【初心者向け】お経を唱える意味とは?お経の種類や宗派ごとに解説│マナーや世界のお経もご紹介

日本人の多くは仏教徒といわれています。葬儀でお経を聞いたことがある人、般若心経という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
とはいえ、お経や宗派については一般に知られていないことも多く、葬儀や法事ではなぜお経を聞く必要があるのか、お経は一体何を伝えるものなのか、どんな意味なのか疑問を抱えている人もいるはずです。

そこで、今回のコラムでは、お経の意味や種類、各宗派の特徴、お経を唱える意味などをていねいに解説していきます。

日本人として仏教やお経について正しい知識を身につけたい方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてくださいね。最後には日本以外の世界のお経についても紹介します。

お経とは?

お経とは仏教を興したお釈迦さま(本名:ゴータマ・シッダールタ)の教えを弟子たちがまとめたものです。
お経には人がお釈迦様の恵みやそのご利益、人間が生きていく上で守るべき教えなどが書かれています。さらに、お経にはいくつもの種類があります。

例えば、最も知名度が高いといわれている般若心経、浄土真宗や浄土宗で読まれる阿弥陀経、天台宗と日蓮宗で読まれる法華経が挙げられます。
またお経が書かれた本は、一般的には「経本」、正式には「経典」と呼ばれています。

日本のお経の由来と歴史

仏教の経典であるお経は仏教とともに中国や朝鮮半島を経由して日本に持ち込まれました。
日本に仏教が伝わったのは6世紀半ばといわれています。朝鮮半島南西部にあった古代国家百済の第26代の王である聖明王が仏像やお経などを欽明天皇に献上したのが始まりです。
この時期に伝わったお経は中国や朝鮮で整理されたテキストで、般若経や法華経といった漢訳された大乗仏教の経典が中心でした。

仏教は豪族や朝廷の間で国家の繁栄や災厄除けといった政治的な目的で受け入れられましたが、聖徳太子が仏教を推奨し保護したことで、お経の写経や読誦が国内に広く普及しました。さらに、奈良時代には多くの僧侶が中国に留学し、最新の仏教経典や宗派の教えを持ち帰りました。

こうした背景の中で、最澄の天台宗や空海の真言宗が成立し、各宗派が重視するお経が普及しました。
平安時代には浄土宗や浄土真宗が興り、阿弥陀経や無量寿経などのお経が庶民の間でも広く信仰されるようになります。特に、念仏と結びついたお経の読誦が普及しました。

お経を唱える意味と役割とは?何のために唱えるのか?

法事や葬儀などで、なぜお経が唱えられるのでしょうか。
お経は読誦することで故人を極楽浄土へと導く手助けをするため、葬儀で唱えられます。阿弥陀経や般若心経などには故人を苦しみから解放し、悟りや救済を願う内容が含まれています。また、仏教ではお経を唱える行為は徳を積む行為とされており、故人にその功徳を回向(えこう)することで、故人の罪業を軽減し、より良い来世を迎えられるとされています。

お経は葬儀以外の場でも唱えられることがあります。お経はお釈迦様の教えであり、唱えるだけでご利益があるためです。今を生きている人を救い、幸せに導くための教えでもあるため、唱えることで心の安定や幸せを得られます。

日本のお経を聞く際に気を付けることやマナーってある?

日本のお経を聞く際に気を付けることやマナーってある?

日本のお経を聞く際は宗教の教え、日本の文化的背景、故人や参列者への敬意に基づき、気を付けることやマナーがあります。

数珠をかけて合掌する

礼拝は読経前後の挨拶であり、仏に対する感謝の気持ちを表す行為です。礼拝は合掌した状態で、上体を45度にゆっくり傾け礼をします。お経の前後に僧侶から礼拝の合図をされることもありますが、礼拝の合図がない場合においても僧侶に続いて礼拝を行いましょう。

数珠をかけて合掌する

数珠を手に持って読経する宗派もあります。数珠には念仏の回数を数える役割があるためです。
また、数珠には心を落ち着ける効果があるともいわれています。数珠を持ち、雑念を払うことで、心が落ち着き、お経に集中しやすくなります。
なお、数珠の細やかな持ち方や種類は宗派ごとに異なりますが、読経を聞いている間は左手で持つのが一般的です。数珠を左手にかけた状態で両手を合わせてください。

読経は静かに拝聴する

お経を聞く際は仏の教えに心を寄せ、厳粛な気持ちを保ちます。
読経中は静かにするのがマナーです。私語を慎むのはもちろんのことで、電子機器の音が鳴らないように注意しなければなりません。読経が始まる前に、スマートフォンなどの電子機器の電源を切り、途中退室しないですむよう、トイレなどを済ませておいてください。

日本の代表的なお経 ―基本の4種―

日本には数多くのお経が存在しますが、日本の代表的なお経をいくつか見ていきましょう。

般若心経

般若心経(はんにゃしんぎょう)は、日本でもっとも知られているお経で、正式名称は般若波羅蜜多心経(はんにゃはらみったしんぎょう)といいます。葬儀や法要でも読誦されます。なお、般若心経は大乗仏教の「空(くう)」の思想を説いています。

般若心経の有名な一説

観自在菩薩かんじざいぼさつ 行深般若波羅蜜多時ぎょうじん はんにゃはらみった じ
照見五蘊皆空しょうけん ごうんかいくう 度一切苦厄どいっさいくやく

観自在菩薩(観音菩薩)が深い悟りの智慧を修行する時、五蘊(物質・感覚・思考・意志・意識の五つの要素)がすべて「空」(実体がない)であることを悟り、一切の苦しみから解放されたという意味があります。

阿弥陀経

阿弥陀経(あみだきょう)は浄土宗や浄土真宗で重視される仏教の経典の一つで、正式名称は仏説阿弥陀経(ぶっせつあみだきょう)といいます。
大乗仏教の浄土教の教えを簡潔に説いた経典で、阿弥陀仏の名号を唱え、信仰心を持って念仏することで、誰でも極楽浄土に往生できると説かれています。

阿弥陀経の有名な一説

舎利弗しゃりほつ若有善男子、善女人もしぜんなんし・ぜんにょにんありて聞説阿弥陀仏あみだぶつをせつくことをきき
執持名号みょうごうをじじし若一日もし いちにち若二日もし ににち若三日もし さんにち若四日もし よんにち
若五日もし ごにち若六日もし ろくにち若七日もし しちにち一心不乱いっしんふらんにすれば
其人臨命終時そのひと、みょうじゅうのときにのぞみて阿弥陀仏与聖衆あみだぶつ、しょうじゅうとともに现其人前そのひとのまえにあらわれ
是人終時このひと、おわるときに心不顛倒こころてんとうせず即得往生阿弥陀仏極楽国土すなわち あみだぶつのごくらくこくどにおうじょうすることをえ

ここでは、一心不乱に念仏を唱えることで、命が終わるときに阿弥陀仏と聖衆が目の前に現れ、極楽浄土に往生できるという浄土宗の核心的な教えが説かれています。

法華経

法華経(ほけきょう)は日本において天台宗や日蓮宗の根本経典とされており、正式名称は妙法蓮華経
(みょうほうれんげきょう)
といいます。全28品(章)からなるこの経典では釈迦がすべての衆生に悟り(仏性)があり、誰もが仏になれる可能性があると説いています。

法華経の有名な一説

我本われ もと 行菩薩道ぼさつどうを ぎょうじ
所成寿量しょせい じゅりょう猶未尽いまだ つくせず更倍以上さらには ばい いじょうなり
然今しかれども いま 非実滅度じつ めつどにあらず
但以方便ただ ほうべんをもって示滅度耳めつどを しめす のみ

釈迦は永遠の存在であり、衆生を救うために常に活動していることを説明しています。釈迦は一時的にこの世を去ったように見えることがあっても、永遠に存在し、救済を続けていると説いています。
法華経においてこの部分が核心的なメッセージになります。

華厳経

華厳経(けごんきょう)は全60巻または80巻(版本による)にわたる長大な教えで、正式名称は大方広仏華厳経(だいほうこうぶつけごんきょう)といいます。釈迦が悟りを開いた直後に説いたとされる仏の境地や宇宙の真理が細かく描写されており、天台宗や華厳宗で重視されています。

華厳経の有名な一説

一即一切いちそく いっさい一切即一いっさい そく いち
一中無量いちちゅう むりょう無量中一むりょうちゅう いち

この一節は華厳経の核心である法界縁起の思想を象徴するものです。すべての存在が互いに影響し合っていて、一つの事象が全体を包含し、全体が一つの事象に含まれるという相互依存の宇宙観を表しています。

日本のお経の種類と教え ―宗派別―

宗派によってお経は異なり、お経ごとに教えも異なります。
ここでは、日本のお経の種類と教えを宗派別に見ていきましょう。

浄土宗

浄土宗(じょうどしゅう)で唱えるお経は、般若心経、阿弥陀、経無量寿経、観無量寿経などです。
浄土宗の本願は阿弥陀仏の第十八願に基づいています。この本願では阿弥陀仏がすべての衆生が私の名を唱え、極楽浄土に往生したいと願えば、必ず救うと誓ったとされています。

法然は「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と念仏を唱えることで、人びとは救いの道を確実に得られると説きました。修行や学問がなくても阿弥陀仏の慈悲に頼ることで救われるという教えであり、大衆にも広く受け入れられました。

天台宗

天台宗(てんだいしゅう)が唱えるお経は、法華経、自我偈、観音経などです。
天台宗は最澄(伝教大師)が日本に伝えた大乗仏教の宗派で、中国の天台宗を基盤としています。法華経を根本経典とし、幅広い経典や実践法を取り入れ、一乗思想と円教を重視しています。天台宗は個人のみならず、社会や国家の安泰を法華経の実践によって目指しています。
また、平等と包容性が特徴です。すべての衆生に仏性が備わっており、悪人であっても悟りに至れると説いています。

曹洞宗

曹洞宗(そうとうしゅう)で唱えるお経は般若心経、修証義(※曹洞宗の経典)などです。
曹洞宗は道元(永平大師)によって日本に伝えられた禅宗の一派で、中国の曹洞宗を基盤としています。坐禅を通じて悟りを体得し、日々の暮らしにおいて仏の教えを実践することを重視しています。曹洞宗はすべての衆生に仏性が備わっていると教えます。道元はすべての存在に仏性があるという法華経の思想を受け継ぎ、草木や自然も仏性を持つとしました。修行を通じ、この仏性を自覚し、日常生活の中で表現することを目標としています。

臨済宗

臨済宗(りんざいしゅう)はお経よりも実践(坐禅)を重んじる傾向があります。般若心経や観音経を唱えることもありますが、読経は他の宗教と比べて簡素です。臨済宗では坐禅と公案を通じ、自己の本性(仏性)を見極め、悟りに至ることを目指します。日常生活のすべてを修行とし、慈悲の実践も重視しています。

真言宗

真言宗(しんごんしゅう)で唱えるお経は、般若心経、理趣経(りしゅきょう)、遺教経(ゆいきょうぎょう)などです。
空海が9世紀に日本に伝えた真言宗は日常生活において仏の教えを実践し、心の調和や社会の平和を目指しています。また、密教特有の神秘的な要素や儀式を通じ、精神的な深化の追求も行います。真言宗は誰もが仏になる可能性を秘めており、修行によりその仏性を顕現できることを教え説いています。

浄土真宗

浄土真宗(じょうどしんしゅう)で唱えるお経は、阿弥陀経、無量寿経(むりょうじゅきょう)、観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)などです。なお、浄土真宗では般若心経は唱えません。
浄土真宗は「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と唱えることで救われるという考え方を浄土宗と共有していますが、阿弥陀如来に救いを求める他力念仏によって成仏するという思想が、浄土宗よりも強く強調されています。
浄土真宗は念仏だけで救済が確定するという簡明な教え、僧侶も在世も平等に救われるという普遍性が特徴です。

日蓮宗

日蓮宗(にちれんしゅう)で唱えるお経は法華経で、「南無妙法蓮華経(なむ みょうほう れんげきょう)」と繰り返し唱えます。日蓮宗は法華経を釈迦の最高の教えとし、他の経典や宗派の教えは法華経に帰するものとしています。法華経の「一乗思想」(すべての衆生が仏になれる)に従い、誰もが悟りの可能性を開花させ、仏の境地に至れるとしています。

日蓮宗は現世での幸福(現世安穏)と成仏(悟りの境地)を目指しています。唱題を通じ、病気、貧困、争いなどを克服し、豊かで、幸せな生活を実現できるとする教えです。
また、法華経の教えを実践することで、個人のみならず社会や国家全体が調和し、仏国土(理想の世界)を築けると説いています。

日本以外のお経│世界のお経の種類と教え

日本以外のお経│世界のお経の種類と教え

日本以外の国々もお経を唱え、現世や来世での救いを求めています。ここでは、世界のお経の種類と教えを見ていきましょう。

仏教発祥の地インド:原点

仏教は紀元前5世紀頃、インドのガウタマ・シッダールタ(釈迦)が創始しました。釈迦は四聖諦(ししょうたい)八正道(はっしょうどう)を説き、苦しみからの解放を人びとに教え説きました。
インドでは修行と智慧を重視しており、阿含経や法句経がよく読まれています。

中国・韓国・ベトナム:大乗仏教圏

大乗仏教は中国に1世紀頃伝わり、韓国、ベトナムへ拡大していきます。大乗仏教は衆生救済を重視しており、菩薩行を説いています。中国、韓国、ベトナムでは禅宗、浄土宗、天台宗などが発展し、法華経、華厳経、阿弥陀経が主に読まれています。
なお、中国では禅の瞑想実践、韓国では華厳思想、ベトナムでは禅と浄土の融合が特徴です。
大乗仏教圏では宗教と文化、政治との結びつきが深く、寺院は学問や芸術の中心としての役割も果たしています。

スリランカ・ミャンマー・タイ:上座部仏教圏

スリランカ、ミャンマー、タイには釈迦の教えを厳格に守る伝統が根付いており、上座部仏教(テーラヴァーダ)が主流です。戒律と瞑想を重んじており、個人の解脱を目指しています。
上座部仏教圏における主なお経はパーリ経典(三蔵)で、スッタニパータやダンマパダがとりわけ重じられています。
寺院は地域社会の核であり、祭りや教育にも深く関与しています。現代社会においても在家信者と共に伝統が維持されています。

チベット:チベット仏教

チベット仏教はインドの大乗仏教と密教が融合し、7世紀以降に独自に発展しました。ダライ・ラマを精神的指導者とし、輪廻転生や業の思想を強調しています。
チベット死者の書や大蔵経を重視しており、マントラやマンダラを用いた密教実践を特徴としています。また、瞑想や儀式を通じ、悟りを目指しています。
チベット仏教は平和や精神性の象徴として、世界各国から注目を集めています。

欧米:現代仏教、瞑想文化

欧米では仏教が知的関心や移民を通じ、19世紀以降に広まりました。大乗や上座部の瞑想(ヴィパッサナー、禅)が特に人気で、マインドフルネスが現代人に浸透しています。
ダンマパダや禅の公案が好まれているものの、実践が何よりも重視されています。こうした背景において、仏教はスピリチュアルなライフスタイルの一部となり、瞑想センターやオンライン講座が普及しています。ストレス軽減や自己啓発を目指し、多くの人たちが仏教思想を学んでいます。

現代におけるお経の取入れ方

現代では、葬儀や法事だけではなく、お経が心の安定やストレスケアの手段として取り入れられています。読経は呼吸を整え、瞑想効果を生み、写経は集中力を高める実践として人気です。読経音声は癒しのBGMとして睡眠導入にも活用されています。また、現代語訳を通じて人生観や倫理観を学ぶ人も増え、自己啓発にも繋がり、世界からも注目されています。

お経は仏の教えを伝える言葉

お経とはお釈迦様の教えが弟子たちによって文書として書き残されたものです。今を生きる私たちを救い、あの世や来世で幸せを得ることを助けます。また、葬儀や法要で読まれるお経には「故人を極楽浄土に送る」「ご遺族の心を平穏にする」という目的があります。

私たちはお経の意味を知り、お経を唱えることで、不安や恐怖感を払拭し、穏やかな気持ちになれます。お経は人びとの人生をよりよくするものといっても過言ではありません。


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