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春と秋、年に2回ある『お彼岸』。 「お墓参りをするということは、仏教に関係する行事なんだろうな」と見当をつけているかたも多いと思います。
勿論そのとおりなのですが、実はお釈迦様が活躍していたインドや、仏教伝来の経由地になった中国には『お彼岸』という習慣が無いのです。
今回は、そんな不思議な由来のある『お彼岸』の意味や豆知識をわかりやすく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
まず『お彼岸』の意味ですが、そもそも『彼岸』とは、仏様が住むといわれている『向こう岸』の世界のことです。 厳しい修行を行い、涅槃(ねはん)と呼ばれる仏の境地にたどり着いた者のみが渡ることを許される世界で、あの世の極楽や浄土のことをさしています。
それに対して、私たちが生活しているこの世は、仏教用語で此岸(しがん)・穢土(えど)と呼ばれ、迷いや煩悩に満ち溢れた穢れの世界です。 大きな川を隔てて『此岸』の対岸にあるのが『彼岸』で、涅槃の境地に達することは、そう簡単ではないといわれています。
そんな『彼岸』ですが、語源はインドのサンスクリット語『パーラミター(波羅蜜多)』を漢語に意訳した『到彼岸(とうひがん)』の略だといわれています。 『パーラミター』には『完成する』や『成就する』という意味があり『悟りの世界』を表現する言葉です。
川といえば、『三途の川』も仏教由来の言葉ではありますが、『此岸』と『彼岸』の間にあるのは三途の川ではないとされます。 これは諸説ありますが、『仏の世界である極楽浄土に至るには、大河の激流のような厳しい修行を乗り越えなければならない』という比喩で、容易ではないことを意味するものだとか。
ではなぜ、インドや中国には無いお彼岸の習慣が、遠く離れた日本に根付いているのでしょうか。
こちらも諸説ありますが、お彼岸の時期に初めて仏教の法要を行ったのは平安京への遷都で有名な桓武天皇だといわれています。
桓武天皇は自分の弟を謀反の疑いで捕らえましたが、当の弟は無実を訴えて一切の飲食を断ちました。しかし抗議もむなしく、絶命してしまいます。 すると桓武天皇の身近な人々が次々と病に侵され、とうとう己の息子も病にふせることに。同時期に天然痘まで流行りだします。
これは弟の祟りだと恐れた桓武天皇は、悪霊退散のために法要(=故人を供養するために行われる仏教儀式)を行いました。この法要が最初の『彼岸会(ひがんえ)』とされています。
法要は、桓武天皇の死後もつづけられ、平安時代中期の紫式部も源氏物語の中で彼岸会について触れています。
現在のようにご先祖様を供養し、お墓参りをする形になったのは室町時代になってからのことで、習慣として定着したのは江戸時代の中期以降です。
詳しくは後述しますが、この世である『此岸』とあの世である『彼岸』が、もっとも通じやすくなるのがお彼岸の時期だといわれていることが関係しています。
『暑さ寒さも彼岸まで』とよく聞きますが、言葉通りお彼岸は季節の境目である「春分の日」と「秋分の日」の前後に行われます。 ここでは、「なぜこの期間に行われるのか」を由来とともに解説していきます。
お彼岸は年に2回、「春分の日」と「秋分の日」をそれぞれ真ん中の日として数え、前後の3日間を合わせた一週間となります。
■春のお彼岸
■秋のお彼岸
3月にある、「春分の日」前後の一週間が『春のお彼岸』、9月にある「秋分の日」前後の一週間が『秋のお彼岸』です。 初日は彼岸の入り、最終日は彼岸の明けや結彼岸(けつひがん)と呼ばれています。
そもそも、一体なぜ一週間なのでしょうか?
お彼岸は、ご先祖様の供養をすると同時に、自分の徳を高めて悟りを開き、彼岸に至るための修行の一種『六波羅蜜(ろくはらみつ)』を行う期間だと位置づけられていました。 この『六波羅蜜』を行うのに、7日間必要なのです。
気になる『六波羅蜜』については、後編で解説します!
お彼岸の真ん中の日が、春分の日と秋分の日に定められていることにも理由があります。
春分の日と秋分の日は、ちょうど太陽が真東から昇り、真西に沈む日。 極楽浄土は西方浄土とも呼ばれ、『阿弥陀経』というお経の中に「極楽は西にある」と書かれています。 このことからも「西」は仏教にとって特別な方角とされていることがわかります。
真西に沈みゆく太陽を見ながら極楽へ思いをはせ、阿弥陀如来に救いを求めるためには、お彼岸が春分の日と秋分の日である必要があったのです。
また、太陽が真西に沈む春分の日と秋分の日は、この世とあの世が最も近づく日とも考えられていました。 そこからご先祖様の供養に最適の日としてお墓参りの風習が各地で生まれ、全国的に根付いた習慣となったのでしょう。
現在の日本では、お彼岸にご先祖様を供養し、お墓参りをするのが通例になっています。 しかし、あの世とこの世が一番近いこの時期に、『六波羅蜜』の修行を行い、『彼岸』に達しようとした歴史があったことも事実。 実はこの修行は、現代を生きる私たちにも大切な「心構え」に繋がります。
そこで、現在の習慣である、お仏壇やお墓参りに代表される『ご先祖様の供養』を紹介していきつつ、かつての習慣であった『六波羅蜜』と呼ばれる『修行』についても、少し掘り下げてお伝えしていきます。
お彼岸をむかえるにあたって、お仏壇や仏具のお手入れを済ませておきましょう。 ただ、お仏壇は一種の美術工芸品といっても差し支えなく、扱いには細心の注意が必要です。
①お仏壇のお手入れ
お仏壇の掃除をするときは、内部の仏具などをとり出しておきます。 元に戻せるように、写真を撮りながら作業するのがおすすめ。
毛ばたきを使い、上から下へホコリを落としていくようにしてください。 細かい部分は小型のはたきや筆、綿棒などが便利です。
ホコリを落としたあとは拭き掃除ですが、から拭きが無難です。 水気はお仏壇にとって大敵で、特に金仏壇や唐木仏壇を水拭きしてしまうと金箔や漆を損なってしまうおそれがあります。
また、取り外しが複雑な装飾の場合は、無理して外す必要はありません。 お仏壇はとても繊細なものですから、慎重に扱いましょう。
②仏具のお手入れ
仏具の掃除にもポイントがあります。 特に注意して扱いたいのがご位牌。ホコリを優しく落としてから、柔らかい布で金箔が剝がれないように軽く乾拭きしてください。
お線香立ての灰は、丸ごと交換してしまうと簡単です。 再利用したい場合、茶こしなどでふるいにかけるのがおすすめ。
おりんなどの金属製品も基本は乾拭きです。くすみが気になる場合は金属クリーナーを使ってみるのも一つの手です。お使いになる場合は付属の注意書きを読み、仏具屋さんに相談のうえで使用してみてください。
香炉・花立て・燭台などもホコリを落とし、柔らかい布での乾拭きしましょう。 掃除を終え、元の状態に戻したら、仏様へのご挨拶を忘れずに。
お彼岸といえば、お仏壇へのお参りやお供えも大切ですね。
お参り自体は普段と変わりない心構えでうかがって問題ありません。お彼岸の前に、お仏壇を綺麗にお手入れしておくとよいですね。 ただ、せっかくのお彼岸ですから、ご家族全員揃ってお参りされる等いつもより少し襟を正した向き合い方をされてみるのもおすすめです。
お供えものはご先祖様へ感謝の気持ちをお伝えするためのもの。普段より少し盛大に用意して、改めて気持ちを表す機会にしてみてはいかがでしょう。 また、お供えものは初日である彼岸の入りにお供えしておいて、最終日の彼岸の明けに下げることが望ましいとされています。
お供えするものとしては、『お水・お茶・食べ物・お花・お線香・ローソク』が定番。ここでは、特に一般的な食べ物とお花について、少し補足しておきましょう。
食べ物は、春なら『ぼたもち』秋なら『おはぎ』が定番の風習です。ほかには、お彼岸団子・故人の好物・精進料理なども気持ちを表しやすいですね。
精進料理では、仏教の戒律に基づいて「殺生(せっしょう)」を避けるため、動物の肉や魚を使いません。また、煩悩を刺激するような食べ物(ニンニク・ニラ・ラッキョウ・ネギ・タマネギなど)も避けます。
供花については特に決まりはなく、季節のお花や故人が好きだったお花で問題ありません。 ただ、毒性やトゲがあったり、ニオイのキツイお花は好ましいとはいえませんので、基本的に避けるべきといわれています。
お彼岸では、お墓参りをするというのが習慣になっています。 普段は離れて暮らしている家族や親戚が、一同に集まるにぎやかな機会ですね。
特段ルールというものはありませんが、気持ちよくお墓参りするための一般的な作法をご紹介します。
①お墓の掃除
草むしりや落ち葉などの掃き掃除は、お参りをしたら必ずやっておきたいですよね。 墓石のお掃除も行いますが、洗剤などは使わず、水・たわし・歯ブラシ(彫刻の部分に便利)・布巾などで綺麗にしてあげてください。
②お供え
墓石やまわりを綺麗に整えたあと、打ち水をしましょう。この打ち水は「故人に喉を潤してもらいたい」という気持ちの表れといわれています。
続いてお花・お水・お菓子などのお供え物を準備していきます。 『ぼたもち』や『おはぎ』季節の果物や彼岸団子など、何種類かの食べ物をお供えするのが一般的です。供花については、お仏壇同様に毒やトゲのあるものは避けましょう。
彼岸花の球根には、食べると死んでしまうことから「彼岸」と名前が付けられたといわれるほど、強い毒があります。 この特性を利用し、土葬だった時代には、遺体をモグラなどの害獣から故人を守るために彼岸花を植えたとされているそうです。
③手を合わせる
お線香をあげ、合掌します。宗派によって線香の本数は違いますので、身内で確認してみてくださいね。このお線香は自身の身を清め仏様と通じる手段とされていたり、仏様の食事ともいわれています。 お線香の火は、基本的には消えるまでゆったりと見守りたいところですが、火を消すときは、息ではなく手であおいで消すのがマナー。 此岸にいる私たちは俗世に浸かりきっていますので、仏様の食べ物に息を吹きかけるのはタブーとされるためです。
お念珠とは仏さまやご先祖に手を合わせる時に手にかけて使うもの。お念珠の輪は、この世に居られない仏様やご先祖様と通じる「ご先祖様との扉」といわれています。 輪の中に手を通し、感謝の気持ちや想い、お悔やみの言葉を伝えるというのにはお念珠は必要なものなのです。
また、厄除けやお守りとしての意味もあるので、ひとりひとり自分に合ったものを持つことが大切だといわれています。 まだ仏具を持っていない方、また長期間使用して仏具が傷んできてしまっている方は、この機会に手に入れてみてはいかがでしょうか。
④片付け
お寺や霊園でも注意喚起されていると思いますが、お墓参りが終わったら必ずお供え物を片付けるようにしましょう。 カラスやトンビに散らされてしまうことを防ぐためなので、お花はそのままにしておいて問題ありません。持ち帰ったお供えは、賞味期限などに問題なければご自宅でいただきましょう。
皆さんは、彼岸会に参加したことはありますか? 彼岸会とは、お彼岸の期間中にお寺で行う、ご先祖様の供養をするための合同法要のことです。参加する際はお布施を用意しておきましょう。この場合は5,000円~10,000円が無難といわれます。
お坊さんの読経のあと、仏法といわれるお話(仏話・法話・説話とも)を聞くことができます。 お墓参りも大切ですが、『西路を指授された方(さいろをしじゅされたかた)』といわれるお釈迦様の真理に接してみるのも、何か気付きを得られるかもしれません。
参加される際の服装は、喪服まで着る必要はありませんが、ダーク系のスーツやワンピースが好ましいです。
さて、本来のお彼岸は中日(春分の日または秋分の日)を除く6日間が『修行期間』と先ほどお伝えしましたが、『六波羅蜜』とは、お釈迦様があらゆる善を六つにまとめたもので、お彼岸の心がけとされます。
では『六波羅蜜』とは、どのような修行なのでしょうか? 修業の内訳を簡単にまとめてみました。
補足しますと、
お彼岸が7日間あるのは、この『六波羅蜜』を実践するためといわれています。 現代に生きる私たちが見ても、心に構えておいて損のない、他人への思いやりや気遣いにあふれた内容と感じるのではないでしょうか。 先祖や仏様に感謝を伝えるお彼岸の機会ですから、背筋を正し『六波羅蜜』を少しだけ意識した行動を心掛けてもよいかもしれませんね。
ご先祖様を供養したり法要を行いますが、お彼岸は弔事ではありませんので、特に祝いごとを自粛する必要はないです。
ただ結婚式など、身内から大勢の人々が参加することになる行事は、一般的なマナーとして身内に相談したり、状況に応じて臨機応変に対応することが必要かもしれませんね。
また、地域や家庭などによっては仏事と神事は一緒に行わない方がいい、という風習があったりもします。お墓参りや法要以外を避ける場合もありますので、神主が行う神事はお彼岸の時期とずらした方が無難かもしれません。
お供え物の定番『ぼたもち』と『おはぎ』。皆さんは違いを説明することができますか? 食べたことはあっても、改めて聞かれると難しいですよね。 お彼岸と縁が深い食べ物ですので、この機会に覚えていってくださいね。
実は『ぼたもち』と『おはぎ』は基本的に同じ食べ物。それぞれの違いは、なんと作る季節にあります!
『ぼたもち』は春のお彼岸でお供えします。春に咲く、牡丹の花が由来になっています。 『おはぎ』は秋のお彼岸でお供えします。秋に咲く、小さな萩の花が由来です。
また、地域などによってはそれ以外にも違いがあるそうです。 諸説をまとめてみましたので、ご家庭の『ぼたもち』と『おはぎ』はどうなっているのか確認してみるのも面白いですね。 地域によっては、きな粉をまぶしたものが「おはぎ」と呼ぶ場合もあるそうですよ。
それぞれ由来になった花にサイズを合わせているので、大きさが違うのですね。 また、こしあん・つぶあんを使い分けている理由は、あんこの収穫の収穫時期に由来するといわれます。
原料になる小豆の収穫期は、8月~9月上旬。秋のお彼岸のときは、収穫直後は小豆の皮が柔らかいため、つぶあんで支障ないのですが、春のお彼岸の時期になると小豆の皮は硬くなってしまうため、こしあんにして作られるのだとか。
ただ、最近は小豆の品種改良が進み、保存技術も発達したため、こしあん・つぶあんともに一年中食べることができるようになりました。
このことからも『ぼたもち』と『おはぎ』は、春と秋という時期による呼び方に変わりつつあるようですね。
お彼岸に『ほたもち』や『おはぎ』をお供えするのは、小豆の赤色が邪気を払うと信じられていたためです。 お祝い事や季節の行事で赤飯などの小豆料理をいただくのも、同様の理由になります。
また『ほたもち』や『おはぎ』に欠かせない砂糖は、昔は貴重だったため、こうしたものを使ってご先祖様に感謝の気持ちを表していたとされています。
太陽が真西に沈み、あの世とこの世の距離が近くなることから『六波羅蜜』の修行をする期間だった『お彼岸』。 現在では、ご先祖様の供養とお墓参りをする期間と認識されることが多くなりましたが、普段より少し特別な期間であることにかわりありません。
きたる秋のお彼岸は、お墓参りだけでなく、少し勇気をもってお坊さんの仏法を聞いてみたり、自分なりの『六波羅蜜』に挑戦されるのもよいかもしれませんね。
春と秋、年に2回ある『お彼岸』。
「お墓参りをするということは、仏教に関係する行事なんだろうな」と見当をつけているかたも多いと思います。
勿論そのとおりなのですが、実はお釈迦様が活躍していたインドや、仏教伝来の経由地になった中国には『お彼岸』という習慣が無いのです。
今回は、そんな不思議な由来のある『お彼岸』の意味や豆知識をわかりやすく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
お彼岸はどこからきたのか?その意味と語源
まず『お彼岸』の意味ですが、そもそも『彼岸』とは、仏様が住むといわれている『向こう岸』の世界のことです。
厳しい修行を行い、涅槃(ねはん)と呼ばれる仏の境地にたどり着いた者のみが渡ることを許される世界で、あの世の極楽や浄土のことをさしています。
それに対して、私たちが生活しているこの世は、仏教用語で此岸(しがん)・穢土(えど)と呼ばれ、迷いや煩悩に満ち溢れた穢れの世界です。
大きな川を隔てて『此岸』の対岸にあるのが『彼岸』で、涅槃の境地に達することは、そう簡単ではないといわれています。
そんな『彼岸』ですが、語源はインドのサンスクリット語『パーラミター(波羅蜜多)』を漢語に意訳した『到彼岸(とうひがん)』の略だといわれています。
『パーラミター』には『完成する』や『成就する』という意味があり『悟りの世界』を表現する言葉です。
川といえば、『三途の川』も仏教由来の言葉ではありますが、『此岸』と『彼岸』の間にあるのは三途の川ではないとされます。
これは諸説ありますが、『仏の世界である極楽浄土に至るには、大河の激流のような厳しい修行を乗り越えなければならない』という比喩で、容易ではないことを意味するものだとか。
最初は悪霊退散が目的だった!?日本でのお彼岸の変化
ではなぜ、インドや中国には無いお彼岸の習慣が、遠く離れた日本に根付いているのでしょうか。
こちらも諸説ありますが、お彼岸の時期に初めて仏教の法要を行ったのは平安京への遷都で有名な桓武天皇だといわれています。
桓武天皇は自分の弟を謀反の疑いで捕らえましたが、当の弟は無実を訴えて一切の飲食を断ちました。しかし抗議もむなしく、絶命してしまいます。
すると桓武天皇の身近な人々が次々と病に侵され、とうとう己の息子も病にふせることに。同時期に天然痘まで流行りだします。
これは弟の祟りだと恐れた桓武天皇は、悪霊退散のために法要(=故人を供養するために行われる仏教儀式)を行いました。この法要が最初の『彼岸会(ひがんえ)』とされています。
法要は、桓武天皇の死後もつづけられ、平安時代中期の紫式部も源氏物語の中で彼岸会について触れています。
現在のようにご先祖様を供養し、お墓参りをする形になったのは室町時代になってからのことで、習慣として定着したのは江戸時代の中期以降です。
詳しくは後述しますが、この世である『此岸』とあの世である『彼岸』が、もっとも通じやすくなるのがお彼岸の時期だといわれていることが関係しています。
お彼岸は年に2回、その日が選ばれた意味とは
『暑さ寒さも彼岸まで』とよく聞きますが、言葉通りお彼岸は季節の境目である「春分の日」と「秋分の日」の前後に行われます。
ここでは、「なぜこの期間に行われるのか」を由来とともに解説していきます。
春と秋それぞれ7日間、お彼岸は修業期間だった!?
お彼岸は年に2回、「春分の日」と「秋分の日」をそれぞれ真ん中の日として数え、前後の3日間を合わせた一週間となります。
<2024年(令和6年)のお彼岸の期間>
■春のお彼岸
■秋のお彼岸
<2025年(令和7年)のお彼岸の期間>
■春のお彼岸
■秋のお彼岸
3月にある、「春分の日」前後の一週間が『春のお彼岸』、9月にある「秋分の日」前後の一週間が『秋のお彼岸』です。
初日は彼岸の入り、最終日は彼岸の明けや結彼岸(けつひがん)と呼ばれています。
そもそも、一体なぜ一週間なのでしょうか?
お彼岸は、ご先祖様の供養をすると同時に、自分の徳を高めて悟りを開き、彼岸に至るための修行の一種『六波羅蜜(ろくはらみつ)』を行う期間だと位置づけられていました。
この『六波羅蜜』を行うのに、7日間必要なのです。
気になる『六波羅蜜』については、後編で解説します!
春分の日と秋分の日にお彼岸がある理由
お彼岸の真ん中の日が、春分の日と秋分の日に定められていることにも理由があります。
春分の日と秋分の日は、ちょうど太陽が真東から昇り、真西に沈む日。
極楽浄土は西方浄土とも呼ばれ、『阿弥陀経』というお経の中に「極楽は西にある」と書かれています。
このことからも「西」は仏教にとって特別な方角とされていることがわかります。
真西に沈みゆく太陽を見ながら極楽へ思いをはせ、阿弥陀如来に救いを求めるためには、お彼岸が春分の日と秋分の日である必要があったのです。
また、太陽が真西に沈む春分の日と秋分の日は、この世とあの世が最も近づく日とも考えられていました。
そこからご先祖様の供養に最適の日としてお墓参りの風習が各地で生まれ、全国的に根付いた習慣となったのでしょう。
お彼岸の時期、何をして過ごすのがいいの?
現在の日本では、お彼岸にご先祖様を供養し、お墓参りをするのが通例になっています。
しかし、あの世とこの世が一番近いこの時期に、『六波羅蜜』の修行を行い、『彼岸』に達しようとした歴史があったことも事実。
実はこの修行は、現代を生きる私たちにも大切な「心構え」に繋がります。
そこで、現在の習慣である、お仏壇やお墓参りに代表される『ご先祖様の供養』を紹介していきつつ、かつての習慣であった『六波羅蜜』と呼ばれる『修行』についても、少し掘り下げてお伝えしていきます。
【供養】お仏壇や仏具のお手入れ
お彼岸をむかえるにあたって、お仏壇や仏具のお手入れを済ませておきましょう。
ただ、お仏壇は一種の美術工芸品といっても差し支えなく、扱いには細心の注意が必要です。
①お仏壇のお手入れ
お仏壇の掃除をするときは、内部の仏具などをとり出しておきます。
元に戻せるように、写真を撮りながら作業するのがおすすめ。
毛ばたきを使い、上から下へホコリを落としていくようにしてください。
細かい部分は小型のはたきや筆、綿棒などが便利です。
ホコリを落としたあとは拭き掃除ですが、から拭きが無難です。
水気はお仏壇にとって大敵で、特に金仏壇や唐木仏壇を水拭きしてしまうと金箔や漆を損なってしまうおそれがあります。
また、取り外しが複雑な装飾の場合は、無理して外す必要はありません。
お仏壇はとても繊細なものですから、慎重に扱いましょう。
②仏具のお手入れ
仏具の掃除にもポイントがあります。
特に注意して扱いたいのがご位牌。ホコリを優しく落としてから、柔らかい布で金箔が剝がれないように軽く乾拭きしてください。
お線香立ての灰は、丸ごと交換してしまうと簡単です。
再利用したい場合、茶こしなどでふるいにかけるのがおすすめ。
おりんなどの金属製品も基本は乾拭きです。くすみが気になる場合は金属クリーナーを使ってみるのも一つの手です。お使いになる場合は付属の注意書きを読み、仏具屋さんに相談のうえで使用してみてください。
香炉・花立て・燭台などもホコリを落とし、柔らかい布での乾拭きしましょう。
掃除を終え、元の状態に戻したら、仏様へのご挨拶を忘れずに。
【供養】お仏壇へお参りやお供え
お彼岸といえば、お仏壇へのお参りやお供えも大切ですね。
お参り自体は普段と変わりない心構えでうかがって問題ありません。お彼岸の前に、お仏壇を綺麗にお手入れしておくとよいですね。
ただ、せっかくのお彼岸ですから、ご家族全員揃ってお参りされる等いつもより少し襟を正した向き合い方をされてみるのもおすすめです。
お供えものはご先祖様へ感謝の気持ちをお伝えするためのもの。普段より少し盛大に用意して、改めて気持ちを表す機会にしてみてはいかがでしょう。
また、お供えものは初日である彼岸の入りにお供えしておいて、最終日の彼岸の明けに下げることが望ましいとされています。
お供えするものとしては、『お水・お茶・食べ物・お花・お線香・ローソク』が定番。ここでは、特に一般的な食べ物とお花について、少し補足しておきましょう。
食べ物は、春なら『ぼたもち』秋なら『おはぎ』が定番の風習です。ほかには、お彼岸団子・故人の好物・精進料理なども気持ちを表しやすいですね。
精進料理では、仏教の戒律に基づいて「殺生(せっしょう)」を避けるため、動物の肉や魚を使いません。また、煩悩を刺激するような食べ物(ニンニク・ニラ・ラッキョウ・ネギ・タマネギなど)も避けます。
供花については特に決まりはなく、季節のお花や故人が好きだったお花で問題ありません。
ただ、毒性やトゲがあったり、ニオイのキツイお花は好ましいとはいえませんので、基本的に避けるべきといわれています。
【供養】お墓参り
お彼岸では、お墓参りをするというのが習慣になっています。
普段は離れて暮らしている家族や親戚が、一同に集まるにぎやかな機会ですね。
特段ルールというものはありませんが、気持ちよくお墓参りするための一般的な作法をご紹介します。
①お墓の掃除
草むしりや落ち葉などの掃き掃除は、お参りをしたら必ずやっておきたいですよね。
墓石のお掃除も行いますが、洗剤などは使わず、水・たわし・歯ブラシ(彫刻の部分に便利)・布巾などで綺麗にしてあげてください。
②お供え
墓石やまわりを綺麗に整えたあと、打ち水をしましょう。この打ち水は「故人に喉を潤してもらいたい」という気持ちの表れといわれています。
続いてお花・お水・お菓子などのお供え物を準備していきます。
『ぼたもち』や『おはぎ』季節の果物や彼岸団子など、何種類かの食べ物をお供えするのが一般的です。供花については、お仏壇同様に毒やトゲのあるものは避けましょう。
なぜお墓の近くに彼岸花が咲いているの?
彼岸花の球根には、食べると死んでしまうことから「彼岸」と名前が付けられたといわれるほど、強い毒があります。
この特性を利用し、土葬だった時代には、遺体をモグラなどの害獣から故人を守るために彼岸花を植えたとされているそうです。
③手を合わせる
お線香をあげ、合掌します。宗派によって線香の本数は違いますので、身内で確認してみてくださいね。このお線香は自身の身を清め仏様と通じる手段とされていたり、仏様の食事ともいわれています。
お線香の火は、基本的には消えるまでゆったりと見守りたいところですが、火を消すときは、息ではなく手であおいで消すのがマナー。
此岸にいる私たちは俗世に浸かりきっていますので、仏様の食べ物に息を吹きかけるのはタブーとされるためです。
お念珠ってしってる?
お念珠とは仏さまやご先祖に手を合わせる時に手にかけて使うもの。お念珠の輪は、この世に居られない仏様やご先祖様と通じる「ご先祖様との扉」といわれています。
輪の中に手を通し、感謝の気持ちや想い、お悔やみの言葉を伝えるというのにはお念珠は必要なものなのです。
また、厄除けやお守りとしての意味もあるので、ひとりひとり自分に合ったものを持つことが大切だといわれています。
まだ仏具を持っていない方、また長期間使用して仏具が傷んできてしまっている方は、この機会に手に入れてみてはいかがでしょうか。
④片付け
お寺や霊園でも注意喚起されていると思いますが、お墓参りが終わったら必ずお供え物を片付けるようにしましょう。
カラスやトンビに散らされてしまうことを防ぐためなので、お花はそのままにしておいて問題ありません。持ち帰ったお供えは、賞味期限などに問題なければご自宅でいただきましょう。
【供養】彼岸会(お彼岸法要)へ参加する
皆さんは、彼岸会に参加したことはありますか?
彼岸会とは、お彼岸の期間中にお寺で行う、ご先祖様の供養をするための合同法要のことです。参加する際はお布施を用意しておきましょう。この場合は5,000円~10,000円が無難といわれます。
お坊さんの読経のあと、仏法といわれるお話(仏話・法話・説話とも)を聞くことができます。
お墓参りも大切ですが、『西路を指授された方(さいろをしじゅされたかた)』といわれるお釈迦様の真理に接してみるのも、何か気付きを得られるかもしれません。
参加される際の服装は、喪服まで着る必要はありませんが、ダーク系のスーツやワンピースが好ましいです。
【修行】六波羅蜜の実践
さて、本来のお彼岸は中日(春分の日または秋分の日)を除く6日間が『修行期間』と先ほどお伝えしましたが、『六波羅蜜』とは、お釈迦様があらゆる善を六つにまとめたもので、お彼岸の心がけとされます。
では『六波羅蜜』とは、どのような修行なのでしょうか?
修業の内訳を簡単にまとめてみました。
(彼岸の入り)
(彼岸の明け)
補足しますと、
お彼岸が7日間あるのは、この『六波羅蜜』を実践するためといわれています。
現代に生きる私たちが見ても、心に構えておいて損のない、他人への思いやりや気遣いにあふれた内容と感じるのではないでしょうか。
先祖や仏様に感謝を伝えるお彼岸の機会ですから、背筋を正し『六波羅蜜』を少しだけ意識した行動を心掛けてもよいかもしれませんね。
お彼岸期間中にやってはいけないことは?
ご先祖様を供養したり法要を行いますが、お彼岸は弔事ではありませんので、特に祝いごとを自粛する必要はないです。
ただ結婚式など、身内から大勢の人々が参加することになる行事は、一般的なマナーとして身内に相談したり、状況に応じて臨機応変に対応することが必要かもしれませんね。
また、地域や家庭などによっては仏事と神事は一緒に行わない方がいい、という風習があったりもします。お墓参りや法要以外を避ける場合もありますので、神主が行う神事はお彼岸の時期とずらした方が無難かもしれません。
お彼岸の定番『ぼたもち』と『おはぎ』
お供え物の定番『ぼたもち』と『おはぎ』。皆さんは違いを説明することができますか?
食べたことはあっても、改めて聞かれると難しいですよね。
お彼岸と縁が深い食べ物ですので、この機会に覚えていってくださいね。
『ぼたもち』と『おはぎ』の違い
実は『ぼたもち』と『おはぎ』は基本的に同じ食べ物。それぞれの違いは、なんと作る季節にあります!
『ぼたもち』は春のお彼岸でお供えします。春に咲く、牡丹の花が由来になっています。
『おはぎ』は秋のお彼岸でお供えします。秋に咲く、小さな萩の花が由来です。
また、地域などによってはそれ以外にも違いがあるそうです。
諸説をまとめてみましたので、ご家庭の『ぼたもち』と『おはぎ』はどうなっているのか確認してみるのも面白いですね。
地域によっては、きな粉をまぶしたものが「おはぎ」と呼ぶ場合もあるそうですよ。
それぞれ由来になった花にサイズを合わせているので、大きさが違うのですね。
また、こしあん・つぶあんを使い分けている理由は、あんこの収穫の収穫時期に由来するといわれます。
原料になる小豆の収穫期は、8月~9月上旬。秋のお彼岸のときは、収穫直後は小豆の皮が柔らかいため、つぶあんで支障ないのですが、春のお彼岸の時期になると小豆の皮は硬くなってしまうため、こしあんにして作られるのだとか。
ただ、最近は小豆の品種改良が進み、保存技術も発達したため、こしあん・つぶあんともに一年中食べることができるようになりました。
このことからも『ぼたもち』と『おはぎ』は、春と秋という時期による呼び方に変わりつつあるようですね。
お供えする理由
お彼岸に『ほたもち』や『おはぎ』をお供えするのは、小豆の赤色が邪気を払うと信じられていたためです。
お祝い事や季節の行事で赤飯などの小豆料理をいただくのも、同様の理由になります。
また『ほたもち』や『おはぎ』に欠かせない砂糖は、昔は貴重だったため、こうしたものを使ってご先祖様に感謝の気持ちを表していたとされています。
お彼岸はこうして今のようになった
太陽が真西に沈み、あの世とこの世の距離が近くなることから『六波羅蜜』の修行をする期間だった『お彼岸』。
現在では、ご先祖様の供養とお墓参りをする期間と認識されることが多くなりましたが、普段より少し特別な期間であることにかわりありません。
きたる秋のお彼岸は、お墓参りだけでなく、少し勇気をもってお坊さんの仏法を聞いてみたり、自分なりの『六波羅蜜』に挑戦されるのもよいかもしれませんね。