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この国には、豊葦原之千秋長五百秋之水穂国という、美しい古称があります。とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに-豊かに葦が生い茂り、千年も万年も、永遠に瑞々しい稲穂が実る国。
その稲をもたらしたとされるのが、天照大御神(アマテラスオオミカミ)。八百万の神々の中でも最高至貴とされ、世界をあまねく照らす太陽の神として知られます。
私たちにとって、遠い存在のようでいて、じつはとても近く、なくてはならない存在。この神様はどのように生まれ、またどのように私たちの時代にまで語り継がれているのか。
さあ、とても古く、とても壮大な私たちの命の根源の物語のはじまりです。
アマテラスは「天照」という名のとおり、太陽を司る神様とされます。
有名な天岩戸神話では、アマテラスが岩屋に引き籠ってしまうと世界から光は消え闇に包まれました。神々は大混乱。ありとあらゆる禍が起きたと伝えられます。
太陽は、すべての命を育む根源ともいえるもの。
アマテラスは、太陽そのものとして、またなくてはならない世の秩序を保つ存在として記されています。
そんなアマテラスの誕生は、伊邪那岐命(イザナギノミコト)の禊祓いの場面。イザナギは、妻伊邪那美命(イザナミノミコト)とともに、国生み神生みで知られる神様です。
神生みの途中、火の神を生んだことで大火傷を負い亡くなってしまったイザナミ。その死を嘆き悲しんだイザナギは、なんとかイザナミを連れ戻したいと、黄泉の国へ出掛けていきます。しかし、そこは生きた者は立ち入ることが禁じられた死者の国。おぞましい姿に成り果てたイザナミや悪霊たちに追いかけられながら、イザナギはやっとの思いで逃げ帰ります。
「私はなんと嫌な、ひどく穢らわしい国に行ってしまったのか、禊をして祓い浄めなければ」と、筑紫の日向の橘小門の阿波岐原(現在の宮崎県宮崎市あたりの河口か)で、水に入り禊を行いました。
身につけたものを外すとそこから神々が成り、穢れを濯ぐとまたそこからも、次々に神々が生まれ出ます。
そして最後に、顔を濯いだその時。左目を濯ぐと、そこからアマテラスが成ったのでした。
そして右目からは月読命(ツクヨミノミコト)、そして鼻を洗うと須佐之男命(スサノオノミコト)が生まれます。
イザナギは、この三柱の誕生を「わたしはこれまで多くの子を生み続けてきたが、その終わりにこのような三柱の尊い子(三貴子)を得ることができた」と喜びました。
そして、イザナギはアマテラスに自らの首飾りを授け、「高天原(たかまがはら=神々の住まう天上界)を治めよ」と命じたのです。
アマテラスの誕生について、『日本書紀』ではイザナギとイザナミが「天下の君主たる者を生もう」として成ったとされています。
「此の子(みこ)、光華明彩(ひかりうるわ)しくして、六合(くに)の内に照り徹(とお)らせり」
-この御子は、まばゆいほどに光り輝き、その光は天地四方を広くどこまでも照らすほどであった
その誕生の際の、光を放ち世界を照らした特別な様子が描かれています。
アマテラスにまつわる神話は、どれもこの国のあゆみにとても深く関わる物語です。
アマテラスの力を示す、有名な神話があります。天岩戸神話。アマテラスが、あることをきっかけに、高天原にある岩屋の天岩戸を開き、その中に引き籠ってしまうという物語です。
アマテラスが岩屋に籠ると、高天原だけでなく、葦原中国(あしはらのなかつくに=日本の古称)もすべて暗闇に包まれました。昼がやってこない夜の世界が続いたのです。
高天原の八百万の神の騒ぎ立てる声が満ち満ちて、ありとあらゆる禍が起こりました。アマテラスが姿を隠したことで、世界は光と秩序を失ったのです。
じつはこの物語、私たちに身近な自然現象になぞられるとも考えられています。そしてアマテラスが引き籠ったという岩屋の伝説は、日本各地に残されているのです。
天岩戸神話について、そして世界に光が戻ったその話も、詳しくはぜひこちらをご覧ください。
そもそもアマテラスが引き籠るに至った原因は、弟スサノオとのこんな出来事にあります。
イザナギから海原を治めるよう命じられたスサノオでしたが、黄泉の国にいる母イザナミが恋しいと、国も治めず泣きわめき続けていました。
そのせいで青々としていた山は枯れ果て、海や川はみな干上がってしまいます。そんな様子にイザナギは怒り、スサノオを追放。スサノオはイザナミのいる黄泉の国に行くことになります。
その前に、高天原の姉アマテラスにその旨を報告に向かったのです。
追放され心乱れたスサノオが高天原に昇ると、高天原の山や川は揺れに揺れ動き、大地は震えました。そのさまを見たアマテラスは、スサノオが高天原を奪いにやって来たのではないかと、戦いに備え男装をして弟を迎えます。
それに対してスサノオは、「邪心などありません。ただ父に追放され、母のいる黄泉の国に行くことをご報告に上がったのです。やましいことなど何もありません。」
そのスサノオが自身の潔白を証明するために提案したのが、誓約(うけい)でした。日本神話の中でもとても大切な要素である、このアマテラスとスサノオの誓約。
誓約とは占いに似たもので、あらかじめ決めた結果が出るかどうかで、物事の正邪や吉凶が決まるという儀式です。
アマテラスとスサノオは、高天原にある天の安の河を挟んで立ちました。
そしてまずアマテラスが、スサノオの十拳の剣(とつかのつるぎ)を手に取って折り、勾玉を揺らしながら天の真名井の水で濯いで噛み砕き、息を吹くと、そこから三柱の女神が成ります。
この三柱の女神は「宗像三女神」といって航海の安全を司る女神でもあります。
そしてスサノオが、男装したアマテラスの左の角髪(みずら)に巻いてあった勾玉を持ち、揺らしながら天の真名井の水で濯いで噛み砕き、息の霧を吹き出します。
また、右の角髪に巻いてあった勾玉、縵(かずら=蔓を輪にした頭飾り)に巻いてあった勾玉、左手に巻いてあった勾玉、右手に巻いてあった勾玉をそれぞれ濯いで噛み砕き、息を吹き出すと、それぞれから合わせて五柱の男神が成りました。
この誓約が終わると、スサノオはこう言います。「私の心が晴明であるから、女の子が生まれたのです。つまり私の勝ちということだ」
あれほどに泣き続け、イザナミのいる黄泉の国へ行くはずだったスサノオでしたが、この誓約に勝ち誇り、アマテラスの治める高天原で乱暴狼藉をはたらくようになります。
アマテラスの田んぼの畦を壊して溝を埋めてしまったり、大嘗(新嘗祭)を行う祭殿に糞を撒き散らしたり。
さらには、アマテラスの機織小屋の屋根から、皮を剥いだ馬を落とし入れます。それに驚いた機織女が、機織り道具の梭(ひ)をホト(陰部)に刺して死んでしまうということまで起こりました。
はじめは弟を庇っていたアマテラスでしたが、とうとう弟のあまりの行いに耐えられず、ついには天岩戸を閉じてしまったのでした。
アマテラスの子は、この誓約で成った五柱の神。そしてそのうちの正勝吾勝勝速日天忍穂耳命、アメノオシホミミノミコトの玄孫こそ、初代神武天皇です。
これは、アマテラスの後継者、そして現代の皇室へと続いていく神の誕生を伝える物語でもあるのです。
そしてもう一つ、神話の大切な要素として知られるのが天孫降臨です。大国主から国譲りをされた高天原の神々が、天降って葦原中国を治めることになるという物語。
大国主命(オオクニヌシノミコト)らによって、国造りが完成した葦原中国は、大変に栄えます。
その様子を知ったアマテラスは、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国(葦原中国の美称)は、我が子アメノオシホミミノミコトが治めるべき国である」としました。
実際に高天原から葦原中国に降ったのは、アメノオシホミミノミコトの子、天邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギノミコト)。この長い名前のニニギは、アマテラスの孫にあたります。
この天孫降臨では、アマテラスがこれから葦原中国を治めることになるニニギに授けたものがありました。これが、いわゆる「三種の神器」。
そして、アマテラスは「この鏡を私の御魂として、ひたすらに私を拝むように祀りなさい」と伝えます。
誰も目にしたことがないといわれる、この三種の神器。正当な皇位継承の証とされ、歴代の天皇に引き継がれています。
現在、伊勢神宮にご神体として祀られているとされるのが、このうちの一つ、八咫鏡なのです。
また、『日本書紀』の天孫降臨の段には、アマテラスがニニギに下したとされる三大神勅(授けた言葉)があります。
・天壌無窮(てんじょうむきゅう)の神勅
この国は、私の子孫が治めるべき国であり、皇位は天地とともに栄え永遠に続くでしょう
・宝鏡奉斎(ほうきょうほうさい)の神勅
この鏡を見るということは、私を見るということ。この鏡と床を同じくし、大切に祭りなさい
・斎庭稲穂(ゆにわのいなほ)の神勅
私が育てる高天原の神聖な田の稲穂を授けましょう
私たちの毎日口にするお米、稲は、この天孫降臨の際に三種の神器とともに、高天原からこの国にもたらされたと伝えられているのです。
なぜこのアマテラスが、八百万の神の中の最も尊い神とされるようになったのでしょうか。
このアマテラスの名は、その字のとおり「天にあって、照り輝く偉大なる神」という意味。また、『日本書紀』で用いられている大日孁貴(オオヒルメノムチ)は「大いなる日の女神」という意味があります。
「孁」は「巫」と同じ意味合いを持ち合わせているともいわれ、太陽神に仕える巫女を意味しているという説もあります。
私たちの命の根源ともいえる太陽。この太陽を神として崇める、いわゆる太陽信仰は世界にもみられます。
まず思い出すのがエジプトのラーやギリシャのアポロンでしょうか。強大な力を持つ絶対的な支配者と結びつき、偉大な神として崇拝されることも多い太陽神。世界各国で語られる事の多い太陽神についてはこちらをご覧ください。
そんななかで、このアマテラスが最高神、そして太陽神として篤い信仰を寄せられているそのわけは、この国ならではものです。
大切に守り育て葦原中国の人々の食物とするよう、それがこの国の繁栄と平和をもたらすだろうと、ニニギに託してこの地にもたらしたとされる稲。
アマテラスから授かったこの神聖な稲を、人々はとても大切に、絶やすことなく育ててきました。この稲作になくてはならないのは、大地、水と風、そしてすべての源である太陽の光。
太陽とお米、私たちの暮らしになくてはならないものをもたらしてくれる、大いなるものへの感謝が、この日本の太陽信仰の根源にあるのです。
イザナギの禊祓いで、アマテラスと時を同じくして誕生したツクヨミとスサノオ。この三柱はあわせて三貴子(みはしらのうずのみこ)と呼ばれます。
アマテラスが生まれたのち、イザナギの右目を濯いで生まれたのがこのツクヨミ。
どこか密やかな印象のある月を司り、夜の世界を統べる神様です。ツクヨミという名、「月を読む」とは月を数えるという意味を持つことから、暦も司るとされています。
そして暦を司ることから、農耕にも深く関わりを持ちます。古の時代、人々は月の満ち欠けを農作業の目安に用いていたからです。
そして、しだいに欠けていき姿を消した月が、また細く現れふたたび満ちていく、その不思議なさまから、再生、不老不死の力を持つとされてきました。
三貴子の一柱ツクヨミについては、ぜひこちらも!
アマテラスとツクヨミの誕生ののち、イザナギの鼻を洗って生まれたのがこのスサノオです。
アマテラスが引き籠る原因ともなり、ついには高天原から追放されることとなるこの暴れん坊の末っ子は、なんだかとても人間味あふれた神様。
そして、出雲の人々を困らせていた化け物八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治して英雄となり、また若かりし大国主命を国造りの神として導くのです。
三貴子の困った末っ子、スサノオについて詳しくはこちらもぜひ。
アマテラスは、伊勢神宮をはじめ、天岩戸神説が残る宮崎県の天岩戸神社、また親しみをこめて神明(しんめい)さんなどと呼ばれる全国の神明神社など、とても多くの神社の主祭神として祀られています。
お伊勢さん、伊勢神宮の内宮。正式には皇大神宮(こうだいじんぐう)といいます。
この内宮は、島路山と神路山の山裾に抱かれるように鎮まります。
ご鎮座は紀元前、垂仁天皇の時代とされ、その歴史は二千年以上。天孫降臨の際、アマテラスが「私だと思い祀るように」と、ニニギに託した八咫鏡がご神体です。
【伊勢神宮(皇大神宮)】
所在地:三重県伊勢市宇治館町1
宝鏡奉斎の神勅では、「床を同じくすること」とされていた八咫鏡。
もとは、代々宮中で祀られていましたが、第10代崇神(すじん)天皇の時代、その霊威を畏れた天皇は、この八咫鏡を別の場所に祀ることを決めました。
そして一度は大和の笠縫邑(かさぬいのむら)にお祀りしますが、次の垂仁(すいにん)天皇の時代、新たに皇女倭姫命(やまとひめのみこと)が、ふさわしい鎮座地を求めて各地を巡行することになります。
大和、伊賀、近江、美濃など、その巡行地として残る伝承地は14とも。
そして伊勢の地に入ると、アマテラスの「この神風の伊勢の国は、常世から幾重にも波が寄せては帰る。美しい国、私はここにいようと思う」という神託がありました。
倭姫命は、その言葉のとおりに五十鈴川の上流に社を建て、八咫鏡はこの地に永遠に祀られることとなったのです。
伊勢神宮にお参りできなくても、アマテラスの力を宿したお札が受けられるのをご存知ですか?
初詣などの際、お近くの氏神さまなどでお札を受ける方も多いと思います。じつは、そのお札のほかに、神社には「神宮大麻」という伊勢神宮のお札が用意されています。
これは、伊勢神宮で用材の伐り出しから行われ、神職によって節目ごとにお祓いされているもの。日本全国どこの神社でも、同じものを受けることができます。
全国で受けられる神宮大麻。これは平安時代の頃からの、御師(おんし)という神職の活躍によるものです。
御師は、全国から伊勢に参拝に訪れる人々の案内をしたり、参拝・宿泊の世話をしたり、また日本全国で祈祷を行い、その印として「御祓大麻」を頒布しました。江戸時代には、じつに全国の約9割もの世帯がこの御祓大麻を受けていたともいわれます。
現在は全国の神社を通じて、この「神宮大麻」を受けられるようになっているのです。
もうすぐ迎える新しい年、ぜひ氏神さまのお札のお隣に、この神宮大麻も。
岩座では、アマテラスにまつわるさまざまなグッズを取り扱っております。
春齋年昌筆「岩戸神樂之起顯」を元に綿密に織り上げた御朱印帳三冊のセットです。並べて飾ると、天岩戸神話で特別厳かな一瞬を楽しむ事ができます。持ち歩きに便利なショルダーの紐部分は茶道具や武具にも使われる「真田紐」製で伸びづらく大変丈夫。また桐箱も日本最古の桐箱工房「浦上桐工芸」による手づくりで、湿気を防いで保管が可能です。特別なセットで、神話の世界を感じながら御朱印あつめをお楽しみください。
その内側に、オレンジとも赤ともいえぬ微妙な色合いの光を宿すサンストーン、太陽の石。サンストーンは、心にからだに、ポジティブな力を与えてくれるといわれています。
温かみのあるその色合いは、じんわりと揺るぎのない力を放っているかのよう。水晶にはアマテラスをイメージした、小さな太陽をあしらいました。
どんなときも、私たちを照らし続けてくれるアマテラス。小さな太陽をいつでもあなたのそばに。
日本では日の木(ひのき)とも呼ばれる香り高い「桧」を使用した御朱印帳。表紙の背面にはそれぞれ、自然の恵みを感じる四字熟語が彫られています。『晴天白日』天が晴れ渡り、心に一点の曇りもなく潔白なこと。
歴史ある皇室の祖神であり、私たちを照らしてくれる太陽の女神。この国の最高神とされる天照大御神。でも、そのすごさは、じつはこんな所なのかもしれません。
雨あがり、雲間から差す光のうっとりするほどの神々しさ。噛み締めたお米の甘さ。ウトウトしそうな、背中にあたる陽の温かさ。
そう、私たちはみなこの世界に生まれ出た時から、誰に教わらずとも心とからだで、この神様を知っているのです。
岩戸にこもった天照大御神に出てもらうため、神々がとった作戦とは?▼
暴れん坊の末っ子、スサノオが大活躍。八つ首の大蛇を退治▼
この国には、豊葦原之千秋長五百秋之水穂国という、美しい古称があります。
とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに-豊かに葦が生い茂り、千年も万年も、永遠に瑞々しい稲穂が実る国。
その稲をもたらしたとされるのが、天照大御神(アマテラスオオミカミ)。
八百万の神々の中でも最高至貴とされ、世界をあまねく照らす太陽の神として知られます。
私たちにとって、遠い存在のようでいて、じつはとても近く、なくてはならない存在。
この神様はどのように生まれ、またどのように私たちの時代にまで語り継がれているのか。
さあ、とても古く、とても壮大な私たちの命の根源の物語のはじまりです。
目次
アマテラスとはどんな神様?
日本神話に登場する太陽の女神
アマテラスは「天照」という名のとおり、太陽を司る神様とされます。
有名な天岩戸神話では、アマテラスが岩屋に引き籠ってしまうと世界から光は消え闇に包まれました。
神々は大混乱。ありとあらゆる禍が起きたと伝えられます。
太陽は、すべての命を育む根源ともいえるもの。
アマテラスは、太陽そのものとして、またなくてはならない世の秩序を保つ存在として記されています。
アマテラスはどのように生まれた?
そんなアマテラスの誕生は、伊邪那岐命(イザナギノミコト)の禊祓いの場面。
イザナギは、妻伊邪那美命(イザナミノミコト)とともに、国生み神生みで知られる神様です。
神生みの途中、火の神を生んだことで大火傷を負い亡くなってしまったイザナミ。
その死を嘆き悲しんだイザナギは、なんとかイザナミを連れ戻したいと、黄泉の国へ出掛けていきます。
しかし、そこは生きた者は立ち入ることが禁じられた死者の国。
おぞましい姿に成り果てたイザナミや悪霊たちに追いかけられながら、イザナギはやっとの思いで逃げ帰ります。
「私はなんと嫌な、ひどく穢らわしい国に行ってしまったのか、禊をして祓い浄めなければ」と、筑紫の日向の橘小門の阿波岐原(現在の宮崎県宮崎市あたりの河口か)で、水に入り禊を行いました。
身につけたものを外すとそこから神々が成り、穢れを濯ぐとまたそこからも、次々に神々が生まれ出ます。
そして最後に、顔を濯いだその時。
左目を濯ぐと、そこからアマテラスが成ったのでした。
そして右目からは月読命(ツクヨミノミコト)、そして鼻を洗うと須佐之男命(スサノオノミコト)が生まれます。
イザナギは、この三柱の誕生を「わたしはこれまで多くの子を生み続けてきたが、その終わりにこのような三柱の尊い子(三貴子)を得ることができた」と喜びました。
そして、イザナギはアマテラスに自らの首飾りを授け、「高天原(たかまがはら=神々の住まう天上界)を治めよ」と命じたのです。
アマテラスの誕生について、『日本書紀』ではイザナギとイザナミが「天下の君主たる者を生もう」として成ったとされています。
「此の子(みこ)、光華明彩(ひかりうるわ)しくして、六合(くに)の内に照り徹(とお)らせり」
-この御子は、まばゆいほどに光り輝き、その光は天地四方を広くどこまでも照らすほどであった
その誕生の際の、光を放ち世界を照らした特別な様子が描かれています。
アマテラスにまつわる神話の数々
アマテラスにまつわる神話は、どれもこの国のあゆみにとても深く関わる物語です。
アマテラスが引き籠った⁈天岩戸神話
アマテラスの力を示す、有名な神話があります。天岩戸神話。
アマテラスが、あることをきっかけに、高天原にある岩屋の天岩戸を開き、その中に引き籠ってしまうという物語です。
アマテラスが岩屋に籠ると、高天原だけでなく、葦原中国(あしはらのなかつくに=日本の古称)もすべて暗闇に包まれました。昼がやってこない夜の世界が続いたのです。
高天原の八百万の神の騒ぎ立てる声が満ち満ちて、ありとあらゆる禍が起こりました。
アマテラスが姿を隠したことで、世界は光と秩序を失ったのです。
じつはこの物語、私たちに身近な自然現象になぞられるとも考えられています。
そしてアマテラスが引き籠ったという岩屋の伝説は、日本各地に残されているのです。
天岩戸神話について、そして世界に光が戻ったその話も、詳しくはぜひこちらをご覧ください。
スサノオとの誓約(うけい)とは?
そもそもアマテラスが引き籠るに至った原因は、弟スサノオとのこんな出来事にあります。
イザナギから海原を治めるよう命じられたスサノオでしたが、黄泉の国にいる母イザナミが恋しいと、国も治めず泣きわめき続けていました。
そのせいで青々としていた山は枯れ果て、海や川はみな干上がってしまいます。
そんな様子にイザナギは怒り、スサノオを追放。
スサノオはイザナミのいる黄泉の国に行くことになります。
その前に、高天原の姉アマテラスにその旨を報告に向かったのです。
追放され心乱れたスサノオが高天原に昇ると、高天原の山や川は揺れに揺れ動き、大地は震えました。
そのさまを見たアマテラスは、スサノオが高天原を奪いにやって来たのではないかと、戦いに備え男装をして弟を迎えます。
それに対してスサノオは、「邪心などありません。ただ父に追放され、母のいる黄泉の国に行くことをご報告に上がったのです。やましいことなど何もありません。」
そのスサノオが自身の潔白を証明するために提案したのが、誓約(うけい)でした。
日本神話の中でもとても大切な要素である、このアマテラスとスサノオの誓約。
誓約とは占いに似たもので、あらかじめ決めた結果が出るかどうかで、物事の正邪や吉凶が決まるという儀式です。
アマテラスとスサノオは、高天原にある天の安の河を挟んで立ちました。
そしてまずアマテラスが、スサノオの十拳の剣(とつかのつるぎ)を手に取って折り、勾玉を揺らしながら天の真名井の水で濯いで噛み砕き、息を吹くと、そこから三柱の女神が成ります。
この三柱の女神は「宗像三女神」といって航海の安全を司る女神でもあります。
そしてスサノオが、男装したアマテラスの左の角髪(みずら)に巻いてあった勾玉を持ち、揺らしながら天の真名井の水で濯いで噛み砕き、息の霧を吹き出します。
また、右の角髪に巻いてあった勾玉、縵(かずら=蔓を輪にした頭飾り)に巻いてあった勾玉、左手に巻いてあった勾玉、右手に巻いてあった勾玉をそれぞれ濯いで噛み砕き、息を吹き出すと、それぞれから合わせて五柱の男神が成りました。
この誓約が終わると、スサノオはこう言います。
「私の心が晴明であるから、女の子が生まれたのです。つまり私の勝ちということだ」
あれほどに泣き続け、イザナミのいる黄泉の国へ行くはずだったスサノオでしたが、この誓約に勝ち誇り、アマテラスの治める高天原で乱暴狼藉をはたらくようになります。
アマテラスの田んぼの畦を壊して溝を埋めてしまったり、大嘗(新嘗祭)を行う祭殿に糞を撒き散らしたり。
さらには、アマテラスの機織小屋の屋根から、皮を剥いだ馬を落とし入れます。
それに驚いた機織女が、機織り道具の梭(ひ)をホト(陰部)に刺して死んでしまうということまで起こりました。
はじめは弟を庇っていたアマテラスでしたが、とうとう弟のあまりの行いに耐えられず、ついには天岩戸を閉じてしまったのでした。
アマテラスの子は、この誓約で成った五柱の神。
そしてそのうちの正勝吾勝勝速日天忍穂耳命、アメノオシホミミノミコトの玄孫こそ、初代神武天皇です。
これは、アマテラスの後継者、そして現代の皇室へと続いていく神の誕生を伝える物語でもあるのです。
アマテラスの孫が天降った天孫降臨とは?
そしてもう一つ、神話の大切な要素として知られるのが天孫降臨です。
大国主から国譲りをされた高天原の神々が、天降って葦原中国を治めることになるという物語。
大国主命(オオクニヌシノミコト)らによって、国造りが完成した葦原中国は、大変に栄えます。
その様子を知ったアマテラスは、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国(葦原中国の美称)は、我が子アメノオシホミミノミコトが治めるべき国である」としました。
実際に高天原から葦原中国に降ったのは、アメノオシホミミノミコトの子、天邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギノミコト)。
この長い名前のニニギは、アマテラスの孫にあたります。
この天孫降臨では、アマテラスがこれから葦原中国を治めることになるニニギに授けたものがありました。
これが、いわゆる「三種の神器」。
そして、アマテラスは「この鏡を私の御魂として、ひたすらに私を拝むように祀りなさい」と伝えます。
誰も目にしたことがないといわれる、この三種の神器。
正当な皇位継承の証とされ、歴代の天皇に引き継がれています。
現在、伊勢神宮にご神体として祀られているとされるのが、このうちの一つ、八咫鏡なのです。
また、『日本書紀』の天孫降臨の段には、アマテラスがニニギに下したとされる三大神勅(授けた言葉)があります。
・天壌無窮(てんじょうむきゅう)の神勅
この国は、私の子孫が治めるべき国であり、皇位は天地とともに栄え永遠に続くでしょう
・宝鏡奉斎(ほうきょうほうさい)の神勅
この鏡を見るということは、私を見るということ。この鏡と床を同じくし、大切に祭りなさい
・斎庭稲穂(ゆにわのいなほ)の神勅
私が育てる高天原の神聖な田の稲穂を授けましょう
私たちの毎日口にするお米、稲は、この天孫降臨の際に三種の神器とともに、高天原からこの国にもたらされたと伝えられているのです。
アマテラスはなぜ日本の最高神なのか?
なぜこのアマテラスが、八百万の神の中の最も尊い神とされるようになったのでしょうか。
「天照大御神」の名の意味とは?
このアマテラスの名は、その字のとおり「天にあって、照り輝く偉大なる神」という意味。
また、『日本書紀』で用いられている大日孁貴(オオヒルメノムチ)は「大いなる日の女神」という意味があります。
「孁」は「巫」と同じ意味合いを持ち合わせているともいわれ、太陽神に仕える巫女を意味しているという説もあります。
日本における太陽信仰とは
私たちの命の根源ともいえる太陽。
この太陽を神として崇める、いわゆる太陽信仰は世界にもみられます。
まず思い出すのがエジプトのラーやギリシャのアポロンでしょうか。
強大な力を持つ絶対的な支配者と結びつき、偉大な神として崇拝されることも多い太陽神。
世界各国で語られる事の多い太陽神についてはこちらをご覧ください。
そんななかで、このアマテラスが最高神、そして太陽神として篤い信仰を寄せられているそのわけは、この国ならではものです。
大切に守り育て葦原中国の人々の食物とするよう、それがこの国の繁栄と平和をもたらすだろうと、ニニギに託してこの地にもたらしたとされる稲。
アマテラスから授かったこの神聖な稲を、人々はとても大切に、絶やすことなく育ててきました。
この稲作になくてはならないのは、大地、水と風、そしてすべての源である太陽の光。
太陽とお米、私たちの暮らしになくてはならないものをもたらしてくれる、大いなるものへの感謝が、この日本の太陽信仰の根源にあるのです。
アマテラスと関わりの深い神様たち
イザナギの禊祓いで、アマテラスと時を同じくして誕生したツクヨミとスサノオ。
この三柱はあわせて三貴子(みはしらのうずのみこ)と呼ばれます。
月読命(ツクヨミノミコト)
アマテラスが生まれたのち、イザナギの右目を濯いで生まれたのがこのツクヨミ。
どこか密やかな印象のある月を司り、夜の世界を統べる神様です。
ツクヨミという名、「月を読む」とは月を数えるという意味を持つことから、暦も司るとされています。
そして暦を司ることから、農耕にも深く関わりを持ちます。
古の時代、人々は月の満ち欠けを農作業の目安に用いていたからです。
そして、しだいに欠けていき姿を消した月が、また細く現れふたたび満ちていく、その不思議なさまから、再生、不老不死の力を持つとされてきました。
三貴子の一柱ツクヨミについては、ぜひこちらも!
須佐之男命(スサノオノミコト)
アマテラスとツクヨミの誕生ののち、イザナギの鼻を洗って生まれたのがこのスサノオです。
アマテラスが引き籠る原因ともなり、ついには高天原から追放されることとなるこの暴れん坊の末っ子は、なんだかとても人間味あふれた神様。
そして、出雲の人々を困らせていた化け物八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治して英雄となり、また若かりし大国主命を国造りの神として導くのです。
三貴子の困った末っ子、スサノオについて詳しくはこちらもぜひ。
アマテラスをお祀りしている神社
アマテラスは、伊勢神宮をはじめ、天岩戸神説が残る宮崎県の天岩戸神社、また親しみをこめて神明(しんめい)さんなどと呼ばれる全国の神明神社など、とても多くの神社の主祭神として祀られています。
伊勢神宮(皇大神宮)/三重県
お伊勢さん、伊勢神宮の内宮。
正式には皇大神宮(こうだいじんぐう)といいます。
この内宮は、島路山と神路山の山裾に抱かれるように鎮まります。
ご鎮座は紀元前、垂仁天皇の時代とされ、その歴史は二千年以上。
天孫降臨の際、アマテラスが「私だと思い祀るように」と、ニニギに託した八咫鏡がご神体です。
【伊勢神宮(皇大神宮)】
所在地:三重県伊勢市宇治館町1
アマテラスに選ばれた伊勢の地
宝鏡奉斎の神勅では、「床を同じくすること」とされていた八咫鏡。
もとは、代々宮中で祀られていましたが、第10代崇神(すじん)天皇の時代、その霊威を畏れた天皇は、この八咫鏡を別の場所に祀ることを決めました。
そして一度は大和の笠縫邑(かさぬいのむら)にお祀りしますが、次の垂仁(すいにん)天皇の時代、新たに皇女倭姫命(やまとひめのみこと)が、ふさわしい鎮座地を求めて各地を巡行することになります。
大和、伊賀、近江、美濃など、その巡行地として残る伝承地は14とも。
そして伊勢の地に入ると、アマテラスの「この神風の伊勢の国は、常世から幾重にも波が寄せては帰る。美しい国、私はここにいようと思う」という神託がありました。
倭姫命は、その言葉のとおりに五十鈴川の上流に社を建て、八咫鏡はこの地に永遠に祀られることとなったのです。
近くの神社でも伊勢神宮のお札を受けられるって本当?
伊勢神宮にお参りできなくても、アマテラスの力を宿したお札が受けられるのをご存知ですか?
初詣などの際、お近くの氏神さまなどでお札を受ける方も多いと思います。
じつは、そのお札のほかに、神社には「神宮大麻」という伊勢神宮のお札が用意されています。
これは、伊勢神宮で用材の伐り出しから行われ、神職によって節目ごとにお祓いされているもの。日本全国どこの神社でも、同じものを受けることができます。
全国で受けられる神宮大麻。
これは平安時代の頃からの、御師(おんし)という神職の活躍によるものです。
御師は、全国から伊勢に参拝に訪れる人々の案内をしたり、参拝・宿泊の世話をしたり、また日本全国で祈祷を行い、その印として「御祓大麻」を頒布しました。
江戸時代には、じつに全国の約9割もの世帯がこの御祓大麻を受けていたともいわれます。
現在は全国の神社を通じて、この「神宮大麻」を受けられるようになっているのです。
もうすぐ迎える新しい年、ぜひ氏神さまのお札のお隣に、この神宮大麻も。
「天照大御神」をモチーフにしたアイテムのご紹介
岩座では、アマテラスにまつわるさまざまなグッズを取り扱っております。
岩戸開御朱印帳揃 (御朱印帳3冊/ショルダー/桐箱のセット)
春齋年昌筆「岩戸神樂之起顯」を元に綿密に織り上げた御朱印帳三冊のセットです。
並べて飾ると、天岩戸神話で特別厳かな一瞬を楽しむ事ができます。持ち歩きに便利なショルダーの紐部分は茶道具や武具にも使われる「真田紐」製で伸びづらく大変丈夫。
また桐箱も日本最古の桐箱工房「浦上桐工芸」による手づくりで、湿気を防いで保管が可能です。
特別なセットで、神話の世界を感じながら御朱印あつめをお楽しみください。
神様叶 アマテラスブレスレット
その内側に、オレンジとも赤ともいえぬ微妙な色合いの光を宿すサンストーン、太陽の石。
サンストーンは、心にからだに、ポジティブな力を与えてくれるといわれています。
温かみのあるその色合いは、じんわりと揺るぎのない力を放っているかのよう。
水晶にはアマテラスをイメージした、小さな太陽をあしらいました。
どんなときも、私たちを照らし続けてくれるアマテラス。
小さな太陽をいつでもあなたのそばに。
桧(ひのき)神様御朱印帳
日本では日の木(ひのき)とも呼ばれる香り高い「桧」を使用した御朱印帳。
表紙の背面にはそれぞれ、自然の恵みを感じる四字熟語が彫られています。
『晴天白日』天が晴れ渡り、心に一点の曇りもなく潔白なこと。
私たちの暮らしの根っこにある
歴史ある皇室の祖神であり、私たちを照らしてくれる太陽の女神。
この国の最高神とされる天照大御神。
でも、そのすごさは、じつはこんな所なのかもしれません。
雨あがり、雲間から差す光のうっとりするほどの神々しさ。
噛み締めたお米の甘さ。
ウトウトしそうな、背中にあたる陽の温かさ。
そう、私たちはみなこの世界に生まれ出た時から、誰に教わらずとも心とからだで、この神様を知っているのです。
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