上海浦東国際空港の地下に“本場の食堂”があった|観光客が知らない中国グルメ体験

上海の浦東国際空港で、地下へと続く一本の階段を見つけました。「何だろう?」不思議に思って降りていきます。
その先には、空港とは思えないリアルな中国人たちの食事の風景が広がっていました。

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キレイすぎる浦東国際空港

中国・上海の浦東国際空港に到着したのは早朝5時のこと。乗り継ぎ便の出発まで6時間もの待ち時間がありました。
空港の外へ出て観光を楽しむのも良いけれど、外はあいにくの雨。「今日は、空港内でゆっくりしよう」そう決めました。

浦東国際空港は、とてもキレイな場所です。
開発が進んでいて、レストラン、コンビニ、マッサージ、仮眠用カプセルベッド(近未来的なカプセル内で眠ります)、ティーBAR、ホテルと、何でもそろっていました。

「とりあえず朝食を食べよう」そう心に決め空港内を歩き回ります。

「本場の味」「肉汁たっぷり」「お得なセット」「生ビール」魅力的な言葉と写真が並びます。でも、いまいちピンと来ません。

味気ない空港の料理

一週間前の記憶が甦ります。
その日、私は遅い夕食を食べるため空港内をウロウロ。
吟味した結果、一番中国らしい麺料理の写真を掲げていたお店に入ることにしました。
黒を基調としたシックな店内には、若い旅行客が数人いて安全面も問題なさそうです。

写真付きのメニューを指さして、支払いはクレジットカード。言葉のいらない注文システムに助けられスムーズに物事が進みます。
料理を待っている間、何気なく店の奥を見ると、若い女性がソファをベッド代わりにして眠っていました。靴まで脱いで横たわる姿は見ている私の方が恥ずかしくなりました。

また、他店のお弁当を持ち込んでいる女性も2組。大きな鶏のから揚げを器用に食べながら、足元に置いたビニール袋に骨をぽんぽんと落としています。お店の料理も飲み物も何一つ注文せず、でもすごく楽しそうに食事する姿も衝撃でした。

日本ではあまり見ない光景に「これが中国か」なんて思っていたら、料理が届きました。思ったより小ぶりの器には、細い中華麺、肉みそ、きゅうり、パクチーが盛り付けられています。
日本で食べる中国料理より薬味の味が濃い気がしました。でも「これが本場の中国料理?」

その瞬間、私は物悲しさを感じてしまいました。キレイな空間で安心して食事をしているのに、なんだろうこの「これじゃない感」は…。

キレイで明るい空港のレストラン キレイで明るい空港のレストラン

別世界へと続く階段

「味も雰囲気もキレイにまとまっていて、印象に残らない」そういう料理ではない、中国の人たちが普段から食べているような料理が食べたいと思いました。〝観光客向け〟の小ぎれいなお店は正直、もうたくさんでした。
空港内では難しいのかもと諦めかけた時、地下に続く階段を見つけました。

それは何の変哲もないシンプルな階段。時間が有り余っていなければ、降りようとは思わない造りでした。なんとなく階段を降りて驚きました。そこには、リアルな中国の食堂が広がっていたのです。

まず色。降り立った先には、あらゆる色が広がっていました。天井には巨大な葉を模ったグリーンのライト。少し先の床は4色で彩られており、クリームイエローの壁にセルリアンブルーの椅子が置かれたスペースもありました。

さらに、右も左も、小さな料理店ばかり。店先には派手な看板が並び、店名や一押しメニューが赤や黄色で飾られています。それはまるで中国映画で見る「THE中国」の世界でした。

匂いも地上とは明らかに違っていました。これまで嗅いだことのない独特の香り、スパイスとお肉をミックスさせたような食欲をそそる香りが充満しています。心から「美味しそう!」そう思える香りでした。

別世界へと続く階段 赤い店、黄色い店と中国らしい派手な色が並びます

まさに中国!本場の食堂がズラリ

迷い込んだ世界に魅了されるように、ゆっくりと歩きます。
聞こえてくるのは中国語だけ。空港だというのに、外国人の姿はどこにもありませんでした。

当然スーツケースを置く場所もなければ、英語のメニューもありません。地上では激しかった呼び込みも、ここではありません。
どのお店の店員さんも皆、忙しそうで観光客にかまっているヒマなど、ないように見えました。

グルリと食堂を2周しました。
片手で食べられる海苔巻きのようなもの、日本でも流行している麻辣湯、家庭料理の小鉢を量り売りで…と、さまざまなスタイルの料理があり、見ているだけで幸せな気分になりました。
中には、基本なんでも食べられる私でさえ「コレ私、食べられるかな?」と思わせる料理も並んでいます。どのお店も、地上より3~4割は安い値段でした。

私も、みんなと同じように食べたい。

でもお店を選ばないと、注文さえできないだろうという確信がありました。慎重に、慎重に、もう一度食堂を歩きます。
外国人の私の注文を聞ける余裕があって、優しそうな店員さんがいて、でも食べたい料理もあって…となるとお店は限られていました。

まさに中国!本場の食堂がズラリ よく見ると天井はプラネタリウム風に輝いてます

言葉は通じないが温かい店員たち

迷って迷って、運命のお店を決めました。50代に見えるおじさんが一人で切り盛りをしているお店です。

思った通り英語は通じませんでした。まず一番の問題である「支払い方法」を尋ねます。私はVISAのクレジットカードと、中国元しか持っていなかったので、ジェスチャーで尋ねました。
最近は中国ペイ以外お断りのお店も多いと聞きますが、幸いなことにカードが使用できるようでした。注文に進みます。

チャーハン一つ頼むだけなのに、とても時間がかかりました。メニュー表がお店の看板にしかなかった為おじさんはカウンターから出てきて「コレ?」「コッチ?」と指さし確認をしてくれます。
さらに支払いも機械エラーでうまく進みません。おじさんは隣のお店から女性店員を引っ張ってきて相談をし始めます。

おじさんの表情が心底困っているので「チャーハンは食べられないかも。諦めた方が良いのかも」と悲しい気持ちになります。
女性は慣れているのか諦めているのか、機械をぶっきらぼうに叩きます。そうこうしているうちに、機械エラーは直りました。

隣りのお店は行列ができるほどの人気店でした。自分のお店を放置してまで私を助けてくれた女性に対し、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになります。それなのに、彼女はお礼を言う間もなく、颯爽と自分のお店に去っていってしまいました。

世界で一番おいしいチャーハン

やがてチャーハンが完成しました。注文を取ってくれたあのおじさんが作ってくれたチャーハンは、これまで食べたチャーハンの中でダントツに美味しいものでした。

具はトウモロコシ、ネギ、少しの青菜に卵。サッと炒めただけのシンプルな調理なのに、香ばしくお米はパラパラ、トウモロコシは生と間違えるほど新鮮でシャキシャキしていました。
余りにも美味しくて、おもわずおじさんの方を振り返ります。注文が入ったのでしょうか。彼は一生懸命に厨房で料理を作っていました。

値段は、このチャーハンに大きなスープがついて450円。地上より半値近く安く済みました。安くて量もたっぷり。「中国の人って、こんな美味しいものを食べているんだ」そう思わせてくれる味でした。

お店のおじさんは忙しい中でも、常に私に気を配ってくれました。
「サービスだから使いなさい」と唐辛子やジャンの小鉢を用意してくれたり、食後に食器を片付けようとする私を「それは店の仕事だから」とジェスチャーで止めてくれたりもしました。

世界で一番おいしいチャーハン これで500円以下!
「こんなに美味しくてこの値段でいいの?」と感動

中国のリアルな食を感じられる場所

私の隣に制服を着た女性が座ります。
どうやら常連のようで、おじさんと目が合うと一言二言。それだけで注文が通り、すぐに料理が運ばれてきました。

周りを見渡すと、一人で食事をしている人ばかりいました。
みんな仕事の合間に立ち寄っているのでしょう。国際空港だというのに、そこに旅の華やかさはありません。どの人も長居せず、サッと食べてサッと帰っていきます。「束の間の休憩」「庶民の食堂」そんな言葉がしっくりくる場所でした。

食事を終え、心からの「ありがとう」をおじさんに伝えて席を立ちます。

帰りにもう一度、食堂を歩きました。朝は準備中だったお店も、ほとんどが開店していました。
その中に、小鉢を自分で選んで定食を作るスタイルのお店がありました。皿ごとに値段が決まっていて、自由に組み合わせていく仕組みです。人気店のようで人がたくさん並んでいます。

人の波が引いた瞬間を見計らって近づきました。一番惹かれたのが、白身魚の南蛮漬けにそっくりな料理。思わず手を伸ばしそうになるほど、魚がおいしそうで「持ち帰りできないか」と真剣に悩むほどでした。
じっと眺めていると料理を作っているであろうお母さんたちが手招きしてくれます。「もうお腹いっぱいなの」とジェスチャーで返すとニコっと笑ってくれました。

記憶に残らないことが多い空港内で、こんな温かい日常を体験したのは初めてでした。
「次も必ずここで食事したい」そう思わせてくれる場所を見つけた私は、人のやさしさと料理のおしいさで、静かに満たされていました。

中国のリアルな食を感じられる場所
R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel


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