掲載日:2022.08.21

ハーフの苦悩

2017年、国際結婚をしていた私は、ハーフの男の子を出産しました。それはそれは、美しい子でベビーモデルとして雑誌の表紙を飾るほどでした。でもハーフは良いことばかりではありません。
ハーフの子のママになって5年。余り表立って話題にならない、ハーフの苦悩を綴ります。

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ハーフという差別用語

国際結婚をしてすぐの頃、知人に「ハーフの子を産む可能性がある人には、絶対に観てもらいたい!」と、強く勧められドキュメンタリー映画『ハーフ』を鑑賞しました。

ガーナ人と日本人のハーフとして生まれ、両親の離婚により養護施設で育った矢野デイビットさん(今はミュージシャン・モデル・俳優として活躍)のトーク付きで行われた映画鑑賞会。私はこの映画で初めて「ハーフ」という言葉が差別用語だと知りました。

「ハーフは差別用語だ。だからミックスと呼んで欲しい」「私はどっちつかずの存在」画面越しに訴えかけてくるハーフの(あるいはミックス)の人の苦悩は、想像以上でした。
映し出されていたのは、憧れとは程遠い現実。映画に登場した日本人と外国人の間に生まれた5組のハーフはみな、自分のアイデンティティや国籍、ルーツなどに悩んでいます。

奇しくも日本でハーフタレントがブームになっていた頃。私が外国人と結婚したと知った周囲の人は、「きっと可愛い子が生まれるよね」「いいな。いいな。羨ましいな」など、「ハーフ!万歳!」に近い声をあげていました。

当事者と非当事者とでは、こんなに違うものなのか。映画を観終わった後、怖くなったのを覚えています。

映画「ハーフ」ポスター(公式サイトより引用)

白人の子以外は落胆されるの?

息子がハーフだと知ると、必ず「どこの国の?」と聞かれます。物凄く期待を込めた目で声で。私が国名を教えると、声が落胆します。明らかにトーンが下がる感じ。声には出さないけれど、伝わってきます。
そして、そのまま流れで写真を見せると、先ほどまでの落胆とは180度態度が変わり喰いつかれます。「え?嘘?本当にこの子なの?」「モデルみたい!」キラキラ~みたいな。

日本人は最後まで口にしないので分かりづらいかもしれませんが、インターナショナルスクールで働く外国人たちは素直でした。「本当に〇〇(国名)なの?肌真っ白だよ!髪、金色だよ!」

その言葉を聞いた時、私のモヤモヤは確信に変わりました。みんな、ハーフ=白人の子を思い描いているのだと。期待しているのだと。

子どもの父親の国は、先住民族が多く住んでいます。国名を聞いて白人以外の人種を思い浮かべた人が落胆し、写真を見て肌が真っ白な事に驚いてテンションを上げている…。

私は自分の子なので、特に肌の色を気にしたことがありません。世界中をたくさん旅したので様々な血の混ざり合いがあるのを知っています。でも、世間は違うのだと。

子どもの父親の肌は象牙色をしています。彼のお母さんの肌もやはり白に近い象牙色です。でもお兄さんとお父さんの肌の色は、黄褐色。もし私の子どもにお兄さんの肌の色が出ていたら?今私たち親子が受けている世間からの眼差しは、また違ったものになったでしょうか。
見えない差別、無意識の優劣。ハーフとして生まれた息子は、私にそういった問題を投げかけます。

生まれたばかりの息子。ザ外国人という顔立ちでした 生まれたばかりの息子。ザ外国人という顔立ちでした

英語は喋れません!

これは外国人タレントやハーフタレントがよく話しているので、聞いたことのある話かもしれませんが、その見た目からか息子はよく英語で話しかけられます。そして、そのたびに英語を理解していない息子は???と困惑します。

息子に英語圏の血は一滴も入っていません。父親の母国語は英語ではないし、育ったのも日本だし、英語とは一切何の繋がりもありません。
それでも、その見た目から英語が話せると思われて、英語で話しかけられることの何と多いことか…。

最初の頃は「日本語で育てていますので」と都度、訂正していましたが、ある日それを伝えると話が長くなるのに気付きました。「え~。もったいない」「バイリンガルにしないの?」などなど。やがて、だんだん面倒になってしまった私は親しい友人以外、訂正を止めることにしました。

2才頃までは「まだ言葉が話せなくて」で済んでいましたが、4才を過ぎた最近ではそうもいきません。幸か不幸か人見知りをする子なので、モジモジしていると「そっか、日本語が分からないのね」と勘違いをされ、さらに英語で話しかけてくるという悪循環に陥ることもあります。

「違うんです、違うんです、この子の父親が話すのはフランス語とアラビア語なんです。子どもは日本育ちで日本語しか話せないんです!」「ハーフはみんな英語が喋れるわけじゃないんですよ!」と本当は声を大にして言いたい。

でも、「可愛いねぇ、可愛いねぇ、飴をあげよう」と、道で出会っただけの息子に飴を差し出したおばあさんが「キャンディーだよ!プリーズ!」と、一生懸命つたない英語で話しかけてくれる姿を見ると、「この子、英語は…」とは言い辛く、そっと言葉を飲み込むのです。

生後7ヵ月頃の寝顔。真っ白な肌が印象的 生後7ヵ月頃の寝顔。真っ白な肌が印象的

お医者さんはストレート

ハーフの子を連れていると、ヒソヒソ囁かれます。「あの子、外国人?それともハーフ?」「見て見て」など。面と向かって言われる時もありますが、だいたいはヒソヒソ。
正直、余り気持ちの良いものではないので、気になるのなら直接聞いてくれれば良いのに、と思うこともしばしば。

またある日は、自転車に乗った男性にヒュ~!という口笛を吹かれたこともありました。
最近では「良いことも悪いことも、色々言われるのがハーフの子の宿命」と自分で自分に言い聞かせるようにしています。

色々エピソードはありますが、一番ストレートに進言してくるのはお医者さんでした。引っ越しなどの関係で、結構な数の小児科医にお世話になりましたが、お医者さんはとってもストレート。

診察室に入った途端「お母さん、心配でしょ」「こんなイケメンの子どもがいたら、将来が心配でたまらないでしょ。」と診察そっちの気で、将来の心配をされたこともあります。

「何語で育てているのですか?」「こんな綺麗な顔だと、僕と同じ人間とは思えないよ」
私が出会ったお医者さんは、ストレートに物言いをする方ばかりでした。

大学病院の偉い先生には「これからの時代、英語とコンピューターができれば世界中どこでも仕事ができる。君は英語はバッチリだから後1つコンピューターを習得すれば、OKだね」と、英語が話せる前提で一方的に会話を進められたこともありました。

でも、悪い気分になったことはありません。ストレートに疑問をぶつけて貰えれば、こちらも返答ができますから。

結婚式に参加した時の一枚 結婚式に参加した時の一枚 

容姿と心の変化

生まれたとき息子は、それはそれは美しい子でした。肌は真っ白、髪は金色。くっきりした大きな瞳の色は、紫色が入っているとカメラマンに褒められ、まつ毛はマッチ棒が乗りそうなほど長く太くフサフサ、唇はバラのようにほんのり赤く染まっていました。

それから4年弱。金色だった髪は、明るい茶色に変化し(美容師さんいわく日本の水道水が原因だとか)、真っ白だった肌には無数のホクロ。瞳にあった紫色の輝きはいつの間にか消え、今では純日本人の私より暗い茶色に落ち着いています。容姿は変わるものです。
日本に住んでいる限り、今後もどんどん日本人らしくなっていくことでしょう(余談ですが、純日本人でも長く外国に住んでいると、顔や体がハーフと間違えるほど変化したりします。そのため、私は風土が体を作ると考えています)。

そして自我が芽生え、世間と自分が分かってきた息子の心。あと数年もすれば、彼は「ハーフ」という重荷に気付きます。映画『ハーフ』で観た、苦悩が目の前に迫ってきています。

これまではハーフの子のママである私が受けていた視線・干渉・ちょっかい。それらを息子も受ける日がくるのかと思うと、ちょっとだけ憂鬱です。

結婚式に参加した時の一枚 金色に近かった髪色は、年月を経て薄茶色に。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel


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