隠れた酒飲みが沢山!イスラム教徒とお酒の関係

イスラム教徒とお酒は、切っても切れない深~い関係にあります。
イスラム教徒にとって飲酒はコーランにも明記されたNG項目の一つ。人前で飲酒なんて絶対にNGです。でも実際の姿は…
今回は奥が深いイスラム教徒とお酒のお話です。

前回の記事はこちら

Lucia Travel連載一覧はこちら

ラマダンの準備で酒断ち

イスラム教徒にとって最も大切な期間「ラマダン(断食月)」が間もなくやってきます。
知っていましたか?この断食月はイスラム歴に則って行われるため、毎年時期が変動しているんですよ。

2024年の今年は3月10日が開始日です。(国や場所で変動あり)
ラマダンの期間は日が出ている間は飲み食い禁止、という過酷な暮らしが待っていますが、その期間中は天国へ通じる門が開放される(期間中に亡くなれば無条件で天国に行ける)とあって、イスラム教徒たちは楽しみにしている素振りさえ見せます。

そして忘れてはいけないのがラマダンの準備。イスラム教徒たちはラマダンが始まる90日前からお酒断ちを始めます。
なぜ90日も前から始めるのかって?それはアルコールが体内から抜け切るのにそれだけの日数が必要だからです。生まれ変わったクリーンな体でラマダンを迎える。そのための90日。
あれ?でもそもそもイスラム教徒はお酒OKでしたっけ?

ラマダンの準備で酒断ち

隠れたイスラム教徒の酒飲み達

建前上、イスラム教徒はお酒を飲みません。私の元夫も人前では絶対にお酒を飲みませんでした。友人に居酒屋に誘われたとしても「コーラください!」なんて口にして、お酒を呑む姿を他人に見せることはまずありませんでした。

でも自宅では…。ウイスキーのボトルを1本空けてしまうほどの酒豪でした。ビール、ワイン、日本酒、ウイスキーと種類も何でもOK。特にウォッカなどのアルコール度数の高いものを好む傾向が強かった気がします。
イスラム教徒と結婚して知りましたが、実はみんな結構酒豪。男性は大体、隠れ酒飲みでした。

イスラム教徒なのにお酒を呑んでもいいの?

警戒心の強いイスラム教徒たち。戒律を守って暮らしている姿を見せることはあっても、戒律を破る姿を人前に晒すことはまずありません。でも自宅での彼らは…

ある時、毎晩お酒三昧の元夫に聞いたことがあります。

「ねぇ、イスラム教徒ってお酒はダメなんじゃないの?」

「ダメだよ」

「でも、毎晩呑んでるよね」

「…まぁ、そうなんだけどね」

「呑んでいいの?ダメなの?本当はどっちなの?」

「ダメだよ。だから人前では絶対呑まないでしょ?」

呆れてしまって、言葉に詰まりました。「他人が見ていなきゃいいの?だったら神様って何なの?」と。
でも確かに元夫は、いつも隠れて飲酒をしていました。母国モロッコでも日本でも。
ヨーロッパのパブや日本のオープンカフェのような公の場でお酒を呑むなんてもってのほか。彼にとってお酒とはひっそり隠れて楽しむもののようで、自分の母親にさえ隠していました。お酒を呑むのは一人、もしくは本当に気心の知れた友人とだけコソコソとです。

ビール 開放的な場所でビール!を楽しめるのは私が非イスラム教徒だから

お酒はOK!だけど豚肉はNG!

ほぼ毎週ウォッカを仕入れてくるのに、相変わらず外では「お酒なんて呑みません~」という顔をしている元夫。
その姿は徹底していて、思い返せば日本で結婚式を挙げた際、彼はお神酒を酌み交わす三々九度のお神酒さえ拒否していました。

何だか腹が立ったので、問い詰めたことがあります。

「こんなに毎日呑んでますけど、お酒はダメなんじゃないの?」

「ダメだけど、コレはいいんだよ」

「だったら豚だって食べればいいじゃない!」

ご存じの通りイスラム教徒は豚を食べません。そして当時の私は夫の豚NGに結構疲れていました。
豚だけなら良いんです。ベーコンやウインナー、豚のひき肉などを買わなければ済む話ですし、外食でも抜いてもらえばOKです。

でも、この豚の線引が厄介。突き詰めていくと「ゼラチンは豚のエキスで出来ているから、ゼラチンを使った料理はNG」「シーフード風味は隠し味に豚エキスが入っているからNG」と、ほとんど食べられる料理が無いという状況に陥っていました。
豚肉を食べろとは言いません。でも豚のエキスくらいは食べても良いんじゃないの?

「何言ってるんだ!豚は絶対にダメだ!豚なんか食べたら僕は終わりだ!!!」

「お酒はOKで豚はダメって意味が分からない」

「豚は汚いからダメだ。奴らを見たことあるか?泥のお風呂に入るんだよ。豚肉だけは絶対に食べちゃいけないんだ!」

豚は泥遊びをして寄生虫から体を守ったり皮膚を清潔に保ったりしているようですが、そんな事実は夫には届かないようです。

「コーランに書いてあるんだよ」

「そもそもなんでお酒がダメなの?」

「コーランに書いてあるんだよ。お酒は嘘やケンカの原因になるから飲んじゃダメって!」

驚きました。これまで勝手にお酒=悪だと思っていましたが、そうではないようです。諍いや争いの元になるから飲酒をするなとは、なんて具体的な理由なのでしょうか。

「お酒そのものは悪くないんだね」

「そうだよ。悪を招くからそういう行為は止めなさいってことだよ」

元夫と言葉を交わしながら、「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」という諺を思い出していました。
瓜を盗むのではないかと疑われるので瓜田では靴を履き直してはいけない、李を盗むのではないかと疑われるので李の木の下では冠を被り直してはいけない=人から疑われるような行動は避けるべきであるという戒めの言葉。
日本とイスラムは縁遠く、通じるものは少ないと思っていましたが、この諺は〝悪を招くからするな〟に似ていると思いませんか?

国をあげてワインを生産するイスラム国家

国をあげてワインを生産するイスラム国家

イスラム教の国の多くは飲酒を禁止しています。でも不思議なことに、イスラム教徒を多く抱える国々はワイン造りに力を入れていたりします。

例えば元夫の母国モロッコ。この国は99%がイスラム教徒を占める国ですが、メクネスと呼ばれる古都(日本でいう京都のイメージ)では、ワイン造りがとても盛んなんです!
ガイドブックに”メクネスワインが有名”と書かれるほどの力の入れよう。元夫も大変誇らしいようで、レストランでメクネスワインを見るたびに自慢げに話をしていました。

そこで「イスラム教徒はお酒ダメじゃなかったの」と聞いてはいけません。それは無粋な質問。
イスラム教徒はアルコールが全面的に禁じられています。でも国をあげてワインを造っている。それがモロッコの魅力です。

でも美味しいメクネスのワインは、なかなか世界に流通しません。
生産数の問題もありますが、一番の理由は美味しすぎて他国に輸出される前に国内で消費されてしまうからなかなか輸出にまで追いつかないのが現状です。

あれ?と思いますよね。イスラム教徒はお酒NGのはずでは…?と。
モロッコには観光客がたくさん訪れます。お酒解禁のレストランもあります。そして、このお話の始めに戻ります。
建前としては呑まない酒豪のイスラム教徒たちが暮らしているのです。

前回の記事はこちら

Lucia Travel連載一覧はこちら

R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

ルチアトラベル連載一覧へ

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE