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いつも通りに飛行機に乗り込もうとしたときトラブルは起きました。「え?このままだと入国拒否!?」今回は、私が実際に体験したビザを巡るトラブルです。
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その日、私はウズベキスタン行きの飛行機に乗るため成田空港に立っていました。ウズベキスタンは中央アジアに位置する美しい国です。といってもイマイチ場所が伝わらないと思うので物凄くざっくり説明すると、トルコと中国の中間地点にある国。
地図上の右側はキルギスをはさんで大国・中国がそびえ、左側にはジョージアやアゼルバイジャン。下はアフガニスタン、上にはカザフスタンが位置しています。その真上は大国・ロシア。1991年にソ連から独立した国といえばなんとなく、想像がつくでしょうか。
きな臭い情勢が続く国に囲まれてはいますが、ウズベキスタンは穏やかでのんびりした大変に美しい国。旅した人皆がウズベキスタンLOVEになるほどの魅力をもっています。
さて、話を戻します。日本からウズベキスタンへの直行便は出ていないので、私は韓国で乗り継ぐ飛行機を予約していました。いつもの飛行機、いつもの空港、バックパッカーとして複数の国を旅した後だったので、何も心配はしていませんでした。
荷物を預けチェックインカウンターにチケットを渡します。私のパスポートと航空券を見比べた職員がアレ?という顔をしました。
「お客様ビザは?」
「取得しています」
「見当たらないのですが、お手元にお持ちですか?」
「いえ、紙の発券が間に合わなくて…でも大使館で取得しています。紙はないけれど電子上では完了しているから、入国できると言われました。」
私の説明に、職員の顔がこわばります。彼女は左右にいた職員にヒソヒソ何かを話しかけたと思ったら
「少々おまちください」
そう言い残して、どこかへ行ってしまいました。
何事か理解できないまま立ち尽くす私。やがて女性職員は、上司らしき男性職員を連れて戻ってきました。私は求められるまま、先ほどと同じ説明を繰り返します。何やら、う~んと考えこむ男性。
色々と尋ねられますが「大使館で大丈夫と言われた」ことを信じ切っていた私は、イマイチ状況が飲み込めませんでした。“ウズベキスタン大使館の大使が入国を許可しているのに何が問題なの?入国許可出てますよ?”と思っていました。
「あなたはビザを持っている証明ができない状況です。」
男性にそう言われて初めて、飛行機に乗れない可能性があることに気付きました。
「どういうことでしょうか」
「通常ですとビザの用紙が発券されます。私たち航空会社はそちらでビザの有無を確認しています。こちらで電子申請の確認はできません」
ビックリしました。まさか私はとんでもないミスをしてしまったのでしょうか。
「もう一度伺いますが、何故紙を持っていないのですか?」
「大使館の方が忙しいから紙の発券が間に合いませんって。入国で分かるようにしておくから、それでいいでしょうって」
「それだけですか?」
「はい、口頭で大丈夫ですって」
今度は空港職員が絶句する番でした。
職員は私に繰り返し説明をしてくれました。飛行機のチケットとビザの有無は別問題なので、分けて考えるということ。大使館と航空会社は別なので、そこも分けて考えるということ。「極端な話、ビザを持っている証明ができないままですと、入国拒否される可能性があります。その場合、空港から一歩も出られませんし、すぐに日本に戻ってきていただくことになります。」
何の問題もないと思っていたウズベキスタン行きが、一気に危うい雰囲気になってきます。職員は繰り返し私に説明しました。「ビザがなくても飛行機のチケットは買えます。でもビザなしで飛行機に乗れるかどうかは、また別のお話なんです。わが社はあなたのビザの保有を確認できない状況なので、搭乗のお約束ができません」
相手の言い分は分かります。でも、証明するものは何もありませんでした。
「申請に必要な費用も払いましたよ。大使は分かるようにしておくから大丈夫って。」
「大使館がOKでも航空会社には航空会社のルールがありますから…。こちらとしては証明するものがないと何とも」
話し合いは続きます。結局、職員が折れる形で話はまとまりました。「ご事情は分かりました。ただあなたは、入国できるか分からない状況です。空港から出られない可能性も高い。それでも今から飛行機に乗られますか?」
YESと答えた私は、職員に言われるがまま一筆したためることになりました。内容は「(ビザ保有を証明する書類がないため)ウズベキスタンに入国できず、その場で強制送還となっても構いません。それでも私は飛行機に乗ります」というようなものでした。飛行機に乗れることが分かった私は安堵と共に「ウズベキスタンに行くのって、こんなに大変なんだ…」と呟きました。
何とか無事に飛行機に乗れた私。トランジットの韓国でも特に問題はありませんでした。韓国までほぼ満席だった飛行機は、ウズベキスタンに向かうときには6割程度の搭乗率に減っていました。私の頭の中はビザのことでいっぱいです。
ビザの発券を忘れられているかもという最悪のシナリオも出てきました。イヤな思いが浮かび上がるたび、気持ちは落ち込みます。もしかしたら親切な誰かが助けてくれるかも知れない、とも思いました。これまでも親切な人に出会って救われるということが多々あった私。今回も…と淡い期待を抱きます。
が、飛行機がウズベキスタンに降り立って、そんな期待はボロボロと崩れ去りました。薄暗く閑散とした空港、飛行機の中はあんなに人がいたのに、皆どこへ行ってしまったのでしょうか?荷物をとって入国ゲートへ行くまでの間に、私はほとんど誰ともすれ違いませんでした。いつもワイワイ、ガヤガヤとした活気ある空港を利用していたので、し~んとした空港の雰囲気に負けそうになります。 “これは、マズいかもしれない”
静かで落ち着いているというより、廃れていて寂しい感じ。スーツケースを運ぶ器械が、人もいないのに淡々と動きます。行き交う職員はどこか影のある感じで、はつらつとした表情の人物など、どこにもいません。人も機械も、天井でさえ影を背負って動いているようでした。「これが旧ソ連なんだ」
荷物をもって入国ゲートへ向かいます。ちっとも嬉しくないドキドキの瞬間。“これでダメなら、私は日本へトンボ帰り…”不安な気持ちでパスポートを提出しました。どう説明しようか、ずっとそのことを考えていました。「大使館に電話してと言えばいいの?」「時差で断られたら、朝まで粘ればいいのかな?」「こんな難しいこと英語で説明できない。どうしよう日本語を話せる人いるの」
職員は私のパスポートを見て、一瞬?という顔をしました。そして一言も話さないまま、パスポートを手にじーっと目の前のPCを見つめます。何かをクリック。またクリック。椅子の向きを変えてまた別のPCをクリック。長い沈黙。“どうしよう、確認できない?”不安な気持ちが、沈黙とともに広がっていきます。カチカチPCの音が響きます。少し経ってから「OK」という声がしました。それが、行っていいよという合図でした。特に何も尋ねらないまま、あっさり入国が叶ったのです。
安堵すると同時に、日本からのドタバタは何だったんだろうという疑問も沸き上がりました。
入国審査から空港の出口までは、本当にすぐでした。空港から外へと通じる自動扉が開きます。ウズベキスタンに足を踏み入れる前だというのに、私は旅を終えたような気持ちになっていました。
※現在、ウズベキスタンへのビザは30日以内の入国に限り免除となっています
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
いつも通りに飛行機に乗り込もうとしたときトラブルは起きました。
「え?このままだと入国拒否!?」今回は、私が実際に体験したビザを巡るトラブルです。
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目次
中央アジアの楽園、ウズベキスタンへ
その日、私はウズベキスタン行きの飛行機に乗るため成田空港に立っていました。
ウズベキスタンは中央アジアに位置する美しい国です。といってもイマイチ場所が伝わらないと思うので物凄くざっくり説明すると、トルコと中国の中間地点にある国。
地図上の右側はキルギスをはさんで大国・中国がそびえ、左側にはジョージアやアゼルバイジャン。下はアフガニスタン、上にはカザフスタンが位置しています。その真上は大国・ロシア。
1991年にソ連から独立した国といえばなんとなく、想像がつくでしょうか。
きな臭い情勢が続く国に囲まれてはいますが、ウズベキスタンは穏やかでのんびりした大変に美しい国。旅した人皆がウズベキスタンLOVEになるほどの魅力をもっています。
焦る空港職員、何事か理解できない私
さて、話を戻します。
日本からウズベキスタンへの直行便は出ていないので、私は韓国で乗り継ぐ飛行機を予約していました。いつもの飛行機、いつもの空港、バックパッカーとして複数の国を旅した後だったので、何も心配はしていませんでした。
荷物を預けチェックインカウンターにチケットを渡します。私のパスポートと航空券を見比べた職員がアレ?という顔をしました。
「お客様ビザは?」
「取得しています」
「見当たらないのですが、お手元にお持ちですか?」
「いえ、紙の発券が間に合わなくて…でも大使館で取得しています。紙はないけれど電子上では完了しているから、入国できると言われました。」
私の説明に、職員の顔がこわばります。彼女は左右にいた職員にヒソヒソ何かを話しかけたと思ったら
「少々おまちください」
そう言い残して、どこかへ行ってしまいました。
何事か理解できないまま立ち尽くす私。やがて女性職員は、上司らしき男性職員を連れて戻ってきました。
私は求められるまま、先ほどと同じ説明を繰り返します。何やら、う~んと考えこむ男性。
ビザの取得が証明できません
色々と尋ねられますが「大使館で大丈夫と言われた」ことを信じ切っていた私は、イマイチ状況が飲み込めませんでした。
“ウズベキスタン大使館の大使が入国を許可しているのに何が問題なの?入国許可出てますよ?”と思っていました。
「あなたはビザを持っている証明ができない状況です。」
男性にそう言われて初めて、飛行機に乗れない可能性があることに気付きました。
「どういうことでしょうか」
「通常ですとビザの用紙が発券されます。私たち航空会社はそちらでビザの有無を確認しています。こちらで電子申請の確認はできません」
ビックリしました。まさか私はとんでもないミスをしてしまったのでしょうか。
「もう一度伺いますが、何故紙を持っていないのですか?」
「大使館の方が忙しいから紙の発券が間に合いませんって。入国で分かるようにしておくから、それでいいでしょうって」
「それだけですか?」
「はい、口頭で大丈夫ですって」
今度は空港職員が絶句する番でした。
飛行機には乗せてあげる、でも〇〇して
職員は私に繰り返し説明をしてくれました。
飛行機のチケットとビザの有無は別問題なので、分けて考えるということ。大使館と航空会社は別なので、そこも分けて考えるということ。
「極端な話、ビザを持っている証明ができないままですと、入国拒否される可能性があります。その場合、空港から一歩も出られませんし、すぐに日本に戻ってきていただくことになります。」
何の問題もないと思っていたウズベキスタン行きが、一気に危うい雰囲気になってきます。職員は繰り返し私に説明しました。
「ビザがなくても飛行機のチケットは買えます。でもビザなしで飛行機に乗れるかどうかは、また別のお話なんです。わが社はあなたのビザの保有を確認できない状況なので、搭乗のお約束ができません」
相手の言い分は分かります。でも、証明するものは何もありませんでした。
「申請に必要な費用も払いましたよ。大使は分かるようにしておくから大丈夫って。」
「大使館がOKでも航空会社には航空会社のルールがありますから…。こちらとしては証明するものがないと何とも」
話し合いは続きます。結局、職員が折れる形で話はまとまりました。
「ご事情は分かりました。ただあなたは、入国できるか分からない状況です。空港から出られない可能性も高い。それでも今から飛行機に乗られますか?」
YESと答えた私は、職員に言われるがまま一筆したためることになりました。
内容は「(ビザ保有を証明する書類がないため)ウズベキスタンに入国できず、その場で強制送還となっても構いません。それでも私は飛行機に乗ります」というようなものでした。
飛行機に乗れることが分かった私は安堵と共に「ウズベキスタンに行くのって、こんなに大変なんだ…」と呟きました。
閑散としたウズベキスタンの空港
何とか無事に飛行機に乗れた私。トランジットの韓国でも特に問題はありませんでした。
韓国までほぼ満席だった飛行機は、ウズベキスタンに向かうときには6割程度の搭乗率に減っていました。私の頭の中はビザのことでいっぱいです。
ビザの発券を忘れられているかもという最悪のシナリオも出てきました。イヤな思いが浮かび上がるたび、気持ちは落ち込みます。
もしかしたら親切な誰かが助けてくれるかも知れない、とも思いました。これまでも親切な人に出会って救われるということが多々あった私。今回も…と淡い期待を抱きます。
が、飛行機がウズベキスタンに降り立って、そんな期待はボロボロと崩れ去りました。
薄暗く閑散とした空港、飛行機の中はあんなに人がいたのに、皆どこへ行ってしまったのでしょうか?
荷物をとって入国ゲートへ行くまでの間に、私はほとんど誰ともすれ違いませんでした。いつもワイワイ、ガヤガヤとした活気ある空港を利用していたので、し~んとした空港の雰囲気に負けそうになります。
“これは、マズいかもしれない”
紙のビザ無しで入国審査へ挑む
静かで落ち着いているというより、廃れていて寂しい感じ。スーツケースを運ぶ器械が、人もいないのに淡々と動きます。
行き交う職員はどこか影のある感じで、はつらつとした表情の人物など、どこにもいません。人も機械も、天井でさえ影を背負って動いているようでした。「これが旧ソ連なんだ」
荷物をもって入国ゲートへ向かいます。ちっとも嬉しくないドキドキの瞬間。“これでダメなら、私は日本へトンボ帰り…”不安な気持ちでパスポートを提出しました。
どう説明しようか、ずっとそのことを考えていました。
「大使館に電話してと言えばいいの?」「時差で断られたら、朝まで粘ればいいのかな?」「こんな難しいこと英語で説明できない。どうしよう日本語を話せる人いるの」
職員は私のパスポートを見て、一瞬?という顔をしました。そして一言も話さないまま、パスポートを手にじーっと目の前のPCを見つめます。
何かをクリック。またクリック。椅子の向きを変えてまた別のPCをクリック。長い沈黙。
“どうしよう、確認できない?”
不安な気持ちが、沈黙とともに広がっていきます。カチカチPCの音が響きます。少し経ってから「OK」という声がしました。それが、行っていいよという合図でした。
特に何も尋ねらないまま、あっさり入国が叶ったのです。
安堵すると同時に、日本からのドタバタは何だったんだろうという疑問も沸き上がりました。
入国審査から空港の出口までは、本当にすぐでした。
空港から外へと通じる自動扉が開きます。ウズベキスタンに足を踏み入れる前だというのに、私は旅を終えたような気持ちになっていました。
※現在、ウズベキスタンへのビザは30日以内の入国に限り免除となっています
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel