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まもなくオクトーバーフェストの時期。オクトーバーフェストには行けなかったものの、ドイツの伝統的なビアホールで特別な体験をしてきました。
巨大なジョッキのビール、白ウインナーの正しい食べ方、親切すぎる音楽隊、そしてちょっと不機嫌なフリフリ衣装のスタッフ…。今回はビアホールのお話です。
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ドイツ旅行の楽しみといえば、やっぱりビール。「オクトーバーフェスト」という世界的に有名なビールの祭典が開催される国なのだから、そのおいしさは折り紙付きです。日本では見たこともないような巨大ジョッキに並々と注がれたビールを想像するだけで、涎が出てきてしまいます。
本当はオクトーバーフェストに行きたかったものの、時期が少しずれていたため叶いませんでした。その代わりに訪れたのは、伝統的なビアホールです。木の床、天井から吊るされたシャンデリア、響き渡る生演奏、たくさんの人がビールを楽しむ空間に足を踏み入れた瞬間、私の心は弾みました。
入口はコレといった特徴のないものでした。レンガと木の扉の造りは一見するとレストランの入口にも見えましたが、何の装飾もない木製の扉を前に、一瞬迷いました。
想像の中ではドイツの伝統衣装を纏った若い女性やおじいさんが出迎えてくれていました。でもここの扉は固く閉じています。中の様子は全く分からない状況。「ここが本当にビアホール?」と。でもここまで来たのだからと、グッと力を込めました。
予想よりずっと分厚い木の扉を開くと、そこはまるで巨大な洞窟でした。仕切りのない一つの大広間に、何十人もの人が座れる木製の長テーブルが並んでいます。
ビールを飲む人の熱気、ザワザワした話し声、軽快なドイツの民族音楽…それら全てが、高い天井や木の床に反響しています。洞窟に迷い込んだ気分です。本場の雰囲気に圧倒されました。
圧倒されていると、ドイツの伝統衣装を着た美しい女性が「席まで案内します!」と駆け寄ってきました。濃いめのメイクとフリフリの衣装は少しアンバランスでしたが、違和感を打ち消すほど、彼女の顔は整っていました。
女性に連れられてホールを歩きます。見たこともないほど長い木のテーブルが何列も並んでいました。そのテーブル席はどこもぎっしり埋まっていて、楽しそうにビールを飲む姿はまるで大きな家族のようでした。「あなたの席はここよ」と先ほどの女性がニコやかに告げます。嬉しいことに、ステージのすぐ傍の席でした。
メニューはドイツ語と英語のみでした。悩んでいると、年配の女性がやってきて「注文は?」と威圧的に尋ねます。彼女もやはりフリフリの衣装を着ていますが、忙しいからでしょうか、不機嫌な顔です。
その日、私は現地の安宿で出会ったアジア人と一緒に来ていました。人数は6人。全員がフルサイズのビールを注文すると、なぜか彼女の態度は軟化しました。両腕にジョッキ6個を持ってテーブルにやってきたのです。日本で見る「特大」と同等かそれ以上の大きさで、手に持つとズッシリかなりの重みがあります。
一個でも重いのに、彼女は6個も一度に運んできました。周りを見渡すと、あっちでも、こっちでも、女性たちが特大サイズのジョッキを一度に4〜6個抱えてサーブしています。それは曲芸レベルの技術でした。
ビールは期待以上のおいしさでした。黄金色に輝く液体とゆらゆら揺れる泡を見ているだけで、うっとりします。
やがてテーブルに注文した料理が運ばれてきました。私が選んだのはドイツの伝統的なウインナー・ヴァイスヴルストです。真っ白なお皿に、パンパンに腸詰されたヴァイスヴルストが一本、運ばれてきました。
ナイフとフォークでお上品に食べていると、突然「待って」と声をかけられました。振り向くと、先ほどまでステージで音楽を奏でていたおじいさんです。「ステージから見えてたよ。そんな食べ方ダメ!」と言い、器用にヴァイスヴルストの皮を剥いていきます。最後に「皮は食べ物じゃないよ」と告げると、ウインク。
目から鱗でした。間違った食べ方でも充分おいしかったのですが、皮を剥いて食べたらさらに美味でした。ジューシーで肉肉しい、でも口の中でふわっと溶けていきます。今までの人生で、ウインナーを皮を剥いて食べたことはありませんでしたが、この方法だと口の中に皮が残りません。ドイツ人に教わった正しいウインナーの食べ方は、まさに絶品でした。
ビアホールの会計方法は独特で、飲食した分をテーブルごとに計算するシステムです。しかし、呼んでも呼んでもスタッフは来ません。
「全然来ないし、もう出ようか」
「このお金どうしよう?」
「テーブルに置くのは不用心じゃない?」
私たちは席を立ち、入口付近にいた優しそうな女性スタッフに「お金はテーブルに置いてあります」と伝えることにしました。少しでも不用心にならないよう、食器でお金を軽く隠して歩きます。
すると、注文を受けた年配の女性スタッフが物凄い剣幕でやってきました。理解できないドイツ語で罵倒されます。無銭飲食を疑われているのだと分かったので、「お金はテーブルにある、見て!」と応戦します。彼女はお金を確認するも、まだ怒りが治まらない様子で奥へ下がっていきました。
罵倒は悲しいものでしたが、一人芝居を見ているような不思議な気分でもありました。こちらは6人。人数の問題もあったのかも知れません。また入口にいた美しい女性スタッフが呆気にとられていたのも一つのポイントでした。彼女とオーナーらしき男性が丁寧に見送ってくれたおかげで、少し気分が落ち着きました。
憧れのオクトーバーフェストには行けなかったものの、ドイツの伝統的なビアホールでの体験は私にとってかけがえのないものとなりました。
白ウインナーの正しい食べ方を教えてくれた音楽家、曲芸のようなビール運び、フリフリ衣装なのに終始不機嫌なスタッフ、洞窟のような雰囲気、ガヤガヤ、熱気…すべてが素敵な思い出です。
間もなく10月。オクトーバーフェストの季節です。もし時間があるのなら是非本場ドイツのオクトーバーフェストへ、日本でも各地でオクトーバーフェストは開催されているので、ぜひ足を運んでみて欲しいなと思っています。日本の居酒屋とは異なるドイツ独特のビール文化を、きっと体感してもらえると思います。
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大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
まもなくオクトーバーフェストの時期。オクトーバーフェストには行けなかったものの、ドイツの伝統的なビアホールで特別な体験をしてきました。
巨大なジョッキのビール、白ウインナーの正しい食べ方、親切すぎる音楽隊、そしてちょっと不機嫌なフリフリ衣装のスタッフ…。今回はビアホールのお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
ビールのおいしい国ドイツ
ドイツ旅行の楽しみといえば、やっぱりビール。「オクトーバーフェスト」という世界的に有名なビールの祭典が開催される国なのだから、そのおいしさは折り紙付きです。
日本では見たこともないような巨大ジョッキに並々と注がれたビールを想像するだけで、涎が出てきてしまいます。
本当はオクトーバーフェストに行きたかったものの、時期が少しずれていたため叶いませんでした。
その代わりに訪れたのは、伝統的なビアホールです。木の床、天井から吊るされたシャンデリア、響き渡る生演奏、たくさんの人がビールを楽しむ空間に足を踏み入れた瞬間、私の心は弾みました。
伝統的なビアホールへ
入口はコレといった特徴のないものでした。
レンガと木の扉の造りは一見するとレストランの入口にも見えましたが、何の装飾もない木製の扉を前に、一瞬迷いました。
想像の中ではドイツの伝統衣装を纏った若い女性やおじいさんが出迎えてくれていました。でもここの扉は固く閉じています。中の様子は全く分からない状況。
「ここが本当にビアホール?」と。でもここまで来たのだからと、グッと力を込めました。
予想よりずっと分厚い木の扉を開くと、そこはまるで巨大な洞窟でした。
仕切りのない一つの大広間に、何十人もの人が座れる木製の長テーブルが並んでいます。
ビールを飲む人の熱気、ザワザワした話し声、軽快なドイツの民族音楽…それら全てが、高い天井や木の床に反響しています。洞窟に迷い込んだ気分です。本場の雰囲気に圧倒されました。
両手に6個のビアジョッキ
圧倒されていると、ドイツの伝統衣装を着た美しい女性が「席まで案内します!」と駆け寄ってきました。濃いめのメイクとフリフリの衣装は少しアンバランスでしたが、違和感を打ち消すほど、彼女の顔は整っていました。
女性に連れられてホールを歩きます。見たこともないほど長い木のテーブルが何列も並んでいました。そのテーブル席はどこもぎっしり埋まっていて、楽しそうにビールを飲む姿はまるで大きな家族のようでした。
「あなたの席はここよ」と先ほどの女性がニコやかに告げます。嬉しいことに、ステージのすぐ傍の席でした。
メニューはドイツ語と英語のみでした。
悩んでいると、年配の女性がやってきて「注文は?」と威圧的に尋ねます。彼女もやはりフリフリの衣装を着ていますが、忙しいからでしょうか、不機嫌な顔です。
その日、私は現地の安宿で出会ったアジア人と一緒に来ていました。人数は6人。
全員がフルサイズのビールを注文すると、なぜか彼女の態度は軟化しました。両腕にジョッキ6個を持ってテーブルにやってきたのです。
日本で見る「特大」と同等かそれ以上の大きさで、手に持つとズッシリかなりの重みがあります。
一個でも重いのに、彼女は6個も一度に運んできました。
周りを見渡すと、あっちでも、こっちでも、女性たちが特大サイズのジョッキを一度に4〜6個抱えてサーブしています。それは曲芸レベルの技術でした。
ドイツ人に教わる正しいウインナーの食べ方
ビールは期待以上のおいしさでした。黄金色に輝く液体とゆらゆら揺れる泡を見ているだけで、うっとりします。
やがてテーブルに注文した料理が運ばれてきました。私が選んだのはドイツの伝統的なウインナー・ヴァイスヴルストです。真っ白なお皿に、パンパンに腸詰されたヴァイスヴルストが一本、運ばれてきました。
ナイフとフォークでお上品に食べていると、突然「待って」と声をかけられました。振り向くと、先ほどまでステージで音楽を奏でていたおじいさんです。
「ステージから見えてたよ。そんな食べ方ダメ!」と言い、器用にヴァイスヴルストの皮を剥いていきます。最後に「皮は食べ物じゃないよ」と告げると、ウインク。
目から鱗でした。間違った食べ方でも充分おいしかったのですが、皮を剥いて食べたらさらに美味でした。ジューシーで肉肉しい、でも口の中でふわっと溶けていきます。
今までの人生で、ウインナーを皮を剥いて食べたことはありませんでしたが、この方法だと口の中に皮が残りません。ドイツ人に教わった正しいウインナーの食べ方は、まさに絶品でした。
無銭飲食の扱い?激怒されるアジア人
ビアホールの会計方法は独特で、飲食した分をテーブルごとに計算するシステムです。
しかし、呼んでも呼んでもスタッフは来ません。
「全然来ないし、もう出ようか」
「このお金どうしよう?」
「テーブルに置くのは不用心じゃない?」
私たちは席を立ち、入口付近にいた優しそうな女性スタッフに「お金はテーブルに置いてあります」と伝えることにしました。
少しでも不用心にならないよう、食器でお金を軽く隠して歩きます。
すると、注文を受けた年配の女性スタッフが物凄い剣幕でやってきました。理解できないドイツ語で罵倒されます。
無銭飲食を疑われているのだと分かったので、「お金はテーブルにある、見て!」と応戦します。彼女はお金を確認するも、まだ怒りが治まらない様子で奥へ下がっていきました。
罵倒は悲しいものでしたが、一人芝居を見ているような不思議な気分でもありました。
こちらは6人。人数の問題もあったのかも知れません。また入口にいた美しい女性スタッフが呆気にとられていたのも一つのポイントでした。
彼女とオーナーらしき男性が丁寧に見送ってくれたおかげで、少し気分が落ち着きました。
飲んで知るドイツのビール文化
憧れのオクトーバーフェストには行けなかったものの、ドイツの伝統的なビアホールでの体験は私にとってかけがえのないものとなりました。
白ウインナーの正しい食べ方を教えてくれた音楽家、曲芸のようなビール運び、フリフリ衣装なのに終始不機嫌なスタッフ、洞窟のような雰囲気、ガヤガヤ、熱気…すべてが素敵な思い出です。
間もなく10月。オクトーバーフェストの季節です。
もし時間があるのなら是非本場ドイツのオクトーバーフェストへ、日本でも各地でオクトーバーフェストは開催されているので、ぜひ足を運んでみて欲しいなと思っています。
日本の居酒屋とは異なるドイツ独特のビール文化を、きっと体感してもらえると思います。
関連記事
世界の絶景と称されるお城に訪れる▼
ドイツはどんな乾杯文化?▼
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel