読み物
2022.02.02

【世界の不思議なお守り】ジャナイ

 

夢を持ち、悩みを抱えて生きている人間にとって、小さなお守りは常についてまわります。

それは昔から変わらないことですが、
最近は国内のものだけでなく、海外のものにも関心が持たれています。
つまり外国のお守りも親しまれて普及してきているのです。

 

ここでは、アミナコレクションの創業者・進藤幸彦が出版した『世界の不思議なお守り』より、様々なお守りをご紹介していきます。

第四弾となる今回は、素朴な見た目ながらも強力な力を持つお守り、ジャナイ(モウリ)をご紹介いたします。

 
【世界の不思議なお守り】ジャナイ01
 

ジャナイ(モウリ)

インド・ネパール ~糸を巻くだけの素朴な厄除けブレスレット~

 

赤や、黄色や、緑にそれぞれ段染めにした3本の糸を、よじって作ったひも。
これが手首に数回巻かれただけの素朴なブレスレットを初めて見たのは、インドのデリーで開かれた、とあるパーティーの席でした。

隣り合わせたおじいさんが右手につけていたのです。

 

「これはモウリと言ってね、このあいだ、おばあさんの年周忌のプージャ(祈りのセレモニー)のときにプリースト(僧)からつけてもらったんだよ」

 

とおじいさんは説明していました。

身につけているあいだ、プージャの祝福が身にとどまっているのだそうです。
だからなるべく長くつけておいて、切れてしまったり外れてしまったら人の足に踏まれないよう家の中の鉢の土に埋めるそうです。

なくなるとすぐまたお寺に行ったりプリーストに会ってつけてもらいます。
帰国後、おじいさんの息子から丸く束ねられたモウリのひもが贈られてきました。

そのあと、お隣のネパールの首都カトマンズで思いがけないお祭りにぶつかりました。

ネパールではインドと同じようにヒンドゥー教が浸透していて、習俗もよく似たものがあります。
モウリとも同じものがあり、ジャナイと呼ばれています。そのジャナイの祭り、ジャナイ・プルニマ(ジャナイ満月祭)に出くわしたのです。

カトマンズの古都パタンの奥にある、クムベサ寺というシヴァ神を祭るお寺が舞台です。
祭りの日は夜明けから夜遅くまでひっきりなしに参詣人が集まります。

クムベサ寺には小さな池があり、カトマンズから50キロメートル離れた、ゴサイクンダという500メートル以上の高地にある湖から、冷水を引いていると言われています。
祭りの日は池のまん中にあるシヴァのリンガ(男性器の形をしたシヴァ神の象徴)に向かって、大勢の参詣者たちが水に濡れた危険な道を通って、コインや米粒、花輪を投げ入れます。

境内にはブラーマンのカーストの男たちがジャナイを人々につけてあげています。
ブラーマンたち自身もこの日、肩から脇腹にかけてたすきがけにしている、太めで生なり色の特製ジャナイを新品と交換します。

 
【世界の不思議なお守り】ジャナイ02
 

ジャナイは身につけた人が破壊的なことをしないよう、また行く先を妨げるものを取り除くよう働くといわれています。
熱心な人々は体とこころをきよめるため、前日は断食して水浴びし、ひげをそり、爪を切ります。

当日は可能なら家族の僧からマントラを唱えてもらいながら、手首にジャナイを巻いてもらいます。
ジャナイは少なくとも4日間は身につけていなければなりません。もし切れたり外れたりしたら家の最上階にある「祈りの間」か、箱の中に大事にしまっておきます。

デリーの貿易商のキャプテン・チブは、ジャナイをジャナウと発音しました。
彼は新車を買ってからすぐに家族でお寺に出掛け、妻と息子とともにジャナイ(モウリ)を手首に巻いてもらいました。
僧侶は新車のハンドルにもモウリの糸を巻きつけました。

それから20日ほど後、ある晩彼はパーティーで遅くなり、家族や友人を乗せて午前2時ごろ時速120キロメートルくらいで車を飛ばして帰宅しました。
そのとき、のろのろ運転の大型トラックに追突、そのトラックが無灯火で積んでいた建築用の鉄骨が車内に飛び込んできました。

このときの急ブレーキで、ベルトをしていなかった乗客たちは前につんのめりました。
ところが鉄骨は彼らの頭をかすめて座席の上部を飛ばして止まり、奇跡的に全員無傷で済んだのです。

屋根もガラスも吹っ飛んで、まるでオープンカーのように変わり果てた車をキャプテン・チブは修理工場に運びました。

彼がぼんやり車のそばに立っていたところ、南インドの人らしいみすぼらしい格好をした人が車をのぞきこんで「この中に乗っていた人たちは全員亡くなったのですか」と聞きました。

「いいえ、全員無事でした」と答えると、その人は両手を合わせて「運転をしていた人がハンドルについているモウリを触っていたに違いない」と言ったきりで姿を消しました。

その夕方ご夫婦はそろってお寺にお礼に行ったそうです。


  • Twitter
  • Facebook
  • LINE