チャイハネ創業者BOSSとネパールカレンダーの出逢い

今回は、チャイハネ創業時から毎年ロングセラーのネパール和紙の素朴な素材感が魅力的なネパールカレンダーの誕生秘話を紹介します。創業者BOSSが当時ネパールでどのような出逢いがあり商品になったのか、経緯や現在そのカレンダーが現地の定番商品となっていることなど、アミナコレクション代表 進藤に語っていただきました。

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ネパールの首都カトマンドゥに降り立つと、いつもホッとした心持ちになる。
ネパールに入る前にはインドの都市部に滞在していることが多く、インド独特の喧騒と油断ならない人々の眼光にさらされ続ける。ネパールに移動すると、人々も街並みも素朴で、時の流れも一歩遅く、癒されてしまうのだ。

そんな素朴で信仰心厚いネパール・カトマンドゥの、お寺や堂塔が立ち並ぶ中心地の門前町には、石畳に沿ってタンカ(曼荼羅)やシルバーのアクセサリー、じゅうたん、かばんなどの店が一間ほどに仕切られて並んでいた。オムさんのネパールペーパーの店もその一つであり、活気ある雑踏をかいくぐりながらの、ふとした旅先の出会いだったのだと思う。

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1984年、アミナコレクション創業者・進藤幸彦(BOSS)が、オムさんとの出会いを機にネパールペーパーの再創造に取り組んだ。オムさんのところではヒマラヤの村々から運ばれてきた紙を使って木版画でカレンダー、便箋、はがき、封筒、紙ランタンなどを作っていた。しかし木版画は主として、ヒンズーの神々と、ブッタや曼荼羅といった国内向けの宗教画がメインであった。これでは日本では売ることができない。

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そこでオムの工房に、インドや日本で購入した資料を持ち、彼の美しい木版技術をもっと生かせないものか、研究した。
オムの工房兼自宅は、通りから少し離れた路地の奥にあり、中庭を取り巻く五階建ての古めかしい木造煉瓦壁の伝統建築である。一階を工房、二階を客間、三階を居間・寝室、四階を台所にして一家五人でくらしていた。私たちは二階の部屋で、ああでもない、こうでもない、と夜の更けるまで商品を考えた。人体についていのインドのヨガの思想を本の図柄からデザインとして取り出して集めてみた。ヨーガタントラと呼ばれる抽象的な絵、天と地と人体との関係図、五つのチャクラの図、手と足のツボをシンボリックな絵で表したものを基に「ヨガ・カレンダー」という商品を作り出した。オムの意見も現地感覚だし、作り手なので積極的に取り入れている。

このヨガカレンダーは日本で評判がよく、1シーズンでリピートオーダーを何度か追加し、チャイハネの定番商品となった。その一年後にはカトマンドゥのほとんどの紙屋の店頭に類似品が現れ、ドイツやオーストラリアのほうにも輸出されたと聞いてびっくりした。

(フォークロア世界への旅、参照)

ネパールペーパーとチャイハネの歴史も40年となった。
同じ手漉きである日本の和紙と比べて、繊維が粗く雑味のある風合いで色も多少茶色がかっている。人間の手から作られる不定形で不完全なものにときに温かみや価値を感じるように、ネパールペーパーも、味のある素朴で愛らしいペーパーである。現地の木版画の伝統技術はしっかりしていて、希望のデザインはたいてい再現してくれる。そして版画でライン引きされた枠デザインに手作業で色を塗って仕上げていくわけだ。最終的に工業製品では絶対に産み出せない、ひとつひとつに人間の肌触りや視覚的な癒しを残した、貴重な民芸カレンダーが出来上がる。

ネパールペーパーは産業の薄弱なネパールの貴重な輸出産業となっているが、そのきっかけがチャイハネのカレンダーであった。当時19歳であったというオムさんとの協業は、未だ継続していて、互いの切磋琢磨により取引は大きく拡大していき、毎年のようにヒット商品を産み出し続けている。

現地に行ってその土地の人々や文化と出会い体験し、作り手と顔を合わせて現地感覚で共にモノづくりをしていく。そしてお互いに仕事の発展を助け合っていくパートナーシップを大事にし、長期的な取引を志向して地域産業の発展にも繋げていく。チャイハネの大事にしてきたモノづくりの価値観の原点がネパールにあるのだ。

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p.s. 原点ともいえるネパールペーパーのデザインは未だに現地のお土産屋で売られている。

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筆者プロフィール:進藤さわと

アミナコレクション創業者 進藤幸彦の次男坊。2010年に社長に就任。
1975年生まれ。自然と歴史と文化、それを巡る旅が好き。


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