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下駄や草履を履くときは、いつでもなんだか良い景色があります。 笑顔はじける晴れの日。一年ぶりに浴衣に袖を通す夏の午後。
日本伝統の履物はとても歴史が古く、この国の気候や文化に合わせて様々な工夫が凝らされ、形を変えてきました。 現代では少し影が薄くなったものの、大切な日の特別な履物として、また子どもたちの健康な足を育てるための「足育」に欠かせないアイテムとして、再び注目を集めています。
ここでは下駄と草履、そして雪駄の違いと、日本でどのようにこの履物が親しまれてきたのかを解説します。 日本の暑い夏、足元から涼しく、健やかになるヒントがありそうですよ。
下駄と草履と雪駄。 共通点は、どれも鼻緒がすげられているということ。足の親指と人差し指の先で鼻緒を軽く挟み込んで履きます。 では、それぞれの違いはどんなところにあるのでしょうか?
下駄と草履の違いとして分かりやすいのが、足を乗せる台に使われている素材です。
下駄の台には木が用いられます。 一般的に、美しさと機能的な面から桐材が適しているとされていますが、その中でも四季で寒暖の差が激しい会津盆地で育つ「会津桐」が最高峰。
仕上げは、木の風合いをそのまま生かした「白木」や、木目が際立ち落ち着いた雰囲気の「焼き」、冴えた印象の「塗り」などがあります。
一方の草履は、コルク芯に革や布、ビニールなどを被せた台が使われます。 最近ではウレタンやスニーカーで使われる軽量なEVA素材を用いた草履も増えてきました。クッション性があり、長時間履いても疲れにくいのが特徴です。
草履の一種である雪駄は、竹皮やいぐさを編んだ畳表が使われた厚みのない台の裏に、防水のための革が貼られています。
また、それぞれの台の底の形状にも違いがみられます。
下駄の一般的な形は台に歯がついていて高さがあるものですが、この下駄の台にはいくつかの種類があり名前が付いています。
駒下駄(二本歯):最も一般的で、台に2本の歯がついた形。一つの材から、台と歯を削り出して作ります。
のめり:2本の歯のうち、前の歯が斜めに切り出されています。下駄を前に倒しやすく、より歩きやすいよう考えられた形です。
右近:背が低く草履や靴に近い底は、接地面が広いため安定しています。滑り止めのスポンジが貼られており、サンダル感覚で履くことができます。
舟形:草履をそのままを木製にしたような形状。全体的に背が高く、フォーマルな印象を受ける形です。
一本歯:その名の通り、歯が1本のみ。天狗や山伏が履いている形です。山登りなど坂を登る際に適しており、最近ではバランス感覚や体幹を鍛えるために取り入れられています。
一方、草履や雪駄の底面はフラット。 草履は、台に厚みがあるものほどフォーマルで、格式が高いとされています。
では、下駄と草履はどのような時に履くのがよいのでしょうか? また、選ぶ際に気をつけるとよい点などもみていきましょう。
よくいわれるのが、フォーマルな装いには草履を、カジュアルな場では下駄を合わせるということです。
着物に合わせるなら、大きく以下のように分けられます。
草履:振袖・留袖・訪問着・付下げ・色無地・小紋・紬
下駄:浴衣・小紋・紬
格式が高い着物の場合は、それに合わせた草履を選ぶことが重要です。 草履は台に厚みがあるものほど、フォーマルな印象になります。
着物でなくても、シーンに合わせて選ぶこともとても大切。 例えば、コンサートや美術館などに出かける場合、駒下駄だと音が気になりますよね。
また、演劇鑑賞やお買い物など、華やかにおしゃれを楽しみたい時は、台と鼻緒の素材を変えたりしてみるのもよいでしょう。
正装が必要な場合は失礼があってはいけませんが、あまり難しく考えることなく、自分なりの組み合わせを試してみるのも、おしゃれの楽しみですよね。
下駄や草履のサイズは、かかとが1~2cmほど出るのがよいといわれています。 これは、立ち姿がすっきりと美しく見えるため。 さらに、うっかり着物の裾を踏んで着崩してしまうことがないようにという意味もあります。
履き慣れていなくて足の痛みが心配という方は、かかとが出るか出ないかぐらいのサイズにしておくと安心かもしれません。 ただ、台の方がだいぶ大きいというのは少し格好悪いので気をつけましょう。
また幅に関しては、小指が少し台から出るくらいがよさそうです。
下駄と草履どちらも、鼻緒は指の股深くまで入れてしまわず、鼻緒を親指と人差し指の先で引っ掛けるようにして履くのが、粋な履き方のポイントです。
下駄を取り入れることのメリット、また下駄だからこそのデメリットとその対策もみていきましょう。
高さがあって、いつもと少し違う筋肉を使いそうな下駄。 体にはどんな良いことがあるのでしょうか?
つま先の細い靴やヒールを履く機会が多い現代人は、足の指が縮こまりがち。心臓から遠い足はどうしても血行が悪くなり、むくみが気になる方も多いですよね。
下駄を履くことで、鼻緒を挟む足の親指と人差し指だけではなく、すべての足指が開き、無意識のうちに台をぐっと踏みしめる動きをします。
普段あまり動かさない足指をしっかりと使って歩くため、自然と血行がよくなります。
手のひらや足の裏には、内臓や各器官につながる末梢神経が集中する「反射区」があることが知られています。
とくに足の親指やその周囲には、大脳・小脳・松果体などなど脳の様々な部分につながる反射区が集中。
親指と人差し指のあいだに鼻緒を挟みしっかりと足指を踏みしめることで、この反射区に刺激が加わります。
この脳の反射区を刺激することで、睡眠を促されたり、ホルモンバランスが整えられたり、またスマホで疲れた脳を緩められたりと、いいことずくめなのです。
下駄は前に倒しながら歩くため、重心が靴を履いているときより前寄り、足の中心近くになります。
靴を履いての生活は踵に重心となることが多く、これが猫背や、指がしっかり地面に付かない浮指の原因になるといわれています。
下駄を履くことで足全体が地面に接するようになり、重心が正しい位置に移動。 理想とされる背骨が緩やかなS字カーブが描く姿勢が保たれるようになるのです。
また下駄を履いていると、左右の歯のすり減り方で体の歪みがわかるのだそう。そんな時は左右を入れ替えて履くことで、姿勢の矯正にも役立つといいます。
姿勢は内臓の働きや深い呼吸にも影響します。履物一つで体調に様々なよい変化が現れるかもしれません。
体に嬉しいことが多そうな下駄ですが、デメリットはどんなことがあるのでしょうか?
長く履くと、必ずと言ってよいほど足が痛くなってしまうのが下駄。 履き慣れていないと、親指と人差し指の股の部分が鼻緒と擦れて「鼻緒ずれ」ができてしまうこともあります。
せっかくのお出掛け、足が痛くなってしまったら台無しです。 下駄を美しく履きこなすために、正しい履き方のほかに事前にできることがいくつかありますよ。
まず、鼻緒は親指と人差し指で挟む感じに履き、指の股の奥には指一本分ほどの隙間を開けることがポイントです。奥まで入れると、擦れて痛みが出る原因になってしまいます。 他にも以下のポイントに注意することで、できるだけ鼻緒ずれを防ぐことができます。
木製の下駄、とくに駒下駄など接地面が狭いタイプの下駄は、雨あがりやタイル張りの床などを歩く際、とても滑りやすくなります。
下駄を履き慣れていない方におすすめなのが、右近下駄や舟底下駄。最近よく見られる底面が広めでスポンジが貼られたタイプです。 他にも、下駄の風情を残しながら、あまり履き慣れない方にも履きやすい工夫がされた様々な下駄が登場しています。
また、下駄は普段より少し小股で歩くのが美しい歩き方。 滑らないためにも、この歩き方が重要です。
最近は「足育」として保育園などでも積極的に取り入れられている草履。それにはどんなメリットが期待されているのでしょうか? また、草履の短所についてもみていきましょう。
草履も下駄と同じく、履くことで体にうれしい変化が期待できそうです。
成人の3割ほどに症状が見られるという外反母趾。 親指の付け根の部分が「くの字」に飛び出し、痛みを伴います。
原因は幅の狭い靴を履いての生活や、足の裏側の筋力が衰えてなる「開張足」や「扁平足」です。
草履を履いて歩く際は鼻緒を挟み全ての足指を開いて踏ん張りながら床を掴むように動かします。 そのため足裏全体が鍛えられ、足の裏のアーチがしっかりと形成されるのです。
体重をしっかり支えながら固い地面からの衝撃を和らげる足裏のアーチは、現代人だからこそ重要なため、今「足育」が注目されているんですね。
また草履を履くことは、冷え性にもよい影響があるといわれています。 すべての足指で踏ん張ることで足先に筋肉がつき、血行が促進されると同時にふくらはぎにも適度に負荷がかかります。
ふくらはぎに筋肉がつくと、血管のポンプ機能が活発になり、新陳代謝もアップ。足のむくみや冷え性が改善されるのです。
夏から秋にかけてサンダルやルームシューズの代わりに草履や下駄を履いておけば、寒くなる時期までに筋肉が鍛えられ冷え性対策になりそうです。 冬場も足袋靴下と合わせて履けば、より効果がありそうですね。
草履の魅力は、なんといってもその心地よさです。
湿気の多い日本の夏、靴の中の蒸れが気になる方も多いと思います。 下駄や草履などが履物として主流だった時代は、水虫はほとんどなかったのだそうです。
台に天然素材が使われた草履は、通気性がよく吸水性も高いため、蒸れにくい履物。いぐさには抗菌効果もあるため、水虫が気になる、という方にはぴったりです。
それでは、草履はどんな短所があるのでしょうか?
下駄と違い、比較的柔らかな素材で作られている草履は、汚れや傷みが気になるところです。 脱いだ後ざっと全体をチェックして、汚れなどがあれば早めにお手入れをしましょう。
汚れがある場合、固く絞ったタオルなどで気になる部分を拭きます。 草履はコルクや布などが使われていることが多いため、水分には弱いもの。あまり濡らしてしまわないよう気をつけましょう。 素材によって、お手入れには専用のクリーナーなども使用することができます。
また傷がついてしまった場合、あまり気にならない小さな傷なら、似た色のマニキュアを何度か塗ることでカモフラージュ、応急処置することができますよ。
すり減りが気になる踵ですが、草履屋にお願いすると踵部分を付け替えてもらえることもあります。 すり減りすぎて本体が傷ついてしまうと大変なので、こまめにチェックするのがおすすめです。
フォーマルな草履は、やはり特別なときだけでなかなか履く機会がありません。買い換えることも少ないですよね。
そんな正装用の草履とは異なる、サンダル感覚で履くことができるカジュアルな草履も多く登場しています。 竹皮や麻、またおしゃれな手拭いの生地などを使った草履は、素足でも違和感なく履くことができ、開放的で心地よい草履のよさを堪能できます。
浴衣と合わせたり、洋服とコーディネートしたり、すんなりと馴染む上に心地よいので、お気に入りを見つけたら夏の定番になりそうです。
縄文時代には、動物の皮などで作ったモカシンのような靴を履いていたといいます。 しかし日本では、この足を包むスタイルではなく、足を開放した鼻緒のついた履物が広く定着します。
そこには、湿気が多いこの国の気候、そして座敷が一段高く作られた家の造りで、履物を脱ぐ習慣があることが関わっているようです。
古くから日本に伝わる履物には、どのような歴史があるのでしょうか。
もともと、下駄は田んぼでの作業のための道具、農具として使われていました。 幅が広く歯のない板に、紐を通すための穴が3つないしは4つ開けられています。 これが下駄の原型とされている「田下駄」。 静岡の登呂遺跡など、水田での米作りが始まった弥生時代の遺跡で出土しています。
これは作業をする際に田んぼに足がとられないよう、また田んぼを平す(ならす)ために足につけたと考えられています。
さらに道具として使われていた下駄の中には、さまざまに工夫されたものがあります。 底面に針が付いていて、遠浅の海岸を歩きながら魚を獲る「ネヅラ下駄」や、たたら製鉄で熱を避けるために使う、厚底の「床下駄(とこげた)」などです。
時代が下ると、湿地で履いたり、水汲みや洗濯、トイレの際に着物の裾が汚れないために履いたりする、高い差し歯の「足駄(あしだ)」が定着します。 差し歯というのは、台に歯を差し込んだタイプの下駄のこと。すり減ると差し替えることができます。
下駄が履物として庶民にも広く取り入れられるようになるのは江戸時代後期。ただし、江戸や京都、大阪といった都市部に限られていたそうです。
この時代、町人文化が花開いて、庶民たちが主役のいきいきとした新しい時代の流れが生まれます。 人々は足元の装いとして、天候に関わらず低い歯の下駄を履くようになったのです。 役者や芸者が好んで履くデザインがあったり、職業によって選ばれるスタイルがあったりと、様々な下駄の形が生まれました。
江戸時代、江戸周辺のガイドブックとして刊行された斎藤月岑による『江戸名所図会』には、「下駄新道(現在の千代田区神田あたりの細道)」で、下駄が職人によって作られ、売られている様子いきいきと描かれています。
平安時代ごろ草履の原型となるものが登場します。草鞋(わらじ)です。 下駄が庶民に浸透したのが江戸時代だったのに比べ、草履は早くから人々の足を守る履物として取り入れられていました。
草鞋は藁やいぐさで編まれており、足としっかり固定するよう、足首に縛り付けるための紐がついていました。
平安の中期くらいになると、草鞋が改良された草履も広まります。 すぐに脱ぐことができる点で、日本の「靴脱ぎ」文化に適していますね。
農村などでは身近で安価な材料として、藁が使われた草履でしたが、都市では湿気に強い竹の皮などが用いられるようになりました。 とくに京都産の淡竹の皮を使った草履は、「京草履」として上質なものとして知られていたそうです。
江戸中期以降、底を幾重にもした「重ね草履」や、革やビロードを貼った男性の草履「中貫(なかぬき)草履」などが流行したといいます。
雪駄は草履の一種。元禄のころに登場したといわれています。 底は厚みがなく、四角い形。またかかと部分に金属が付けられており、歩くと鳴るのが特徴です。
草履は雨や雪が染みてくる。下駄は雪が歯に詰まって歩きにくい。 そこで雪駄は、竹の皮を編んだ表に防水のためしっかりした革の底裏を貼り付けたのだそうです。
この雪駄は千利休が考案した、またはその知り合いの茶人である丿貫(へちかん)による意匠という説が伝えられています。 水を打った露路を歩いても足が濡れることなく茶室に入るために考案されたのだそう。 今でも、雪駄は茶人たちに好まれる履物です。
江戸時代初期には、履いているうちに裏の革がすり減っていくのを防ぐため、かかと部分に尻鉄(しりかね)が付けられるようになります。 そして、この尻鉄がチャラチャラ鳴るのが粋だと大流行しました。 浮ついて軽薄な様子を表す「チャラチャラしている」という言葉は、この雪駄の音が元になっているのだそうですよ!
古の時代からこの国の足元を支えてきた伝統の履物、下駄と草履。
靴での生活が主流になった今でも、この時代に合った様々なタイプの下駄・草履が生み出され、そして履き継がれています。 やはり長く大切にされるものには、それなりの意味がある。
背筋がシャンと伸びて胸を張りたくなる、いつもと違う足元の感触。 ゆっくり歩きたくなる、足指に風を感じる心地よさ。
特別な「ハレ」の日にも、いつもの「ケ」の日にも、下駄や草履は私たちを支えてくれる、頼れる存在なのです。
下駄や草履を履くときは、いつでもなんだか良い景色があります。
笑顔はじける晴れの日。一年ぶりに浴衣に袖を通す夏の午後。
日本伝統の履物はとても歴史が古く、この国の気候や文化に合わせて様々な工夫が凝らされ、形を変えてきました。
現代では少し影が薄くなったものの、大切な日の特別な履物として、また子どもたちの健康な足を育てるための「足育」に欠かせないアイテムとして、再び注目を集めています。
ここでは下駄と草履、そして雪駄の違いと、日本でどのようにこの履物が親しまれてきたのかを解説します。
日本の暑い夏、足元から涼しく、健やかになるヒントがありそうですよ。
目次
「下駄」「草履」「雪駄」の違いは?
下駄と草履と雪駄。
共通点は、どれも鼻緒がすげられているということ。足の親指と人差し指の先で鼻緒を軽く挟み込んで履きます。
では、それぞれの違いはどんなところにあるのでしょうか?
使用する素材の違い
下駄と草履の違いとして分かりやすいのが、足を乗せる台に使われている素材です。
下駄の台には木が用いられます。
一般的に、美しさと機能的な面から桐材が適しているとされていますが、その中でも四季で寒暖の差が激しい会津盆地で育つ「会津桐」が最高峰。
仕上げは、木の風合いをそのまま生かした「白木」や、木目が際立ち落ち着いた雰囲気の「焼き」、冴えた印象の「塗り」などがあります。
一方の草履は、コルク芯に革や布、ビニールなどを被せた台が使われます。
最近ではウレタンやスニーカーで使われる軽量なEVA素材を用いた草履も増えてきました。クッション性があり、長時間履いても疲れにくいのが特徴です。
草履の一種である雪駄は、竹皮やいぐさを編んだ畳表が使われた厚みのない台の裏に、防水のための革が貼られています。
底面の形状の違い
また、それぞれの台の底の形状にも違いがみられます。
下駄の一般的な形は台に歯がついていて高さがあるものですが、この下駄の台にはいくつかの種類があり名前が付いています。
駒下駄(二本歯):最も一般的で、台に2本の歯がついた形。一つの材から、台と歯を削り出して作ります。
のめり:2本の歯のうち、前の歯が斜めに切り出されています。下駄を前に倒しやすく、より歩きやすいよう考えられた形です。
右近:背が低く草履や靴に近い底は、接地面が広いため安定しています。滑り止めのスポンジが貼られており、サンダル感覚で履くことができます。
舟形:草履をそのままを木製にしたような形状。全体的に背が高く、フォーマルな印象を受ける形です。
一本歯:その名の通り、歯が1本のみ。天狗や山伏が履いている形です。山登りなど坂を登る際に適しており、最近ではバランス感覚や体幹を鍛えるために取り入れられています。
一方、草履や雪駄の底面はフラット。
草履は、台に厚みがあるものほどフォーマルで、格式が高いとされています。
下駄と草履の使い分け方と選び方のポイント
では、下駄と草履はどのような時に履くのがよいのでしょうか?
また、選ぶ際に気をつけるとよい点などもみていきましょう。
下駄と草履の使い分け方
よくいわれるのが、フォーマルな装いには草履を、カジュアルな場では下駄を合わせるということです。
着物に合わせるなら、大きく以下のように分けられます。
草履:振袖・留袖・訪問着・付下げ・色無地・小紋・紬
下駄:浴衣・小紋・紬
格式が高い着物の場合は、それに合わせた草履を選ぶことが重要です。
草履は台に厚みがあるものほど、フォーマルな印象になります。
着物でなくても、シーンに合わせて選ぶこともとても大切。
例えば、コンサートや美術館などに出かける場合、駒下駄だと音が気になりますよね。
また、演劇鑑賞やお買い物など、華やかにおしゃれを楽しみたい時は、台と鼻緒の素材を変えたりしてみるのもよいでしょう。
正装が必要な場合は失礼があってはいけませんが、あまり難しく考えることなく、自分なりの組み合わせを試してみるのも、おしゃれの楽しみですよね。
サイズ選びは?下駄や草履の粋な履き方とは
下駄や草履のサイズは、かかとが1~2cmほど出るのがよいといわれています。
これは、立ち姿がすっきりと美しく見えるため。
さらに、うっかり着物の裾を踏んで着崩してしまうことがないようにという意味もあります。
履き慣れていなくて足の痛みが心配という方は、かかとが出るか出ないかぐらいのサイズにしておくと安心かもしれません。
ただ、台の方がだいぶ大きいというのは少し格好悪いので気をつけましょう。
また幅に関しては、小指が少し台から出るくらいがよさそうです。
下駄と草履どちらも、鼻緒は指の股深くまで入れてしまわず、鼻緒を親指と人差し指の先で引っ掛けるようにして履くのが、粋な履き方のポイントです。
「下駄」の健康効果とデメリット
下駄を取り入れることのメリット、また下駄だからこそのデメリットとその対策もみていきましょう。
下駄を履くことによる健康効果
高さがあって、いつもと少し違う筋肉を使いそうな下駄。
体にはどんな良いことがあるのでしょうか?
血行がよくなる
つま先の細い靴やヒールを履く機会が多い現代人は、足の指が縮こまりがち。心臓から遠い足はどうしても血行が悪くなり、むくみが気になる方も多いですよね。
下駄を履くことで、鼻緒を挟む足の親指と人差し指だけではなく、すべての足指が開き、無意識のうちに台をぐっと踏みしめる動きをします。
普段あまり動かさない足指をしっかりと使って歩くため、自然と血行がよくなります。
脳の活性化が期待できる
手のひらや足の裏には、内臓や各器官につながる末梢神経が集中する「反射区」があることが知られています。
とくに足の親指やその周囲には、大脳・小脳・松果体などなど脳の様々な部分につながる反射区が集中。
親指と人差し指のあいだに鼻緒を挟みしっかりと足指を踏みしめることで、この反射区に刺激が加わります。
この脳の反射区を刺激することで、睡眠を促されたり、ホルモンバランスが整えられたり、またスマホで疲れた脳を緩められたりと、いいことずくめなのです。
姿勢が変わる
下駄は前に倒しながら歩くため、重心が靴を履いているときより前寄り、足の中心近くになります。
靴を履いての生活は踵に重心となることが多く、これが猫背や、指がしっかり地面に付かない浮指の原因になるといわれています。
下駄を履くことで足全体が地面に接するようになり、重心が正しい位置に移動。
理想とされる背骨が緩やかなS字カーブが描く姿勢が保たれるようになるのです。
また下駄を履いていると、左右の歯のすり減り方で体の歪みがわかるのだそう。そんな時は左右を入れ替えて履くことで、姿勢の矯正にも役立つといいます。
姿勢は内臓の働きや深い呼吸にも影響します。履物一つで体調に様々なよい変化が現れるかもしれません。
下駄にありがちなデメリットと対策
体に嬉しいことが多そうな下駄ですが、デメリットはどんなことがあるのでしょうか?
鼻緒ずれは一番の悩み
長く履くと、必ずと言ってよいほど足が痛くなってしまうのが下駄。
履き慣れていないと、親指と人差し指の股の部分が鼻緒と擦れて「鼻緒ずれ」ができてしまうこともあります。
せっかくのお出掛け、足が痛くなってしまったら台無しです。
下駄を美しく履きこなすために、正しい履き方のほかに事前にできることがいくつかありますよ。
まず、鼻緒は親指と人差し指で挟む感じに履き、指の股の奥には指一本分ほどの隙間を開けることがポイントです。奥まで入れると、擦れて痛みが出る原因になってしまいます。
他にも以下のポイントに注意することで、できるだけ鼻緒ずれを防ぐことができます。
木製の歯は滑りやすい
木製の下駄、とくに駒下駄など接地面が狭いタイプの下駄は、雨あがりやタイル張りの床などを歩く際、とても滑りやすくなります。
下駄を履き慣れていない方におすすめなのが、右近下駄や舟底下駄。最近よく見られる底面が広めでスポンジが貼られたタイプです。
他にも、下駄の風情を残しながら、あまり履き慣れない方にも履きやすい工夫がされた様々な下駄が登場しています。
また、下駄は普段より少し小股で歩くのが美しい歩き方。
滑らないためにも、この歩き方が重要です。
草履の健康効果とデメリット
最近は「足育」として保育園などでも積極的に取り入れられている草履。それにはどんなメリットが期待されているのでしょうか?
また、草履の短所についてもみていきましょう。
草履を履くことによる健康効果
草履も下駄と同じく、履くことで体にうれしい変化が期待できそうです。
足の裏を鍛えて扁平足・外反母趾を防ぐ
成人の3割ほどに症状が見られるという外反母趾。
親指の付け根の部分が「くの字」に飛び出し、痛みを伴います。
原因は幅の狭い靴を履いての生活や、足の裏側の筋力が衰えてなる「開張足」や「扁平足」です。
草履を履いて歩く際は鼻緒を挟み全ての足指を開いて踏ん張りながら床を掴むように動かします。
そのため足裏全体が鍛えられ、足の裏のアーチがしっかりと形成されるのです。
体重をしっかり支えながら固い地面からの衝撃を和らげる足裏のアーチは、現代人だからこそ重要なため、今「足育」が注目されているんですね。
冷え性の改善
また草履を履くことは、冷え性にもよい影響があるといわれています。
すべての足指で踏ん張ることで足先に筋肉がつき、血行が促進されると同時にふくらはぎにも適度に負荷がかかります。
ふくらはぎに筋肉がつくと、血管のポンプ機能が活発になり、新陳代謝もアップ。足のむくみや冷え性が改善されるのです。
夏から秋にかけてサンダルやルームシューズの代わりに草履や下駄を履いておけば、寒くなる時期までに筋肉が鍛えられ冷え性対策になりそうです。
冬場も足袋靴下と合わせて履けば、より効果がありそうですね。
素足でいる心地よさ
草履の魅力は、なんといってもその心地よさです。
湿気の多い日本の夏、靴の中の蒸れが気になる方も多いと思います。
下駄や草履などが履物として主流だった時代は、水虫はほとんどなかったのだそうです。
台に天然素材が使われた草履は、通気性がよく吸水性も高いため、蒸れにくい履物。いぐさには抗菌効果もあるため、水虫が気になる、という方にはぴったりです。
草履にありがちなデメリットと対策
それでは、草履はどんな短所があるのでしょうか?
外履きは汚れと傷みが気になる
下駄と違い、比較的柔らかな素材で作られている草履は、汚れや傷みが気になるところです。
脱いだ後ざっと全体をチェックして、汚れなどがあれば早めにお手入れをしましょう。
汚れがある場合、固く絞ったタオルなどで気になる部分を拭きます。
草履はコルクや布などが使われていることが多いため、水分には弱いもの。あまり濡らしてしまわないよう気をつけましょう。
素材によって、お手入れには専用のクリーナーなども使用することができます。
また傷がついてしまった場合、あまり気にならない小さな傷なら、似た色のマニキュアを何度か塗ることでカモフラージュ、応急処置することができますよ。
すり減りが気になる踵ですが、草履屋にお願いすると踵部分を付け替えてもらえることもあります。
すり減りすぎて本体が傷ついてしまうと大変なので、こまめにチェックするのがおすすめです。
出番が少ない
フォーマルな草履は、やはり特別なときだけでなかなか履く機会がありません。買い換えることも少ないですよね。
そんな正装用の草履とは異なる、サンダル感覚で履くことができるカジュアルな草履も多く登場しています。
竹皮や麻、またおしゃれな手拭いの生地などを使った草履は、素足でも違和感なく履くことができ、開放的で心地よい草履のよさを堪能できます。
浴衣と合わせたり、洋服とコーディネートしたり、すんなりと馴染む上に心地よいので、お気に入りを見つけたら夏の定番になりそうです。
「下駄」「草履」「雪駄」の由来は?
縄文時代には、動物の皮などで作ったモカシンのような靴を履いていたといいます。
しかし日本では、この足を包むスタイルではなく、足を開放した鼻緒のついた履物が広く定着します。
そこには、湿気が多いこの国の気候、そして座敷が一段高く作られた家の造りで、履物を脱ぐ習慣があることが関わっているようです。
古くから日本に伝わる履物には、どのような歴史があるのでしょうか。
下駄の由来
もともと、下駄は田んぼでの作業のための道具、農具として使われていました。
幅が広く歯のない板に、紐を通すための穴が3つないしは4つ開けられています。
これが下駄の原型とされている「田下駄」。
静岡の登呂遺跡など、水田での米作りが始まった弥生時代の遺跡で出土しています。
これは作業をする際に田んぼに足がとられないよう、また田んぼを平す(ならす)ために足につけたと考えられています。
さらに道具として使われていた下駄の中には、さまざまに工夫されたものがあります。
底面に針が付いていて、遠浅の海岸を歩きながら魚を獲る「ネヅラ下駄」や、たたら製鉄で熱を避けるために使う、厚底の「床下駄(とこげた)」などです。
時代が下ると、湿地で履いたり、水汲みや洗濯、トイレの際に着物の裾が汚れないために履いたりする、高い差し歯の「足駄(あしだ)」が定着します。
差し歯というのは、台に歯を差し込んだタイプの下駄のこと。すり減ると差し替えることができます。
下駄が履物として庶民にも広く取り入れられるようになるのは江戸時代後期。ただし、江戸や京都、大阪といった都市部に限られていたそうです。
この時代、町人文化が花開いて、庶民たちが主役のいきいきとした新しい時代の流れが生まれます。
人々は足元の装いとして、天候に関わらず低い歯の下駄を履くようになったのです。
役者や芸者が好んで履くデザインがあったり、職業によって選ばれるスタイルがあったりと、様々な下駄の形が生まれました。
江戸時代、江戸周辺のガイドブックとして刊行された斎藤月岑による『江戸名所図会』には、「下駄新道(現在の千代田区神田あたりの細道)」で、下駄が職人によって作られ、売られている様子いきいきと描かれています。
草履の由来
平安時代ごろ草履の原型となるものが登場します。草鞋(わらじ)です。
下駄が庶民に浸透したのが江戸時代だったのに比べ、草履は早くから人々の足を守る履物として取り入れられていました。
草鞋は藁やいぐさで編まれており、足としっかり固定するよう、足首に縛り付けるための紐がついていました。
平安の中期くらいになると、草鞋が改良された草履も広まります。
すぐに脱ぐことができる点で、日本の「靴脱ぎ」文化に適していますね。
農村などでは身近で安価な材料として、藁が使われた草履でしたが、都市では湿気に強い竹の皮などが用いられるようになりました。
とくに京都産の淡竹の皮を使った草履は、「京草履」として上質なものとして知られていたそうです。
江戸中期以降、底を幾重にもした「重ね草履」や、革やビロードを貼った男性の草履「中貫(なかぬき)草履」などが流行したといいます。
雪駄の由来
雪駄は草履の一種。元禄のころに登場したといわれています。
底は厚みがなく、四角い形。またかかと部分に金属が付けられており、歩くと鳴るのが特徴です。
草履は雨や雪が染みてくる。下駄は雪が歯に詰まって歩きにくい。
そこで雪駄は、竹の皮を編んだ表に防水のためしっかりした革の底裏を貼り付けたのだそうです。
この雪駄は千利休が考案した、またはその知り合いの茶人である丿貫(へちかん)による意匠という説が伝えられています。
水を打った露路を歩いても足が濡れることなく茶室に入るために考案されたのだそう。
今でも、雪駄は茶人たちに好まれる履物です。
江戸時代初期には、履いているうちに裏の革がすり減っていくのを防ぐため、かかと部分に尻鉄(しりかね)が付けられるようになります。
そして、この尻鉄がチャラチャラ鳴るのが粋だと大流行しました。
浮ついて軽薄な様子を表す「チャラチャラしている」という言葉は、この雪駄の音が元になっているのだそうですよ!
ハレの日もケの日も!楽しみながら取り入れる下駄と草履
古の時代からこの国の足元を支えてきた伝統の履物、下駄と草履。
靴での生活が主流になった今でも、この時代に合った様々なタイプの下駄・草履が生み出され、そして履き継がれています。
やはり長く大切にされるものには、それなりの意味がある。
背筋がシャンと伸びて胸を張りたくなる、いつもと違う足元の感触。
ゆっくり歩きたくなる、足指に風を感じる心地よさ。
特別な「ハレ」の日にも、いつもの「ケ」の日にも、下駄や草履は私たちを支えてくれる、頼れる存在なのです。