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海外旅行に行くときお金をどうやって持って行きますか?現金派?カード派?手堅くトラベラーズ・チェック? 私は現金を少しだけ持ってあとは現地のATMで引き出す派。 そんな私に予想外の悪夢が襲い掛かりました。
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Lucia Travel連載一覧は こちら
世界でもっとも暑い国ジプチ共和国。 この国を旅した時、私は長旅の2カ月目に入っていました。
詳しくはこちらの記事で↓
【最高気温は70度超!世界一暑い国「ジブチ」のビックリエピソード】
中東からジプチ共和国へ、そして西アフリカへまだまだ旅は続きます。
国が変われば通貨も変わってしまう為、また大量の現金は犯罪に合うリスクを高めるため、手持ちの現金は最小限に抑えて入国する都度ATMでその国の現金を引き出していました。
ジプチの通貨はジプチ・フラン。予めどこかで両替をすることは不可能に近く、両替も米ドルからという指定でした。
「いつも通りATMから現金を引き出そう」 そんな気軽な考えで入国しました。
宿にチェックインしてすぐ、国内を移動するための車を手配しました。 ジプチきっての観光地・アッサル湖と、映画『猿の惑星』の舞台にもなったアベ湖を見に行くためです。
公共交通機関がゼロに等しい国なので、車のチャーターはマストでした。 幸せなことに信頼できる良い人に巡り合い、料金も納得のいく交渉ができて、さあ支払いというタイミング。私はごく自然にこう言っていました。
「ATMで現金を用意するから、ATMの場所を教えてくれる?」 その瞬間、相手の顔が一瞬曇ったのに気付きました。 〝アレ?支払う気がないと思われている?〟とちょっとだけ訝しい気持ちになります。
この国でカード払いはできません。だって、カード決算の機械がないから。だってしょっちゅう停電しているから。だって気温50度超えで機械なんて簡単に壊れてしまうから。
「一番近いATMはどこ?」
現金以外で支払うことが出来ないシステムなので再び尋ねます。彼はATMがある場所を3カ所教えてくれました。
滞在していた町はとても小さな町で、場所や時間を選べば徒歩で移動してもそれほど危険はありません。 教えて貰ったATMは歩いて10分もかからない距離にありました。
銀行に併設されたATMはすぐに見つかりました。少し古びているけれど、外国で見かける馴染みのあるATM。設置場所も銀行の出入口のすぐ脇と、警備員の目も届きやすい場所です。 安心しました。治安が良いとは言ってもここは外国、用心するに越したことはありません。
機械を前にカードを入れます。見慣れた英語。CASHのボタンを押して紙幣を引き出す…でもなぜか、そんな簡単な操作ができません。何度試してもエラー。 〝方法が間違っている?〟軽い気持ちで銀行員を呼びました。 でも銀行員が操作してもやっぱり動きません。そして言いました「壊れてるのかも。電話しておくから明日には直っているよ」。
そんなこともあるよね、と別のATMに向かいます。 不思議なことに同じことが起こりました。ATM自体は動いてカードも読み込んでくれるのに、現金の引き出しは出来ません。ラスト一件も同じでした。 仕方なくチャーターした車の支払は待ってもらうことにしました。
アフリカの人々のいう「明日」を信じて疑わなかった私。 その本当の言葉の意味を理解していなかった私は律儀に毎日そのATMに通いました。そして毎日、ATMが直っていない現実を前に落胆しました。
来る日も来る日もATMに通います。自力で操作した後は、もしかしたら蹴るとか叩くとか、この国の人にしか分からない操作方法があるのかも!と一縷の望みをかけて銀行員を呼び出します。
「ATMが動かないんだけど」
連日やってくるアジア人に、彼らは真摯に対応してくれました。
「え?見せてごらん。」ピピッツ、ピピッツ――----
「仕方ないね。今は調子悪いみたい。明日には直っているさ」
次第に不安になってきます。
「朝も昼も夜も、いつ行っても故障中ってどういうこと!!」
―お金がない
―どうしよう、車の支払どうしたら良いの。ここまで来て観光せずに帰るの?
ATMに朝晩通い詰めて数日。始めのうちこそ「タイミングの問題かも~」と呑気に考えていた私ですが、段々と焦ってきました。
「この国の人はATMを使わないの!?」
「お給料はどうやって貰っているの!?」
「現金が欲しいときは、どうするの!?」
疑問で頭がいっぱいになります。 今を楽しむために町観光でもすれば良かったのでしょうが、観光客が出歩ける範囲は限られており、町自体も半日も滞在すれば充分なものでした。 それに日中の気温は50度近くまで上昇するため精力的に出歩く気持ちにはなれません。頑張って出歩いても誰もいません。何もすることがない。
私が泊まっている宿は町で一番安い値段で泊まれる宿。個室ですがクーラーはありません。 50度の気温の中、天井でカラカラ凄い音を立てて回るファンを見つめて途方にくれました。
国中のATMが使えない。そんな事があるの?ある訳ない。諦めきれません。 宿泊していた安宿のオーナーに改めて、町中のATMを全部教えてもらいます。すべて「壊れている」と確認した場所でした。
「他にATMはないの?隣りの町でもいいよ」
「お嬢さん。ここ以外は飲み水にも困っている場所だよ、ATMがあると思う?」
呆れたようにたしなめるように優しく答えをくれた宿のオーナー。私は言葉に詰まりました。
それはまだ19才だった頃。あちこち外国に出かけるようになる前に、ある日本人に言われました。
「バックパッカーになるなら、どの国に行くときも米ドルだけは持って行きなさい」
「米ドルよりユーロなんて言う人もいるけれど、何だかんだ言ってやっぱり米ドルは強い」
「特に発展途上国に行くなら、米ドルはマスト。でも高額紙幣はダメだよ、100ドル札とか逆に使えないから。10ドルとか20ドルとか小さい額で枚数を持っていれば大丈夫。緊急事態の時に絶対に役立つから」
その人は英語で「Here(ここ)」も言えないほど英語音痴。なのに、一年の半分は外国にいて、外国人とも仕事をしている不思議な人でした。 サバンナでキャンプしてカバに殺されかけたり、手持ちのお金を全部盗まれて無一文で旅したり…。 インターネットや翻訳機も普及しきっていない1990年代から世界中を旅している、私にとってバックパッカーの師匠のような人です。
私はその人の言いつけを守って、どこへ行くときも米ドルを持っていました。 そして気付きました「今が緊急事態なんだ」と。
鞄の中に隠し持っていたお金をかき集めます。「まさか」のため、「もしも」のためのお金。 いつかは役立つだろうと思っていましたが、国中のATMが使えないという不測の事態で役立つことになろうとは…。 何があるか分からない、だから先輩バックパッカーの教えは守らなきゃ。そう思えた出来事です。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。 マイナーな国をメインに、世界中を旅する。 旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。 出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。 公式HP: Lucia Travel
海外旅行に行くときお金をどうやって持って行きますか?現金派?カード派?手堅くトラベラーズ・チェック?
私は現金を少しだけ持ってあとは現地のATMで引き出す派。
そんな私に予想外の悪夢が襲い掛かりました。
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目次
海外で現金を持ち歩くリスク
世界でもっとも暑い国ジプチ共和国。
この国を旅した時、私は長旅の2カ月目に入っていました。
詳しくはこちらの記事で↓
【最高気温は70度超!世界一暑い国「ジブチ」のビックリエピソード】
中東からジプチ共和国へ、そして西アフリカへまだまだ旅は続きます。
国が変われば通貨も変わってしまう為、また大量の現金は犯罪に合うリスクを高めるため、手持ちの現金は最小限に抑えて入国する都度ATMでその国の現金を引き出していました。
ジプチの通貨はジプチ・フラン。予めどこかで両替をすることは不可能に近く、両替も米ドルからという指定でした。
「いつも通りATMから現金を引き出そう」
そんな気軽な考えで入国しました。
現金以外は使えない国ジプチ
宿にチェックインしてすぐ、国内を移動するための車を手配しました。
ジプチきっての観光地・アッサル湖と、映画『猿の惑星』の舞台にもなったアベ湖を見に行くためです。
公共交通機関がゼロに等しい国なので、車のチャーターはマストでした。
幸せなことに信頼できる良い人に巡り合い、料金も納得のいく交渉ができて、さあ支払いというタイミング。私はごく自然にこう言っていました。
「ATMで現金を用意するから、ATMの場所を教えてくれる?」
その瞬間、相手の顔が一瞬曇ったのに気付きました。
〝アレ?支払う気がないと思われている?〟とちょっとだけ訝しい気持ちになります。
この国でカード払いはできません。だって、カード決算の機械がないから。だってしょっちゅう停電しているから。だって気温50度超えで機械なんて簡単に壊れてしまうから。
「一番近いATMはどこ?」
現金以外で支払うことが出来ないシステムなので再び尋ねます。彼はATMがある場所を3カ所教えてくれました。
国中のATMが壊れている!?
滞在していた町はとても小さな町で、場所や時間を選べば徒歩で移動してもそれほど危険はありません。
教えて貰ったATMは歩いて10分もかからない距離にありました。
銀行に併設されたATMはすぐに見つかりました。少し古びているけれど、外国で見かける馴染みのあるATM。設置場所も銀行の出入口のすぐ脇と、警備員の目も届きやすい場所です。
安心しました。治安が良いとは言ってもここは外国、用心するに越したことはありません。
機械を前にカードを入れます。見慣れた英語。CASHのボタンを押して紙幣を引き出す…でもなぜか、そんな簡単な操作ができません。何度試してもエラー。
〝方法が間違っている?〟軽い気持ちで銀行員を呼びました。
でも銀行員が操作してもやっぱり動きません。そして言いました「壊れてるのかも。電話しておくから明日には直っているよ」。
そんなこともあるよね、と別のATMに向かいます。
不思議なことに同じことが起こりました。ATM自体は動いてカードも読み込んでくれるのに、現金の引き出しは出来ません。ラスト一件も同じでした。
仕方なくチャーターした車の支払は待ってもらうことにしました。
毎朝聞かされる「明日には直るよ」
アフリカの人々のいう「明日」を信じて疑わなかった私。
その本当の言葉の意味を理解していなかった私は律儀に毎日そのATMに通いました。そして毎日、ATMが直っていない現実を前に落胆しました。
来る日も来る日もATMに通います。自力で操作した後は、もしかしたら蹴るとか叩くとか、この国の人にしか分からない操作方法があるのかも!と一縷の望みをかけて銀行員を呼び出します。
「ATMが動かないんだけど」
連日やってくるアジア人に、彼らは真摯に対応してくれました。
「え?見せてごらん。」ピピッツ、ピピッツ――----
「仕方ないね。今は調子悪いみたい。明日には直っているさ」
次第に不安になってきます。
「朝も昼も夜も、いつ行っても故障中ってどういうこと!!」
飲み水にも事欠くのに…
―お金がない
―どうしよう、車の支払どうしたら良いの。ここまで来て観光せずに帰るの?
ATMに朝晩通い詰めて数日。始めのうちこそ「タイミングの問題かも~」と呑気に考えていた私ですが、段々と焦ってきました。
「この国の人はATMを使わないの!?」
「お給料はどうやって貰っているの!?」
「現金が欲しいときは、どうするの!?」
疑問で頭がいっぱいになります。
今を楽しむために町観光でもすれば良かったのでしょうが、観光客が出歩ける範囲は限られており、町自体も半日も滞在すれば充分なものでした。
それに日中の気温は50度近くまで上昇するため精力的に出歩く気持ちにはなれません。頑張って出歩いても誰もいません。何もすることがない。
私が泊まっている宿は町で一番安い値段で泊まれる宿。個室ですがクーラーはありません。
―もしかしたら、ATMは直らないのかも50度の気温の中、天井でカラカラ凄い音を立てて回るファンを見つめて途方にくれました。
国中のATMが使えない。そんな事があるの?ある訳ない。諦めきれません。
宿泊していた安宿のオーナーに改めて、町中のATMを全部教えてもらいます。すべて「壊れている」と確認した場所でした。
「他にATMはないの?隣りの町でもいいよ」
「お嬢さん。ここ以外は飲み水にも困っている場所だよ、ATMがあると思う?」
呆れたようにたしなめるように優しく答えをくれた宿のオーナー。私は言葉に詰まりました。
窮地を救った先輩バックパッカーの教え
それはまだ19才だった頃。あちこち外国に出かけるようになる前に、ある日本人に言われました。
「バックパッカーになるなら、どの国に行くときも米ドルだけは持って行きなさい」
「米ドルよりユーロなんて言う人もいるけれど、何だかんだ言ってやっぱり米ドルは強い」
「特に発展途上国に行くなら、米ドルはマスト。でも高額紙幣はダメだよ、100ドル札とか逆に使えないから。10ドルとか20ドルとか小さい額で枚数を持っていれば大丈夫。緊急事態の時に絶対に役立つから」
その人は英語で「Here(ここ)」も言えないほど英語音痴。なのに、一年の半分は外国にいて、外国人とも仕事をしている不思議な人でした。
サバンナでキャンプしてカバに殺されかけたり、手持ちのお金を全部盗まれて無一文で旅したり…。
インターネットや翻訳機も普及しきっていない1990年代から世界中を旅している、私にとってバックパッカーの師匠のような人です。
私はその人の言いつけを守って、どこへ行くときも米ドルを持っていました。
そして気付きました「今が緊急事態なんだ」と。
鞄の中に隠し持っていたお金をかき集めます。「まさか」のため、「もしも」のためのお金。
いつかは役立つだろうと思っていましたが、国中のATMが使えないという不測の事態で役立つことになろうとは…。
何があるか分からない、だから先輩バックパッカーの教えは守らなきゃ。そう思えた出来事です。
前回の記事は こちら
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP: Lucia Travel