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西へ東へ旅をして知ったことがあります。それは、1人旅のバックパッカーは税関に狙われやすい、ということ。別にいいんですよ?どれだけ調べてもらっても何も出てきませんから。でも、これだけは言わせてください。「バックパッカー=運び屋のように扱うの、どうかと思います」今回は恐怖の荷物チェックをはじめとした、税関にまつわるお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
それはアジアをグルっと周遊した旅の終わりに起こりました。服装はTheバックパッカースタイル。着古したTシャツとペラペラのズボン、歩きやすいペタンコ靴。荷物はボストンバック一つ。右手にはコンビニのビニール袋に入った民芸品を持っていました。
少しだけ旅に慣れた私は、ちょっと面倒くさいなと思って税関の列に並びます。今振り返るとそれがいけなかったのでしょう。見事にチェック対象とされました。前の人も、その前の人も、列に並んでいた全ての人がスルっと税関チェックを終えていくのに、私だけ止められたのです。男性の職員が言います「カバン開けてください」と。
突然の宣告にびっくりしたのと、“本当に荷物チェックってあるんだ”と感激したのとがごちゃ混ぜになった気分でした。イケナイ品物は何も持っていなかったので、黙ってカバンを開けます
男性職員は少しもためらわず私のカバンをチェックします。それが仕事なのは分かっています。ただあまりにも遠慮なく次から次に袋の中身をチェックされるので、“でもあなた、男性だよね?何であなたが?”と思わずにいられませんでした。
徐々に職員に対して不信感を募らせていきます。周囲には沢山の人がいるのに、私の私物は次々と周囲からよく見えるように広げられていきます。隣に女性職員もいるのに、なぜ男性職員がわざわざ、女性の下着が入った袋をチェックするのでしょう。「お前、持ってるんだろ!」と言わんばかりの態度にも嫌悪を感じました。
無言で私の荷物をチェックする男性職員。応援でやってきたと思われる女性職員が私の全身をじっと舐めまわすように見つめ吐き捨てます。
「そのビニール袋なに?」
「民芸品ですけど」
「見せて!!」
黙って差し出すしかありませんし、何一つやましいものは持っていないので素直に差し出します。それはココナッツの実を加工して作ったキリンの置物でした。女性職員は「証拠を見つけた!」と言わんばかりに、キリンに手を伸ばします。
私の後ろには未だ沢山の人が税関を通過するために並んでいます。100%潔白でも公衆の面前で荷物チェックを受けるのは屈辱でした。
結局、何もないと判断された私はその後、開放されます。でも「ご協力ありがとうございました」の一言さえありません。私は、ただただ悲しい気分でその場を去りました。自宅に帰った後、キリンの置物が壊れていることに気付きました。体は疲れているのに、旅も旅の思い出もお土産さえも汚された気がして眠れませんでした。
この旅の後、当然ながら私は税関が苦手になりました。仕事だって分かっていますし、複数の国を短期間で行き来する人物が検査対象になりやすいことは知っています。でも初めから犯罪者扱いするのって、どうなの?検査後に「お時間とらせました」とか「ご協力どうも」とか労りの言葉一つ言えないってどうなの?
そしてこの経験を経て私は気付きました。「一人旅は怪しまれる」のだと。海外旅行に行かれる際にはぜひ観察してみてください。声掛けされているのは一人旅の人が圧倒的に多いです。逆に団体ツアー客は「大丈夫なの?」と思えるくらいNOチェック。
“二度と税関チェックは受けたくない”。ある時、税関の列を前に立ち止まって悩んでいると、一目でバックパッカーと分かる出で立ちの男性と目が合いました。私たちは吸い寄せられるように近付きます。
「どこからの帰国ですか?」
「ラオスです。そちらは?」
「僕もラオスです。あとタイとカンボジアも」
そのまま私たちはごく自然に税関の列に並びました。並びながらも会話は続きます。今会ったばかりの人ですが同じバックパッカー。会話は尽きませんでした。やがて私たちの順番が周ってきました。私たちは出国日も旅先も別々、飛行機の席だってバラバラです。なのに税関の人は「一緒でいいですよ~」と、何一つ聞かれることなくスルっと税関を通過しました。
それからというもの、私は飛行機を降りてから税関に着くまでの間に、グルっと周囲を見渡すようになりました。だいたい目が合いビビっときます。事の顛末を知っている人に「一緒に並びますか?」と声をかけられたこともありました。
見ず知らずの人と並ぶなんて、かえって危険?でも不思議なことに、結構な頻度で“見たことある人”に出会えるんです。長距離バスのチケット売り場にいた人だったり、同じ安宿に泊まっていた人だったり。バックパッカーの行動範囲は限られているので、“あっ!この人”に意外と出会います。
興味深いこともありました。旅の間中、何度もすれ違った男性2人と空港で出会ったのです。お互いがお互いを認識していたので、話は弾みました。そのままゾロゾロと税関に並ぼうとしたところ、一人が言いました。「俺は一人で並ぶから」と。残された私たちはびっくり。“なぜリスクをとるの?”と思いながらも、引き留めることはしませんでした。
税関に並んで数分。1人で並ぶことを選んだ彼が荷物チェックを受けるシーンが目に飛び込んできました。対照的に2人で並んでいた私たちはスルっと税関を通過。“バックパッカースタイルの一人旅は荷物チェックの対象者になる”そう確信した瞬間でした。
散々、バックパッカーだと荷物チェックされて困る!屈辱を感じる!と書いておいてなんなのですが、実際にイケナイものを隠し持ってくる旅行者はいます。
南米を旅した時に出会った日本人の男の子は、そういうものが大好きな人でした。確かどこかの安宿で偶然一緒になったのが出会い。彼はいつもボーっとしていました。観光するでもなく、スペイン語を学ぶでもなく、引きこもりのごとく宿から出ません。彼の部屋からは、いつも甘い匂いが漂っていました。同じ宿の宿泊者として、廊下ですれ違えば挨拶はします。でも、それだけの関係。彼はいつも外国人に囲まれて流暢な英語で会話を楽しんでいました。
帰国が迫った私に、ある日彼が話しかけてきました。話してみると、人懐っこい今時の子という印象。私より6歳も年下で、中卒、日本では親元で暮らしているとのことでした。色々と不思議な子ではありましたが、黙って話を聞く私に心を許してくれたのでしょう。おもむろにアマゾンの原住民が作ったという民族楽器を取り出すと、演奏を始めます。
「素敵だね。でも君もそろそろ帰国なんでしょ?その楽器どうするの?」
「もちろん持って帰る!」
「日本に持ち込めるんだ。やっぱり手荷物で?壊れないように気を付けなよ」
「大丈夫!壊れても自分で直せるから」
自信満々で答えながら、彼は続けます。
「ここね、外れるんだよね。中に色々と入れて帰るんだ~」
余りにも屈託ない笑顔で、ひょうひょうと秘密を告白する彼に、「色々って何?」とは聞けませんでした。彼の甘い体臭から色々理解できた私は、凍った笑顔で「そうなんだ」と答えるしかありません。
それから数年後に突然、「無事に帰って来れたよ~。楽器も中身も大丈夫だったよ~」と報告の電話をもらいました。なぜ私にそれを報告してくるのか…彼のすべてが不思議でした。と同時に、実際にイケナイものを持ち込む人がいるのだと知って少なからずショックを受けました。一体どんな手を使って税関を通過したのでしょう。
私はそういう世界とは無縁で生きてきましたが、若くてもどっぷり浸かった挙句日本に持ち込んでしまう人がいるのだから、水際作戦は大切なのでしょう。でも、やっぱり公衆の面前で男性職員に下着まで触られたのは…許せません。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
西へ東へ旅をして知ったことがあります。それは、1人旅のバックパッカーは税関に狙われやすい、ということ。
別にいいんですよ?どれだけ調べてもらっても何も出てきませんから。でも、これだけは言わせてください。「バックパッカー=運び屋のように扱うの、どうかと思います」
今回は恐怖の荷物チェックをはじめとした、税関にまつわるお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
二度と聞きたくない言葉「カバン開けてください」
それはアジアをグルっと周遊した旅の終わりに起こりました。
服装はTheバックパッカースタイル。着古したTシャツとペラペラのズボン、歩きやすいペタンコ靴。荷物はボストンバック一つ。右手にはコンビニのビニール袋に入った民芸品を持っていました。
少しだけ旅に慣れた私は、ちょっと面倒くさいなと思って税関の列に並びます。今振り返るとそれがいけなかったのでしょう。見事にチェック対象とされました。
前の人も、その前の人も、列に並んでいた全ての人がスルっと税関チェックを終えていくのに、私だけ止められたのです。男性の職員が言います「カバン開けてください」と。
突然の宣告にびっくりしたのと、“本当に荷物チェックってあるんだ”と感激したのとがごちゃ混ぜになった気分でした。イケナイ品物は何も持っていなかったので、黙ってカバンを開けます
薄汚れた恰好は税関でマークされる要因の一つになるとか…
まるで運び屋扱い!?税関職員の態度にイラッ
男性職員は少しもためらわず私のカバンをチェックします。それが仕事なのは分かっています。ただあまりにも遠慮なく次から次に袋の中身をチェックされるので、“でもあなた、男性だよね?何であなたが?”と思わずにいられませんでした。
徐々に職員に対して不信感を募らせていきます。周囲には沢山の人がいるのに、私の私物は次々と周囲からよく見えるように広げられていきます。
隣に女性職員もいるのに、なぜ男性職員がわざわざ、女性の下着が入った袋をチェックするのでしょう。「お前、持ってるんだろ!」と言わんばかりの態度にも嫌悪を感じました。
無言で私の荷物をチェックする男性職員。応援でやってきたと思われる女性職員が私の全身をじっと舐めまわすように見つめ吐き捨てます。
「そのビニール袋なに?」
「民芸品ですけど」
「見せて!!」
黙って差し出すしかありませんし、何一つやましいものは持っていないので素直に差し出します。それはココナッツの実を加工して作ったキリンの置物でした。
女性職員は「証拠を見つけた!」と言わんばかりに、キリンに手を伸ばします。
私の後ろには未だ沢山の人が税関を通過するために並んでいます。100%潔白でも公衆の面前で荷物チェックを受けるのは屈辱でした。
結局、何もないと判断された私はその後、開放されます。でも「ご協力ありがとうございました」の一言さえありません。私は、ただただ悲しい気分でその場を去りました。
自宅に帰った後、キリンの置物が壊れていることに気付きました。体は疲れているのに、旅も旅の思い出もお土産さえも汚された気がして眠れませんでした。
荷物が少ないのも税関でマークされる要因らしいです。
一人旅は怪しまれるから…斬新な税関対策方法
この旅の後、当然ながら私は税関が苦手になりました。仕事だって分かっていますし、複数の国を短期間で行き来する人物が検査対象になりやすいことは知っています。
でも初めから犯罪者扱いするのって、どうなの?検査後に「お時間とらせました」とか「ご協力どうも」とか労りの言葉一つ言えないってどうなの?
そしてこの経験を経て私は気付きました。「一人旅は怪しまれる」のだと。
海外旅行に行かれる際にはぜひ観察してみてください。声掛けされているのは一人旅の人が圧倒的に多いです。逆に団体ツアー客は「大丈夫なの?」と思えるくらいNOチェック。
“二度と税関チェックは受けたくない”。ある時、税関の列を前に立ち止まって悩んでいると、一目でバックパッカーと分かる出で立ちの男性と目が合いました。私たちは吸い寄せられるように近付きます。
「どこからの帰国ですか?」
「ラオスです。そちらは?」
「僕もラオスです。あとタイとカンボジアも」
そのまま私たちはごく自然に税関の列に並びました。並びながらも会話は続きます。今会ったばかりの人ですが同じバックパッカー。会話は尽きませんでした。
やがて私たちの順番が周ってきました。私たちは出国日も旅先も別々、飛行機の席だってバラバラです。なのに税関の人は「一緒でいいですよ~」と、何一つ聞かれることなくスルっと税関を通過しました。
1人で並ぶ?2人で並ぶ?結末の違い
それからというもの、私は飛行機を降りてから税関に着くまでの間に、グルっと周囲を見渡すようになりました。だいたい目が合いビビっときます。事の顛末を知っている人に「一緒に並びますか?」と声をかけられたこともありました。
見ず知らずの人と並ぶなんて、かえって危険?でも不思議なことに、結構な頻度で“見たことある人”に出会えるんです。
長距離バスのチケット売り場にいた人だったり、同じ安宿に泊まっていた人だったり。バックパッカーの行動範囲は限られているので、“あっ!この人”に意外と出会います。
興味深いこともありました。旅の間中、何度もすれ違った男性2人と空港で出会ったのです。お互いがお互いを認識していたので、話は弾みました。
そのままゾロゾロと税関に並ぼうとしたところ、一人が言いました。「俺は一人で並ぶから」と。
残された私たちはびっくり。“なぜリスクをとるの?”と思いながらも、引き留めることはしませんでした。
税関に並んで数分。1人で並ぶことを選んだ彼が荷物チェックを受けるシーンが目に飛び込んできました。対照的に2人で並んでいた私たちはスルっと税関を通過。
“バックパッカースタイルの一人旅は荷物チェックの対象者になる”そう確信した瞬間でした。
民族楽器に〇〇を隠して
散々、バックパッカーだと荷物チェックされて困る!屈辱を感じる!と書いておいてなんなのですが、実際にイケナイものを隠し持ってくる旅行者はいます。
南米を旅した時に出会った日本人の男の子は、そういうものが大好きな人でした。確かどこかの安宿で偶然一緒になったのが出会い。
彼はいつもボーっとしていました。観光するでもなく、スペイン語を学ぶでもなく、引きこもりのごとく宿から出ません。彼の部屋からは、いつも甘い匂いが漂っていました。
同じ宿の宿泊者として、廊下ですれ違えば挨拶はします。でも、それだけの関係。彼はいつも外国人に囲まれて流暢な英語で会話を楽しんでいました。
帰国が迫った私に、ある日彼が話しかけてきました。話してみると、人懐っこい今時の子という印象。私より6歳も年下で、中卒、日本では親元で暮らしているとのことでした。
色々と不思議な子ではありましたが、黙って話を聞く私に心を許してくれたのでしょう。おもむろにアマゾンの原住民が作ったという民族楽器を取り出すと、演奏を始めます。
「素敵だね。でも君もそろそろ帰国なんでしょ?その楽器どうするの?」
「もちろん持って帰る!」
「日本に持ち込めるんだ。やっぱり手荷物で?壊れないように気を付けなよ」
「大丈夫!壊れても自分で直せるから」
自信満々で答えながら、彼は続けます。
「ここね、外れるんだよね。中に色々と入れて帰るんだ~」
余りにも屈託ない笑顔で、ひょうひょうと秘密を告白する彼に、「色々って何?」とは聞けませんでした。彼の甘い体臭から色々理解できた私は、凍った笑顔で「そうなんだ」と答えるしかありません。
それから数年後に突然、「無事に帰って来れたよ~。楽器も中身も大丈夫だったよ~」と報告の電話をもらいました。
なぜ私にそれを報告してくるのか…彼のすべてが不思議でした。と同時に、実際にイケナイものを持ち込む人がいるのだと知って少なからずショックを受けました。一体どんな手を使って税関を通過したのでしょう。
私はそういう世界とは無縁で生きてきましたが、若くてもどっぷり浸かった挙句日本に持ち込んでしまう人がいるのだから、水際作戦は大切なのでしょう。
でも、やっぱり公衆の面前で男性職員に下着まで触られたのは…許せません。
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel