エクアドル・孤児院で働こう~後編~

南米エクアドルの孤児院でのボランティアは、何ものにも代えがたい経験でした。そして、綺麗ごとばかりでは済まされない現実を見るきっかけにもなりました。今回はあまり語られない海外ボランティアの〝闇〟に関して紹介します。

エクアドル・孤児院で働こう:
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アメリカ人のボランティア

孤児院に通い続けていると、1週間に2度くらいの割合でアメリカ人が訪問しているのに気付きました。彼らは常に2~3人で訪れ、スペイン語は必要最低限しか話しません。

颯爽とやってきて慣れた様子で子どもたちと遊び帰っていく様子は、とてもクール。
ボランティアや社会奉仕活動が日常的にあるからか、良い意味で“軽い”感じで関わっている印象でした。

ある日のことです。昼食の準備をしている最中「こんなのは食事ではない。僕はフライドポテトが食べたいんだ!」と、一人のアメリカ人が口にしました。
孤児院の昼食は、基本クラスのママが手作りしていて、ボランティアも一緒にその食事をいただきます。それが気に入らないというのです。

「本物の食事を見せてあげよう!」彼はママに断りをいれた上で、じゃがいもを使い自分の分だけフライドポテトを作りはじめました。子どもたちの食事の準備で慌ただしいママの横で。

出来上がったフライドポテトは、ひいき目に見ても、とてもおいしそう。外国の映画で見るような、よだれが出るようなポテト。料理下手な私からしたら「ジャガイモから本物のフライドポテトが!」と感動するような出来栄えです。

完成した料理を「これがリアルフードだ!」と自慢気に見せてまわるアメリカ人、子どもたちも興味津です。
でも、子どもたちが食べるのはママが作った食事。誰もフライドポテトには手を出しません。彼は子どもたちにポテトを見せてまわると、満足げに一人でポテトを平らげました。

子どもたちと遊ぶアメリカ人のボランティア。体が大きくダイナミックな遊びをしてくれるので、子どもたちに人気です
子どもたちと遊ぶアメリカ人のボランティア。体が大きくダイナミックな遊びをしてくれるので、子どもたちに人気です

モヤモヤが残る経験

一連の行動を見ていたママは、私の方を見るとヤレヤレという風に首を横に振りました。諦めにも似たその表情は、こういったことに慣れているようにも見えました。

彼は明日、ここにきません。明後日もきません。それどころか、今夜の夕食時には、もういません。
ママたちは限られた食材の中で日々の食事をやりくりしているのに、その日限りのボランティアが食材を大量に使うなんてあって良いことなのでしょうか。しかも自分が食べたいからという個人的な理由で…。

アメリカ人のこの行動は、私にはとても身勝手に写りました。
彼は「リアルフードを見せてあげる!」と張り切っていましたが、ママが作る料理はリアルフードではないのでしょうか。
ここは南米エクアドル。エクアドル人のママが手作りするごはんがリアルフードでないわけないのに…。例えば、「今日は全員分の食事を僕が作るから!」と彼が言ったのならば、私の受け取り方は違ったでしょう。

でも、自己主張を個性として大切に扱う文化で育った彼らからしたら?
自分が食べたい物を作る。何が悪いんだ?と思っているかも知れません。もしかしたら、子どもたちに外国の食事を見せてあげたと鼻を高くしているかも知れません。

我慢しないのがボランティアを長く続けるコツ?自分のスタイルを崩さず社会奉仕をするのが欧米式?今でも何が正解だったのか分かりません。

でも私が思い出すのは、ママのヤレヤレと言った表情。ボランティアとは何なのか、モヤモヤが残る経験でした。

孤児院で。ママ手作りのご飯を笑顔で食べる子ども
孤児院で。ママ手作りのご飯を笑顔で食べる子ども

記憶に残る特別な場所

エクアドルの孤児院で過ごした日々は、何ものにも代え難いものとなりました。

毎日&毎日、掃除、洗濯、ご飯の準備と日々の雑務に追われる日々でしたが、「働かされている」や「こき使われている」と思ったことは一度もありません。むしろ、子どもたちのお世話ができて幸せだったと、今でも思っています。

こう書くと、「子ども好きだからでしょ?」と思われるかも知れませんが、私は子どもは苦手です。現在は2児の母になり子育てをする立場にありますが、それは変わりません。

どこにも行く当てがなくなって、孤児院に入った子どもたち。まだ、ベビーカーに乗っている月齢の子を見たときは、驚きもしました。

でも孤児院はとても明るい場所でした。子どもたちの輝くような笑顔や、遊んで欲しくてまっすぐに手を伸ばしてくる無邪気な姿に、多分私は感動したのだと思います。
逆境に負けず、それでも生き生きとした姿を見せてくれる子どもたちに、そしてその環境を作った孤児院に。

また、一つの家族として絆ができているのに、年齢で立ち去らなければいけない事、ボランティアとしての振る舞いの在り方、参加費の問題など、色々考えさせられるきっかけにもなりました。

叶うなら出来るなら、私が一緒に過ごした子たちが、みな幸せでいてくれますように。あの頃の笑顔そのままは無理でも、笑みのある人生を送ってくれていますように。もう二度と会うことはできないけれど、いつまでも彼らのために祈り続けられる。そういう経験をさせて貰えたことに感謝をしています。

海外ボランティアは就活のネタ?

大学時代。私の周りでは海外ボランティアがちょっとしたブームでした。

「夏にタイに行く~!」
「え?どうしたの?何で?」
「就活アピールだよ!私、コレといった資格もないし。海外ボランティアって企業に好印象じゃない?」
「え~?いいな!私も行こうかな。エントリーシート書くことなくて困ってるんだよね」

こういった受容を見越してか、当時の世の中には「海外ボランティア」「スタディーツアー」「現地視察」という名の商品が溢れていました。
また、ボランティアとは名ばかりで、実際にはボランティア3時間、観光3日間なんて内容の商品もありました。

ボランティアのハードルが下がるのは良いことですし、もっと当たり前になって欲しいとは思います。でも、こういった商品が溢れている日本の現状は、悲しいものです。

タイの寺院。ボランティアをしつつ観光がメインの「ボランティアツアー」なら、時間を効率的に使えるの…かな?
タイの寺院。ボランティアをしつつ観光がメインの「ボランティアツアー」なら、時間を効率的に使えるの…かな?

海外ボランティアと儲け話

私が通った孤児院も、もともとは日本人女性が結構なお金を支払って斡旋して貰った施設でした。彼女は具体的な金額を教えてくれませんでしたが、話の節々から高額だったことは伝わってきました。

私も彼女についていく形で孤児院へ行き、許可を得てボランティアに参加しましたが、その際に参加費の話はでませんでした。そのためお金を支払うことはしていません。
でも他の参加者と同じように行動でき、ボランティア活動をした日には、やっぱり同じように昼食を提供して貰っていました。

では、先ほどの日本人女性が支払ったお金はどこへ?お気付きの方もいるかもしれません。そう、まるまる斡旋会社の儲けになってるんです。

食事や宿泊場所を提供するかわりに、無償で働いてくれるボランティアを募集している施設は、少ないながらも存在します。そういった施設を紹介するにも関わらず、「参加費」という名目で高額な料金の支払いを求める旅行会社や斡旋会社は、残念ながら結構あります。海外ボランティアが儲け話になっている現実、皆さんは知っていましたか?

聖女の家もえじきに?!

皆さんご存じのマザー・テレサ。インドで貧しい人のために奉仕し、ノーベル平和賞を受賞した人物でもある彼女。マザーテレサの作った施設には、彼女の死後もボランティアをするために世界中からたくさん人々が集まっています。この施設は、お金を支払わなくても、誰でもボランティアに参加できる施設だと知っていましたか?

私は知りませんでした。そしてその昔、日本の旅行会社が主催するマザーテレサのボランティアツアーに参加しそうになりました…。お値段確か、25万円。

とはいえ「日本語が通じないのは不安」、「航空券やビザの取得を手伝ってもらいたい」、「一人だと不安…。」など、サポートが必要な気持ちも分かります。私のように何もツテもアテもなく現地に行くというのは、あまりおススメしません。

近年では、しっかりした信念を持った組織が、資金作りの一環としてボランティアを受け入れていたりもします。そうした組織の場合、参加費が直接〇〇支援費になります(例:貧困の子どもたちの食事代、学校の建設費など)とお金の流れが明確にされていることが多いです。

マザーテレサの家

これから海外ボランティアに参加される方へまとめ

①NPOだから良心的!とは限らない

NGOやNPO主催だから大丈夫!とは限りません。NPO(非営利団体)やNGO(非政府組織)は意外と簡単な手続きで作れてしまいます。儲けるためにNPO化する会社もあるほどです。会社名だけで信じないように!

②高い参加費に注意

ボランティアという冠をかぶった高額ツアーは、今でも山のようにあります。本当に酷いケースだと、1円もボランティア施設には支払われないなんてことも…。
斡旋先の施設は本当に「参加費」が必要なのか。食事代や宿泊費は「別途」なのか。ぜひ確認してください。

③参加費が何に使われるか確かめる

きちんとした会社では「参加費は全額〇〇にあてられます」など、お金の流れを明確にしています。私個人的には、お金を支払ってボランティアに参加するのはアリだと思っています。参加費=悪ではありません。納得した上で支払って下さい。

④サポート体制をみる

24時間サポートしますと宣伝していても、「時差があって電話が繋がらない」「メールしても全然返事がない」、現地の施設に丸投げで何もしてくれないは多々あること。
偉そうに書いていますが、かつて私も「現地では日本人がサポートします」という説明を受けて参加したのに、実際は長期滞在している参加者を会社が勝手に「日本人スタッフ」扱いしていたということもありました。
どこまでサポートをして貰えるのか、現地に社員はいるのか、金額と合わせてみて確認しておくことをおススメします。

⑤名前に惑わされない

名目だけのボランティアで、実際は観光ツアー!という商品も存在します。もちろん、それが目的ならOkですが…。ボランティアがしたい場合は、名前に惑わされないで、しっかりと中身まで吟味して下さい。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

マイナーな国にばかり魅了され、気付けば世界40カ国以上を旅行。
旅先で出会ったイスラム教徒と、国際結婚&出産&離婚。現在は2児の母。


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