「眠れる森の美女の城」のモデルになったドイツのノイシュバンシュタイン城に潜む狂気

おとぎ話に出てくる夢のような白亜のお城。ノイシュバンシュタイン城。
深い森に抱かれたこの美しいお城には狂王ルートヴィッヒ2世の心の闇が潜んでいました。

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「眠れる森の美女の城」のモデル

カリフォルニアとパリのディズニーランドの「眠れる森の美女のお城」のモデルとして知られるドイツのノイシュバンシュタイン城。
深い森の中に白亜の城壁がそびえ立つその姿は、誰もが思い描く「完璧なお城」そのものです。

問題なのはアクセス方法。深い森の中にそびえ立つお城なだけあって、アクセスは不便そのもの。電車とバスを乗り継いだり、ツアーバスを予約したりしなければならず、どこかのついでに立ち寄るという訳には行きません。

「ドイツに行ったら、ノイシュバンシュタイン城にはどうしても行きたい!」と長年思っていましたが、アクセスの悪さから一度は断念。2回目のドイツ訪問時にやっと訪れることができました。

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馬車に揺られてノイシュバンシュタイン城へ

「今回こそは!」そう意気込んでいた私は、ミュンヘンからの日帰りツアーを利用することにしました。
さまざまなツアーが出ていましたが、私が選んだのは往復バスの座席シートが約束されただけのシンプルなもの。ツアーという名の往復バスです。

ノイシュバンシュタイン城は一大観光地なので、ゾロゾロ団体で歩くより一人で自由気ままに巡りたい。でも帰りのバスの心配もしたくない。何もない辺鄙な場所で帰りのバスを逃したらマズイよね、という理由から選びました。

大都市のミュンヘンを出てバスはどんどん田舎町へ。右を見ても左を見ても自然しか目に入らなくなったころ、バスはお城の手前の村に到着しました。
ここからお城までは、約1.5キロ。お城の姿はまったく見えませんが、観光客が真っ直ぐに同じ方向へと歩いていくので私も人の流れに乗りました。

少し歩くと「お城はこっち」という案内板が出てきます。一安心ですが、お城まで30分という案内を見て落胆。お城の姿が見えない中で歩くため〝けっこう遠いなぁ〟という印象です。

狭くも広くもない一本道が、緩やかに続いていきます。無心になって歩いていると、パカラッ、パカラッと後ろから馬の蹄の音がしてきました。だんだん音が近付いてきます。振り返ると、2頭の馬と馬車が私に向かってかけてきます。
思わず〝ピュー〟と口笛を吹きたくなるような光景でした。世界で一番美しいお城まで馬車に乗って行く、なんて情緒ある旅でしょう。

そういえばお城の麓、村の出口付近に馬車の看板がありました。「あそこで待っていたら乗れたのかな?残念」なんて考えながら、駆け抜けていく馬車の後ろ姿を見つめます。期待が膨らみました。

馬車に揺られてノイシュバンシュタイン城へ

完璧な美しさに魅了されて

おとぎ話に出てくるような小道があり、一本道は右へ大きく曲がっています。
曲がった先で突然ノイシュバンシュタイン城が姿を現しました。それは〝こういう現れ方をするんだ!〟と興奮するほど劇的な出現でした。

白亜の城壁にブルーグレーの屋根。天に向かってそびえ立つ尖った塔。その姿は、私を一瞬で夢の中に引き込みました。
そこからは、目の前に現れたお城に夢見心地になりながら進みます。緩やかだった坂道が急に傾斜をあげましたが、それさえ気になりませんでした。

歩いて歩いて、気付いたら入口に到着していました。ノイシュバンシュタイン城は、遠くから見ても完璧な美しさを誇っていましたが、近くで見るとまた別の美しさを見せてくれる不思議なお城でした。

360度どこから見ても完璧に美しい姿だったので、道が曲がるたびに違う角度からお城を観察できて胸が高鳴りました。
でも、お城はどこか冷たい雰囲気がしました。閉ざされた美しさという言葉がピッタリ似合うお城。塔の一つにお姫様が幽閉されているんだよと言われたら納得してしまうような、他を寄せ付けない美しさに満ちていました。
優雅で、繊細で、美しい。けれど、その美しさにはどこか物悲しさが漂っています。

完璧な美しさに魅了されて

“狂王”ルートヴィヒ2世が描いた過剰な煌めき

お城の内部は外観からは想像もできないほど豪華なものでした。
いくつもある部屋のどれもがキラキラ(ギラギラ?)しています。どこか冷めたような美しさを放つ外観に対して、お城の内部は見せつけるような威圧的な豪華さでギュウギュウだったのです。
ヴェルサイユ宮殿の煌びやかな部分だけを選び取って、ギュっと凝縮したような過剰な空間。それは「ここってノイシュバンシュタイン城だよね?」と確認したくなるほどのギャップでした。

余りの豪華さにお腹いっぱい状態でお城を出ます。
ノイシュバンシュタイン城は〝狂王〟とも呼ばれたルートヴィヒ2世が建築したお城。改めてみると、分厚く巨大な城壁は、他者を絶対に寄せ付けないというルートヴィヒ2世の心を表現しているようにも思えました。
内と外とのアンバランスさは、狂王の精神状態を表しているのでしょうか?

過剰に豪華な空間に息苦しさを覚えた私は、再び城壁をグルグル散策することにしました。小さな窓の形まで整っていて、その洗練された美しさに再び見惚れます。
〝やっぱり外観の方が綺麗〟好みの問題もあるのでしょうが、私の中の美は外観を選んでいました。

帰路。バスの中にいた乗客は皆、遠ざかっていくノイシュバンシュタイン城を眺めていました。
深い森に抱かれるように佇む白亜のお城。バスが城から遠ざかるほどその情景は深まり、城の美しさが際立ちます。
誰もが一心不乱に城を見つめるのは少し異様で、でもノイシュバンシュタイン城にはそれだけの力がありました。

美しさの中に狂気を隠した唯一無二のお城、それが私が見たノイシュバンシュタイン城です。

R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel


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