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キルギスのイメージは、大自然、牧歌的、素朴、のんびりした国…。訪れた際に抱いていたそんな印象は次々と覆されました。今回は2026年2月に訪れたキルギスで知った意外な一面と、帰国後に聞いた誘拐の話を紹介します。
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「風が強く寒暖差が大きい。防寒対策はしっかりと!」そんなネットの情報を信じて、真冬の北海道へ行くレベルの防寒対策をしていた私を出迎えてくれたのは、なんと予想以上に強い日差しでした。
2月だというのに、タクシーの窓から入ってくる日差しは思いのほか強く、事前の下調べを裏切るほど空気も暖かです。「最低気温はマイナス5度」なんて話だったのに、どこを見渡しても残雪さえありません。
運転手さんに聞いてみました。
「キルギスって、とても寒いって聞いたんだけど暖かいんだね。」
「最近は暑いんだよ。とくに今年の冬は暖かい」
「雪は降らないの?」
「もっと山の方に行けば降ってるよ。ここは街だから、今年はほとんど降ってない。暑いよね?」
運転手さんは、そう言って窓をあけました。外から入ってくる空気は少し冷気を孕んでいます。乾燥した少しだけ冷たい空気が車内を駆け抜けました。
風も強くもないし、雪も降らない、道路も凍っていない。すごく過ごしやすいけど、私が抱いていた気候のイメージとは少し違っていて「ネット情報も鵜吞みにできないな」と防寒具で膨らんだ自分のバックを恨めしく見つめました。
中央アジアで最も豊かな国はカザフスタンだと聞いていました。実際、首都アスタナには近未来的な高層ビルが立ち並び、豊かな国という印象があります。一方のキルギスは大自然のイメージが強く、私は経済面ではカザフスタンに及ばない国だと思っていました。
ですが、実際には少し違う見方もあるようです。カザフスタン人の友人曰く「キルギスは畜産に秀でた国。畜産で財を成すリッチな人も多いよ」と。「お肉はどこの国の人も食べる。チーズもみんな大好き。キルギス産は安くておいしいから、みんな買いたがる」と。
彼女は、天然ガスで潤うより畜産で潤うほうが強いと思っているようでした。「だって食べ物は人間が生きていくうえで欠かせないモノでしょ?ガスや金はいつか枯渇するけど、牛や馬は繁殖してくれるし」
またカザフスタンの友人はこうも言っていました。
「キルギスは今、外国人が商売しやすいよう制度を整えている。逆にカザフスタンは外国人の規制に力を入れている。住居の購入もビジネスも外国人は排除の方向。だから、中央アジアでビジネスを考えている外国人は最近、キルギスを選んでいる。あの国はもっと豊かになると思う」
キルギスで特に印象に残ったのは人の優しさです。言葉が通じなくても、翻訳アプリやジェスチャーを使って何とか意思疎通しようとしてくれる人が多くいました。
なかでもタクシー運転手は印象的でした。国境付近のタクシー運転手たちは、外国人相手に仕事をしているからか、それはもう一生懸命。色んな国の言葉で声をかけられました。市場の人々も親切で、言葉が分からない人は面倒という対応は一度もされませんでした。
クッキーを買う時のお話です。私は市場でとても美味しそうなクッキーを見つけました。素朴な見た目ですが、中にジャムが入っているもの、チョコ味、ナッツ入りと10種類近くあり、紙の箱にそのまま剥き出しで売られています。キルギスでは一般的なクッキーなのでしょうが、私が見るのは初。絶対に食べたい!買いたい!と購買意欲が高まります。
お店の人に目配せしました。私は彼らが話すキルギスの言葉もロシア語も話せません。お店の人も英語は話せません。お互いの努力では物事が進まなくなったとき、チャーターしているタクシー運転手さんが通訳で入ってくれました。と言ってもタクシー運転手さんも英語がほとんど話せないので、大活躍したのは通訳アプリでした。通訳アプリの曖昧な表現をタクシー運転手が言葉にしてお店の人に伝えてくれたのです。
グラム売りの販売方法で、どのクッキーを選んでも良いと言ってくれます。悩んでいると、お店の人がキレイにラッピングされたクッキーの山を見せてくれました。花を模った形のクッキーと黒×白のアイシングクッキーが入っていて、これまで見た中で一番おいしそうでした。「これにする!」と指をさします。するとお店の人は容赦なく美しいラッピングを破り始めました。
結婚式や子どもの誕生などのお祝い事に持っていくのに相応しいラッピングだったのに、一瞬でした。「このクッキーは、ラッピングした品しかないから」との説明でしたが、物凄く申し訳なくなります。
このお店では珍しい紅茶も買いました。大好きな銘柄。でもロシア産のため、今では日本で購入しずらくなった紅茶です。棚に飾ってあったそのパッケージを見つけた私は「この紅茶のアールグレイを買いたい」と伝えます。最終的には、お母さん、お父さん、息子さん、奥にいた親戚らしきおじさんまでが総出で出てきて、ああでもないこうでもないと私を接客してくれました。人と言葉を交わして物を買う。ただ、それだけの事なのに温かい気持ちになれた出来事でした。
大満足でキルギスからカザフスタンに帰国した私は、カザフスタンの友人に「キルギスに弾丸旅行してきたよ!」「素敵な国だった。絶対にまた行く!」と自慢しました。それくらい感動していたのです。
ですが友人は「本当に一人で行ったんだね。怖い思いはしなかった?」と。私は不思議に思って「何もないよ?カザフスタンより人が親切で良い思い出も沢山できた」と。友人は私の回答を聞いて「それなら、良かった。あの国は外国人の誘拐があるから、私はなるべく一人で行かないようにしている」と恐ろしいことを言い出しました。
「誘拐?昔の話じゃなくて今の時代の話?」
「そう、よくあるのよ。外国人の女性が誘拐されて、どこかの田舎に連れていかれてしまう」
「どういうこと?誘拐されたって?そういう人たちは見つかるの?」
「見つかる人もいるし、見つからない人もいる。見つかった人は、大体名前も聞いたことないような田舎で見つかる。一人旅の外国人女性は狙われるから、みんな気を付けてるよ」
どこかで聞いた児童誘拐婚の話を思い出しました。幼い女の子がある日誘拐され、見知らぬ土地で見知らぬ人と結婚させられるお話です。だから私は「でもそれって若い女性限定の話でしょ?私はもう子どももいるし対象外」そんな私の発言を彼女は語尾を強めて否定しました。
「そんなことない。私だってもう45過ぎてるけど細心の注意を払っているよ」
なぜ私がキルギスに行く前に教えてくれなかったのかなと思いつつ友人を見ました。
「あなたも仕事でキルギスに行くんでしょ?そういう時はどうするの?」
「一人で行く時は、陸路で国境を越えないし、流しのタクシーも使わない。30分の距離だけど飛行機使うし、移動は信頼できる馴染みの運転手にコンタクト取ってから行く。自衛しないと」
「そんなに危ないの?そんな雰囲気、私は感じなかったけど」
「危ないよ。行方不明になる女性は本当に多い」
そう告げる彼女は、金髪、碧眼、でモデルと間違えるほど長い手足と、直視できないほどの華やかさを持っています。私は勝手に彼女なら誘拐対象だろうな、と思いました。
「アジア人は狙われないのかな?だってキルギス語もロシア語もカザフ語も話せない。誘拐しても困るよね」
「そんな事はないと思う。とにかくキルギスにまた行くなら本当に気を付けて」
彼女はピシャリと言い放って話題を変えました。
自分自身の目でキルギスを見て、先入観は捨てたつもりでいました。でも最後の最後まで、私の知らないキルギスの姿があったことに驚きと少しの悲しみを感じました。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
キルギスのイメージは、大自然、牧歌的、素朴、のんびりした国…。
訪れた際に抱いていたそんな印象は次々と覆されました。
今回は2026年2月に訪れたキルギスで知った意外な一面と、帰国後に聞いた誘拐の話を紹介します。
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目次
意外にも温暖な気候
「風が強く寒暖差が大きい。防寒対策はしっかりと!」そんなネットの情報を信じて、真冬の北海道へ行くレベルの防寒対策をしていた私を出迎えてくれたのは、なんと予想以上に強い日差しでした。
2月だというのに、タクシーの窓から入ってくる日差しは思いのほか強く、事前の下調べを裏切るほど空気も暖かです。「最低気温はマイナス5度」なんて話だったのに、どこを見渡しても残雪さえありません。
運転手さんに聞いてみました。
「キルギスって、とても寒いって聞いたんだけど暖かいんだね。」
「最近は暑いんだよ。とくに今年の冬は暖かい」
「雪は降らないの?」
「もっと山の方に行けば降ってるよ。ここは街だから、今年はほとんど降ってない。暑いよね?」
運転手さんは、そう言って窓をあけました。外から入ってくる空気は少し冷気を孕んでいます。乾燥した少しだけ冷たい空気が車内を駆け抜けました。
風も強くもないし、雪も降らない、道路も凍っていない。
すごく過ごしやすいけど、私が抱いていた気候のイメージとは少し違っていて「ネット情報も鵜吞みにできないな」と防寒具で膨らんだ自分のバックを恨めしく見つめました。
キルギスは貧しい国?
中央アジアで最も豊かな国はカザフスタンだと聞いていました。実際、首都アスタナには近未来的な高層ビルが立ち並び、豊かな国という印象があります。
一方のキルギスは大自然のイメージが強く、私は経済面ではカザフスタンに及ばない国だと思っていました。
ですが、実際には少し違う見方もあるようです。
カザフスタン人の友人曰く「キルギスは畜産に秀でた国。畜産で財を成すリッチな人も多いよ」と。
「お肉はどこの国の人も食べる。チーズもみんな大好き。キルギス産は安くておいしいから、みんな買いたがる」と。
彼女は、天然ガスで潤うより畜産で潤うほうが強いと思っているようでした。
「だって食べ物は人間が生きていくうえで欠かせないモノでしょ?ガスや金はいつか枯渇するけど、牛や馬は繁殖してくれるし」
またカザフスタンの友人はこうも言っていました。
「キルギスは今、外国人が商売しやすいよう制度を整えている。逆にカザフスタンは外国人の規制に力を入れている。住居の購入もビジネスも外国人は排除の方向。
だから、中央アジアでビジネスを考えている外国人は最近、キルギスを選んでいる。あの国はもっと豊かになると思う」
シルクロードの要衝として栄えたキルギスの歴史を感じさせます
圧倒的に人が優しいキルギスの国民性
キルギスで特に印象に残ったのは人の優しさです。
言葉が通じなくても、翻訳アプリやジェスチャーを使って何とか意思疎通しようとしてくれる人が多くいました。
なかでもタクシー運転手は印象的でした。国境付近のタクシー運転手たちは、外国人相手に仕事をしているからか、それはもう一生懸命。色んな国の言葉で声をかけられました。
市場の人々も親切で、言葉が分からない人は面倒という対応は一度もされませんでした。
クッキーを買う時のお話です。
私は市場でとても美味しそうなクッキーを見つけました。素朴な見た目ですが、中にジャムが入っているもの、チョコ味、ナッツ入りと10種類近くあり、紙の箱にそのまま剥き出しで売られています。
キルギスでは一般的なクッキーなのでしょうが、私が見るのは初。絶対に食べたい!買いたい!と購買意欲が高まります。
お店の人に目配せしました。私は彼らが話すキルギスの言葉もロシア語も話せません。お店の人も英語は話せません。お互いの努力では物事が進まなくなったとき、チャーターしているタクシー運転手さんが通訳で入ってくれました。
と言ってもタクシー運転手さんも英語がほとんど話せないので、大活躍したのは通訳アプリでした。通訳アプリの曖昧な表現をタクシー運転手が言葉にしてお店の人に伝えてくれたのです。
グラム売りの販売方法で、どのクッキーを選んでも良いと言ってくれます。
悩んでいると、お店の人がキレイにラッピングされたクッキーの山を見せてくれました。
花を模った形のクッキーと黒×白のアイシングクッキーが入っていて、これまで見た中で一番おいしそうでした。「これにする!」と指をさします。するとお店の人は容赦なく美しいラッピングを破り始めました。
結婚式や子どもの誕生などのお祝い事に持っていくのに相応しいラッピングだったのに、一瞬でした。
「このクッキーは、ラッピングした品しかないから」との説明でしたが、物凄く申し訳なくなります。
このお店では珍しい紅茶も買いました。大好きな銘柄。でもロシア産のため、今では日本で購入しずらくなった紅茶です。棚に飾ってあったそのパッケージを見つけた私は「この紅茶のアールグレイを買いたい」と伝えます。
最終的には、お母さん、お父さん、息子さん、奥にいた親戚らしきおじさんまでが総出で出てきて、ああでもないこうでもないと私を接客してくれました。
人と言葉を交わして物を買う。ただ、それだけの事なのに温かい気持ちになれた出来事でした。
一体、何枚あるのでしょう?
外国人女性が狙われる!怖すぎる誘拐問題
大満足でキルギスからカザフスタンに帰国した私は、カザフスタンの友人に「キルギスに弾丸旅行してきたよ!」「素敵な国だった。絶対にまた行く!」と自慢しました。
それくらい感動していたのです。
ですが友人は「本当に一人で行ったんだね。怖い思いはしなかった?」と。
私は不思議に思って「何もないよ?カザフスタンより人が親切で良い思い出も沢山できた」と。
友人は私の回答を聞いて「それなら、良かった。あの国は外国人の誘拐があるから、私はなるべく一人で行かないようにしている」と恐ろしいことを言い出しました。
「誘拐?昔の話じゃなくて今の時代の話?」
「そう、よくあるのよ。外国人の女性が誘拐されて、どこかの田舎に連れていかれてしまう」
「どういうこと?誘拐されたって?そういう人たちは見つかるの?」
「見つかる人もいるし、見つからない人もいる。見つかった人は、大体名前も聞いたことないような田舎で見つかる。一人旅の外国人女性は狙われるから、みんな気を付けてるよ」
どこかで聞いた児童誘拐婚の話を思い出しました。幼い女の子がある日誘拐され、見知らぬ土地で見知らぬ人と結婚させられるお話です。
だから私は「でもそれって若い女性限定の話でしょ?私はもう子どももいるし対象外」
そんな私の発言を彼女は語尾を強めて否定しました。
「そんなことない。私だってもう45過ぎてるけど細心の注意を払っているよ」
なぜ私がキルギスに行く前に教えてくれなかったのかなと思いつつ友人を見ました。
「あなたも仕事でキルギスに行くんでしょ?そういう時はどうするの?」
「一人で行く時は、陸路で国境を越えないし、流しのタクシーも使わない。30分の距離だけど飛行機使うし、移動は信頼できる馴染みの運転手にコンタクト取ってから行く。自衛しないと」
「そんなに危ないの?そんな雰囲気、私は感じなかったけど」
「危ないよ。行方不明になる女性は本当に多い」
そう告げる彼女は、金髪、碧眼、でモデルと間違えるほど長い手足と、直視できないほどの華やかさを持っています。私は勝手に彼女なら誘拐対象だろうな、と思いました。
「アジア人は狙われないのかな?だってキルギス語もロシア語もカザフ語も話せない。誘拐しても困るよね」
「そんな事はないと思う。とにかくキルギスにまた行くなら本当に気を付けて」
彼女はピシャリと言い放って話題を変えました。
自分自身の目でキルギスを見て、先入観は捨てたつもりでいました。
でも最後の最後まで、私の知らないキルギスの姿があったことに驚きと少しの悲しみを感じました。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel