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世界でも有名なインドの神様「ヴィシュヌ」。その名前は、世界史の教科書や参考書にも書かれ、「ペルソナ」、「女神転生」、「FGO(Fate/Grand Order)」といったゲームの中でも見られます。
今回はインドで一二を争う人気者である創造神ヴィシュヌについてご紹介します。
【出典・参考文献について】
出典・参考文献は文末にまとめてあります。本文内のローマ数字をクリックすると出典・参考文献に飛びます。出典・参考文献から本文を見たい場合も、ローマ数字をクリックすると該当箇所に飛びます。
「ヴィシュヌってどんな神様か知らないよ」という人もいると思います。まずはヴィシュヌがどんな神様かご説明します。
ヴィシュヌ(Vishnu)はヒンドゥー教の神様で、名前の意味は「あまねく行き渡る(広く全体に行き届く)者」、「多様な姿をとる者[ⅰ] 」です。「世界(宇宙)の維持者」といわれ、別名は「アチユタ(不死の者)」、「アナンタ(無限の者[ⅱ] )」といいます。
宇宙の維持を司るヴィシュヌは、破壊神「シヴァ」、創造神「ブラフマー」とともに「トリムールティ(三神一体)」の一柱です。ヴィシュヌを信仰するヴィシュヌ派では、ヴィシュヌは破壊神シヴァよりも強い、インドで最強の神様といわれています。
もともとはインド土着の太陽神で、人々に安息を与える慈愛の神でした。当初は、あまり重要視されていない下級神で[ⅲ]『リグ・ヴェーダ』上でも天空の神「インドラ」の協力者として登場します。
ヴィシュヌには、たくさんの名前があります。それはインド土着の神様を各地から次々と取り込んでいったからです。時代をへるにしたがってヒンドゥー教がインド全域へと影響力を伸ばし、現在のように世界でも名前の知られた神様になりました[ⅳ]。
ヴィシュヌは「3歩で宇宙を飛び越え、神々と人間の住む宇宙の境界を定めた」というスケール感がおもしろおかしい神様です[v]。
ヴィシュヌを現すものは
です。
「光る円盤」は心と太陽の象徴で、普遍的な支配を意味します。金でできた「棍棒」は根源的知識と精神力を象徴し、権威や秩序の維持を意味するものです。「ほら貝」は寺院ではヴィシュヌの来訪を告げる音であり、万物の源である原初の響きを象徴します。「蓮華」は清浄と豊穣の象徴です[ⅵ]。「へその緒につながった蓮華座に座るブラフマー」はヴィシュヌの中で芽生えた創造意欲が、へそから出てハスとなりました。そのハスの中にヴィシュヌが入り込み、ブラフマーが自力で生まれたという神話[ⅶ]から来ています。
ヴィシュヌを語る上で大切な存在が、2つあります。それは
ラクシュミーは愛と美、幸運と豊穣の女神です。宇宙の乳海が撹拌した(かき混ざった)ときに、神々を不死にするアムリタとともに海から誕生しました。ヴィシュヌの伴侶であり、ヴィシュヌと同様に化身として人間界に現れます。ヴィシュヌの化身のそばにいる女性は、すべてラクシュミーの化身と考えられています。日本では「吉祥天」として広く知られている女神様です[ⅷ]。
ガルーダは半分人間、半分ワシの姿をした鳥の王子です[ⅸ]。母「ヴィナター」がイカサマによって蛇の姿をした半神「ナーガ」の奴隷となってしまいます。ガルーダはヴィナターを解放するために、不死の霊水「アムリタ」を求めます。アムリタを守っていた天界の神々を蹴散らすガルーダの強さを認めたヴィシュヌは、「願いをかなえる代わりに自分のヴァーハナ(乗り物)にならないか?」と提案しました。ガルーダは「不死になりたい」と願い、ヴィシュヌは願いをかなえます。こうしてヴィシュヌの力で不死となったガルーダは、ヴィシュヌの乗り物になったのです。ヴィシュヌが心に思い描くだけでガルーダは現れます。ガルーダはヴィシュヌとともに悪魔や悪い蛇と戦った頼もしい存在です[ⅹ]。日本では「迦楼羅」と呼ばれ、像が奈良県興福寺にあり、国宝に指定されています[ⅺ]。
ヴィシュヌは人助けをする神様です。
あるところに「インドラデュムナ」というヴィシュヌを信仰する王様がいました。彼は息子に王位を譲り、森で生活をしました。住まいで瞑想し、ヴィシュヌに祈りを捧げるのに熱中するあまり、「アガスティヤ」という聖なる仙人がやってきたことに気づきません。アガスティヤはインドラデュムナがあいさつやもてなしをしないことに怒り、象となる呪いをかけたのです。インドラデュナムは象の王様「ガジェーンドラ」になってしまいました。
ガジェーンドラが水浴びをしていると前世がガンダルヴァ(精霊)だったワニに噛まれてしまいます。ガジェーンドラとワニは千年間戦いましたが、ガジェーンドラの身体からワニは離れません。疲れ果て弱りきったガジェーンドラは、ヴィシュヌに「助けてほしい」と祈り、湖の上に浮かんでいた蓮の花を鼻でつまんで捧げました。するとガルーダに乗ったヴィシュヌがワニの首を円盤(チャクラ)で切り落とし、ガジェーンドラは救われました。死んだワニもヴィシュヌのおかげで呪いが解けて天上へ帰ることができました[ⅻ]。
ヴィシュヌは10のダシャーヴァターラ(アヴァターラ)という化身・権化となり、世界を悪や混迷から救うといわれています。10の化身とは、ヴィシュヌが世界を悪魔から守るために地上でとる身体のことです。
その10段階は
です[xiii]。
ヴィシュヌの人気の背景には、ヒンドゥー教の二大叙事詩が関係しています。
インドには
という叙事詩があります。この2つの叙事詩を題材にして作られた小説、漫画、絵本、映画、アニメ、ドラマ、ゲームが世界には数多くあります。『ラーマーヤナ』の主人公で大冒険をするヒーローのラーマと、『マハーバーラタ』の主要人物で 絶世の美少年である英雄神・クリシュナはインドで大人気です。ラーマはインド映画『RRR』の主人公の元ネタにもなっております。妻「シータ」とともに理想のカップルと呼ばれ、人気が高いです。クリシュナはインドのヒンドゥー教信者から熱狂的な人気があり、一説にはインドで圧倒的人気を誇るシヴァの最大のライバルと称されています。ヴィシュヌの化身であり、インド人にとってポピュラーな存在である二人の人気が、直接ヴィシュヌの人気に影響を与えているのです[xiv]。
またジェームズ・キャラメロン監督の映画『アバター』はヒンドゥー教からインスピレーションを受けた作品です。アバター(avatar)はサンスクリット語で「(ヴィシュヌ)神の化身・権化」を意味します。これは天上に住むヴィシュヌが人間世界で仮の姿をとることをさしていました[xv]。この単語が広く世界に知れ渡り、現在ではゲーム内のプレイヤーの「分身」という意味で使われるようになっています。また、アバターのキャラクターたちが青い肌をしているのは、ヴィシュヌの絵画や像がもとになっているといわれています[xvi]。
ヴィシュヌを祀っている寺院は、インド国内だけでなく、その近隣諸国や他のアジアの国々にあります。その中でも古い歴史があり、壮麗な
の2つをご紹介します。
ランガナータスワーミはインド国内で最大の寺院であり、世界でも最大級の宗教施設といわれています。南インドのタミル・ナードゥ州中部の中心都市ティルチラーパッリ(ティルチィ)にある寺院[xvii]です。
ランガナータは「横たわる」、スワーミ「ヴィシュヌ神」、つまり「横に寝たヴィシュヌ」の寺院です[xviii]。
インドに108ヵ所あるヴィシュヌ派の聖地のひとつで、面積は2.5キロ平方メートルあります。本尊はヴィシュヌで、最初の建造はチョーラ朝時代です。境内は7重の周壁に囲まれており、21のゴープラム(塔門)をもちます。現存する建物の多くは、17世紀にマドゥライのティルマライ・ナーヤカ王が建てたものです。1987年にユネスコの援助を得て完成した南門は、72メートルと最大の高さを誇っています[xix]。
アンコールワットは世界史の教科書や資料集などで取り上げられる、日本人が一度は耳にしたことがある世界遺産になります。
アンコールワットは、1113年、国王に即位したスールヤヴァルマン2世が約30年かけて造った寺院です[xx]。最高神ヴィシュヌを祀った寺院で、王は神と一体であるという「デーヴァ・ラージャ思想(アンコール思想)」のもとで造られたクメール建築です[xxi]。
第一回廊ではヴィシュヌの化身が登場する『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』、「天国と地獄」、「乳海攪拌」、創建者であるスールヤヴァルマン2世の業績といったクメール美術の壮麗なレリーフが見られます[xxii]。
また第三回廊に囲まれた中央祠堂には創建当時ヴィシュヌの像が祀られていたと言われます。現在はヴィシュヌの化身である仏陀の像が祀られていますよ[xxiii]。
最後にヴィシュヌゆかりのお祭りである
フロート・フェスティバルはティルマーラー・ナーヤク(ヴィシュヌ)の生誕を祝うお祭りです。フロート・フェスティバルは1月〜2月の満月の夜に行われます。ヴィシュヌの母「ミーナクシー」神とその夫「スデーレスワラール」神の像が、色とりどりの花やランプで飾り立てられ、テッパム(いかだ)の上へ乗せられるのです。像がのったテッパムはミナクシー寺院を囲む池へ浮かべられます。百人単位の信者たちが伝統音楽を奏で、テッパムが池の周りを移動するのを眺めるお祭りです[xxiv]。
アクシャヤ・トリティヤはヴィシュヌの第6の化身であるバラシューマの誕生日を祝うお祭りです。アクシャヤは「不朽」、「不滅」、「永遠」、トリティヤは「三番目」を意味します。これは太陽と月がもっとも輝く日です。アクシャヤ・トリティヤは5月のインドの大吉日に行われます。ヒンドゥー教徒とジャイナ教徒にとって重要な意味をもつお祭りです。黄金や銀による不滅の繁栄や成長、永遠の幸福が舞い込むことを願い、新たなことを始める日とされています[xxv]。
今回の記事でヴィシュヌがどんな神様か知ることはできましたか?
ヴィシュヌは…
ヴィシュヌの化身のひとつに、仏陀があるとご説明しました。しかしながら日本に仏教が渡来した際、ヴィシュヌは「(ならえんてん)」という名前で日本にやってきました。
那羅延天の別名は「堅固力士」または「金剛力士」[xxvi]です。京都府の蓮華王院の三十三間堂に見られる二十八部衆像のひとつ「那羅延堅固[xxvii]」がヴィシュヌにあたります。ヴィシュヌは仏陀(=お釈迦様)という仏教の開祖として地上にいたのに、仏教を守護する仁王の一人になっているなんて、おもしろいですね。
いろいろな神様を取り込んで、現代まで名前をとどろかせたヴィシュヌらしくて、思わずクスリと笑ってしまいます。
出典
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356〜357
◎『世界と日本がわかる 国ぐにの歴史 一冊でわかるインド史』【監修】水島司、河出書房新社、2024、82〜83頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、219〜220頁・『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356頁
◎『世界の宗教大図鑑』ジョン・ボウカー 著 中村圭志 日本語版監修 黒輪篤嗣訳 、河出書房新社、2022、47頁
◎第10回 ハスのコスモロジー(上・その1) - 宗教情報センター
◎『神の文化史事典』松村一男 平藤喜久子 山田仁史、白水社、2014、563頁・『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、359〜360頁
◎『世界の宗教大図鑑』ジョン・ボウカー 著 中村圭志 日本語版監修 黒輪篤嗣訳 、河出書房新社、2022、46頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、219〜220頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、398頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、18頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、220頁
◎迦楼羅像【八部衆】(かるらぞう) - 法相宗大本山 興福寺
◎象王ガジェーンドラの家 - ヴィシュヌの街
◎シュリーマド・バーガヴァタム 第82話 | シュリー・スワミジ日本公式サイト
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、276〜279頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、357頁
◎天竺奇譚「インド映画『RRR』にみる神話と宗教」 『世界の宗教大図鑑』刊行記念コラム②
◎『RRR』の影響で話題に! “理想の二人”と支持を集める、インド神話の人気カップル
◎ヒンドゥー教の神・シヴァ神とリンガ信仰 西遊インディア アーカイブス - 西遊旅行
◎クリシュナ神の誕生日 - Taj 多事
◎アバター | 生活の中の仏教用語 | 読むページ - 大谷大学
◎集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る
◎『地球の歩き方 D28 インド 2024〜2025年版』、地球の歩き方、2023、509頁
◎ランガナータスワーミ寺院
◎『地球の歩き方 D28 インド 2024〜2025年版』、地球の歩き方、2023、510頁
◎・ランガナータスワーミ寺院
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、10頁
◎『地球の歩き方 aruco27 アンコール・ワット』ダイヤモンド・ビッグ社、2017、60頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、15頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、16〜17頁
◎『地球の歩き方 aruco27 アンコール・ワット』ダイヤモンド・ビッグ社、2017、67〜71頁
◎カンボジアの至宝! アンコール・ワット徹底案内 | ASEAN Travel
◎インドの祭り、色鮮やかで、一風変わった趣向
◎スピリチュアル - Incredible India
◎ラマスワミ寺院-クンバコナム |トリップドットコム クンバコナム
◎2024年アクシャヤ・トリティヤ: 繁栄をもたらす祝福と祈り - 宏福商事合同会社
◎アクシャヤ・トリティーヤーについて - スピリチュアルインド雑貨SitaRama
◎『歴史文化セレクション インドの神々』斎藤昭敏、吉川弘文館、2007、145頁
◎二十八部衆像 – 蓮華王院 三十三間堂
世界でも有名なインドの神様「ヴィシュヌ」。
その名前は、世界史の教科書や参考書にも書かれ、「ペルソナ」、「女神転生」、「FGO(Fate/Grand Order)」といったゲームの中でも見られます。
今回はインドで一二を争う人気者である創造神ヴィシュヌについてご紹介します。
目次
【出典・参考文献について】
出典・参考文献は文末にまとめてあります。
本文内のローマ数字をクリックすると出典・参考文献に飛びます。
出典・参考文献から本文を見たい場合も、ローマ数字をクリックすると該当箇所に飛びます。
ヴィシュヌは弱きを助け強気をくじく、やさしい神様
「ヴィシュヌってどんな神様か知らないよ」という人もいると思います。
まずはヴィシュヌがどんな神様かご説明します。
ヴィシュヌ(Vishnu)はヒンドゥー教の神様で、名前の意味は「あまねく行き渡る(広く全体に行き届く)者」、「多様な姿をとる者[ⅰ] 」です。
「世界(宇宙)の維持者」といわれ、別名は「アチユタ(不死の者)」、「アナンタ(無限の者[ⅱ] )」といいます。
宇宙の維持を司るヴィシュヌは、破壊神「シヴァ」、創造神「ブラフマー」とともに「トリムールティ(三神一体)」の一柱です。
ヴィシュヌを信仰するヴィシュヌ派では、ヴィシュヌは破壊神シヴァよりも強い、インドで最強の神様といわれています。
もともとはインド土着の太陽神で、人々に安息を与える慈愛の神でした。
当初は、あまり重要視されていない下級神で[ⅲ]『リグ・ヴェーダ』上でも天空の神「インドラ」の協力者として登場します。
ヴィシュヌには、たくさんの名前があります。
それはインド土着の神様を各地から次々と取り込んでいったからです。
時代をへるにしたがってヒンドゥー教がインド全域へと影響力を伸ばし、現在のように世界でも名前の知られた神様になりました[ⅳ]。
ヴィシュヌは「3歩で宇宙を飛び越え、神々と人間の住む宇宙の境界を定めた」というスケール感がおもしろおかしい神様です[v]。
ヴィシュヌの外見とシンボル
ヴィシュヌを現すものは
です。
「光る円盤」は心と太陽の象徴で、普遍的な支配を意味します。
金でできた「棍棒」は根源的知識と精神力を象徴し、権威や秩序の維持を意味するものです。
「ほら貝」は寺院ではヴィシュヌの来訪を告げる音であり、万物の源である原初の響きを象徴します。
「蓮華」は清浄と豊穣の象徴です[ⅵ]。
「へその緒につながった蓮華座に座るブラフマー」はヴィシュヌの中で芽生えた創造意欲が、へそから出てハスとなりました。
そのハスの中にヴィシュヌが入り込み、ブラフマーが自力で生まれたという神話[ⅶ]から来ています。
ヴィシュヌを語るのに外せない存在〜ラクシュミーとガルーダ〜
ヴィシュヌを語る上で大切な存在が、2つあります。
それは
です。
ラクシュミーは愛と美、幸運と豊穣の女神です。
宇宙の乳海が撹拌した(かき混ざった)ときに、神々を不死にするアムリタとともに海から誕生しました。
ヴィシュヌの伴侶であり、ヴィシュヌと同様に化身として人間界に現れます。
ヴィシュヌの化身のそばにいる女性は、すべてラクシュミーの化身と考えられています。
日本では「吉祥天」として広く知られている女神様です[ⅷ]。
ガルーダは半分人間、半分ワシの姿をした鳥の王子です[ⅸ]。
母「ヴィナター」がイカサマによって蛇の姿をした半神「ナーガ」の奴隷となってしまいます。
ガルーダはヴィナターを解放するために、不死の霊水「アムリタ」を求めます。
アムリタを守っていた天界の神々を蹴散らすガルーダの強さを認めたヴィシュヌは、「願いをかなえる代わりに自分のヴァーハナ(乗り物)にならないか?」と提案しました。
ガルーダは「不死になりたい」と願い、ヴィシュヌは願いをかなえます。
こうしてヴィシュヌの力で不死となったガルーダは、ヴィシュヌの乗り物になったのです。
ヴィシュヌが心に思い描くだけでガルーダは現れます。
ガルーダはヴィシュヌとともに悪魔や悪い蛇と戦った頼もしい存在です[ⅹ]。
日本では「迦楼羅」と呼ばれ、像が奈良県興福寺にあり、国宝に指定されています[ⅺ]。
ヴィシュヌの神話 象王の救済
ヴィシュヌは人助けをする神様です。
あるところに「インドラデュムナ」というヴィシュヌを信仰する王様がいました。
彼は息子に王位を譲り、森で生活をしました。
住まいで瞑想し、ヴィシュヌに祈りを捧げるのに熱中するあまり、「アガスティヤ」という聖なる仙人がやってきたことに気づきません。
アガスティヤはインドラデュムナがあいさつやもてなしをしないことに怒り、象となる呪いをかけたのです。
インドラデュナムは象の王様「ガジェーンドラ」になってしまいました。
ガジェーンドラが水浴びをしていると前世がガンダルヴァ(精霊)だったワニに噛まれてしまいます。
ガジェーンドラとワニは千年間戦いましたが、ガジェーンドラの身体からワニは離れません。
疲れ果て弱りきったガジェーンドラは、ヴィシュヌに「助けてほしい」と祈り、湖の上に浮かんでいた蓮の花を鼻でつまんで捧げました。
するとガルーダに乗ったヴィシュヌがワニの首を円盤(チャクラ)で切り落とし、ガジェーンドラは救われました。
死んだワニもヴィシュヌのおかげで呪いが解けて天上へ帰ることができました[ⅻ]。
ダシャーヴァターラ ヴィシュヌの10の化身
ヴィシュヌは10のダシャーヴァターラ(アヴァターラ)という化身・権化となり、世界を悪や混迷から救うといわれています。
10の化身とは、ヴィシュヌが世界を悪魔から守るために地上でとる身体のことです。
その10段階は
です[xiii]。
ヴィシュヌの人気の背景には、ヒンドゥー教の二大叙事詩が関係しています。
インドには
という叙事詩があります。
この2つの叙事詩を題材にして作られた小説、漫画、絵本、映画、アニメ、ドラマ、ゲームが世界には数多くあります。
『ラーマーヤナ』の主人公で大冒険をするヒーローのラーマと、『マハーバーラタ』の主要人物で 絶世の美少年である英雄神・クリシュナはインドで大人気です。
ラーマはインド映画『RRR』の主人公の元ネタにもなっております。
妻「シータ」とともに理想のカップルと呼ばれ、人気が高いです。
クリシュナはインドのヒンドゥー教信者から熱狂的な人気があり、一説にはインドで圧倒的人気を誇るシヴァの最大のライバルと称されています。
ヴィシュヌの化身であり、インド人にとってポピュラーな存在である二人の人気が、直接ヴィシュヌの人気に影響を与えているのです[xiv]。
またジェームズ・キャラメロン監督の映画『アバター』はヒンドゥー教からインスピレーションを受けた作品です。
アバター(avatar)はサンスクリット語で「(ヴィシュヌ)神の化身・権化」を意味します。
これは天上に住むヴィシュヌが人間世界で仮の姿をとることをさしていました[xv]。
この単語が広く世界に知れ渡り、現在ではゲーム内のプレイヤーの「分身」という意味で使われるようになっています。
また、アバターのキャラクターたちが青い肌をしているのは、ヴィシュヌの絵画や像がもとになっているといわれています[xvi]。
ヴィシュヌの有名な寺院
ヴィシュヌを祀っている寺院は、インド国内だけでなく、その近隣諸国や他のアジアの国々にあります。
その中でも古い歴史があり、壮麗な
の2つをご紹介します。
ランガナータスワーミ寺院 (シュリーランガム)
ランガナータスワーミはインド国内で最大の寺院であり、世界でも最大級の宗教施設といわれています。
南インドのタミル・ナードゥ州中部の中心都市ティルチラーパッリ(ティルチィ)にある寺院[xvii]です。
ランガナータは「横たわる」、スワーミ「ヴィシュヌ神」、つまり「横に寝たヴィシュヌ」の寺院です[xviii]。
インドに108ヵ所あるヴィシュヌ派の聖地のひとつで、面積は2.5キロ平方メートルあります。
本尊はヴィシュヌで、最初の建造はチョーラ朝時代です。
境内は7重の周壁に囲まれており、21のゴープラム(塔門)をもちます。
現存する建物の多くは、17世紀にマドゥライのティルマライ・ナーヤカ王が建てたものです。
1987年にユネスコの援助を得て完成した南門は、72メートルと最大の高さを誇っています[xix]。
アンコールワット寺院(カンボジア)
アンコールワットは世界史の教科書や資料集などで取り上げられる、日本人が一度は耳にしたことがある世界遺産になります。
アンコールワットは、1113年、国王に即位したスールヤヴァルマン2世が約30年かけて造った寺院です[xx]。
最高神ヴィシュヌを祀った寺院で、王は神と一体であるという「デーヴァ・ラージャ思想(アンコール思想)」のもとで造られたクメール建築です[xxi]。
第一回廊ではヴィシュヌの化身が登場する『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』、「天国と地獄」、「乳海攪拌」、創建者であるスールヤヴァルマン2世の業績といったクメール美術の壮麗なレリーフが見られます[xxii]。
また第三回廊に囲まれた中央祠堂には創建当時ヴィシュヌの像が祀られていたと言われます。
現在はヴィシュヌの化身である仏陀の像が祀られていますよ[xxiii]。
ヴィシュヌ関連のお祭り
最後にヴィシュヌゆかりのお祭りである
の2つをご紹介します。
フロート・フェスティバル (Float Festival)
フロート・フェスティバルはティルマーラー・ナーヤク(ヴィシュヌ)の生誕を祝うお祭りです。
フロート・フェスティバルは1月〜2月の満月の夜に行われます。
ヴィシュヌの母「ミーナクシー」神とその夫「スデーレスワラール」神の像が、色とりどりの花やランプで飾り立てられ、テッパム(いかだ)の上へ乗せられるのです。
像がのったテッパムはミナクシー寺院を囲む池へ浮かべられます。
百人単位の信者たちが伝統音楽を奏で、テッパムが池の周りを移動するのを眺めるお祭りです[xxiv]。
アクシャヤ・トリティヤの繁栄
アクシャヤ・トリティヤはヴィシュヌの第6の化身であるバラシューマの誕生日を祝うお祭りです。
アクシャヤは「不朽」、「不滅」、「永遠」、トリティヤは「三番目」を意味します。
これは太陽と月がもっとも輝く日です。
アクシャヤ・トリティヤは5月のインドの大吉日に行われます。
ヒンドゥー教徒とジャイナ教徒にとって重要な意味をもつお祭りです。
黄金や銀による不滅の繁栄や成長、永遠の幸福が舞い込むことを願い、新たなことを始める日とされています[xxv]。
みんなに崇められる最高神ヴィシュヌは、ゆったり・まったり・のんびりした神様
今回の記事でヴィシュヌがどんな神様か知ることはできましたか?
ヴィシュヌは…
です。
ヴィシュヌの化身のひとつに、仏陀があるとご説明しました。
しかしながら日本に仏教が渡来した際、ヴィシュヌは「(ならえんてん)」という名前で日本にやってきました。
那羅延天の別名は「堅固力士」または「金剛力士」[xxvi]です。
京都府の蓮華王院の三十三間堂に見られる二十八部衆像のひとつ「那羅延堅固[xxvii]」がヴィシュヌにあたります。
ヴィシュヌは仏陀(=お釈迦様)という仏教の開祖として地上にいたのに、仏教を守護する仁王の一人になっているなんて、おもしろいですね。
いろいろな神様を取り込んで、現代まで名前をとどろかせたヴィシュヌらしくて、思わずクスリと笑ってしまいます。
出典
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356〜357
◎『世界と日本がわかる 国ぐにの歴史 一冊でわかるインド史』【監修】水島司、河出書房新社、2024、82〜83頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、219〜220頁・『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、356頁
◎『世界の宗教大図鑑』ジョン・ボウカー 著 中村圭志 日本語版監修 黒輪篤嗣訳 、河出書房新社、2022、47頁
◎第10回 ハスのコスモロジー(上・その1) - 宗教情報センター
◎『神の文化史事典』松村一男 平藤喜久子 山田仁史、白水社、2014、563頁・『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、359〜360頁
◎『世界の宗教大図鑑』ジョン・ボウカー 著 中村圭志 日本語版監修 黒輪篤嗣訳 、河出書房新社、2022、46頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、219〜220頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、398頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、18頁
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、220頁
◎迦楼羅像【八部衆】(かるらぞう) - 法相宗大本山 興福寺
◎象王ガジェーンドラの家 - ヴィシュヌの街
◎シュリーマド・バーガヴァタム 第82話 | シュリー・スワミジ日本公式サイト
◎『ヴィジュアル版 世界の神話百科[東洋編] エジプトからインド、中国まで』レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子訳、原書房、2002、276〜279頁
◎『世界神話伝説事典』かみゆ歴史編集部、イースト・プレス、2023、357頁
◎天竺奇譚「インド映画『RRR』にみる神話と宗教」 『世界の宗教大図鑑』刊行記念コラム②
◎『RRR』の影響で話題に! “理想の二人”と支持を集める、インド神話の人気カップル
◎ヒンドゥー教の神・シヴァ神とリンガ信仰 西遊インディア アーカイブス - 西遊旅行
◎クリシュナ神の誕生日 - Taj 多事
◎アバター | 生活の中の仏教用語 | 読むページ - 大谷大学
◎集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る
◎集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る
◎『地球の歩き方 D28 インド 2024〜2025年版』、地球の歩き方、2023、509頁
◎ランガナータスワーミ寺院
◎『地球の歩き方 D28 インド 2024〜2025年版』、地球の歩き方、2023、510頁
◎・ランガナータスワーミ寺院
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、10頁
◎『地球の歩き方 aruco27 アンコール・ワット』ダイヤモンド・ビッグ社、2017、60頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、15頁
◎『るるぶ情報版 A22 るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015、16〜17頁
◎『地球の歩き方 aruco27 アンコール・ワット』ダイヤモンド・ビッグ社、2017、67〜71頁
◎カンボジアの至宝! アンコール・ワット徹底案内 | ASEAN Travel
◎インドの祭り、色鮮やかで、一風変わった趣向
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◎ラマスワミ寺院-クンバコナム |トリップドットコム クンバコナム
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◎2024年アクシャヤ・トリティヤ: 繁栄をもたらす祝福と祈り - 宏福商事合同会社
◎アクシャヤ・トリティーヤーについて - スピリチュアルインド雑貨SitaRama
◎『歴史文化セレクション インドの神々』斎藤昭敏、吉川弘文館、2007、145頁
◎二十八部衆像 – 蓮華王院 三十三間堂