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ネットサーフィンをしていたら「イスラム教徒と結婚するには、イスラム教に改宗するしかない!」という言葉を見かけました。声を大にして言います。その話、ちょっと違います!今回はイスラム教徒と国際結婚した日本人の私がお伝えする〝イスラム教徒との結婚〟実話です。
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Lucia Travel連載一覧はこちら
あちこち自由に海外を旅していた29歳の時、外国でイスラム教徒の男性と結婚することになりました。国際結婚、特に相手方の国で結婚する場合、日本では考えられないような試練が次々とやってきます。
例えば独身証明書。例えば犯罪者ではないという証明書。例えば妊娠していないという証明書。どれも日本では聞いたことありませんよね?その中の一つに、宗教がありました。
結婚に必要な書類の一枚を書いている時のことです。夫となる人に言われました。
「君の宗教は何?」
「私は日本人だから無宗教だよ」
「君は僕と結婚するんだから、宗教が無きゃダメだよ(怒)」
「神様は信じているけど、日本人は特にコレって宗教が無いから…。家には神棚も仏壇もあるし」
「家族で神様に祈ったりしないの?」
「祈らないよ。でも家族の代々のお墓はお寺にあるし、お葬式もお坊さんに来てもらうし、強いて言えば仏教かな」
「仏教?ブッダの?」
「そう。私の家で言えば仏教かな」
「仏教はダメだ」
「!?」
★注意1宗教が生活や人生と深く関わっているイスラム教徒の人間にとって、無宗教や自身の神を語れない人間は哀れな存在に近いようで、そこはご理解ください。
これには理由がありました。私の結婚相手は生粋のイスラム教徒。だから結婚相手はイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒の3つの宗教のいずれかに属していなければいけなかったのです。
イスラム教、キリスト教、ユダヤ教は簡単に説明すれば兄弟のようなもの。いずれの宗教も旧約聖書を使用し、そこから派生しています(特にイスラム教とキリスト教は共通点も多く、かなり近しい関係。ユダヤ教だけがちょっと異質で、イエスやその母マリア、ムハンマドの存在を一切認めていません)。
細かい部分では色々ありますが、この3つの宗教は旧約聖書というベースで結ばれています。そのため旧約聖書をベースにしていない宗教はNGになってしまいます。
旧約聖書というと遥か昔のお話でしょ?と思われるかも知れませんが、21世紀になった現在もこの考えは続いていて、イスラム教徒と結婚する場合は、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教のいずれかの宗教に属していることが条件となります。
★注意2宗教そのものがダメなのではなく、旧約聖書の扱いがあるかないかの判断によるものです。決して他宗教を批判・非難しているわけではありません。
ただ上記であげた条件は、男性がイスラム教徒だった場合のお話です。女性がイスラム教徒の場合、条件はさらに厳しくなります。女性がイスラム教徒の時、結婚相手の男性は必ずイスラム教徒でなければなりません。違った場合は改宗が必要で、これは絶対に譲れない条件となっています。
夫いわく、「イスラム教には細かいルールがたくさんある。特に女性は男性に庇護してもらう立場だから、してはいけないことや立ち入れない場所も多い。結婚相手がルールを知らないと日常生活が営めなくなる」のだとか。
確かにイスラム教徒は男女を分けて生活させる部分があります。男の役割というものがしっかりあるため、そこを理解できない男性と結婚すると女性は翻弄されるでしょう。
また、彼女たちは肌や髪を見せないことこそ良しとして育てられています。人前では全身を覆い隠す敬虔なムスリマとして育ったのに、結婚相手から「ブルカを使わないように」と強要されたら…。彼女たちは神への信仰と夫への忠誠の間で苦しむことになるでしょう。時に女性差別の象徴ともされるブルカですが、ブルカは神様と自分との約束事として自らの意思で着用している女性が多いのも現実です。
めちゃくちゃ乱暴に例えるなら、私たち日本人が通夜やお葬式の時に喪服を着るのと同じ感覚です。葬儀の時、私たちは故人を忍ぶ意味をこめて喪服を着ます。そしてそれはマナーでもあります。だから喪服を着ることに不自由は覚えません。ブルカも似ています。不自由に見えて、実は不自由ではない。ニュースでは抑圧の象徴として扱われるブルカですが、そうではない場合もあるのだと知っていただけたら幸いです。
さて、日本で生まれ日本で育った私は、特に大事にしている宗教はありません。カトリックの学校に通ってはいましたが、自宅には仏壇があり、神棚もあり、でもクリスマスにはケーキを食べ…と、本当に一般的な日本人家庭で育ちました。
だから突然、宗教を3つ提示され選ぶように言われた時は悩みました。
「どの宗教にする?」
夫は言葉にこそ出しませんでしたが、もちろんイスラム教だよね!という圧をかけてきます。彼の家族も。だから違う宗教を選ぶのは酷く勇気がいりました。
〝キリスト教もユダヤ教も兄弟宗教だから選んでOK〟
でもこれは建前。国民の90%がイスラム教徒というモロッコで暮らしていたので、悲しいことに現実はそうではないと知っていました。本音と建前、理想と現実です。
結局私は、イスラム教を選びませんでした。イスラム教が嫌いだからではありません。イスラム教が怖いからでもありません。敬虔な信者である夫が神様に祈りを捧げる時の声は大好きでしたし、それは離婚した今も変わりません。
私がイスラム教を選ばなかったのは、私に知識がなかったからです。ラマダンで飢えと乾きに苦しみながら、でも神を愛しラマダンの掟を破らない夫や夫の家族を前に思いました。私はイスラムのことを何も知らないし、ここまで信じきれない。なのにイスラム教と名乗って良いのかと。だから選べませんでした。
もちろん夫にはがっかりされました。
「いつでも改宗できるから、これで勉強しなさい」とコーランを手渡してきた彼。でも私はアラビア語が読めません…。
ただ揉めるのを覚悟していたので、意外にすんなり受け入れられたのには驚きました。結婚の許可を出す裁判官の家へ挨拶に行ったときも、特に問題なく終わりました。宗教家の偉い人の家へ行った時も同じでした。
改宗といっても大がかりな何かをすることはなく、結婚に必要な紙へ宗教名を書いただけ。誰にも何も追及されません。ここからは私の勝手な想像ですが、もし私がイスラム教を選んでいたら簡単なパーティー位は開いて貰えていた気がします。夫も夫の家族も、他の宗教を選んだ=興味が失せたようでした。
紙一枚の宗教って何だろう。特定の宗教を持っていない私は今も当時も少し疑問に思います。
当時は何年か経ってイスラムのことが理解できたら改宗しても良いかなと思っていましたが、でも結婚して5年程度ではそこまで辿りつけず、そのうちに離婚。今となっては、その場の雰囲気に負けて改宗しなくて良かった、と心から思っています。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
ネットサーフィンをしていたら「イスラム教徒と結婚するには、イスラム教に改宗するしかない!」という言葉を見かけました。
声を大にして言います。その話、ちょっと違います!
今回はイスラム教徒と国際結婚した日本人の私がお伝えする〝イスラム教徒との結婚〟実話です。
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目次
宗教証明書って何
あちこち自由に海外を旅していた29歳の時、外国でイスラム教徒の男性と結婚することになりました。
国際結婚、特に相手方の国で結婚する場合、日本では考えられないような試練が次々とやってきます。
例えば独身証明書。例えば犯罪者ではないという証明書。例えば妊娠していないという証明書。
どれも日本では聞いたことありませんよね?その中の一つに、宗教がありました。
結婚に必要な書類の一枚を書いている時のことです。夫となる人に言われました。
「君の宗教は何?」
「私は日本人だから無宗教だよ」
「君は僕と結婚するんだから、宗教が無きゃダメだよ(怒)」
「神様は信じているけど、日本人は特にコレって宗教が無いから…。家には神棚も仏壇もあるし」
「家族で神様に祈ったりしないの?」
「祈らないよ。でも家族の代々のお墓はお寺にあるし、お葬式もお坊さんに来てもらうし、強いて言えば仏教かな」
「仏教?ブッダの?」
「そう。私の家で言えば仏教かな」
「仏教はダメだ」
「!?」
★注意1
宗教が生活や人生と深く関わっているイスラム教徒の人間にとって、無宗教や自身の神を語れない人間は哀れな存在に近いようで、そこはご理解ください。
結婚の絶対条件は改宗!?
「仏教はダメだ」
これには理由がありました。私の結婚相手は生粋のイスラム教徒。だから結婚相手はイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒の3つの宗教のいずれかに属していなければいけなかったのです。
イスラム教、キリスト教、ユダヤ教は簡単に説明すれば兄弟のようなもの。
いずれの宗教も旧約聖書を使用し、そこから派生しています(特にイスラム教とキリスト教は共通点も多く、かなり近しい関係。ユダヤ教だけがちょっと異質で、イエスやその母マリア、ムハンマドの存在を一切認めていません)。
細かい部分では色々ありますが、この3つの宗教は旧約聖書というベースで結ばれています。そのため旧約聖書をベースにしていない宗教はNGになってしまいます。
旧約聖書というと遥か昔のお話でしょ?と思われるかも知れませんが、21世紀になった現在もこの考えは続いていて、イスラム教徒と結婚する場合は、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教のいずれかの宗教に属していることが条件となります。
★注意2
宗教そのものがダメなのではなく、旧約聖書の扱いがあるかないかの判断によるものです。決して他宗教を批判・非難しているわけではありません。
男女で違うムスリムの結婚の条件
ただ上記であげた条件は、男性がイスラム教徒だった場合のお話です。女性がイスラム教徒の場合、条件はさらに厳しくなります。
女性がイスラム教徒の時、結婚相手の男性は必ずイスラム教徒でなければなりません。違った場合は改宗が必要で、これは絶対に譲れない条件となっています。
夫いわく、
「イスラム教には細かいルールがたくさんある。特に女性は男性に庇護してもらう立場だから、してはいけないことや立ち入れない場所も多い。結婚相手がルールを知らないと日常生活が営めなくなる」のだとか。
確かにイスラム教徒は男女を分けて生活させる部分があります。男の役割というものがしっかりあるため、そこを理解できない男性と結婚すると女性は翻弄されるでしょう。
また、彼女たちは肌や髪を見せないことこそ良しとして育てられています。
人前では全身を覆い隠す敬虔なムスリマとして育ったのに、結婚相手から「ブルカを使わないように」と強要されたら…。彼女たちは神への信仰と夫への忠誠の間で苦しむことになるでしょう。
時に女性差別の象徴ともされるブルカですが、ブルカは神様と自分との約束事として自らの意思で着用している女性が多いのも現実です。
めちゃくちゃ乱暴に例えるなら、私たち日本人が通夜やお葬式の時に喪服を着るのと同じ感覚です。
葬儀の時、私たちは故人を忍ぶ意味をこめて喪服を着ます。そしてそれはマナーでもあります。だから喪服を着ることに不自由は覚えません。
ブルカも似ています。不自由に見えて、実は不自由ではない。ニュースでは抑圧の象徴として扱われるブルカですが、そうではない場合もあるのだと知っていただけたら幸いです。
イスラム教以外の宗教を選べる?
さて、日本で生まれ日本で育った私は、特に大事にしている宗教はありません。
カトリックの学校に通ってはいましたが、自宅には仏壇があり、神棚もあり、でもクリスマスにはケーキを食べ…と、本当に一般的な日本人家庭で育ちました。
だから突然、宗教を3つ提示され選ぶように言われた時は悩みました。
「どの宗教にする?」
夫は言葉にこそ出しませんでしたが、もちろんイスラム教だよね!という圧をかけてきます。彼の家族も。だから違う宗教を選ぶのは酷く勇気がいりました。
〝キリスト教もユダヤ教も兄弟宗教だから選んでOK〟
でもこれは建前。国民の90%がイスラム教徒というモロッコで暮らしていたので、悲しいことに現実はそうではないと知っていました。本音と建前、理想と現実です。
あっけなく終わった改宗
「どの宗教にする?」
結局私は、イスラム教を選びませんでした。
イスラム教が嫌いだからではありません。イスラム教が怖いからでもありません。敬虔な信者である夫が神様に祈りを捧げる時の声は大好きでしたし、それは離婚した今も変わりません。
私がイスラム教を選ばなかったのは、私に知識がなかったからです。
ラマダンで飢えと乾きに苦しみながら、でも神を愛しラマダンの掟を破らない夫や夫の家族を前に思いました。
私はイスラムのことを何も知らないし、ここまで信じきれない。なのにイスラム教と名乗って良いのかと。だから選べませんでした。
もちろん夫にはがっかりされました。
「いつでも改宗できるから、これで勉強しなさい」とコーランを手渡してきた彼。でも私はアラビア語が読めません…。
ただ揉めるのを覚悟していたので、意外にすんなり受け入れられたのには驚きました。
結婚の許可を出す裁判官の家へ挨拶に行ったときも、特に問題なく終わりました。宗教家の偉い人の家へ行った時も同じでした。
改宗といっても大がかりな何かをすることはなく、結婚に必要な紙へ宗教名を書いただけ。誰にも何も追及されません。
ここからは私の勝手な想像ですが、もし私がイスラム教を選んでいたら簡単なパーティー位は開いて貰えていた気がします。夫も夫の家族も、他の宗教を選んだ=興味が失せたようでした。
紙一枚の宗教って何だろう。
特定の宗教を持っていない私は今も当時も少し疑問に思います。
当時は何年か経ってイスラムのことが理解できたら改宗しても良いかなと思っていましたが、でも結婚して5年程度ではそこまで辿りつけず、そのうちに離婚。
今となっては、その場の雰囲気に負けて改宗しなくて良かった、と心から思っています。
前回の記事はこちら
Lucia Travel連載一覧はこちら
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel