ラマダンでは水も飲めない?イスラム教徒と結婚して知った断食月の実態

ラマダン(断食月)って知っていますか?
今年(2022年)のラマダンは4月3日~5月2日にかけて行われました。5年前(2017年)は、5月26日~6月24日。そう、ラマダンは毎年変わるものなのです。

今回は知っているようで知らないラマダン(断食月)をピックアップ!イスラム教徒と結婚していた私だからこそお伝えできるラマダンの実態を紹介します。

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実はそんなに厳しくない?住んで分かったラマダンの実態

かつて私はイスラム教徒が大多数を占める国で、イスラム教徒の男性と結婚していました。実際に住んでみて感じたのは、戒律が厳しい(ように見える)イスラム教徒も、実際は、違うということ。

ニュースでは歌を歌った罪で若者が投獄された・・・。なんて話も聞きますが、それはかなり過激なケース。私が知るイスラム教徒は、みんなもっと温厚で、結構好き勝手している印象でした。

飲酒をする、タバコを吸う、マリファナも吸う、欧米の流行歌も歌う、クラブで踊る…。
でも、どれだけ自由に振舞っていても、ラマダンの期間だけは別人。その期間中は、禁酒をし禁煙をし、みんな真剣に断食をしていました。

ラマダンの意味とは

簡単に言えば日中は、飲食NG(お水もダメ)。これがラマダンです。
飲食に制限をかけることで、食事の恵を再確認し、また貧しい者の気持ちを身をもって知ろうという意味合いがあります。

もう少し詳しく説明すると、基本は「太陽が昇ってから沈むまでの期間、食べ物や飲み物を一切口にはしない」です。つまり陽が沈んでいるときは、飲食OK。だから餓死したりはしません。
それどころか、夜は飲食Okなので夜中ずっと飲食して、急激に太ったりすることもあるそう。

また学校や会社も、その期間は午前中のみになり午後は家でゆっくりすごします。

新鮮な食材でにぎわう市場。活気あふれる空間です
新鮮な食材でにぎわう市場。活気あふれる空間です。

開始日が分からない!新月に従うラマダン期間

月の満ち欠けによるイスラム歴(新月から新月までを一カ月と計算。日本の旧暦と同じです)にのっとって行われるラマダン。先述した通り、期間は毎年変わります。

そして、開始日も終了日も新月の観測で変わります。信じられないかもしれませんが、いまだに新月の確認は目視が基本!公式発表を出すサウジアラビアには月観測をする専門の方々までいます。

でも、住んでいる場所と公式発表の場所の時間軸が違ったら?
敬虔なイスラム教徒だった元夫は、日本に住んでいる時、「日本では今日が新月だけど、(公式声明を出す)サウジアラビアでは明日が新月。どちらが正しいんだ…。」とよく頭を悩ませていました。

迷った彼は、一日早く新月になる日本時間でラマダンを開始し、一日遅く新月を迎えるサウジアラビアに合わせてラマダンを終える方法を選択。

「サウジアラビア時間でスタートして、日本時間で終われば、2日間も楽できるのに」という、よこしまな考えの私の意見には目もくれませんでした…。

水が欲しいときは…病人のフリ

体ができあがっていない小さな子どもや妊婦、高齢者、ケガ人などは、体力的に厳しいものがあります。
その場合は、半日間だけ断食をしたり、コップ3杯のお水はOKなどと、自分や家族とルールを決めたりしてラマダンに参加します。

また月経期間中の女性も、その期間のみ断食は免除されます。でも「あ、私ラッキー」と思ってはいけません!
免除された日数は、後日埋め合わせをしなくてはいけません。断食はみんな一緒に行うから頑張れる部分が大きく、周囲が食事している中で一人だけ断食するのは精神的にかなりキツイです。

そして、どうしても&どうしてもお水が飲みたい時は、奥の手!
フラフラ~と倒れて病人のフリをします。そうすれば周囲は慌ててお水を差し出してくれるから。
私が聞いた限りでは、10代後半の男の子がよくこの手を使っていました。信仰心より親の目が気になる彼ら。いかに親の目をごまかし、水を飲むか必死です(でも隠れてお水を飲んだりはしないから可愛い)。

イスラム教は、神様と自分自身との約束でなりたっているため、それはそれでOKだと私は思っています。

北アフリカや中東で親しまれるクスクス。腹持ちが良いので、ラマダンの期間よく食べます。
北アフリカや中東で親しまれるクスクス。腹持ちが良いので、ラマダンの期間よく食べます。

日照時間が少ない国なら、断食の時間も短くなる!?

元夫が日本にきた翌年、ラマダンは真夏の8月に行われました。
蒸し暑い日本の夏。水分補給をしていても室内にいても、毎年、毎年、熱中症で死者がでるレベルの暑さです。そして日が長い。夜明けは午前4時前後。日が暮れるのは午後8時前後。溜息がでる長さです。

そんなある日、元夫はスカイプで外国に住む友人たちと話をしていました。
「白夜だから20時間断食だ。死にそう」「こっちは12時間。辛いよ~」「もうサウジアラビア時間にそって断食すれば良いんじゃないか」なんて会話が飛び交う中、「今日は4時間だけだった」という者がいました。
聞けば、日照時間が極端に少ない国に住んでいる様子。

住んでいる国によって、断食する長さが変わるのは、なんとも不条理な気もしますが、それは仕方のないことかもしれません。

元夫も「日本の夏は辛い。でも白夜の国よりはマシだ」と、自分を納得させていました。

禁酒開始はラマダンの40日前から

イスラム教徒は、表向きには飲酒はしてはいけません。でも実際は、お酒好きな人が結構います。そんな彼らも、ラマダンの期間は一切飲酒しません。

正確には、ラマダンが始まる40日前からお酒を止めます。なぜ40日なのか?それはアルコールが体から完全に排出されるまでの期間だそうです。

ラマダンは神様にもっとも近づける期間。清めた体で参加するのが、神様への敬意の証でもあるようです。

私の元夫も毎年、ラマダンの気配を感じる時期になると、いそいそとカレンダーを出して計算をしていました。そして余裕をもって禁酒を始めます。
「この日でお酒は止める」と宣言する様子はどこか誇らしそうで。私はそれを見て「あ、今年もはじまるのか」と。まるで風物詩でした。

ラマダン期間中に死ねたら幸せ

かつて新聞社で働いていた私。個人的に興味があることもあり、外国のニュースをたくさん目にしていました。

その時に知ったのが、インドでは毎年、熱波の中で断食を強行したために多数の死者がでていること、でした。
ラマダンは死者を出すためのものではありません。そのため力のある宗教指導者が「水は口にして良い」と説いたりしていますが、民衆は聞きません。「水は飲まない」そう決めたら飲まないんです…。

「どうしてなの?あなたたちの神様は人が死ぬことを望んでいるの?」一度、元夫に聞いたことがあります。

「ラマダンの期間は天国への門が開きっぱなしなんだよ。だからラマダン中に死んだら、無条件で天国へ行ける。こんな嬉しいことはない。宗教指導者より神様だ」と。複数の宗教に囲まれて育った私にはさっぱり理解できない回答をされました。

白亜のモスク。私たちがイメージするモスクとは少し違った佇まい。オシャレです
白亜のモスク。私たちがイメージするモスクとは少し違った佇まい。オシャレです

観光客も例外ではない!

私たちには苦行に見えるラマダン。でも観光客だって例外ではありません。

初めてのドバイ旅行は、ラマダン真っただ中でした。
ガイドブックに「ラマダン期間中、日中すべての飲食店は閉店しています」と書いてありましたが、“お上りさん”状態だった私は、「そうは言ってもチェーン店や儲け重視のお店は営業しているでしょ?」と甘い考えでした。

しかし実際は、お店は軒並み閉店。スーパーも閉店。お高めのホテルの売店で、なんとかお水は買えましたが、食べる物はどこにもありません。どのお店も誰に聞いても、日没1時間前からしか開店しないと…。

夕暮れどき、やっと開店したハンバーガーショップへ行きました。待ち望んだ食事にウキウキする私。ふと隣りを見ると、そこには大量のフライドチキンを前に「いまか、いまか」と日没の合図を待つ男性が。

祈るようにじっと食べ物を見つめ、何度も外を見ては陽の傾き具合を確認し、店員さんと「まだ?」「まだ」と目で会話をする彼。食事を心待ちにしているのが、痛いほど伝わってきました。これまで、特に何も考えることなく食事をしてきた私にとって、それはとても衝撃的な光景。今でも心に焼き付いています。

ラマダンとは苦行ではなく、飲食に制限をかけることで、食事の恵を再確認すること。また貧しい者の気持ちを身をもって知ること。ドバイで見たその男性は、そのことを私に教えてくれました。

ドバイのシンボルマークが立つビーチリゾート
ドバイのシンボルマークが立つビーチリゾート

さて、今回はイスラム教の風習の一つラマダンに関してお伝えしました。

私たちには苦行のように見えるラマダンも、現地の人たちはまるで“お祭り”のように楽しんでいたりもします。
食べ物の恵を再確認し、貧しい者の気持ちを身を持って知るために行われるラマダン。

病人のフリをしたり、新月を探すために偉い方々が躍起になったり…。
オチャメな様子が少しでもも伝われば嬉しいです。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

マイナーな国にばかり魅了され、気付けば世界40カ国以上を旅行。
旅先で出会ったイスラム教徒と、国際結婚&出産&離婚。現在は2児の母。


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