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カザフスタンの街。偶然知り合ったロシア人女性が私に言いました「聖人と話せる力を持った占い師さんに会いに行く?」思いもよらない誘いに、二つ返事で頷きました。
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カザフスタンの各地に建つ美しいロシア正教会。観光スポットでありながら、祈りの場としても機能している教会はとても壮麗です。
ある教会でお祈りしていた時のことです。私があまりに熱心に祈っているからでしょうか、知り合ったばかりのロシア人女性が「聖人と話ができる占い師がいるんだけど、興味ある?」と聞いてきました。
「もう、そういうの大好きです!」私は迷うことなく、そのまま占い師の家へ案内してもらうことにしました。
ロシア人女性の説明によれば、その占い師は地元の人に支持される大人気の占い師。「毎回行列ができるからオープンと同時に並ばなきゃ。急ごう」と、郊外へと向かうバス乗り場へ私を急かしました。
道すがら占い師の説明を受けます。
「蝋燭を灯して、聖人と話をする人だよ。聖人からアドバイスをもらって、その人の未来を導いたり、お祓いをしたりしてくれるの」
「神様と話ができる人ってこと?」
「直接じゃない。聖人を通して、ね。だから彼女には色々見えたり、分かったりする」
「じゃあ、占い師というより霊媒師?」
「どうかな。その辺の言葉はよく分からないけど」
郊外へと向かうバスは運転が荒く、椅子に座っているのに転げ落ちそうになります。耳をつんざくようなクラクション、あわや衝突という場面もありました。でも、そんな事が気にならないくらい、私の胸は期待で膨らんでいました。
荒々しく走るバスに40分ほど揺られ、私たちはバスを降りました。ふと、ロシア人女性が私に言いました。
「あなたはラッキーだよ」
「どうして?」
「今から会いに行く占い師は、昨日までスペインにいて、今日から占いを再開するの。みんな再開を待っていたから、今日はとても沢山の人が来るはず。このまま行けば開始時間前に到着できるから、あなたは凄くラッキーだと思う」
「着いたよ」
そこにはグレーの門を構えた普通の家が建っていました。何の特徴もない普通の民家。どこを探しても、占いを示す看板や、それらしいアイテムは飾られていません。知っている人だけが足を止める秘密の場所のような雰囲気でした。
「ちょっと来るのが遅かったかも。もう人がいる」
門の前に停まっている数台の車を見てロシア人女性が慌てました。私もビックリして返答します。
「待って。この車もこの人たちも皆、占い師に会いに来ているの?」
そこには4~6台の車が止まっていました。
重たいグレーの門を開けます。
門をくぐると、中庭には老若男女問わず15人ほどの人が立っていました。立派な髭を生やした無口そうに見えるおじいさん、デート前とおぼしき20代の青年、4歳くらいの男児を連れた母子。占いとは縁遠そうな顔ぶればかりが並んでいます。
日本のように一列に並ぶ文化がない国。どこが先頭でどこが最後尾なのか分からず戸惑っていると、中庭の真ん中にいた黒髪の女性が声をかけてきました。「あなた達は私の後ろだよ」と。
カザフスタンでは、日本のようにきれいな列を作る光景はあまり見かけません。それなのに、仕切る人も係の人もいない中庭では、きちんと順番が守られていました。「この人の次はこの人」と全員が認識していて、扉から人が出てくるたびに新しい人が自発的に入っていきます。静かに順番は守られていました。
ロシア人女性がいいます。
「2時間くらいかな。ここは一人何分という決まりがないの。ある人は数分で終わるし、ある人は20分かかる。だから正確な時間が読めない」
一人何分という決められた時間がないことに、私は好感を持ちました。さらに、料金も決まっていないと言うのです。自分が払える額でいいと。
決められた枠も、決められた金額もない。それだけで、どこか“本物”の匂いがしました。やがて「あなたは私の後ろよ」と教えてくれた女性が扉の奥へ入っていきます。5分もしないで出てきた彼女は少しだけ苦い顔をしていました。
私の番です。
扉を開けると、中はごくごく普通の部屋でした。簡素なテーブルがひとつ、壁に沿って置かれています。使い込まれたテーブルには蝋燭が灯り、お香を炊くような香炉が3つほどありました。壁には聖人の絵。でも、それだけでした。奇抜な装飾や怪しい道具は一切ありません。
私を出迎えてくれた人も、普通の女性でした。特別な衣装もアイテムも身に着けていません。年は40代後半か50代前半。金色の髪をまとめ、長い脚をより魅力的にみせるピタっとしたジーンズを履いていました。
彼女の後ろの棚には、紅茶の茶葉や陶器のカップが乱雑に並んでいます。特別に贅沢でも清貧でもない空間。ここで本当に特別なことが起こるのだろうか。そう思っていると彼女が声を発します。
「ようこそ。あなたの悩みを何でも聞かせて。力になるわ」
「何をどれだけ相談してもいい」という言葉に甘えて、仕事のこと、家族のこと、お金のこと、自分の悩みを次々と口にしていきました。占い師は一つずつ私の悩みに回答していきます。一般論で何とかなりそうな返答もありましたが、中には〝なぜ分かるの?〟と息をのむような言葉もありました。
「2028年から、あなたの人生は劇的に変わる。それまでは少し苦労が続く」
そして、もう一つ。「もっと旅をしなさい。行きたい場所へ行きなさい。旅するほど、悪いモノは抜けていくから」
真っ直ぐに私を見つめる占い師の目は真剣そのもので、見透かされている気がしました。〝旅の話なんてしていないのに「旅をしなさい」って言うんだ…〟
テーブルの蝋燭の火が揺れ、占い師は空の香炉を見つめます。その姿は、何も考えていないようにも、何かと交信しているようにも見えました。
「最後に、お祓いをしましょう。リラックスして」
私には理解できない言葉で何かを呟くと、占い師は手にした蝋燭を私の体の隅々に近付けてきました。彼女が口にしているのは、祝詞でしょうか。心地よい不思議な言葉と共に、温かい何かが体の中に入ってくるのを感じました。
占い師はふと私の胸のあたりで手を止めました。「ここにウサギがいる」と言います。もちろん私には何も見えません。でも彼女は真剣な顔で蝋燭を近づけ、何かを払うような仕草をしました。
「後ろを向いて」言われるがままに後ろを向き、目を閉じます。占い師が動く気配。蝋燭の炎以上の温かい何かが体に流れてくるのを感じます。ふと自分の右側に何かとてつもなく大きな存在があることに気付きました。私の体だけでなく、周囲までもが温かく不思議な空気に包まれていきます。
〝この存在は聖人?〟
目を閉じたまま、私はただ、その温もりに身を委ねていました。ふと、南米でアヤワスカを飲んだときに見た、巨大な光の存在を思い出します。
〝この感覚どこか似ている気がする〟
気がつくと、占い師は静かに蝋燭をテーブルに戻していました。さっきまで感じていた温かい気配も、いつの間にか消えています。
「終わりよ」
占い師はそう言って、にこりと笑いました。
私は財布からカザフスタンの紙幣を2枚取り出し2000テンゲ(約650円)を渡します。決められた料金はないとのことで、逆に悩みます。迷った私は、知人のロシア人女性が話していた目安の額を、安すぎるかなと思いつつ、そのまま支払いました。
扉を開けて外へ出ると、そこにはさっきと変わらない風景が広がっていました。中庭ではまだ何人もの人が順番を待っています。
さらに、門を一歩出ると、何事もなかったように普通の生活が流れています。先程までの体験が揺らぎました。でも、あの部屋で感じた不思議な温もりだけは、今でもはっきり覚えています。
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大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
カザフスタンの街。偶然知り合ったロシア人女性が私に言いました「聖人と話せる力を持った占い師さんに会いに行く?」
思いもよらない誘いに、二つ返事で頷きました。
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目次
カザフスタンのロシア正教会での出会い
カザフスタンの各地に建つ美しいロシア正教会。観光スポットでありながら、祈りの場としても機能している教会はとても壮麗です。
ある教会でお祈りしていた時のことです。私があまりに熱心に祈っているからでしょうか、知り合ったばかりのロシア人女性が「聖人と話ができる占い師がいるんだけど、興味ある?」と聞いてきました。
「もう、そういうの大好きです!」
私は迷うことなく、そのまま占い師の家へ案内してもらうことにしました。
聖人と話す占い師に会いにいく
ロシア人女性の説明によれば、その占い師は地元の人に支持される大人気の占い師。
「毎回行列ができるからオープンと同時に並ばなきゃ。急ごう」と、郊外へと向かうバス乗り場へ私を急かしました。
道すがら占い師の説明を受けます。
「蝋燭を灯して、聖人と話をする人だよ。聖人からアドバイスをもらって、その人の未来を導いたり、お祓いをしたりしてくれるの」
「神様と話ができる人ってこと?」
「直接じゃない。聖人を通して、ね。だから彼女には色々見えたり、分かったりする」
「じゃあ、占い師というより霊媒師?」
「どうかな。その辺の言葉はよく分からないけど」
郊外へと向かうバスは運転が荒く、椅子に座っているのに転げ落ちそうになります。耳をつんざくようなクラクション、あわや衝突という場面もありました。
でも、そんな事が気にならないくらい、私の胸は期待で膨らんでいました。
荒々しいバスで郊外へ
荒々しく走るバスに40分ほど揺られ、私たちはバスを降りました。
ふと、ロシア人女性が私に言いました。
「あなたはラッキーだよ」
「どうして?」
「今から会いに行く占い師は、昨日までスペインにいて、今日から占いを再開するの。みんな再開を待っていたから、今日はとても沢山の人が来るはず。このまま行けば開始時間前に到着できるから、あなたは凄くラッキーだと思う」
「着いたよ」
そこにはグレーの門を構えた普通の家が建っていました。
何の特徴もない普通の民家。どこを探しても、占いを示す看板や、それらしいアイテムは飾られていません。知っている人だけが足を止める秘密の場所のような雰囲気でした。
「ちょっと来るのが遅かったかも。もう人がいる」
門の前に停まっている数台の車を見てロシア人女性が慌てました。私もビックリして返答します。
「待って。この車もこの人たちも皆、占い師に会いに来ているの?」
そこには4~6台の車が止まっていました。
2時間待ちの人気ぶり
重たいグレーの門を開けます。
門をくぐると、中庭には老若男女問わず15人ほどの人が立っていました。
立派な髭を生やした無口そうに見えるおじいさん、デート前とおぼしき20代の青年、4歳くらいの男児を連れた母子。
占いとは縁遠そうな顔ぶればかりが並んでいます。
日本のように一列に並ぶ文化がない国。どこが先頭でどこが最後尾なのか分からず戸惑っていると、中庭の真ん中にいた黒髪の女性が声をかけてきました。
「あなた達は私の後ろだよ」と。
料金も時間も自由?
カザフスタンでは、日本のようにきれいな列を作る光景はあまり見かけません。それなのに、仕切る人も係の人もいない中庭では、きちんと順番が守られていました。
「この人の次はこの人」と全員が認識していて、扉から人が出てくるたびに新しい人が自発的に入っていきます。静かに順番は守られていました。
ロシア人女性がいいます。
「2時間くらいかな。ここは一人何分という決まりがないの。ある人は数分で終わるし、ある人は20分かかる。だから正確な時間が読めない」
一人何分という決められた時間がないことに、私は好感を持ちました。さらに、料金も決まっていないと言うのです。自分が払える額でいいと。
決められた枠も、決められた金額もない。それだけで、どこか“本物”の匂いがしました。
やがて「あなたは私の後ろよ」と教えてくれた女性が扉の奥へ入っていきます。5分もしないで出てきた彼女は少しだけ苦い顔をしていました。
私の番です。
普通の姿をした占い師
扉を開けると、中はごくごく普通の部屋でした。
簡素なテーブルがひとつ、壁に沿って置かれています。使い込まれたテーブルには蝋燭が灯り、お香を炊くような香炉が3つほどありました。壁には聖人の絵。
でも、それだけでした。奇抜な装飾や怪しい道具は一切ありません。
私を出迎えてくれた人も、普通の女性でした。特別な衣装もアイテムも身に着けていません。
年は40代後半か50代前半。金色の髪をまとめ、長い脚をより魅力的にみせるピタっとしたジーンズを履いていました。
彼女の後ろの棚には、紅茶の茶葉や陶器のカップが乱雑に並んでいます。特別に贅沢でも清貧でもない空間。
ここで本当に特別なことが起こるのだろうか。そう思っていると彼女が声を発します。
「ようこそ。あなたの悩みを何でも聞かせて。力になるわ」
「何をどれだけ相談してもいい」という言葉に甘えて、仕事のこと、家族のこと、お金のこと、自分の悩みを次々と口にしていきました。占い師は一つずつ私の悩みに回答していきます。
一般論で何とかなりそうな返答もありましたが、中には〝なぜ分かるの?〟と息をのむような言葉もありました。
「2028年から、あなたの人生は劇的に変わる。それまでは少し苦労が続く」
そして、もう一つ。
「もっと旅をしなさい。行きたい場所へ行きなさい。旅するほど、悪いモノは抜けていくから」
真っ直ぐに私を見つめる占い師の目は真剣そのもので、見透かされている気がしました。
〝旅の話なんてしていないのに「旅をしなさい」って言うんだ…〟
お祓いで感じた不思議な体験
テーブルの蝋燭の火が揺れ、占い師は空の香炉を見つめます。その姿は、何も考えていないようにも、何かと交信しているようにも見えました。
「最後に、お祓いをしましょう。リラックスして」
私には理解できない言葉で何かを呟くと、占い師は手にした蝋燭を私の体の隅々に近付けてきました。
彼女が口にしているのは、祝詞でしょうか。心地よい不思議な言葉と共に、温かい何かが体の中に入ってくるのを感じました。
占い師はふと私の胸のあたりで手を止めました。
「ここにウサギがいる」と言います。
もちろん私には何も見えません。でも彼女は真剣な顔で蝋燭を近づけ、何かを払うような仕草をしました。
「後ろを向いて」
言われるがままに後ろを向き、目を閉じます。占い師が動く気配。蝋燭の炎以上の温かい何かが体に流れてくるのを感じます。
ふと自分の右側に何かとてつもなく大きな存在があることに気付きました。私の体だけでなく、周囲までもが温かく不思議な空気に包まれていきます。
〝この存在は聖人?〟
目を閉じたまま、私はただ、その温もりに身を委ねていました。
ふと、南米でアヤワスカを飲んだときに見た、巨大な光の存在を思い出します。
〝この感覚どこか似ている気がする〟
気がつくと、占い師は静かに蝋燭をテーブルに戻していました。さっきまで感じていた温かい気配も、いつの間にか消えています。
「終わりよ」
占い師はそう言って、にこりと笑いました。
気になる料金の相場は?
私は財布からカザフスタンの紙幣を2枚取り出し2000テンゲ(約650円)を渡します。
決められた料金はないとのことで、逆に悩みます。
迷った私は、知人のロシア人女性が話していた目安の額を、安すぎるかなと思いつつ、そのまま支払いました。
扉を開けて外へ出ると、そこにはさっきと変わらない風景が広がっていました。中庭ではまだ何人もの人が順番を待っています。
さらに、門を一歩出ると、何事もなかったように普通の生活が流れています。先程までの体験が揺らぎました。
でも、あの部屋で感じた不思議な温もりだけは、今でもはっきり覚えています。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel