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夜になっても太陽が沈まない現象「白夜」。“真夜中なのに空が明るく、一日中ずっと太陽が沈まない地域がある”と教科書で習った記憶はありませんか?
日本にいたら絶対に体験できない白夜をスコットランドでプチ体験してきました。
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Lucia Travel連載一覧はこちら
仕事で頻繁に海外を行き来している知人が、少し前にロシア・サンクトペテルブルグに出張に行きました。一週間ほど滞在したそうですが、サンクトペテルブルグの白夜は、とてつもなく美しかったそうです。
「23時なのに、空が昼間と変わらない明るさなんだよ。深夜1時を過ぎてやっと少し陽が傾いてきたかなって感じる位ずっと明るいの。陽が長いっていいよね~」彼女は日照時間の長さが気に入ったようで、将来は移住もいいかもなんて呟いていました。
北欧で作られた何かの映画を見た時だったと思います。もうタイトルも忘れてしまいましたが、その映画を見て白夜がある国は若者の自殺率が高いと知りました。自殺率は特に白夜の時期に上がります。
幻想的な白夜。私の友人は一日を有効活用できていいよ!と喜んでいましたが、でもずっと陽が沈まない中で生活を続けていると、心身に支障をきたしてしまうのが人間のようです。
太陽を浴びないと気分が落ち込む(鬱になりやすい)という話はよく聞きますが、太陽がずっと空にあるのもダメだとは…。人間はデリケートですね。
白夜にまつわる話を聞いたり見たり読んだりしている間に、私の白夜への期待は高まりました。「精神が不安定になる白夜ってどんなものなんだろう。キレイなの?怖いの?白夜の中で生活したら私の心身はどう変化するんだろう…」
ただ白夜が有名なグリーンランドも北欧も旅費が高く、なかなか簡単に決断できません。そんな時に耳にしたのが、スコットランドの話でした。日本⇔英国・ロンドンなら旅費はそこまで高くはなく、ロンドン⇔スコットランドは長距離バスで簡単に移動が叶いました。
白夜には2種類あります。太陽が沈まず一日中ずっと明るい状態が続く完全な白夜と、太陽は沈むものの暗闇がやってこない白夜です(薄暗くはなるけれど闇夜にはならない状態)。完全な白夜を体験したいという人には、グリーンランドやフィンランドがおススメ。真夜中でも煌々と太陽が輝く幻想的な白夜を体験できます。
残念ながら私が訪れたスコットランドはそうではありません。白夜が見られる国としては無名に近い。……ということは、つまり薄暗い白夜しか体験できないということです。それでも、ほんの少しでいいから白夜というものを体験したかったのでOKとしました。
スコットランドは美しい自然がたくさん残る国。英国の一部でありながら、英国とは全く違う静かで少し冷たい空気をまとっています。どちらかといえば、北欧や東欧の雰囲気でしょうか。
そんなスコットランドを代表する観光地といえばエディンバラ。有名なエディンバラ城をはじめ、世界遺産にも認定された街並みやウイスキー博物館、『ハリーポッター』の作者が執筆をしていたカフェなど、見どころがギュっと詰まった一大観光地です。エディンバラはスコットランドで二番目に大きな都市ですが、エディンバラも自然で溢れていました。東京やロンドン、シドニーのように人工的な美しさを想像して訪れると肩透かしをくらう気分です。
エディンバラ城は崖のようなゴツゴツした岩山の上に建っていますし、その麓には美しく手入れされた広い公園が広がっています。さらにその奥には、アーサーズ・シート(アーサーの玉座)と呼ばれる高い丘がまるで守り神のようにそびえ立っていました。自然がありそこに人工物があるそんな印象です。
旧市街を歩きます。見どころはいっぱい。でもどの観光地を見ても、常に荒涼とした丘アーサーズ・シートが視界に入ってきます。見守られているような、見張られているような…。
この丘は世界中の人々がハイキングに訪れる人気スポットです。ただ、私はあまり興味がありませんでした。それより教会に行きたい、お城を見たい、ウイスキーも飲みたい。ハイキングに時間をかけるより、したいことが沢山ありました。
でも、どこにいても視界に入ってくるその丘に気付いたら足が向いていました。中世の街並みが色濃く残る旧市街の中を丘を目指して進みます。高い丘なので迷うことはありません。街を抜けると、目が覚めるくらい濃い緑色をした草原が広がっていました。アーサーズ・シートの麓です。
そのまま、ゆるやかな丘をのんびり歩いていきます。赤い土の上には、色素が抜けたような色合いの草が生い茂っていました。風が吹くたびにサワサワと揺れる草に、どこまでも続く小さな丘。進んでも進んでも、同じような景色が広がります。荒涼としたスコットランドらしい景観美は、どこか寂しさをもたらします。
静かでどこか寂しげな丘。歩いていると何だか自分自身まで寂しい気持ちになってきました。夢だったスコットランド。憧れの白夜。なのに、なぜこんなに物悲しいのでしょうか。ふと時計を見ると、夜9時になっていました。真夏とはいえ夜の9時。それなのに、周囲はまだまだ明るく人々も絶え間なく行き交っています。
私が終わると決めなければ、今日という日は終わらない。暗くなったらから帰宅しようということができない。太陽は時間を教えてくれない。「これが白夜」まるで終わらない夏休みを過ごしているような、切ないような、苦しいような気持ちが芽生えます。
歩き疲れた私は草の中に埋もれるように座り込みました。どう頑張っても「陽が長くてラッキー。たくさん観光できるね」とは思えませんでした。一体何がそうさせるのか。アーサーズ・シートに生えている草は背が高く、座り込んだ私の背丈を簡単に超えます。風を受けて静かに揺れる枯れかけた草。闇がやってこない空。ダメだ…やっぱり何だか物悲しい。
白夜のシーズンには自殺率が上がるといいます。太陽が沈まないことによる睡眠不足が原因だとも指摘されていますが、〝白夜にはそこはかとない絶望が潜んでいて、それに呑まれてしまう人間もいる〟そう感じずにはいらない体験でした。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
夜になっても太陽が沈まない現象「白夜」。
“真夜中なのに空が明るく、一日中ずっと太陽が沈まない地域がある”と教科書で習った記憶はありませんか?
日本にいたら絶対に体験できない白夜をスコットランドでプチ体験してきました。
前回の記事はこちら
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目次
23時でも昼間と同じ明るさの白夜
仕事で頻繁に海外を行き来している知人が、少し前にロシア・サンクトペテルブルグに出張に行きました。一週間ほど滞在したそうですが、サンクトペテルブルグの白夜は、とてつもなく美しかったそうです。
「23時なのに、空が昼間と変わらない明るさなんだよ。深夜1時を過ぎてやっと少し陽が傾いてきたかなって感じる位ずっと明るいの。陽が長いっていいよね~」
彼女は日照時間の長さが気に入ったようで、将来は移住もいいかもなんて呟いていました。
白夜は精神を崩壊させる!?
北欧で作られた何かの映画を見た時だったと思います。もうタイトルも忘れてしまいましたが、その映画を見て白夜がある国は若者の自殺率が高いと知りました。
自殺率は特に白夜の時期に上がります。
幻想的な白夜。私の友人は一日を有効活用できていいよ!と喜んでいましたが、でもずっと陽が沈まない中で生活を続けていると、心身に支障をきたしてしまうのが人間のようです。
太陽を浴びないと気分が落ち込む(鬱になりやすい)という話はよく聞きますが、太陽がずっと空にあるのもダメだとは…。人間はデリケートですね。
白夜を見れる穴場スポット、スコットランド
白夜にまつわる話を聞いたり見たり読んだりしている間に、私の白夜への期待は高まりました。
「精神が不安定になる白夜ってどんなものなんだろう。キレイなの?怖いの?白夜の中で生活したら私の心身はどう変化するんだろう…」
ただ白夜が有名なグリーンランドも北欧も旅費が高く、なかなか簡単に決断できません。
そんな時に耳にしたのが、スコットランドの話でした。日本⇔英国・ロンドンなら旅費はそこまで高くはなく、ロンドン⇔スコットランドは長距離バスで簡単に移動が叶いました。
完全な白夜とそれ以外の白夜
白夜には2種類あります。太陽が沈まず一日中ずっと明るい状態が続く完全な白夜と、太陽は沈むものの暗闇がやってこない白夜です(薄暗くはなるけれど闇夜にはならない状態)。
完全な白夜を体験したいという人には、グリーンランドやフィンランドがおススメ。真夜中でも煌々と太陽が輝く幻想的な白夜を体験できます。
残念ながら私が訪れたスコットランドはそうではありません。白夜が見られる国としては無名に近い。
……ということは、つまり薄暗い白夜しか体験できないということです。それでも、ほんの少しでいいから白夜というものを体験したかったのでOKとしました。
荒涼とした自然に囲まれたスコットランド
スコットランドは美しい自然がたくさん残る国。
英国の一部でありながら、英国とは全く違う静かで少し冷たい空気をまとっています。どちらかといえば、北欧や東欧の雰囲気でしょうか。
そんなスコットランドを代表する観光地といえばエディンバラ。
有名なエディンバラ城をはじめ、世界遺産にも認定された街並みやウイスキー博物館、『ハリーポッター』の作者が執筆をしていたカフェなど、見どころがギュっと詰まった一大観光地です。
エディンバラはスコットランドで二番目に大きな都市ですが、エディンバラも自然で溢れていました。東京やロンドン、シドニーのように人工的な美しさを想像して訪れると肩透かしをくらう気分です。
エディンバラ城は崖のようなゴツゴツした岩山の上に建っていますし、その麓には美しく手入れされた広い公園が広がっています。
さらにその奥には、アーサーズ・シート(アーサーの玉座)と呼ばれる高い丘がまるで守り神のようにそびえ立っていました。自然がありそこに人工物があるそんな印象です。
旧市街に佇む丘アーサーズ・シートへ
旧市街を歩きます。見どころはいっぱい。でもどの観光地を見ても、常に荒涼とした丘アーサーズ・シートが視界に入ってきます。見守られているような、見張られているような…。
この丘は世界中の人々がハイキングに訪れる人気スポットです。ただ、私はあまり興味がありませんでした。それより教会に行きたい、お城を見たい、ウイスキーも飲みたい。ハイキングに時間をかけるより、したいことが沢山ありました。
でも、どこにいても視界に入ってくるその丘に気付いたら足が向いていました。中世の街並みが色濃く残る旧市街の中を丘を目指して進みます。高い丘なので迷うことはありません。
街を抜けると、目が覚めるくらい濃い緑色をした草原が広がっていました。アーサーズ・シートの麓です。
そのまま、ゆるやかな丘をのんびり歩いていきます。赤い土の上には、色素が抜けたような色合いの草が生い茂っていました。
風が吹くたびにサワサワと揺れる草に、どこまでも続く小さな丘。進んでも進んでも、同じような景色が広がります。荒涼としたスコットランドらしい景観美は、どこか寂しさをもたらします。
アーサーズ・シートで迎えた白夜
静かでどこか寂しげな丘。歩いていると何だか自分自身まで寂しい気持ちになってきました。
夢だったスコットランド。憧れの白夜。なのに、なぜこんなに物悲しいのでしょうか。
ふと時計を見ると、夜9時になっていました。真夏とはいえ夜の9時。それなのに、周囲はまだまだ明るく人々も絶え間なく行き交っています。
私が終わると決めなければ、今日という日は終わらない。暗くなったらから帰宅しようということができない。太陽は時間を教えてくれない。
「これが白夜」まるで終わらない夏休みを過ごしているような、切ないような、苦しいような気持ちが芽生えます。
歩き疲れた私は草の中に埋もれるように座り込みました。
どう頑張っても「陽が長くてラッキー。たくさん観光できるね」とは思えませんでした。一体何がそうさせるのか。
アーサーズ・シートに生えている草は背が高く、座り込んだ私の背丈を簡単に超えます。風を受けて静かに揺れる枯れかけた草。闇がやってこない空。ダメだ…やっぱり何だか物悲しい。
白夜のシーズンには自殺率が上がるといいます。太陽が沈まないことによる睡眠不足が原因だとも指摘されていますが、〝白夜にはそこはかとない絶望が潜んでいて、それに呑まれてしまう人間もいる〟そう感じずにはいらない体験でした。
前回の記事はこちら
Lucia Travel連載一覧はこちら
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel