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私たちの暮らしの「はじまりの物語」を知ることができる、日本神話の世界。今回ご紹介するのは、月と夜の世界を統治する神様、月読命(ツクヨミ)です。
天照大御神やスサノオと共に生まれ、八百万の神の中でも最も尊いとされる、三貴子(みはしらのうずのみこ)の一柱です。ただ他の二柱に比べると、祀られる神社もとても少なく、どこかひそやかで、ちょっと地味な印象。
でも実は、私たちの日々の暮らしにとても強く結びつきのある神様のようですよ。私たちが口にしている食べ物、暦、占い、人の体のリズムにも関わる不思議な力。月読命、いったいどんな神様なのか知りたくなりませんか?
日本の神様を紹介しているシリーズはこちら
太陽を司る天照大御神と相対し、どこかひそやかな印象を持ち、あまり知られていないツクヨミ。実は、私たちの日常にもかなり関わりのある神様のようです。
ツクヨミの「月を読む」とは、月齢を数えるという意味を持ちます。そこから、暦を司る神といわれています。
日本にはじめに伝わり、古の時代からこの国に根付いた「太陰暦」は、月の満ち欠けに基づいて、1ヶ月を定めた月を読む暦。新月を月のはじまり1日とし、次の新月がまた新たな月のはじまりという読み方です。
人々は日々月を見上げ、その形、見える時間や高さから、日付を認識していました。1月、2月の「月」はその名残りともいえます。
今の私たちが用いているのは、地球が太陽を一周する周期を1年とした「太陽暦」。この暦は西洋にならい、明治のはじめに太陰暦から改暦されたものです。
暦はまた、さまざまな要素も織り交ぜて、日にちや時間の吉凶などその時の運の流れをみる、占いの要素も持ち合わせています。そのことから、ツクヨミは占いの神様ともいわれているのです。また「月」から、ツキを呼び込んでくれる神様ともいわれています。
地球は、常に月の引力を受けています。その引力を私たちが普段感じることはありませんが、目に見えてよくわかるのが、海の潮の満ち引き。1日に2回、満潮と干潮を迎えます。これは、月の引力で海水が引っ張られて起こる現象です。
この引力はもちろん陸地にも作用していて、私たちは気づいていないものの、実は大潮の時には地面も数十cmほど盛り上がるといいます。
よく映像で見かける神秘的なサンゴの産卵。サンゴは、受精卵をできるだけ遠くまで運ぼうと、潮が大きく動く満月の日を選んで産卵するのだといいます。
月の引力による満潮・干潮、そこに太陽の引力も加わった大潮・小潮は、広大な海をまるで何か大きな力でそおっと動かしているように感じられます。昔の人々はこの現象を、どんな畏れを抱き、不可思議な思いで見つめていたのでしょうか。
海を大きく動かす潮の満ち引き、ツクヨミは漁業や海上の安全を司る神でもあります。
月は古より不老不死の力があると信じられてきました。
新月、全く見えなくなった月が少しずつ甦り、やがて満月となる。そしてまた次第に細く消えていく。月の満ち欠けするさまは、古の人々にとって、まるで一度死んで甦る姿を見るような、神秘的なものだったに違いありません。
最も尊い神三貴子の一柱とされながら、記紀ではあまりにも影がうすいツクヨミ。万葉集にはツクヨミを詠んだ歌がいくつか収められています。
その中には、ツクヨミが持つとされている、「変若水(おちみず)」という若返りの水の歌がいくつかあります。
天橋(あまはし)も 長くもがも 高山も 高くもがも月夜見の 持てる越水い取り来て 君に奉りて をち得てしかも
作者未詳
意訳:天にかかる梯子がもっと長かったらいいのに、あの高い山ももっと高かったらいいのに、それならば天に昇り、月の神が持つという若変水(をちみず)を取ってきて、あなたに差し上げて、若返らせられるのに
このように、月は永遠の命を持つものとして崇められてきました。
これは、日本だけでなく、他の国でもそのように考えられてきたようです。日本では餅をついているといわれている月の兎、中国では不老不死の仙薬をついているといわれていますよ。
今も昔も、農耕にとって暦を読むことは非常に重要なこと。ツクヨミは農耕を司るともいわれます。
一年を周期として、自然と作物のリズムを合わせ、適期に決まった作業をする農耕は、暦が大切な指標となります。
古の人々は、月の満ち欠けを読んで、種まきや刈り取りの時期の目安としていたのです。
また、農耕神と呼ばれることにはもうひとつの理由もあります。それは後ほど詳しく。
このツクヨミ、八百万の神の中でも最も尊いといわれる三柱の一柱。それなのに、他の二柱に比べると、どうも認知度が低いようですね。
イザナギが黄泉の国から逃れ、黄泉の穢れを祓う禊をした際、身につけていたものを外し、体を濯ぐと、多くの神が成りました。そして最後に顔を濯いだ際に誕生したのが、「三貴子(みはしらのうずのみこ)」です。
●右目…天照大御神 太陽の神 高天原を治める
●左目…ツクヨミ 月の神 夜の世界を治める
●鼻…スサノオ 海原を治める
「わたしはずいぶんたくさん子どもを産んだが、終いに尊い3人の御子を授かった」と、イザナギはその三柱の誕生を大いに喜んだといいます。
天照大御神は言わずと知れたこの国の最高神、最も広く知られた神様です。またスサノオも暴風雨を司り、乱暴者とされるものの、ヤマタノオロチを退治し、出雲国の国造りに貢献した英雄として知られています。
ツクヨミは、古事記ではこの誕生の場面のみ。そして日本書紀でも、ひどい神だと天照大御神を怒らせてしまう、そんなエピソードにちょっと登場するだけ。
では、天照大御神を怒らせてしまうという、日本書紀に描かれたエピソードもみてみましょう。
日本書紀でツクヨミが登場するのは、私たちが暮らしの中で口にする、穀類など食物が誕生する様子が描かれている重要な場面です。実は、ツクヨミは食物起源説に大きく関わっているのです。
あるとき、天上を治めることになった天照大御神が、ツクヨミにこう言いました。「葦原中国(あしはらのなかつくに)に保食神(ウケモチ)がいると聞きます。ツクヨミ、行ってその様子を見てきなさい」
そこでツクヨミが保食神の元を訪れると、保食神は歓待したといいます。そしてツクヨミをもてなすため、たくさんの食べ物を出すのですが…。保食神が陸の方を向くと米が、海を向くとさまざまな魚が、そして山の方を向くと獣が、次々と保食神の口から溢れ、机の上を埋め尽くしたといいます。
その様子を見たツクヨミは、「なんと穢らわしい、口から出したものをわたしに差し出すとは」と怒り、剣を抜いて保食神を切り殺してしまいます。
ツクヨミが天上に戻り、ことの詳細を天照大御神に報告しました。天照大御神は大いに怒り、「お前はひどい神だ、もう会うことはあるまい」と、ツクヨミに告げます。
天照大御神が天熊人(アマノクマヒト)を遣わして様子を見に行かせたところ、保食神はすでに死んでいました。ただ、その体からはさまざまな食物が生まれていたといいます。
●頂(頭のてっぺん)…牛や馬
●顱(額)…粟
●眉…蚕
●眼…稗(ヒエ)
●腹…稲
●陰(性器)…麦や大豆、小豆
この食物をすべて持ち帰ると、天照大御神は喜び、「これこそが、この世界の者たちが、食べて生きていくべきものである」と、粟・稗・麦・豆を畑の種として、また稲を水田の種とし、人々の主食として定めたといいます。
これが、これが、神話が伝える穀物の始まり。そしてツクヨミが農耕神ともいわれるもう一つの理由です。
そして、この時から、天照大御神とツクヨミ、太陽と月は、昼と夜別の世界に住むようになったといいます。
三種の神器という言葉をよく耳にしますが、どんなものかご存じですか?
日本神話の中では、天孫降臨の際に天照大御神が瓊瓊杵尊(ニニギ)に授けたとされる、三つの宝物のこと。正当な皇位継承の証とされ、歴代の天皇に引き継がれてきました。天皇でも目にすることが許されておらず、誰も目にしたことがないと伝わります。
そして、この三種の神器は三貴子を象徴しているともいわれています。
この三種の神器のうち八咫鏡と草薙剣には、形代(かたしろ)という、実物と一体不可分である、神霊が依り憑く特別な「うつし」があります。
宮中にあるのは、2つの形代と勾玉の実物。天皇の即位式や新嘗祭などの重要な場面でも、形代が用いられています。
三種の神器の所在
三種の神器のひとつ草薙剣は、出雲国で次々と娘たちをさらったという化け物ヤマタノオロチを退治した際、その尾からスサノオが取り出したと伝わります。このヤマタノオロチ伝説についてはぜひこちらをどうぞ。
記紀での記述と同じく、全国のツクヨミを祀る神社も極端に数が少ないことで知られています。
山形県鶴岡市、羽黒山・月山・湯殿山の三山を総称し、出羽三山の名で知られています。この三山は古くから山岳信仰の対象であり、修験道の山として知られてきました。
羽黒山は現世、月山は前世、湯殿山は来世を象徴するとされ、三山を巡ることは、すなわち「生まれ変わりの旅」であるともいわれています。
三山の神が祀られた三神合祭殿があるのは、羽黒山の山頂、出羽三山神社。
そして出羽三山のなかでツクヨミが祀られているのは、日本百名山として知られる月山の頂上、月山神社です。月山神社は標高1984mにあり、参拝するには登山装備が必要。
月山の開山期間は7月から9月中旬の短い期間で、この期間中には希少な高山植物が咲き乱れる様子や美しい紅葉も楽しめます。また、山頂は遠く日本海まで見渡せる絶景ポイントです。
月山神社本宮内は古来より特別な神域とされており、撮影は禁止。参詣する人は必ずお祓いを受けることが定められています。
月の使いである兎の年、卯年はご縁年といわれ、この年に参拝すると12年分のご利益があるともいわれていますよ。
【出羽三山神社】
所在地:山形県鶴岡市羽黒町手向字手向7
【月山神社 本宮】
所在地:山形県東田川郡庄内町立谷沢字本澤31
ご祭神は月読命・月夜見命・月弓命。全国にある月讀神社の総本山といわれている神社です。もともと壱岐の豪族である壱岐氏が、航海の安全を祈るためにお祀りしたとされています。
487年、阿閉臣事代(あへのおみことしろ)が天皇の命を受け、任那(みまな 朝鮮半島南部の地名)に赴いた際、月神の神がかりがあったのだそう。
「われは月の神。土地を奉納せよ、そうすればよきことがあるだろう」
都に戻り、天皇に報告すると、天皇は壱岐の県主であった押見宿禰に命じ、壱岐の月の神を京都の嵐山に分霊させ、松尾大社の隣に祀ったといいます。これが次に紹介する月読神社です。
【月讀神社】
所在地:長崎県壱岐市芦辺町国分東触464番地
月神の神託によって、壱岐の月讀神社から分祠された松尾大社の摂社。この月読神社、京都で最も古い神社ともいわれています。
神功皇后にゆかりのある「月延の石(つきのべのいし)」が祀られていることから、安産守護の神様として知られます。身重でありながら三韓征伐に出兵した神功皇后は、月神の導きで臨月を迎えた際に石を腹に巻き、出産時期を遅らせたといいます。そして帰還したのち、無事、応神天皇を出産しました。
境内にある身延の石は、その神功皇后が身につけた石が3つに分かれたうちのひとつとされています。
【月読神社】
所在地:京都府京都市西京区松室山添町15
正宮に次ぐ別宮である月読宮。内宮域外別宮では最高位の別宮です。内宮と外宮のちょうど中間あたり、御幸道路沿いにあります。
住宅街の一角にありますが、鳥居をくぐると、静謐な木立の中を参道が長く続きます。
月読宮に祀られているのは、
の四神。ツクヨミの温和で穏やかな霊力の和魂(にぎみたま)と勇猛でアクティブな霊力荒御魂(あらみたま)、そしてツクヨミの両親神イザナギ・イザナミも祀られています。
四宮が連なって建つのはとてもめずらしく、鎮座するさまは壮観です。月読尊の社殿は、鳥居も合わせて他の三宮よりひとまわり大きく造られていますよ。違いがわかるでしょうか?
ここでは、月読宮→月読荒御魂宮→伊佐奈岐宮→伊邪奈弥宮の順で参拝します。
【伊勢神宮 皇大神宮 別宮:月読宮】
所在地:三重県伊勢市中村町742-1
伊勢神宮外宮の別宮、月夜見宮です。外宮域外の唯一の別宮。伊勢市の真ん中、伊勢市駅にほど近い場所にもかかわらず、域内に入ると楠や欅など、樹齢数百年という大木が聳え、神域独特の静けさに包まれます。
手水舎の脇にあるまるで両腕を広げるようにどっしりとした大楠も有名です。
豊受大神宮の北御門から一直線、月夜見宮まで300mほどの細道が続いています。
「神路通り(かみぢどおり)」と呼ばれるこの道を、ツクヨミは、宮の石垣の石が姿を変えた白馬に乗って、夜な夜な豊受大神宮に通うと伝わります。
そこで人々は、夜はこの道を避けて通るのだそう。やむをえず通る場合は、ツクヨミが通る真ん中を避け、端を歩くのだといいます。この神路通りの中心には、色を変えて線が引かれています。
この道沿いの家は、道に面した側には厠をつくらない、という言い伝えがあったとか。またこの道を白い馬が歩くのを見た、という人も。
【伊勢神宮(豊受大神宮 外宮):月夜見宮】
所在地:三重県伊勢市宮後1-3-19
どこか神秘的で、私たちの暮らしのなかでさまざまな力となってくれるツクヨミ。岩座では、ツクヨミをモチーフにした商品を扱っております。
まるで月の結晶を覗き込むかのような、神秘的な雰囲気を持つブレスレット。
白色のようにも見えますが、虹を包み込んだかのようなレインボームーンストーンは、見る角度や入る光によってさまざまに変わる表情が魅力です。
レインボームーンストーンの石言葉は「愛の予感」「幸福」。月のような静かな力で感情を整え、持つ人の秘められた力や直感力を引き出してくれるといわれています。
また明るく温かな波動も持ち合わせており、バランスを整え、からだも心も健やかにそっと導いてくれるお守りになりそうです。
お皿の上に小さく真っ白なお山のように塩を盛る盛り塩。
ちょうど手のひらに乗る大きさ、どこかひんやりとした三日月が小さく描かれたお皿です。これから盛り塩を始める方にもちょうどよい、どこにでもすんなりと小さく馴染んでくれるシンプルなデザインです。
盛り塩は穢れや邪気を家に持ち込まず、運気を上げる力があるとして、この国に古くから伝わる風習。気軽に暮らしに取り入れられるお浄めとして、また精神の浄化のためにも、今取り入れる人が増えています。
盛り塩は対にして置くことで、結界を張る、という意味も持ちます。玄関や窓辺などには、対にして置くことをおすすめします。
灯りのない、真っ暗な夜を静かに照らして導いてくれる月。古の人々は、どんな心持ちで月を見上げて暮らしていたのでしょう。
三貴子でありながら、日本の神話にはあまり登場せず、ちょっと影が薄い神様ツクヨミ。そして、現代の私たちが見上げる回数もやっぱり少し、少なくなっていた月。月の神ツクヨミは私たちの暮らしのあらゆる場面で、実はしっかりと深く関わっていました。
そして月は今夜も静かに、私たちをちょっとだけその引力で引っ張り上げてくれているのです。さて、今夜は、どんな月かな?
私たちの暮らしの「はじまりの物語」を知ることができる、日本神話の世界。
今回ご紹介するのは、月と夜の世界を統治する神様、月読命(ツクヨミ)です。
天照大御神やスサノオと共に生まれ、八百万の神の中でも最も尊いとされる、三貴子(みはしらのうずのみこ)の一柱です。ただ他の二柱に比べると、祀られる神社もとても少なく、どこかひそやかで、ちょっと地味な印象。
でも実は、私たちの日々の暮らしにとても強く結びつきのある神様のようですよ。
私たちが口にしている食べ物、暦、占い、人の体のリズムにも関わる不思議な力。
月読命、いったいどんな神様なのか知りたくなりませんか?
日本の神様を紹介しているシリーズはこちら
目次
ツクヨミとはどんな神様?
月夜見尊(ツクヨミノミコト『日本書紀』)
(内宮:月読宮、外宮:月夜見宮)
暮らしに深く関わる?ツクヨミとは
太陽を司る天照大御神と相対し、どこかひそやかな印象を持ち、あまり知られていないツクヨミ。
実は、私たちの日常にもかなり関わりのある神様のようです。
暦を数える神?
ツクヨミの「月を読む」とは、月齢を数えるという意味を持ちます。そこから、暦を司る神といわれています。
日本にはじめに伝わり、古の時代からこの国に根付いた「太陰暦」は、月の満ち欠けに基づいて、1ヶ月を定めた月を読む暦。
新月を月のはじまり1日とし、次の新月がまた新たな月のはじまりという読み方です。
人々は日々月を見上げ、その形、見える時間や高さから、日付を認識していました。1月、2月の「月」はその名残りともいえます。
今の私たちが用いているのは、地球が太陽を一周する周期を1年とした「太陽暦」。
この暦は西洋にならい、明治のはじめに太陰暦から改暦されたものです。
暦はまた、さまざまな要素も織り交ぜて、日にちや時間の吉凶などその時の運の流れをみる、占いの要素も持ち合わせています。
そのことから、ツクヨミは占いの神様ともいわれているのです。
また「月」から、ツキを呼び込んでくれる神様ともいわれています。
潮の満ち引きは月の力!
地球は、常に月の引力を受けています。
その引力を私たちが普段感じることはありませんが、目に見えてよくわかるのが、海の潮の満ち引き。1日に2回、満潮と干潮を迎えます。
これは、月の引力で海水が引っ張られて起こる現象です。
この引力はもちろん陸地にも作用していて、私たちは気づいていないものの、実は大潮の時には地面も数十cmほど盛り上がるといいます。
海の生物にも影響する『潮の変化』
よく映像で見かける神秘的なサンゴの産卵。
サンゴは、受精卵をできるだけ遠くまで運ぼうと、潮が大きく動く満月の日を選んで産卵するのだといいます。
月の引力による満潮・干潮、そこに太陽の引力も加わった大潮・小潮は、広大な海をまるで何か大きな力でそおっと動かしているように感じられます。
昔の人々はこの現象を、どんな畏れを抱き、不可思議な思いで見つめていたのでしょうか。
海を大きく動かす潮の満ち引き、ツクヨミは漁業や海上の安全を司る神でもあります。
月が関わる不老不死の伝説
月は古より不老不死の力があると信じられてきました。
新月、全く見えなくなった月が少しずつ甦り、やがて満月となる。そしてまた次第に細く消えていく。
月の満ち欠けするさまは、古の人々にとって、まるで一度死んで甦る姿を見るような、神秘的なものだったに違いありません。
最も尊い神三貴子の一柱とされながら、記紀ではあまりにも影がうすいツクヨミ。
万葉集にはツクヨミを詠んだ歌がいくつか収められています。
その中には、ツクヨミが持つとされている、「変若水(おちみず)」という若返りの水の歌がいくつかあります。
天橋(あまはし)も 長くもがも 高山も 高くもがも
月夜見の 持てる越水
い取り来て 君に奉りて をち得てしかも
作者未詳
意訳:
天にかかる梯子がもっと長かったらいいのに、あの高い山ももっと高かったらいいのに、
それならば天に昇り、月の神が持つという若変水(をちみず)を取ってきて、
あなたに差し上げて、若返らせられるのに
このように、月は永遠の命を持つものとして崇められてきました。
これは、日本だけでなく、他の国でもそのように考えられてきたようです。
日本では餅をついているといわれている月の兎、中国では不老不死の仙薬をついているといわれていますよ。
農耕の神ともいわれる?
今も昔も、農耕にとって暦を読むことは非常に重要なこと。ツクヨミは農耕を司るともいわれます。
一年を周期として、自然と作物のリズムを合わせ、適期に決まった作業をする農耕は、暦が大切な指標となります。
古の人々は、月の満ち欠けを読んで、種まきや刈り取りの時期の目安としていたのです。
また、農耕神と呼ばれることにはもうひとつの理由もあります。
それは後ほど詳しく。
ツクヨミは三貴子の一柱なのに?!
このツクヨミ、八百万の神の中でも最も尊いといわれる三柱の一柱。
それなのに、他の二柱に比べると、どうも認知度が低いようですね。
イザナギが黄泉の国から逃れ、黄泉の穢れを祓う禊をした際、身につけていたものを外し、体を濯ぐと、多くの神が成りました。
そして最後に顔を濯いだ際に誕生したのが、「三貴子(みはしらのうずのみこ)」です。
●右目…天照大御神 太陽の神 高天原を治める
●左目…ツクヨミ 月の神 夜の世界を治める
●鼻…スサノオ 海原を治める
「わたしはずいぶんたくさん子どもを産んだが、終いに尊い3人の御子を授かった」と、イザナギはその三柱の誕生を大いに喜んだといいます。
天照大御神は言わずと知れたこの国の最高神、最も広く知られた神様です。
またスサノオも暴風雨を司り、乱暴者とされるものの、ヤマタノオロチを退治し、出雲国の国造りに貢献した英雄として知られています。
ツクヨミは、古事記ではこの誕生の場面のみ。
そして日本書紀でも、ひどい神だと天照大御神を怒らせてしまう、そんなエピソードにちょっと登場するだけ。
では、天照大御神を怒らせてしまうという、日本書紀に描かれたエピソードもみてみましょう。
ツクヨミがきっかけ?食物起源説
日本書紀でツクヨミが登場するのは、私たちが暮らしの中で口にする、穀類など食物が誕生する様子が描かれている重要な場面です。
実は、ツクヨミは食物起源説に大きく関わっているのです。
あるとき、天上を治めることになった天照大御神が、ツクヨミにこう言いました。
「葦原中国(あしはらのなかつくに)に保食神(ウケモチ)がいると聞きます。ツクヨミ、行ってその様子を見てきなさい」
そこでツクヨミが保食神の元を訪れると、保食神は歓待したといいます。
そしてツクヨミをもてなすため、たくさんの食べ物を出すのですが…。
保食神が陸の方を向くと米が、海を向くとさまざまな魚が、そして山の方を向くと獣が、次々と保食神の口から溢れ、机の上を埋め尽くしたといいます。
その様子を見たツクヨミは、
「なんと穢らわしい、口から出したものをわたしに差し出すとは」と怒り、剣を抜いて保食神を切り殺してしまいます。
ツクヨミが天上に戻り、ことの詳細を天照大御神に報告しました。
天照大御神は大いに怒り、「お前はひどい神だ、もう会うことはあるまい」と、ツクヨミに告げます。
天照大御神が天熊人(アマノクマヒト)を遣わして様子を見に行かせたところ、保食神はすでに死んでいました。
ただ、その体からはさまざまな食物が生まれていたといいます。
●頂(頭のてっぺん)…牛や馬
●顱(額)…粟
●眉…蚕
●眼…稗(ヒエ)
●腹…稲
●陰(性器)…麦や大豆、小豆
この食物をすべて持ち帰ると、天照大御神は喜び、
「これこそが、この世界の者たちが、食べて生きていくべきものである」と、粟・稗・麦・豆を畑の種として、また稲を水田の種とし、人々の主食として定めたといいます。
これが、これが、神話が伝える穀物の始まり。そしてツクヨミが農耕神ともいわれるもう一つの理由です。
そして、この時から、天照大御神とツクヨミ、太陽と月は、昼と夜別の世界に住むようになったといいます。
誰も見たことがない?三種の神器とは
三種の神器という言葉をよく耳にしますが、どんなものかご存じですか?
日本神話の中では、天孫降臨の際に天照大御神が瓊瓊杵尊(ニニギ)に授けたとされる、三つの宝物のこと。
正当な皇位継承の証とされ、歴代の天皇に引き継がれてきました。
天皇でも目にすることが許されておらず、誰も目にしたことがないと伝わります。
そして、この三種の神器は三貴子を象徴しているともいわれています。
この三種の神器のうち八咫鏡と草薙剣には、形代(かたしろ)という、実物と一体不可分である、神霊が依り憑く特別な「うつし」があります。
宮中にあるのは、2つの形代と勾玉の実物。
天皇の即位式や新嘗祭などの重要な場面でも、形代が用いられています。
三種の神器の所在
三種の神器のひとつ草薙剣は、出雲国で次々と娘たちをさらったという化け物ヤマタノオロチを退治した際、その尾からスサノオが取り出したと伝わります。
このヤマタノオロチ伝説についてはぜひこちらをどうぞ。
ツクヨミをお祀りしている神社
記紀での記述と同じく、全国のツクヨミを祀る神社も極端に数が少ないことで知られています。
■出羽三山神社(月山神社)
山形県鶴岡市、羽黒山・月山・湯殿山の三山を総称し、出羽三山の名で知られています。
この三山は古くから山岳信仰の対象であり、修験道の山として知られてきました。
羽黒山は現世、月山は前世、湯殿山は来世を象徴するとされ、三山を巡ることは、すなわち「生まれ変わりの旅」であるともいわれています。
三山の神が祀られた三神合祭殿があるのは、羽黒山の山頂、出羽三山神社。
そして出羽三山のなかでツクヨミが祀られているのは、日本百名山として知られる月山の頂上、月山神社です。月山神社は標高1984mにあり、参拝するには登山装備が必要。
月山の開山期間は7月から9月中旬の短い期間で、この期間中には希少な高山植物が咲き乱れる様子や美しい紅葉も楽しめます。また、山頂は遠く日本海まで見渡せる絶景ポイントです。
月山神社本宮内は古来より特別な神域とされており、撮影は禁止。
参詣する人は必ずお祓いを受けることが定められています。
月の使いである兎の年、卯年はご縁年といわれ、この年に参拝すると12年分のご利益があるともいわれていますよ。
【出羽三山神社】
所在地:山形県鶴岡市羽黒町手向字手向7
【月山神社 本宮】
所在地:山形県東田川郡庄内町立谷沢字本澤31
■月讀神社
ご祭神は月読命・月夜見命・月弓命。
全国にある月讀神社の総本山といわれている神社です。
もともと壱岐の豪族である壱岐氏が、航海の安全を祈るためにお祀りしたとされています。
487年、阿閉臣事代(あへのおみことしろ)が天皇の命を受け、任那(みまな 朝鮮半島南部の地名)に赴いた際、月神の神がかりがあったのだそう。
「われは月の神。土地を奉納せよ、そうすればよきことがあるだろう」
都に戻り、天皇に報告すると、
天皇は壱岐の県主であった押見宿禰に命じ、壱岐の月の神を京都の嵐山に分霊させ、松尾大社の隣に祀ったといいます。
これが次に紹介する月読神社です。
【月讀神社】
所在地:長崎県壱岐市芦辺町国分東触464番地
■月読神社
月神の神託によって、壱岐の月讀神社から分祠された松尾大社の摂社。
この月読神社、京都で最も古い神社ともいわれています。
神功皇后にゆかりのある「月延の石(つきのべのいし)」が祀られていることから、安産守護の神様として知られます。
身重でありながら三韓征伐に出兵した神功皇后は、月神の導きで臨月を迎えた際に石を腹に巻き、出産時期を遅らせたといいます。そして帰還したのち、無事、応神天皇を出産しました。
境内にある身延の石は、その神功皇后が身につけた石が3つに分かれたうちのひとつとされています。
【月読神社】
所在地:京都府京都市西京区松室山添町15
■伊勢神宮(皇大神宮 内宮):月読宮
正宮に次ぐ別宮である月読宮。内宮域外別宮では最高位の別宮です。
内宮と外宮のちょうど中間あたり、御幸道路沿いにあります。
住宅街の一角にありますが、鳥居をくぐると、静謐な木立の中を参道が長く続きます。
月読宮に祀られているのは、
の四神。
ツクヨミの温和で穏やかな霊力の和魂(にぎみたま)と勇猛でアクティブな霊力荒御魂(あらみたま)、そしてツクヨミの両親神イザナギ・イザナミも祀られています。
四宮が連なって建つのはとてもめずらしく、鎮座するさまは壮観です。
月読尊の社殿は、鳥居も合わせて他の三宮よりひとまわり大きく造られていますよ。違いがわかるでしょうか?
ここでは、月読宮→月読荒御魂宮→伊佐奈岐宮→伊邪奈弥宮の順で参拝します。
【伊勢神宮 皇大神宮 別宮:月読宮】
所在地:三重県伊勢市中村町742-1
■伊勢神宮(豊受大神宮 外宮):月夜見宮
伊勢神宮外宮の別宮、月夜見宮です。外宮域外の唯一の別宮。
伊勢市の真ん中、伊勢市駅にほど近い場所にもかかわらず、域内に入ると楠や欅など、樹齢数百年という大木が聳え、神域独特の静けさに包まれます。
手水舎の脇にあるまるで両腕を広げるようにどっしりとした大楠も有名です。
豊受大神宮の北御門から一直線、月夜見宮まで300mほどの細道が続いています。
「神路通り(かみぢどおり)」と呼ばれるこの道を、ツクヨミは、宮の石垣の石が姿を変えた白馬に乗って、夜な夜な豊受大神宮に通うと伝わります。
そこで人々は、夜はこの道を避けて通るのだそう。やむをえず通る場合は、ツクヨミが通る真ん中を避け、端を歩くのだといいます。
この神路通りの中心には、色を変えて線が引かれています。
この道沿いの家は、道に面した側には厠をつくらない、という言い伝えがあったとか。またこの道を白い馬が歩くのを見た、という人も。
【伊勢神宮(豊受大神宮 外宮):月夜見宮】
所在地:三重県伊勢市宮後1-3-19
神秘的な月の力を味方につけて
どこか神秘的で、私たちの暮らしのなかでさまざまな力となってくれるツクヨミ。
岩座では、ツクヨミをモチーフにした商品を扱っております。
天然石 神様ブレスレット
まるで月の結晶を覗き込むかのような、神秘的な雰囲気を持つブレスレット。
白色のようにも見えますが、虹を包み込んだかのようなレインボームーンストーンは、見る角度や入る光によってさまざまに変わる表情が魅力です。
レインボームーンストーンの石言葉は「愛の予感」「幸福」。
月のような静かな力で感情を整え、持つ人の秘められた力や直感力を引き出してくれるといわれています。
また明るく温かな波動も持ち合わせており、バランスを整え、からだも心も健やかにそっと導いてくれるお守りになりそうです。
神話盛り塩皿
お皿の上に小さく真っ白なお山のように塩を盛る盛り塩。
ちょうど手のひらに乗る大きさ、どこかひんやりとした三日月が小さく描かれたお皿です。
これから盛り塩を始める方にもちょうどよい、どこにでもすんなりと小さく馴染んでくれるシンプルなデザインです。
盛り塩は穢れや邪気を家に持ち込まず、運気を上げる力があるとして、この国に古くから伝わる風習。
気軽に暮らしに取り入れられるお浄めとして、また精神の浄化のためにも、今取り入れる人が増えています。
盛り塩は対にして置くことで、結界を張る、という意味も持ちます。玄関や窓辺などには、対にして置くことをおすすめします。
私たちが月を見上げるとき
灯りのない、真っ暗な夜を静かに照らして導いてくれる月。
古の人々は、どんな心持ちで月を見上げて暮らしていたのでしょう。
三貴子でありながら、日本の神話にはあまり登場せず、ちょっと影が薄い神様ツクヨミ。
そして、現代の私たちが見上げる回数もやっぱり少し、少なくなっていた月。
月の神ツクヨミは私たちの暮らしのあらゆる場面で、実はしっかりと深く関わっていました。
そして月は今夜も静かに、私たちをちょっとだけその引力で引っ張り上げてくれているのです。
さて、今夜は、どんな月かな?