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丁寧に編み上げ、美しい模様と強度を兼ね備えた「組紐(くみひも)」。その繊細な技術は、古くから武具や装飾品、着物の帯締めなど、用途を変えながらも日本の文化を支えてきました。
京都・宇治に工房を構える「昇苑くみひも」様は、そんな伝統の技を受け継ぎながら、現代の感性やライフスタイルに寄り添う新たな組紐の形を提案しています。
今回は職人の技とその思い、そして未来への挑戦について、お話を伺いました。
本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、昇苑くみひも様についてどのような会社なのかお教えください。
私たち昇苑くみひもは1948年、京都・宇治で創業しました。当初は、手組の組紐を中心に、和装に欠かせない組紐づくりを行っていました。具体的には、帯締めや髪飾り、帯飾りなど、主に和装の用途に対応した製品ですね。
しかし、近年の和装離れや、安価な海外製品の登場を受けて、前社長は新しい用途を見つけるために視野を広げることを決断。約20年前から、組紐の可能性を様々な分野で追求し始めました。
現在では、アクセサリーやインテリア、ファッション、さらにはお守りや建築関連まで、組紐は幅広い用途で使用されるようになっています。
紐にはいくつか種類があるとおもうのですが、その中でも組紐とはどんなものなのでしょうか?
「ひも」には、作成方法によって大きく以下の種類があります。
私たちが得意とするのは、この「組紐」の製作です。わかりやすい例で言うと、女性が髪を「三つ編み」する場面がありますが、これは厳密には「三つ組」と呼ばれる組紐の構造にあたります。
組紐作りには、昔から使用されてきた道具を用いて手作業で行う「手組」と、製紐機(せいちゅうき)と呼ばれる機械を使って行う「機械組」の2つの製造方法があります。
「手組」と「機械組」はどう分けているのでしょうか。それぞれの良さも一緒に教えていただけますか?
■伝統的な道具を用いて、1本1本の紐を組む
■組み方の種類が多いのでさまざまな用途に対応することが可能
■手作業なので、時間がかかる
■機械を用いて組む
■機械にあった組み方しかできない
■手組よりも早く仕上げることができる
■ある程度整った品質のものを仕上げることができる
手組で使用する道具は主に4種あるのですが、この4種で組み上げられる組み方はものすごい数にのぼります。糸をどのように動かすかで丸い紐や平たい紐、四角い紐など自在に組織を変えることができるので、さまざまな用途に対応することが可能です。ただ人の手作業で組み上げるので時間がとてもかかってしまいます。
一方の機械組は手組の糸の動かし方をなぞらえた機械を使用して組み上げます。私たちが使用している製紐機は基本的に1つの機械で1種の組み方となっております。
ある程度の数量を一定のリズムで組み上げることができますので、一番のメリットは手組に比べて時間が短縮できることです。またある程度整った品質のものを仕上げることは得意な部分もメリットです。ただその機械一つ一つに合った仕様の組紐しか作ることができません。
そのため、特殊なご依頼は、今でも手組で行うことが多いですね。
様々なものが変化していく現代において、組紐の需要や用途などの在り方も変化していると思うのですが、現代人に響いたきっかけはあったりしたのですか?
君の名はという映画が1つのきっかけですね。それまではお着物を着ている方にはなじみのある素材でしたが、映画をきっかけに「組紐」というもの自体の認知が上がったなと考えます。
見てくださる方が増えた分、組紐を取り入れた商品づくりや企画のご相談も増えてきましたね。
あとは「アニメ・ゲーム」などのエンタメ業界からの企画もいただいておりますので、そこから知っていただく方も多いですね。あるコンテンツでは、その作品の登場人物が京都を散策し、うちのお店に来ていただくという話があり、それをきっかけにファンの方がよく見られることもありますね。
なるほど、いわゆる聖地巡礼というやつですね!
そうなんです。伝統工芸って敷居高くてルールが厳しいというイメージがあるかもしれませんが、私たちは「まず知ってもらうことが大事」「たくさんの人に知ってもらわなければ存続できない」と考えていますので、入口は広く柔軟にと思って取り組んでいますね。
いろんな意見はあると思いますが、皆様に「いいものなんだよ」「昔から続いている素敵なものなんだよ」と伝えていただけているので、私たちも色々な方法からアプローチをしていきたいなと考えております。
最近ではどんな商品づくりが多いのでしょうか。
以前、組紐は和装に欠かせない存在でしたが、時代の流れを受け、私たちはその新たな可能性を探り、さまざまな商品を展開しています。
具体的には、紹介の内容と重なってしまいますが、最近ではアクセサリーやジュエリー、インテリアやファッション、神社仏閣などのお守り、また少し大きなものでインテリアや建築関係などの用途でのご相談も増えてまいりました。その一方で和装や刀や鎧、茶器などの古くからの組紐用途でのご相談なども出てきておりますよ。
個人的に、伝統工芸の在り方に対して思うことがあったので、今のお話を聞けてすごく頭の中がすっきりした気がします。
ありがとうございます。私たちはメーカーですので、フォーカスすべきは、技術や伝統と呼ばれるものづくりがどのように発展してきたか、そしてどのように大切にされてきたかを伝えることだと考えています。ただし、現代の生活の中でお客様に組紐を身近に届けることに関しては、比較的柔軟に取り組んでいっていいのではないかと思います。
組紐が華やかな「帯締め」としての役割を果たしていた時代は、実は年数にしても100数年ほどに過ぎないんです。それ以前には、刀や鎧、さらにはその前の時代でも別の形で使われていた歴史があります。ですので、現代の生活様式に合わせて組紐をお届けしつつ、技術と役割が発展し続けることができればいいなと考えています。
現代の生活様式に合わせてなにか取り組まれていることはありますか?
素材の挑戦ですかね。昔は絹や麻、綿など限られた繊維しかなかったのですが、今の時代にはたくさんの素材があふれています。その中で自分たちの持っている技術で、さまざまな素材をどうアレンジできるかを楽しんでやっていますね。最近では、反射材の糸を組み込んだ組紐作りなどにも取り組んでいます。
反射材を使った商品はやっぱり交通安全とかの製品に使われるんですか?
それもありますし、ほかにはストラップやお散歩用の紐として活用できたりします。いろいろな用途に活かせれるんですよ。
すごい、さまざまなことに挑戦されているんですね。アイデアはどのように出しているのでしょうか?
私たちの会社ではデザインや企画の専属担当者はおりません。新しい商品については、営業や店舗スタッフ、現場の職人など、みんなからアイデアが上がってきます。その中から実現可能な内容をミーティングでピックアップし、製品に仕上げていく流れです。
また、さまざまなお客様からのご依頼を形にしていくことで、組紐以外の視点や素材も前向きに取り入れ、従来にはなかった役割を生み出してきました。私たちは、古くからの組紐の役割や技術、デザインを学びながら、現代でも身近に使える形にアレンジすることを心掛けています。
20年ほど前、前社長が組紐の新しい用途を探しに外へ目を向けようと舵を切った頃から、私たちは価格で勝負するのではなく、お客様が困っていることやまだないものを作り、組紐の楽しさを広げていこうと努めてきました。その姿を見たお客様が、私たちを楽しんでくださったり、要望を伝えてくださったりしているんだと考えます。
専属のデザイナーさんがいるわけじゃなかったんですね…!
そうなんです。もしかしたら、時代に逆行している部分もあるかもしれません(笑)。商品化に関しては、私たち自身が楽しんでいないと動かないと思っています。そのため、上下関係なく、アイデアを出した人が引っ張っていくこともあります。
『紐って楽しいでしょ?』という思いやアイデアを形にすれば、組紐に興味を持っていただくきっかけが生まれ、それが一つの成功だと考えています。
シーンごとにおすすめの商品(結び)はありますか?例えば、結婚祝いに渡すものや、自分用のものなど。
紐があるところに『結び』があります。日本は世界でも稀な多種の組紐や結び方が現存しており、これには紐に機能性だけでなく精神性も見出して発展させてきたことも一つの要因だと思います。
『むす』は生ずる、『ひ』は魂。生命がおこる作用がムスビ(産霊)として考えられていました。何もない一本の紐に結び目ができることで、新しい力が宿る。何かと何かを結びつけて新しいものを生み出す。日本では『結び』には単純に機能性だけでなく、深い意味が込められていたようです。
このような歴史を背景に、結びを専門にされている先生は『基本的にすべての結びに悪いものはない』とおっしゃっています。
そんな結びの中でおすすめの一つは『叶結び』です。こちらは小さな結び目の形が漢字の「叶」となっている結びです。本当に小さな結びですが、このようなストーリーが隠れているところにわくわくします。
もう一つは『相生結び』という結びです。こちらは祇園祭の鉾飾りなどにも使われている結びで、『相生(ともに生きる)』や『相老(ともに老いる)』といった字で表現されるように、傍に寄り添った温かいイメージがあります。
「ムスビ」のルーツの話もそうですが、日本人の精神性と紐の関わりについて聞いたときに、私たち岩座がこの商品を取り扱っている大切さを改めて感じることができました。そして何よりも、ワクワクする気持ちにさせていただきました。
ワクワクしますよね。『ムスビ』というキーワードは、日本が八百万の神々と共に暮らしてきた頃から伝わっている言葉なんです。
『苔むす』という言葉も、何もないところから生まれてくる苔のエネルギーを感じさせますし、もっと身近なことで言うと、生まれた子を『息子(むすこ)』や『娘(むすめ)』と呼ぶのも、男女という異なる二つの存在が結びついて新しいエネルギーが生まれることから生まれた言葉だと言われています。目に見えない繋がりやエネルギーを、日本は大切にしてきたことを感じることができる言葉ですよね。
情報が多い世の中で、組むという原始的な構造が今日まで残っていることを考えると、これからも残っていってほしいと思いますし、あとは私たちがどうやって楽しんで、形を変えて伝えていけるかが大切だと思います。
ぜひ、私たちもお力添えしたいです。
ちょっと特殊で面白い例ですが、昔は藁の束に結び目を作って、それが情報伝達の役割をしていたのではないかという発見もあるんですよ。ほかにも、組むという文化は日本だけではなく、さまざまな国の歴史にも必ず出てくるものなので、そのたびに根源的な動きだったんだなと感じさせられます。
ムスビ、面白すぎますね!身の回りの物でも、根源的なことに立ち返ると新しい発見があって、改めてそれを見出した先人たちの想像力のすごさに感動します。
情報が少ない中で、先人たちは風や星や月などを見て、ひらめいて想像を膨らませていたんだと思います。現代に生きる私たちは、そのような感覚を失ってしまっているかもしれません。
物質的には今と比べて豊かではなかったかもしれませんが、心や考える力はきっと豊かだったのでしょうね。昔の人たちはたくさんの工夫をして、想像力を駆使して今日の私たちの生活が成り立っているんだと思います。そうした学びを通じて、私たちも商品の新しさや面白さをさらに広げていけたらいいなと考えています。
確かに、ある程度のものは解明されており、固定観念のようなものもありますが、私たちが見逃している世界はきっとまだあると感じます。
たくさんの人の知恵と工夫で、想像できる便利な未来はかなり実現されてきました。ただ現代を生きる人々から全ての悩みが消えたわけではありません。
未来を想像することは大切ですが、モノや情報が少なかったシンプルな生き方をしていた時代にも、幸せを考える大切なヒントが残っているのではないかと思います。
現代において、組紐業界はどのような状況にあるのでしょうか?
そうですね、後継者問題をはじめ、和装に関連する業態でしたので、和装離れにより厳しい状況の業界だと思います。
価格競争も行われていましたが、私たちはその中で競うのではなく、自分たちにできることを見つけることで、今日までやってこれたのではないかと考えます。
「機械組み」だけでなく「手組み」も残しているのは、コストにこだわらない昇苑くみひも様ならではの取り組みだと感じました。
正直なところ、手組みはどうしても「時間がかかる=コストが高い」という特性があり、仕事のボリュームとしてはかなり減少しています。しかし、私たちは組紐の教室も運営しており、そこで技術の継承と育成を行っています。
なるほど、継承と育成も並行して進めているんですね。
そうなんです。狭い業界ではありますが、現在教室にいる先生2人は伝統工芸師の資格を持っています。創業者や生徒さんを含めて、この教室から10人ほどが伝統工芸師として育っています。
また、京都には組紐の学会もあり、そこで学んだりもしていますよ。正倉院に残っている技術が意外にも解明されており、それを学ぶことができるのはとても興味深いことです。先ほどもお伝えしたように、私たちメーカーは技術だけでなく、その背景や意味を伝えることが、伝統工芸に携わっている私たちの役割だと思っています。
私たちも、商品を販売する側として、お客様に物の良さを伝え、きっかけを提供することに力を入れていますが、昇苑くみひも様のように直接体験や知識を身に着けられる取り組みは本当に素晴らしく、むしろ羨ましく感じます(笑)。今後、この活動の中で特に伝えたいことはありますか?
ありがとうございます。私たちが体験や仕事を通じて伝えたいことは、「古い機械や技術も良いものでしょ?」と押し付けるのではなく、「この素材や技術は、アイデア次第でまだまだ楽しめる」ということを伝えたいと思っています。
個人的な考えとしては、組紐は生活必需品ではないので、共感を得て動いてもらうことが、業界が続いていくために必要だと考えています。
最後に、組紐に対する想いをお聞かせください。
私たちは、アイデアが生まれる組紐屋であり続けたいと考えています。歴史に学び、新しい組紐の役割を創出していくことを目指しています。
まだ知らない用途や新しいものづくりの方法がたくさんあると思いますが、分からないと終わらせるのではなく、その火を消さずに調べて紡ぎ続けていきたいです。
そして、このものづくりの中でとても大切にしているのは、古くから続く「技術」です。「用途」や「役割」は時代に合わせて柔軟にアレンジすることが必要ですが、その変化を支えるのは技術です。
「伝統工芸」と呼ばれるものづくりの中で外せない要素もあると考えており、組紐が歴史の中でどのように発展してきたかを伝えることも重要だと思っています。この学びはしっかりと続け、これからも新しいチャレンジをしていきたいと考えています。
とても面白いお話をたくさんお伺いすることができ、大変幸せでした。この度は、このような機会をいただき、ありがとうございました。
有限会社 昇苑くみひも
宇治本店:京都府宇治市宇治妙楽146-2
JR宇治より徒歩5分、京阪宇治より徒歩10分
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丁寧に編み上げ、美しい模様と強度を兼ね備えた「組紐(くみひも)」。その繊細な技術は、古くから武具や装飾品、着物の帯締めなど、用途を変えながらも日本の文化を支えてきました。
京都・宇治に工房を構える「昇苑くみひも」様は、そんな伝統の技を受け継ぎながら、現代の感性やライフスタイルに寄り添う新たな組紐の形を提案しています。
今回は職人の技とその思い、そして未来への挑戦について、お話を伺いました。
組紐の歴史と種類
本日はお時間をいただきありがとうございます。
まず、昇苑くみひも様についてどのような会社なのかお教えください。
私たち昇苑くみひもは1948年、京都・宇治で創業しました。当初は、手組の組紐を中心に、和装に欠かせない組紐づくりを行っていました。具体的には、帯締めや髪飾り、帯飾りなど、主に和装の用途に対応した製品ですね。
しかし、近年の和装離れや、安価な海外製品の登場を受けて、前社長は新しい用途を見つけるために視野を広げることを決断。約20年前から、組紐の可能性を様々な分野で追求し始めました。
現在では、アクセサリーやインテリア、ファッション、さらにはお守りや建築関連まで、組紐は幅広い用途で使用されるようになっています。
紐にはいくつか種類があるとおもうのですが、その中でも組紐とはどんなものなのでしょうか?
「ひも」には、作成方法によって大きく以下の種類があります。
私たちが得意とするのは、この「組紐」の製作です。わかりやすい例で言うと、女性が髪を「三つ編み」する場面がありますが、これは厳密には「三つ組」と呼ばれる組紐の構造にあたります。
組紐作りには、昔から使用されてきた道具を用いて手作業で行う「手組」と、製紐機(せいちゅうき)と呼ばれる機械を使って行う「機械組」の2つの製造方法があります。
「手組」と「機械組」はどう分けているのでしょうか。それぞれの良さも一緒に教えていただけますか?
■伝統的な道具を用いて、1本1本の紐を組む
■組み方の種類が多いのでさまざまな用途に対応することが可能
■手作業なので、時間がかかる
■機械を用いて組む
■機械にあった組み方しかできない
■手組よりも早く仕上げることができる
■ある程度整った品質のものを仕上げることができる
手組で使用する道具は主に4種あるのですが、この4種で組み上げられる組み方はものすごい数にのぼります。
糸をどのように動かすかで丸い紐や平たい紐、四角い紐など自在に組織を変えることができるので、さまざまな用途に対応することが可能です。ただ人の手作業で組み上げるので時間がとてもかかってしまいます。
一方の機械組は手組の糸の動かし方をなぞらえた機械を使用して組み上げます。私たちが使用している製紐機は基本的に1つの機械で1種の組み方となっております。
ある程度の数量を一定のリズムで組み上げることができますので、一番のメリットは手組に比べて時間が短縮できることです。またある程度整った品質のものを仕上げることは得意な部分もメリットです。
ただその機械一つ一つに合った仕様の組紐しか作ることができません。
そのため、特殊なご依頼は、今でも手組で行うことが多いですね。
機械ではありますが、無機質さはなく、どこかぬくもりを感じる工房でした。
現代における組紐とアプローチ
様々なものが変化していく現代において、組紐の需要や用途などの在り方も変化していると思うのですが、現代人に響いたきっかけはあったりしたのですか?
君の名はという映画が1つのきっかけですね。それまではお着物を着ている方にはなじみのある素材でしたが、映画をきっかけに「組紐」というもの自体の認知が上がったなと考えます。
見てくださる方が増えた分、組紐を取り入れた商品づくりや企画のご相談も増えてきましたね。
あとは「アニメ・ゲーム」などのエンタメ業界からの企画もいただいておりますので、そこから知っていただく方も多いですね。
あるコンテンツでは、その作品の登場人物が京都を散策し、うちのお店に来ていただくという話があり、それをきっかけにファンの方がよく見られることもありますね。
なるほど、いわゆる聖地巡礼というやつですね!
そうなんです。
伝統工芸って敷居高くてルールが厳しいというイメージがあるかもしれませんが、私たちは「まず知ってもらうことが大事」「たくさんの人に知ってもらわなければ存続できない」と考えていますので、入口は広く柔軟にと思って取り組んでいますね。
いろんな意見はあると思いますが、皆様に「いいものなんだよ」「昔から続いている素敵なものなんだよ」と伝えていただけているので、私たちも色々な方法からアプローチをしていきたいなと考えております。
最近ではどんな商品づくりが多いのでしょうか。
以前、組紐は和装に欠かせない存在でしたが、時代の流れを受け、私たちはその新たな可能性を探り、さまざまな商品を展開しています。
具体的には、紹介の内容と重なってしまいますが、最近ではアクセサリーやジュエリー、インテリアやファッション、神社仏閣などのお守り、また少し大きなものでインテリアや建築関係などの用途でのご相談も増えてまいりました。
その一方で和装や刀や鎧、茶器などの古くからの組紐用途でのご相談なども出てきておりますよ。
組紐キーホルダーは各岩座店舗にてご購入いただけます。
個人的に、伝統工芸の在り方に対して思うことがあったので、今のお話を聞けてすごく頭の中がすっきりした気がします。
ありがとうございます。
私たちはメーカーですので、フォーカスすべきは、技術や伝統と呼ばれるものづくりがどのように発展してきたか、そしてどのように大切にされてきたかを伝えることだと考えています。ただし、現代の生活の中でお客様に組紐を身近に届けることに関しては、比較的柔軟に取り組んでいっていいのではないかと思います。
組紐が華やかな「帯締め」としての役割を果たしていた時代は、実は年数にしても100数年ほどに過ぎないんです。それ以前には、刀や鎧、さらにはその前の時代でも別の形で使われていた歴史があります。
ですので、現代の生活様式に合わせて組紐をお届けしつつ、技術と役割が発展し続けることができればいいなと考えています。
現代の生活様式に合わせてなにか取り組まれていることはありますか?
素材の挑戦ですかね。昔は絹や麻、綿など限られた繊維しかなかったのですが、今の時代にはたくさんの素材があふれています。その中で自分たちの持っている技術で、さまざまな素材をどうアレンジできるかを楽しんでやっていますね。
最近では、反射材の糸を組み込んだ組紐作りなどにも取り組んでいます。
反射材を使った商品はやっぱり交通安全とかの製品に使われるんですか?
それもありますし、ほかにはストラップやお散歩用の紐として活用できたりします。いろいろな用途に活かせれるんですよ。
すごい、さまざまなことに挑戦されているんですね。アイデアはどのように出しているのでしょうか?
私たちの会社ではデザインや企画の専属担当者はおりません。新しい商品については、営業や店舗スタッフ、現場の職人など、みんなからアイデアが上がってきます。その中から実現可能な内容をミーティングでピックアップし、製品に仕上げていく流れです。
また、さまざまなお客様からのご依頼を形にしていくことで、組紐以外の視点や素材も前向きに取り入れ、従来にはなかった役割を生み出してきました。私たちは、古くからの組紐の役割や技術、デザインを学びながら、現代でも身近に使える形にアレンジすることを心掛けています。
20年ほど前、前社長が組紐の新しい用途を探しに外へ目を向けようと舵を切った頃から、私たちは価格で勝負するのではなく、お客様が困っていることやまだないものを作り、組紐の楽しさを広げていこうと努めてきました。その姿を見たお客様が、私たちを楽しんでくださったり、要望を伝えてくださったりしているんだと考えます。
専属のデザイナーさんがいるわけじゃなかったんですね…!
そうなんです。もしかしたら、時代に逆行している部分もあるかもしれません(笑)。商品化に関しては、私たち自身が楽しんでいないと動かないと思っています。そのため、上下関係なく、アイデアを出した人が引っ張っていくこともあります。
『紐って楽しいでしょ?』という思いやアイデアを形にすれば、組紐に興味を持っていただくきっかけが生まれ、それが一つの成功だと考えています。
メーカー様が伝えるムスビの面白さ
シーンごとにおすすめの商品(結び)はありますか?
例えば、結婚祝いに渡すものや、自分用のものなど。
紐があるところに『結び』があります。日本は世界でも稀な多種の組紐や結び方が現存しており、これには紐に機能性だけでなく精神性も見出して発展させてきたことも一つの要因だと思います。
『むす』は生ずる、『ひ』は魂。生命がおこる作用がムスビ(産霊)として考えられていました。何もない一本の紐に結び目ができることで、新しい力が宿る。何かと何かを結びつけて新しいものを生み出す。日本では『結び』には単純に機能性だけでなく、深い意味が込められていたようです。
このような歴史を背景に、結びを専門にされている先生は『基本的にすべての結びに悪いものはない』とおっしゃっています。
そんな結びの中でおすすめの一つは『叶結び』です。こちらは小さな結び目の形が漢字の「叶」となっている結びです。本当に小さな結びですが、このようなストーリーが隠れているところにわくわくします。
もう一つは『相生結び』という結びです。こちらは祇園祭の鉾飾りなどにも使われている結びで、『相生(ともに生きる)』や『相老(ともに老いる)』といった字で表現されるように、傍に寄り添った温かいイメージがあります。
「ムスビ」のルーツの話もそうですが、日本人の精神性と紐の関わりについて聞いたときに、私たち岩座がこの商品を取り扱っている大切さを改めて感じることができました。そして何よりも、ワクワクする気持ちにさせていただきました。
ワクワクしますよね。『ムスビ』というキーワードは、日本が八百万の神々と共に暮らしてきた頃から伝わっている言葉なんです。
『苔むす』という言葉も、何もないところから生まれてくる苔のエネルギーを感じさせますし、もっと身近なことで言うと、生まれた子を『息子(むすこ)』や『娘(むすめ)』と呼ぶのも、男女という異なる二つの存在が結びついて新しいエネルギーが生まれることから生まれた言葉だと言われています。
目に見えない繋がりやエネルギーを、日本は大切にしてきたことを感じることができる言葉ですよね。
情報が多い世の中で、組むという原始的な構造が今日まで残っていることを考えると、これからも残っていってほしいと思いますし、あとは私たちがどうやって楽しんで、形を変えて伝えていけるかが大切だと思います。
ぜひ、私たちもお力添えしたいです。
ちょっと特殊で面白い例ですが、昔は藁の束に結び目を作って、それが情報伝達の役割をしていたのではないかという発見もあるんですよ。
ほかにも、組むという文化は日本だけではなく、さまざまな国の歴史にも必ず出てくるものなので、そのたびに根源的な動きだったんだなと感じさせられます。
ムスビ、面白すぎますね!身の回りの物でも、根源的なことに立ち返ると新しい発見があって、改めてそれを見出した先人たちの想像力のすごさに感動します。
情報が少ない中で、先人たちは風や星や月などを見て、ひらめいて想像を膨らませていたんだと思います。現代に生きる私たちは、そのような感覚を失ってしまっているかもしれません。
物質的には今と比べて豊かではなかったかもしれませんが、心や考える力はきっと豊かだったのでしょうね。
昔の人たちはたくさんの工夫をして、想像力を駆使して今日の私たちの生活が成り立っているんだと思います。そうした学びを通じて、私たちも商品の新しさや面白さをさらに広げていけたらいいなと考えています。
確かに、ある程度のものは解明されており、固定観念のようなものもありますが、私たちが見逃している世界はきっとまだあると感じます。
たくさんの人の知恵と工夫で、想像できる便利な未来はかなり実現されてきました。ただ現代を生きる人々から全ての悩みが消えたわけではありません。
未来を想像することは大切ですが、モノや情報が少なかったシンプルな生き方をしていた時代にも、幸せを考える大切なヒントが残っているのではないかと思います。
組紐にかける想い
現代において、組紐業界はどのような状況にあるのでしょうか?
そうですね、後継者問題をはじめ、和装に関連する業態でしたので、和装離れにより厳しい状況の業界だと思います。
価格競争も行われていましたが、私たちはその中で競うのではなく、自分たちにできることを見つけることで、今日までやってこれたのではないかと考えます。
「機械組み」だけでなく「手組み」も残しているのは、コストにこだわらない昇苑くみひも様ならではの取り組みだと感じました。
正直なところ、手組みはどうしても「時間がかかる=コストが高い」という特性があり、仕事のボリュームとしてはかなり減少しています。
しかし、私たちは組紐の教室も運営しており、そこで技術の継承と育成を行っています。
なるほど、継承と育成も並行して進めているんですね。
そうなんです。狭い業界ではありますが、現在教室にいる先生2人は伝統工芸師の資格を持っています。
創業者や生徒さんを含めて、この教室から10人ほどが伝統工芸師として育っています。
また、京都には組紐の学会もあり、そこで学んだりもしていますよ。
正倉院に残っている技術が意外にも解明されており、それを学ぶことができるのはとても興味深いことです。先ほどもお伝えしたように、私たちメーカーは技術だけでなく、その背景や意味を伝えることが、伝統工芸に携わっている私たちの役割だと思っています。
私たちも、商品を販売する側として、お客様に物の良さを伝え、きっかけを提供することに力を入れていますが、昇苑くみひも様のように直接体験や知識を身に着けられる取り組みは本当に素晴らしく、むしろ羨ましく感じます(笑)。今後、この活動の中で特に伝えたいことはありますか?
ありがとうございます。
私たちが体験や仕事を通じて伝えたいことは、「古い機械や技術も良いものでしょ?」と押し付けるのではなく、「この素材や技術は、アイデア次第でまだまだ楽しめる」ということを伝えたいと思っています。
個人的な考えとしては、組紐は生活必需品ではないので、共感を得て動いてもらうことが、業界が続いていくために必要だと考えています。
最後に、組紐に対する想いをお聞かせください。
私たちは、アイデアが生まれる組紐屋であり続けたいと考えています。歴史に学び、新しい組紐の役割を創出していくことを目指しています。
まだ知らない用途や新しいものづくりの方法がたくさんあると思いますが、分からないと終わらせるのではなく、その火を消さずに調べて紡ぎ続けていきたいです。
そして、このものづくりの中でとても大切にしているのは、古くから続く「技術」です。
「用途」や「役割」は時代に合わせて柔軟にアレンジすることが必要ですが、その変化を支えるのは技術です。
「伝統工芸」と呼ばれるものづくりの中で外せない要素もあると考えており、組紐が歴史の中でどのように発展してきたかを伝えることも重要だと思っています。この学びはしっかりと続け、これからも新しいチャレンジをしていきたいと考えています。
とても面白いお話をたくさんお伺いすることができ、大変幸せでした。
この度は、このような機会をいただき、ありがとうございました。
<今回ご協力いただいたメーカー様>
有限会社 昇苑くみひも
宇治本店:京都府宇治市宇治妙楽146-2
JR宇治より徒歩5分、京阪宇治より徒歩10分
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