い出します。
自分の店と職業を凄く誇らしげに語っていた彼。バチカンのお膝元に店を構え、そこで必要な人に必要な品を販売するということは、彼にとって至上の喜びなのでしょう。
自分が輝ける場所で喜びをもって仕事をする。それに誇りを持つ。それがどれだけ素晴らしく、難しく、幸運なのか、今やっと理解できている気がします。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel