ミドルネームが生む制約

外国人の元夫との間に生まれた私の子には、ミドルネームがあります。
このミドルネーム「かっこいいね」と言われることもありますが、日本で生きていると厄介なことの方が多くあります。

今回はミドルネームを持つ子を育てて知った制約について紹介します。

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ミドルネームをつける理由

外国人の元夫との間に子どもが生まれたとき、
日本語の名前と夫側の言語を使った名前、2つの名をつけることにしました。
例えるなら、

日本語名:武

外国語名:ミカエル

どちらをファーストネームにして、どちらをミドルネームにするか揉めたことはありません。
その時の私たちの気持ちを適切に表すなら『ダブルネームをつけた」感覚でした。だから、日本語で話しかけるときは武、外国語で話しかけるときはミカエルと使い分けていました。

子どもには父親の母国語を理解できる子になって欲しいと思っていましたし、将来は父親の国へ移住する可能性もありました。
だから外国語(夫の母国語)の名前はマスト。
同時に日本で生活している以上、日本語の名前は必須だと感じていました。

日本ではミドルネームをつけられない!?

出生届を出す段階でトラブルは起こりました。
日本にはミドルネームという概念がないため、戸籍にミドルネーム欄がなかったのです…。

ミドルネームが生む制約

区役所で「こういう場合は、名前の欄に全てを続けて一語で表記してください。日本では〝ファーストネーム〟と〝ミドルネーム〟をくっつけて一語として扱います」と、説明されました。

また、人名なので「・(中グロ)」や「‐(ハイフン)」、「半角・全角空き」もNGでした。
私たちは『武・ミカエル』という名前にしたかったのですが、区役所の説明に従うと、「武ミカエル」か「ミカエル武」にするしかありません。苗字とのバランスを考えて悩み「武ミカエル」にしました。

ミドルネームによる手続き面での問題

口座開設でのトラブル

子どもが生まれると、子どものための口座を開設する機会は、必ず訪れます。ここでもやっぱりトラブルは起こりました。

まず必ず聞かれるのは「お子さんの国籍は?」です。
そして次に聞かれるのが、親権者の私の国籍。
我が家の場合は、私=日本国籍。子ども=日本国籍で特に問題はありませんでしたが、あらゆる場面で何度も国籍の質問をされるので、ちょっとだけこの質問がイヤになっていました。

次に大変なのが書類。
「ミドルネームの方は別途、書いていただきたい書類があります」と、ミドルネームがなければ書かなくてすむ書類への記入を求められます。

最後に「0円での口座開設しかできません」と案内されます。
一般的に口座を開設する場合、入金を求められることの方が多くあります。1,000円でも2,000円でも良いから口座開設時には入金して下さいねと。
でも、ミドルネームがある場合は別です。「入金した状態では開設できません。0円での開設になります」と真逆の説明を受けます。

さらに謎なことに「このままAMT機械に行っていただければ、すぐに入金できますよ。お手間はかかりますが、すぐ使えますから!」と。

口座は作れますし、その場で通帳も貰えます。通帳を受け取った瞬間から普通の口座と同じように使用できます。
でもミドルネームがあると、入金した状態の口座は作れない。
未だに理由が分からない謎ルールの一つ。

名前が長すぎる問題

ミドルネームを持っている人あるあるかも知れませんが、名前が長すぎで書類の氏名欄にフルネームを書ききれないことが多々あります。

公的な書類の氏名欄のスペースの小ささに何度泣かされたことでしょう。
毎回、文字を極小サイズにしたり、無理やり上下2段に名前を分けて凌ぎます(年末調整の書類の名前欄は小さすぎで、ルーペで読むレベルになりました)。

さらに困るのは四角マスが記され『1文字1スペースでお願いします』と書いてあった時。これは正直かなり困ります。名前を全部書ききれるのか?と焦ります。

そこに『濁点も1スペースでお願いします』と書いてあったら、もうお手上げ。途中までしか名前は書けません。
困って書類の提出先に尋ねますが、「お待ちください」と待たされるばかり。そして欄外に書いたり、別紙に正式名を書いたり、時には省略で記入することになります。

書く側も苦しい、読む側(処理する側)も苦しい。結構、困るシーンなので、いつか改善されないかな?と思っています。

パスポートでも悩む

ミドルネームが生む制約

子どもが5歳になった時パスポートを作ることになりました。
私の子どもはダブル国籍、一筋縄でいかないだろうなと覚悟していました。でもダブル国籍はそこまで重要視されず、問題となったのはミドルネームでした。

一番の問題は署名。署名時のミドルネーム(外国語名)の書き方がなぜかすごく問題になりました。

当初、署名は平仮名で書く予定で準備をしていました。5歳児です。ひらがなで本人が書けばOKだと思っていました。

しかしミドルネームがある場合はアルファベットの方が良いと指摘を受けて書き直しをすることに。
その後も、苗字+日本語名+外国語名の方が良いとか、日本語名+外国語名+苗字の順番が良いとか。

基本は日本の戸籍に記載されている文字になります。なのに、それにのっとって日本語名+外国語名を続けて1語にして書けば、パスポートの場合それはダメだとか…。大文字が良いとか、ミドルネームだけは大文字にしようとか。もう申請を諦めようかと思いました。

結局、子どもの署名は日本語名+外国語名のイニシャルのみ+苗字の順で、全てをアルファベットで書くに落ち着きました。
戸籍や印字されている名前と一致していない署名。でも、それがベストなんだそうです。

身近なトラブル

保育園でのいたたまれない出来事

保育園に入園するとき「名前を呼ぶときも、表記も日本語の名前だけで大丈夫です」そう説明しました。
でも伝わっていなかったようで登園初日、名簿の中にミドルネーム入りの息子の名前を見つけました。潰れて読めない位ギチギチでした。

お絵描き帳には14文字あるフルネームを先生が手書きで書いてくれていました(先生苦労しただろうな)。さらには、幼児用の小さな下駄箱にもフルネーム。
両サイドのお友達のスペースにまで浸食している我が子の名前を目にしたとき、何だか悪い事をしているような、いたたまれない気分に陥ったのを覚えています。

病院で言われたショッキングなこと

ずっと通っている小児科である日、衝撃的なことを言われました。「ミドルネームがある人は、患者さん名簿から名前が検索できないの」と。

ビックリしました。どういう仕組みか分かりませんが、とにかく我が子はその病院の患者リストから弾き飛ばされているそうで、コンピューターを使って名前の検索はできないというのです。

「だから電話で予約するときも、必ずミドルネームがあると伝えて」と念を押されました。

純日本人にもミドルネーム?

これは実話です。私の妹は自分の子が生まれたとき、ミドルネームをつけようとしていました。日本人×日本人の間に生まれた、日本で生まれ育つ子に対してです。
産後ハイだったのでしょう、区役所の方に説得されて諦めた経緯があります。

日本人×日本人の子どもでも特別な理由なしに、ミドルネームは持てます。
でもミドルネームを持った子を育てている親としては声を大にして言いたい。「それは止めたほうがいいですよと」。

「カッコいいから」「海外で活躍する子に育って欲しいから」
良いと思います。でもミドルネームは沢山の制約を生みます。色んなことを聞かれます。視線を浴びます。それは、ずっと付きまとう鎖のようなもの。

我が家の場合は保育園を卒業するタイミングで「小学校ではミドルネームを省略したい」と学校と区役所に申し入れをしました。
それほどデメリットの方が大きかったからです。

もし我が子にミドルネームを考えているのなら、マイナス面も知った上で名付けて欲しい、そう思います。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP: Lucia Travel

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