ギリシャ版青の洞窟で、一人泳いだ特別な時間

その昔、旅人から聞いた言葉「ギリシャにはイタリアの青の洞窟より、ずっと素晴らしい青の洞窟があるよ」。果たしてその言葉は真実か。長い旅路を経て、いよいよ青の洞窟へ向かいます。

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メイス島へはトルコのカシュから

いよいよ、幻の青の洞窟があるというギリシャ・メイス島へ。メイス島はとても小さく2~3時間の滞在で充分との情報が多かったため、トルコから日帰りで訪れることにしました。
週に3日しか出航しないフェリーもそれを考慮してか、午前出航・夕方帰港の時間設定がしてありました。

(もし無限に時間があるのなら…私はメイス島から順番に島を北上していき、ギリシャ本土へ向かったと思います。でもこの計画は、小島をいくつか経由しなければいけない+フェリーは毎日運航している訳ではないというW難関。しかも海の荒れ具合によってフェリーは何日も欠航するため、すごく時間に余裕がないと厳しい行程です。今回は断念)

トルコ・アンタルヤ地方のカシュからギリシャのメイス島までは、フェリーで20分ちょっと。カシュは人も少なくこじんまりした街なので、数十人しか乗れない小型ボートを想像していましたが、流石は国境を超える船です。港には数百人は乗れそうな立派なフェリーが浮かんでいました。

乗船する人は、私も含めて外国人ばかりで、ほとんどがヨーロッパ系の顔立ちです。
安宿のオーナーが話してくれた「トルコ人は、簡単にはギリシャ行けない」という言葉を思い出し、複雑な気持ちになりました。(詳しくは前回のコラムへ)

ギリシャ 青の洞窟 01

キュートでカラフル「洗練された島」

大きなフェリーに揺られて15分。
穏やかなエーゲ海の向こう側に、カラフルな建物が見えてきました。

「何これ!」
「こんなカラフルな街、見たことない」

ピンク、オレンジ、ブルー、どの建物も普通の一軒家なのに、パステルカラーに彩られていて、見ているだけでテンションが上がってきます。

「ギリシャってこんな可愛いんだ」

そして、上陸して気付きました。空気も砂も道路もすべてがトルコとは違っていることに。これぞ、ザ・ヨーロッパ。トルコはヨーロッパ風だったのだと。

トルコきってのリゾート地カシュも、紺碧の海に白亜の建物が並んでいてヨーロッパの雰囲気たっぷりでしたが、やはりあちらはトルコなのです。
街並みはヨーロッパぽくとも、住まう人々はトルコ人。人の世話が好きで、お節介なくらい親切で、活気があって…良い意味でグイグイ押されるような国それがトルコ。

そこから船でたった20分。メイス島は、自然も人も海も一歩引いた感じがありました。空気までもが透明感にあふれ、まさに「洗礼されたヨーロッパ」という印象。

ギリシャ 青の洞窟 02
街だけでなく船までカラフルなメイス島。おとぎの世界に行く気分でした

小型ボートを使って洞窟へ

大型フェリーからは30~50人が降りたでしょうか。誰ともなしに海に沿って造られた大きな一本道を歩んでいきます。

幻の青の洞窟を見るためには、小型船をチャーターしなくては行けないのですが、場所が分かりません。果たしてどこに小型船があるのか。どうしたらチャーターできるのか。出航の時刻とか決まっているのかな…。

ですが、そんな心配は杞憂でした。
海沿いにある一本道は、小型船の船着き場に続いていたのです。そして、小柄なアジア人風の女性が客引きをしていました。

「青い洞窟行く?青い洞窟ならこの船だよ」

見れば、8~10人も乗れば満席になってしまう小型船が、5~8艘プカプカと海に浮いています。運転手はどの船も現地のおじさん。おじさんたちはどうやら英語は話せない様子で、アジア人風の女性は船全体の客引きとして働いているようでした。

値段は一人5ユーロで、好きな船に乗っていいよ と。思っていたよりずっと安い値段で安心したのを覚えています。出航時刻などはなく、船が満員になれば順次出航していくシステムでした。

フェリーに乗っていた旅行客のお目当てはもちろん「青の洞窟」。
見渡せばフェリーで見た乗客のほとんどが、小型船にも乗船していました。

ギリシャ 青の洞窟 03
海沿いの一本道から望む海。何層にも重なった海のグラデーションまではっきり見えました

発光してる?どこまでも青く透明な水

船は定員で満たされると静かに動き出しました。ハンチング帽子をかぶった〝ヨーロッパのおじさん〟が小型エンジンを器用に操作しています。
穏やかなエーゲ海ですが、スピードをあげた小型船は、そこそこ揺れます。でも、小さくジャンプするような楽しい揺れに乗客は笑顔です。

10分程、走ったでしょうか。しばらくすると、何もない海の先に岩肌が見えてきました。中央には小さな入口がありますが、「入って大丈夫?」「船ぶつからないの?」と不安になるほどとても狭いものでした。

「全員、頭を下げなさい!!」

船乗りのおじさんが乗客に向かって、現地の言葉とジェスチャーで伝えます。
おじさんは器用に船を操作して、頭を下げなければならないほど狭い入り口を進んでいきます。

するとそこは 、息を飲むほどの青の世界。
海は青くどこまでも透明で、内部にブルーライトがあって発光しているんじゃないかと疑うほど、水そのものが光り輝いていました。そして、洞窟の壁までもが反射した海の光を受け、ほんのり青く染まっています。何もかもがブルー。

世界中を旅して、美しいものはあらかた見たつもりでいた自分が恥ずかしくなるほどの美しさ。言葉が溶けていく美しさ。もし私の目が明日潰れてしまうのなら、最後はこの青を見たい。そう思わせてくれる色でした。

ギリシャ 青の洞窟 04
まるで発光しているかのように輝く青。青の洞窟は美しすぎて怖い程でした

船を一艘チャーターし、再び青の洞窟を目指す

青の洞窟には15分程いたでしょうか。
船が何隻も入ってきては、あちこちで歓声をあげます。写真を撮ったり、海に触ってみたり、そして乗客が満足した様子を見せると、船は港に戻っていきます。私が乗った船もそのように帰港しました。

港に戻って数分。私は、あの「青」が忘れられないでいました。

人生で見たことのない景色。青の洞窟を見るための長かった旅路。中東から始まってトルコを経て、ここでやっと「幻の青の洞窟」に出会えた。それなのに、あの数分の体験で終わりでいいの?私、本当に満足している?
そう思うと、いてもたってもいられませんでした。

多分、青の洞窟の美しさに憑りつかれてしまったんだと思います。
気付くと、私は再び小型船に乗って青の洞窟を目指していました。今度は船一艘をまるごと貸し切って。

青の洞窟を目指す小型船は、フェリーの着岸とともに一時的に観光客を乗せているだけのようで、観光客の波が去ったあとはユラユラ空っぽの船が揺れているだけでした。

青の洞窟が忘れられずフラフラと彷徨っていると、小型船の客引きをしていたアジア人風の女性に再び出会ったのです。交渉。交渉。交渉。女性は空っぽの小型船を見た後「ちょっと待ってて」と私に言い残し去っていきました。

数分後。どこかから船乗りのおじさんを連れてくると、「40ユーロでOKだって!」と、私と船乗りのおじさんを繋いでくれたのです。

今度は洞窟を貸し切り!贅沢な時間

先ほどとは打って変わり、今度は船乗りのおじさんと私の二人きりで、再び青の洞窟を目指します。

船乗りのおじさんは年の頃60代前後で、優しい雰囲気でしたが、やっぱり英語は話せない様子。客引きの女性に出会わなければ絶対に叶わなかった夢だなと、改めて自分が得たチャンスに感謝しました。

狭い、狭い、出入口を通って再び青の洞窟内部へ。そこは、やっぱり息を飲む美しさでした。2度目の景色にも関わらず、余りにキレイでやっぱり言葉を失いました。

そして今度は完全に貸し切り。誰もいない空間で、静かに静かに青の魅力に溺れます。
人の気配が全くない青の洞窟はより神秘的で、この世のものとは思えない美しさ。ただの海水なのに、触ったら魔法がかかってしまう気さえします。

とても美しい青。泳いでみたい。でもキレイすぎて怖い。あまりに完璧な青だから、泳ぐのは恐れ多い気がする。

「泳いだら?」

迷っている私の心を読んだ?と思うタイミングで、船乗りのおじさんがジャスチャーで私に語りかけてきました。

畏怖の念を抱えつつも、うながされるままそっと青の中へ。水は程よく冷たくて心地よい限りでした。そして、人間一人が触れたり泳いだりしたところで、青の洞窟の完璧な美しさは壊れないことに気付いて安心しました。それどころか、私自身が青いの洞窟の一部になった感じさえします。青い水の中から見上げる青の洞窟は……またとない美しさを誇っていました。

ギリシャ 青の洞窟 05

誰もいない空間。自然が創りだした神秘の洞窟に一人浮かぶ…。

思う存分に泳いで、この先に何があっても絶対にこの景色だけは忘れないようにと、何度も何度も目に焼き付けて。悔いのないように青の洞窟を堪能します。
船乗りのおじさんは、その間ずっと黙って静かに私を見守っていてくれました。

君は泳げるから韓国人じゃないよね?

貸し切りで青の洞窟を堪能する稀有な経験をした後は、のんびりと港へ向かいます。その間、おじさんは片言の英語で一生懸命何かを話してきてくれました。

時間をかけて理解できたのは「君は韓国人じゃないよね?泳げるから」でした。
後で分かったことですが、なぜだかこの島の人々は「韓国人=泳げない。日本人=泳げる」と思っているそうで、おじさんは「君は泳げるから韓国人じゃないよね?」と話しかけてくれていたようでした。

ギリシャでは、そう思われていることなのでしょうか?でも私の知人の韓国人はみんな泳げるので、事実ではないかと。

その昔、イギリスでルームシェアをしていた時には、ウクライナ人から「日本ってエビ食べるんでしょ」「エビって!信じられない!怖い~」と言われたこともあります。フィリピン・セブ島では、「お金に細かいのが韓国人。店員が言った通りにお金を払っちゃうのが日本人」と言われたことも。

場所により印象は変わるようですが、ギリシャでは泳げる泳げないが判断材料だったようで、「(おじさんの)期待を裏切らなくて良かった」と、思った次第です。

ギリシャ版青の洞窟に辿り着くまで▼

R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

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