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1978年(昭和53年)5月2日に、「チャイハネ」は、横浜中華街で第1号店をオープンしました。「チャイハネ」はトルコ語で「寄り合い茶屋」の意味で、文化の発信地としての役割も果たしています。私たち日本のチャイハネも、本場にあやかり、世界の民族文化(フォークロア)をお客様に届けることを願って名付けられました。
ところで「チャイハネ」に象徴される、トルコのお茶事情はどうなっているのでしょうか?
トルコの人々は、実は紅茶が大好きです。一日に紅茶を飲む量も、紅茶を生産する量も、半端ではありません。トルコでは紅茶のことを「チャイ」と呼び、一日に10杯も20杯も飲みます。
チャイに使われる茶葉も国産のものが主体で、トルコ東部のリゼ地方で生産されています。リゼの茶葉で淹れるチャイは飲みやすくてカフェインの含有量が少なく、トルコの人々の好みやライフスタイルに合っているようです。
「チャイ」というと、ミルクやスパイスを加えたインドのマサラチャイを連想する人が多いと思いますが、トルコのチャイはストレートの紅茶で、好みで砂糖を加えるだけです。
トルコでチャイを注文すると、小さなガラス製のグラスに熱々の紅茶を入れ、コースターに乗せて角砂糖を添えて出してくれます。
トルコの人々は甘党が多いので、チャイには砂糖をたっぷりと入れる人が大半です。このチャイを一日に何杯も飲むので、健康面が心配になるほどです。さすがに最近はチャイに砂糖を加えずに飲む人も、増えてきたようですが。
またトルコの人々の多くは「チャイは熱くなければならない」と思っています。そのため時間が経ってチャイがぬるくなったら、お店の人が熱いものに取り換えるほどです。大きな陶磁器のカップに紅茶を入れてゆっくりと飲むということは、滅多にありません。アイスティーは、恐らく論外の存在でしょう。
家庭でもチャイを提供するスタイルは、基本的に同じです。トルコの人々はこのチャイを起きたとき、食事のとき、リラックスしたいとき、友人が訪ねたときなど、さまざまな時に飲み、提供します。
トルコ式のチャイの淹れ方やそれに使用する道具は独特です。以下で代表的な道具や茶器について、簡単に説明します。
トルコでは、チャイを淹れるのに「チャイダンルック」と呼ばれる2段重ねになったポットを使います。下段の大きなポットでお湯を沸かして、上段の小さなポットで茶葉を蒸らす仕組みになっています。2段のポットは連動していて、双方の間に通路や細い口金が備えられている場合もあります。
トルコ式のチャイの淹れ方は次の通りです。
これでチャイはでき上がり。お茶をサービスされた人は、下段のポットに残っているお湯で好みの濃さまで薄めて、冷めないうちに飲みます。
トルコではチャイダンルックのほかに、ロシアから伝わった「セマーベル」という給茶機も使われています。要するにサモワールのことです。ただしトルコのセマーベルは本場のサモワールのように装飾的なデザインではなく、シンプルな形態であることが特徴です。
なぜならセマーベルはピクニックやバーベキューなど、アウトドア活動の際に持ち運んで使われるからです。大きさは、必要に応じて大小さまざまです。
トルコのチャイは、チャイバルダックと呼ばれる小さなガラス製のグラスに入れて、出されます。グラスは本当に小さくて、容量は100ミリリットルくらいです。グラスの中央にはくびれがあり、まるでチューリップの花のように見えます。
チャイがとても熱いので、グラスはコースター(ガラス製や陶器製など、材質はさまざま)に乗せられ、砂糖を添えてサービスされます。それを火傷しないように、親指と人差し指でふちを持って、冷めないうちに頂きます。
トルコの家庭には、特に都市部の場合、まとまった数(おそらく10個以上)のチャイバルダックが用意されています。食器洗浄機が普及しているので、1回ごとにグラスを洗うことがなく、まとめて洗浄するからです。
チャイは、トルコの人々の生活に欠かせない飲み物です。人々は、朝起きてから夜眠りにつくまで、チャイと共に生活します。
「紅茶の国」といわれると、まずイギリスを思い浮かべる人が大半ではないでしょうか?確かにイギリスやそのお隣のアイルランドは、「ティータイム」の文化で有名で、大量の紅茶を消費します。
しかし世界一の紅茶消費国というと、実はトルコです。その理由は、トルコの「チャイ」と共にある日常があげられます。
トルコにおける年間ひとり当たりの紅茶消費量は、おおよそ3キログラムから3.5キログラムで、世界一です。(ちなみにイギリスは年間2キログラム弱で第3位、濃い紅茶を特に好むアイルランドは年間2キログラムちょっとで第2位です。)
またトルコは紅茶の生産国としても、世界5位から6位ぐらいの水準をキープしています。
トルコの人々はゲストをもてなすのが大好きです。「誰も尋ねて来ない日はつまらない」と感じる人々も多くいます。
そしてトルコの人々にとって、チャイは大切なおもてなしのツールです。
道で知り合いに会うと、高い確率で「チャイを飲みませんか」と聞かれます。たとえ知り合いではなかったとしても、声をかけられて少し話をしただけで、チャイを一緒に飲むこともあり得ます。トルコの人々は、とても人懐っこい場合が多いからです。
ビジネスなどで出かけると、まずチャイが出されます。何も用がなかったとしても、やはりチャイが振る舞われます。
その結果、一日の間に何杯チャイを飲むことになるか、想像がつきません。
トルコの飲み物といえば、「トルココーヒー」を連想する人も多いでしょう。しかしトルコでは、トルココーヒーをチャイほど日常的に飲むことはありません。トルココーヒーはトルコの人々にとって、特別な相手にだけ提供する「特別な飲み物」です。「1杯のコーヒーが40年記憶に残る」ということわざもあるほどです。
特にビジネスの現場において、トルココーヒーは大切な意味を持っています。
ビジネス上の訪問であっても、最初のうち出されるのは「チャイ」です。しかし、それが何回も訪問を繰り返して信頼関係を構築していくうちに、突然「トルココーヒーを飲みますか?」と聞かれることがあります。これは、訪問先が「この人とはビジネスライクな関係を越えて、友人同士としての関係を築いて行こう。」と判断した証拠です。
これはめったにないことなので、このような瞬間が訪れたら喜んで受けるべきでしょう。
トルココーヒーについてもっと詳しく
このようなトルコの人々の「チャイと共にある」ライフスタイルの象徴ともいえるのが、チャイハネとチャイ・オジャウです。チャイハネは「寄り合い茶屋」と呼ぶべき存在で、紅茶を提供するだけでなく「地域の社交場」としての役割も果たしています。一方のチャイ・オジャウはチャイハネより規模が小さく、紅茶を提供すると同時に人々が気軽に集まっておしゃべりを楽しむ、「地域の憩いの場」と呼ぶべきお店です。
チャイハネやチャイ・オジャウを含むこのような「トルコの紅茶文化」は、「アイデンティティ、おもてなし、社会的交流の象徴」であるという理由で、2022年にユネスコ(UNESCO:国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されました。
伝統的なチャイハネには、男性だけが入店できます。男だけの社交場です。昼間は高齢の男性たちがたむろして、夜になると勤め帰りの若い世代も加わります。
ここで男性たちは、バックギャモンやトルコ式の麻雀(オケイ)を楽しんだり、ただ水たばこを吸ったりお茶を飲んだりしながら、商売や政治談議に花を咲かせたりします。
男性同士がアルコール抜きで、何時間も楽しそうに話しているのは、日本人が見ると、奇妙に思うかもしれません。しかしトルコの人々の大半はイスラム教を信仰しておりアルコールを飲まないため、このような社交場が必要になるのだと思われます。
チャイハネには「男性の社交場」以外の役割があります。それは、伝統的な庶民の芸術を上演する場所としての役割です。「カラギョズ」という影絵芝居や「メッダフ」と呼ばれる語り部の芸などが、チャイハネの客を楽しませる目的で、上演されます。トルコ北西部のブルサという都市を発祥とする「カラギョズ」は、イスタンブールのチャイハネでも人気です。
今日、都会ではさまざまなタイプの「茶飲み処」を見かけます。チャイだけでなく、コーヒーもトルココーヒーだけでなく、カフェオレやエスプレッソなど「モダンな飲み物」が飲めるようになりました。あの「スターバックス」も、街中で目立つようになってきたほどです。
伝統的なチャイハネやチャイ・オジャウはどんどん少なくなっています。チャイハネもチャイ・オジャウも、男女両方が訪れることが可能な「茶飲み処」へと変化しつつあります。トルコでも女性の社会進出が進んでいるので、ビジネス上の交流の場として、このようなタイプのチャイハネやチャイ・オジャウも、必要とされているのかもしれません。
男性だけがたむろする、本当の意味で伝統的なチャイハネやチャイ・オジャウも残っていますが、都会では数が少なくなりつつあります。もっとも地方では、そのようなタイプのチャイハネやチャイ・オジャウも、まだまだ健在です。
地方におけるチャイハネやチャイ・オジャウは、地域の課題や日常の問題について話し合う重要な場所です。またこれらの場所は、伝統的な文化の継承を担う、貴重な場所にもなっています。年配者が若者たちに昔話や地域の祭りの由来を語ることなどによって、地域文化のアイデンティティが保たれる、歴史教育の場でもあるのです。
チャイハネとチャイ・オジャウは、地域の祭りや結婚式の打ち合わせにもよく使われます。トルコの農村部において、このような行事はコミュニティ全体で行われることが多く、チャイハネやチャイ・オジャウは、地域の団結をサポートする役割を果たしています。
観光という立場からも、チャイハネやチャイ・オジャウはトルコの文化を直接肌で感じるのにふさわしい場所だといえます。それにチャイハネなどで飲むチャイの値段は、近代的なカフェで飲む紅茶の値段より、かなり安価です。
旅行中、チャイハネやチャイ・オジャウでチャイを注文して、トルコの人々に混じってぼんやりと過ごすのも、良い経験です。特にトルコの人々は人懐こくておもてなしが好きなので、ほっといてくれないでしょう。彼ら彼女らとコミュニケーションを取るチャンスです。
明治時代の日本を訪問したトルコの軍艦エルトゥールル号が難破したとき、地元の人たちが救助に活躍し、トルコ人船員たちを親身になって世話しました。この歴史のおかげで、今でもトルコの人々の多くは、日本人に好感を持っています。隣でチャイを飲んでいる旅行者が日本人だとわかったら特に大歓迎してくれて、チャイでお腹がチャプチャプになるという経験が待っているかもしれません。
ただし、特に都会では、スリや置き引きにはくれぐれも注意してください。
トルコの人々にとって、紅茶すなわち「チャイ」は生活に欠かせない存在です。家庭でも、職場でも、もちろん「おもてなし」のためにも、チャイは頻繁に出され、頻繁に飲むことになります。
そのようなトルコの風習を象徴している場所として、「茶飲み処」であるチャイハネやチャイ・オジャウがあげられます。チャイハネやチャイ・オジャウは単にお茶を楽しむ場所ではなく、さまざまな意見を交換したり、伝統を次の世代に伝えたり、伝統芸能を上演したりといった、文化活動にも大きな役割を果たしています。
誰でも集える寄合茶屋「チャイハネ」について 進藤幸彦著 『フォークロア世界への旅』 より▼
チャイハネ誕生記
アミナコレクションとトルコの縁▼
トルコの民俗芸能~【Pray for Turkey】チャイハネとトルコの最初の接点~
1978年(昭和53年)5月2日に、「チャイハネ」は、横浜中華街で第1号店をオープンしました。
「チャイハネ」はトルコ語で「寄り合い茶屋」の意味で、文化の発信地としての役割も果たしています。私たち日本のチャイハネも、本場にあやかり、世界の民族文化(フォークロア)をお客様に届けることを願って名付けられました。
ところで「チャイハネ」に象徴される、トルコのお茶事情はどうなっているのでしょうか?
目次
知られざる「紅茶大国」トルコ
トルコの人々は、実は紅茶が大好きです。一日に紅茶を飲む量も、紅茶を生産する量も、半端ではありません。
トルコでは紅茶のことを「チャイ」と呼び、一日に10杯も20杯も飲みます。
チャイに使われる茶葉も国産のものが主体で、トルコ東部のリゼ地方で生産されています。リゼの茶葉で淹れるチャイは飲みやすくてカフェインの含有量が少なく、トルコの人々の好みやライフスタイルに合っているようです。
トルコのチャイの特徴
「チャイ」というと、ミルクやスパイスを加えたインドのマサラチャイを連想する人が多いと思いますが、トルコのチャイはストレートの紅茶で、好みで砂糖を加えるだけです。
トルコでチャイを注文すると、小さなガラス製のグラスに熱々の紅茶を入れ、コースターに乗せて角砂糖を添えて出してくれます。
トルコの人々は甘党が多いので、チャイには砂糖をたっぷりと入れる人が大半です。このチャイを一日に何杯も飲むので、健康面が心配になるほどです。さすがに最近はチャイに砂糖を加えずに飲む人も、増えてきたようですが。
またトルコの人々の多くは「チャイは熱くなければならない」と思っています。そのため時間が経ってチャイがぬるくなったら、お店の人が熱いものに取り換えるほどです。大きな陶磁器のカップに紅茶を入れてゆっくりと飲むということは、滅多にありません。アイスティーは、恐らく論外の存在でしょう。
家庭でもチャイを提供するスタイルは、基本的に同じです。トルコの人々はこのチャイを起きたとき、食事のとき、リラックスしたいとき、友人が訪ねたときなど、さまざまな時に飲み、提供します。
トルコ流チャイの淹れ方と道具
トルコ式のチャイの淹れ方やそれに使用する道具は独特です。以下で代表的な道具や茶器について、簡単に説明します。
チャイダンルック(2段重ねのポット)でチャイを淹れる
トルコでは、チャイを淹れるのに「チャイダンルック」と呼ばれる2段重ねになったポットを使います。下段の大きなポットでお湯を沸かして、上段の小さなポットで茶葉を蒸らす仕組みになっています。2段のポットは連動していて、双方の間に通路や細い口金が備えられている場合もあります。
トルコ式のチャイの淹れ方は次の通りです。
これでチャイはでき上がり。お茶をサービスされた人は、下段のポットに残っているお湯で好みの濃さまで薄めて、冷めないうちに飲みます。
アウトドアではセマーベル(ロシア由来の給茶機)
トルコではチャイダンルックのほかに、ロシアから伝わった「セマーベル」という給茶機も使われています。要するにサモワールのことです。ただしトルコのセマーベルは本場のサモワールのように装飾的なデザインではなく、シンプルな形態であることが特徴です。
なぜならセマーベルはピクニックやバーベキューなど、アウトドア活動の際に持ち運んで使われるからです。大きさは、必要に応じて大小さまざまです。
チャイバルダック(チャイ用グラス)も魅力的
トルコのチャイは、チャイバルダックと呼ばれる小さなガラス製のグラスに入れて、出されます。グラスは本当に小さくて、容量は100ミリリットルくらいです。グラスの中央にはくびれがあり、まるでチューリップの花のように見えます。
チャイがとても熱いので、グラスはコースター(ガラス製や陶器製など、材質はさまざま)に乗せられ、砂糖を添えてサービスされます。それを火傷しないように、親指と人差し指でふちを持って、冷めないうちに頂きます。
トルコの家庭には、特に都市部の場合、まとまった数(おそらく10個以上)のチャイバルダックが用意されています。食器洗浄機が普及しているので、1回ごとにグラスを洗うことがなく、まとめて洗浄するからです。
チャイと共にある生活
チャイは、トルコの人々の生活に欠かせない飲み物です。人々は、朝起きてから夜眠りにつくまで、チャイと共に生活します。
世界一の紅茶消費国トルコ
「紅茶の国」といわれると、まずイギリスを思い浮かべる人が大半ではないでしょうか?確かにイギリスやそのお隣のアイルランドは、「ティータイム」の文化で有名で、大量の紅茶を消費します。
しかし世界一の紅茶消費国というと、実はトルコです。その理由は、トルコの「チャイ」と共にある日常があげられます。
トルコにおける年間ひとり当たりの紅茶消費量は、おおよそ3キログラムから3.5キログラムで、世界一です。(ちなみにイギリスは年間2キログラム弱で第3位、濃い紅茶を特に好むアイルランドは年間2キログラムちょっとで第2位です。)
またトルコは紅茶の生産国としても、世界5位から6位ぐらいの水準をキープしています。
トルコ人は「おもてなし」が大好き
トルコの人々はゲストをもてなすのが大好きです。「誰も尋ねて来ない日はつまらない」と感じる人々も多くいます。
そしてトルコの人々にとって、チャイは大切なおもてなしのツールです。
道で知り合いに会うと、高い確率で「チャイを飲みませんか」と聞かれます。たとえ知り合いではなかったとしても、声をかけられて少し話をしただけで、チャイを一緒に飲むこともあり得ます。トルコの人々は、とても人懐っこい場合が多いからです。
ビジネスなどで出かけると、まずチャイが出されます。何も用がなかったとしても、やはりチャイが振る舞われます。
その結果、一日の間に何杯チャイを飲むことになるか、想像がつきません。
「チャイ」と「トルココーヒー」との違い
トルコの飲み物といえば、「トルココーヒー」を連想する人も多いでしょう。しかしトルコでは、トルココーヒーをチャイほど日常的に飲むことはありません。トルココーヒーはトルコの人々にとって、特別な相手にだけ提供する「特別な飲み物」です。「1杯のコーヒーが40年記憶に残る」ということわざもあるほどです。
特にビジネスの現場において、トルココーヒーは大切な意味を持っています。
ビジネス上の訪問であっても、最初のうち出されるのは「チャイ」です。しかし、それが何回も訪問を繰り返して信頼関係を構築していくうちに、突然「トルココーヒーを飲みますか?」と聞かれることがあります。これは、訪問先が「この人とはビジネスライクな関係を越えて、友人同士としての関係を築いて行こう。」と判断した証拠です。
これはめったにないことなので、このような瞬間が訪れたら喜んで受けるべきでしょう。
トルココーヒーについてもっと詳しく
チャイ文化の歴史を担う「チャイハネ」や「チャイ・オジャウ」
このようなトルコの人々の「チャイと共にある」ライフスタイルの象徴ともいえるのが、チャイハネとチャイ・オジャウです。チャイハネは「寄り合い茶屋」と呼ぶべき存在で、紅茶を提供するだけでなく「地域の社交場」としての役割も果たしています。一方のチャイ・オジャウはチャイハネより規模が小さく、紅茶を提供すると同時に人々が気軽に集まっておしゃべりを楽しむ、「地域の憩いの場」と呼ぶべきお店です。
チャイハネやチャイ・オジャウを含むこのような「トルコの紅茶文化」は、「アイデンティティ、おもてなし、社会的交流の象徴」であるという理由で、2022年にユネスコ(UNESCO:国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されました。
男たちの社交場チャイハネ
伝統的なチャイハネには、男性だけが入店できます。男だけの社交場です。昼間は高齢の男性たちがたむろして、夜になると勤め帰りの若い世代も加わります。
ここで男性たちは、バックギャモンやトルコ式の麻雀(オケイ)を楽しんだり、ただ水たばこを吸ったりお茶を飲んだりしながら、商売や政治談議に花を咲かせたりします。
男性同士がアルコール抜きで、何時間も楽しそうに話しているのは、日本人が見ると、奇妙に思うかもしれません。しかしトルコの人々の大半はイスラム教を信仰しておりアルコールを飲まないため、このような社交場が必要になるのだと思われます。
小劇場としてのチャイハネ
チャイハネには「男性の社交場」以外の役割があります。それは、伝統的な庶民の芸術を上演する場所としての役割です。「カラギョズ」という影絵芝居や「メッダフ」と呼ばれる語り部の芸などが、チャイハネの客を楽しませる目的で、上演されます。トルコ北西部のブルサという都市を発祥とする「カラギョズ」は、イスタンブールのチャイハネでも人気です。
昔ながらのチャイハネは減少しているが…
今日、都会ではさまざまなタイプの「茶飲み処」を見かけます。チャイだけでなく、コーヒーもトルココーヒーだけでなく、カフェオレやエスプレッソなど「モダンな飲み物」が飲めるようになりました。あの「スターバックス」も、街中で目立つようになってきたほどです。
伝統的なチャイハネやチャイ・オジャウはどんどん少なくなっています。チャイハネもチャイ・オジャウも、男女両方が訪れることが可能な「茶飲み処」へと変化しつつあります。トルコでも女性の社会進出が進んでいるので、ビジネス上の交流の場として、このようなタイプのチャイハネやチャイ・オジャウも、必要とされているのかもしれません。
文化・価値観の継承
男性だけがたむろする、本当の意味で伝統的なチャイハネやチャイ・オジャウも残っていますが、都会では数が少なくなりつつあります。もっとも地方では、そのようなタイプのチャイハネやチャイ・オジャウも、まだまだ健在です。
地方におけるチャイハネやチャイ・オジャウは、地域の課題や日常の問題について話し合う重要な場所です。またこれらの場所は、伝統的な文化の継承を担う、貴重な場所にもなっています。年配者が若者たちに昔話や地域の祭りの由来を語ることなどによって、地域文化のアイデンティティが保たれる、歴史教育の場でもあるのです。
チャイハネとチャイ・オジャウは、地域の祭りや結婚式の打ち合わせにもよく使われます。トルコの農村部において、このような行事はコミュニティ全体で行われることが多く、チャイハネやチャイ・オジャウは、地域の団結をサポートする役割を果たしています。
観光客とのコミュニケーション
観光という立場からも、チャイハネやチャイ・オジャウはトルコの文化を直接肌で感じるのにふさわしい場所だといえます。それにチャイハネなどで飲むチャイの値段は、近代的なカフェで飲む紅茶の値段より、かなり安価です。
旅行中、チャイハネやチャイ・オジャウでチャイを注文して、トルコの人々に混じってぼんやりと過ごすのも、良い経験です。特にトルコの人々は人懐こくておもてなしが好きなので、ほっといてくれないでしょう。彼ら彼女らとコミュニケーションを取るチャンスです。
明治時代の日本を訪問したトルコの軍艦エルトゥールル号が難破したとき、地元の人たちが救助に活躍し、トルコ人船員たちを親身になって世話しました。この歴史のおかげで、今でもトルコの人々の多くは、日本人に好感を持っています。隣でチャイを飲んでいる旅行者が日本人だとわかったら特に大歓迎してくれて、チャイでお腹がチャプチャプになるという経験が待っているかもしれません。
ただし、特に都会では、スリや置き引きにはくれぐれも注意してください。
トルコ人にとって「チャイ」は永遠の存在⁉
トルコの人々にとって、紅茶すなわち「チャイ」は生活に欠かせない存在です。家庭でも、職場でも、もちろん「おもてなし」のためにも、チャイは頻繁に出され、頻繁に飲むことになります。
そのようなトルコの風習を象徴している場所として、「茶飲み処」であるチャイハネやチャイ・オジャウがあげられます。チャイハネやチャイ・オジャウは単にお茶を楽しむ場所ではなく、さまざまな意見を交換したり、伝統を次の世代に伝えたり、伝統芸能を上演したりといった、文化活動にも大きな役割を果たしています。
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誰でも集える寄合茶屋「チャイハネ」について 進藤幸彦著 『フォークロア世界への旅』 より▼
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トルコの民俗芸能~【Pray for Turkey】チャイハネとトルコの最初の接点~