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かつて日本には陰陽寮という機関があったことをご存知でしょうか。陰陽寮はその名の通り、陰陽師が勤務する機関でした。彼らの技術や知識の基礎となる陰陽道で、欠かせないマークが太極図です。
この太極図は白と黒が渦を巻いて円を成す、不思議な形をしていますね。この不思議な模様には、陰陽道をはじめとする古代東洋思想に欠かせないものが凝縮されています。どんな意味があるものなのでしょうか。
白と黒が渦巻こうとしているようなマークは、「陰陽マーク」とも呼ばれています。これは陰と陽を表すだけでなく、宇宙や世界全体、自然の理を示していると考えられています。深い意味を持つ陰陽マークについて、詳しく見ていきましょう。
「陰陽マーク」と呼ばれるこの図は、正式には「太極図」といいます。「太極」とは、陰と陽に分かれる前の宇宙の根源を意味する言葉です。太極図は、その太極から陰陽が生まれ、互いに循環する様子を表しています。では「太極」とはどういう意味でしょうか。
辞書を引いてみると、「古代中国の宇宙観で、万物を構成する陰陽二つの気に分かれる以前の根元の気」とあります。つまり宇宙を含めた世界は陰陽で表される太極によってできていて、陰陽二つは分かちがたいものだということです。
では、太極図とは切れない関係の「陰陽」とは、正しくはどう読むのでしょうか?また辞書を引いてみると、次のように書かれていました。
・いん-よう・おん-よう・おん-みょう
「いん-よう」はそれぞれの性質を表す時の読み方。「おんみょう」は「おんよう」を発音しているうちに自然と言いやすいように変わったものだそう。現代にもそういう単語は色々ありますね。
英語読みだと「イン-ヤン(Yin-Yang)」となります。現在世界的に知られている太極図は、英語では「Yin-Yang Symbol」、「Taijitu(タイジートゥ)」のどちらでも呼ばれます。「Taijitu」は中国語の「太極図」をそのままローマ字表記したものです。
太極図では、陰と陽は巡り続けるものだという考えが示されています。ではこの陰と陽は、具体的には何を示すのでしょうか?ネガティブとポジティブ、白と黒、影と光、といったことは想像がつきやすいですね。しかし、太極図に込められている意味はこれだけではありません。簡単に挙げるとこんなものがあります。
陰陽にはこうした様々な意味がこめられ、対になりながら支え合っている、という思想が隠されています。この二つの要素は、どちらが欠けても世界が成り立ちませんよね。太陽があるから月が輝き、女性と男性が交わることで生命が生まれる。夏が終わるとゆるやかに秋が来て、その後には冬が来る。陰陽思想は古代から脈々と続いてきた自然の変化を出発点とし、自然界にあるすべてのものは陰陽に分けられ、循環していると考えています。
では、次に陰陽マークの構造について考えていきましょう。
まずは陰陽マークをよく見ると、以下のような特徴がありますね。
はっきりと分かれているようで、それぞれの大きな部分には逆の色が入っているという興味深い形をしています。この〇には大きな意味があり、「陰の中にも陽があり、陽の中にも陰がある」という考えを示すものです。完全な陰も、完全な陽もない。それぞれの要素が極まると、また逆の要素が生まれる。1日の変化を考えると、陰陽が循環し続けることがよくわかります。
太陽は陽ですから、太陽が出ている間は「陽の時間」。しかし、「陽の中の陰」とされる時間帯があり、それは正午から日暮れに向かう間です。同じように、日没からが「陰の時間」になりますが、真夜中から夜明けに向かう時間を「陰の中の陽」と考えます。
人生にも陽の時間と陰の時間があるのは、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。苦労が報われるように、苦労した後にはよいことが待っていると信じているから人は努力し続けますよね。「この仕事が終わったらおいしいお酒が飲める」のように、小さなよいことと苦労が巡っているのが私たちの日常です。
陰陽は私たちの暮らしの身近にあるものと言えるでしょう。
ところで太極図は、なぜあの形なのでしょうか。見つめ続けると目が回りそうなあの図形に、東洋思想の核があるためです。
陰と陽は、影と光のように対極にあると思わせながら実はお互いを内包しているものだとお話ししましたね。これがまっすぐな線で白黒が分断されていない理由です。さらに緩やかなS字を描いているのは、気やエネルギーが常に流れて形を変え続けていることを示しています。じっと見ていると「完成された静止図形」ではなく、陰陽が循環し続ける動きを表現した図であると感じられるのではないでしょうか。
仏教で言う「諸行無常」が近い概念ですね。太極図は、そうして世界が循環してゆく様を示しているとも言えます。
太極図には、「陰陽魚」という別名があります。古代中国では、一説では老子が始祖とされる道教が尊ばれていましたが、太極図はそのシンボルマークでした。その中で、陰と陽の二匹の魚が抱き合っている姿に見立てる流れができ、陰陽魚と呼ばれるようになったそう。たしかに白黒の鯉がお互いのしっぽを追いかけて泳いでいるように見えなくもありませんね。そう見るとかわいく見えてくるのが不思議。
ここからは、太極図から陰陽という思想と歴史について詳しく見ていきましょう。
陰陽に代表される東洋思想には、対立するよりも支え合うという概念が含まれます。前述したように、どのようなものもはっきりと分けることはできず、変化しながらも共存しているのだという考えです。「陰や黒は悪、陽や白が善」とは言い切らない、グレーを受け入れることも東洋思想の魅力とも言えます。これに対して、「白黒はっきりつけようじゃないか」というのが西洋思想の二元論です。
西洋思想の中で言う二元論は、東洋思想のものとはずいぶん異なります。まず、善と悪ははっきりと分けられ、グレーゾーンはありません。善人の中にも悪意はありますが、キリスト教文化圏では善悪を明確に区別する考え方が重視される傾向があります。また、心と体も別のものとして考え、体の不調は機械の故障と同じと考えて悪い箇所にフォーカスします。近代西洋医学は、まず原因となる病変部位を特定して治療する発想が発達しました。月と太陽も同様です。
一方、東洋思想は太極図の「陽の中の陰」のように、陰陽はすべて共存して循環すると考えます。片方だけでは世界は成立しないとする点が、西洋思想との決定的な違いだと言えるでしょう。
ではここで、また太極図を思い出してみましょう。
太極図は、陰と陽を示していると言い続けていますが、この陰と陽がまったく同じサイズだと気づかれましたか?中に描かれた白丸黒丸も同じサイズです。つまり、調和しているのがもっとも大切である、というのが陰陽の考え方。このバランスが崩れた時、私たちは様々な場面で影響を受けると考えられています。
人体への影響:
心のバランスが崩れて体調が悪くなる、体のバランスが崩れて心がそれに引きずられて気力がなくなる。
人間関係への影響:
拮抗していたエネルギーやパワーバランスが崩れてしまうため、物事がうまく進まなくなることや、人間関係が破綻することも。
太極図とは、陰陽の関係性と宇宙の成り立ちを表した、陰陽が生まれる根源である太極まで含めて表した図です。そもそも太極図は、どこからやってきたのでしょうか?
実は「陰」と「陽」は、もともと哲学用語ではなく自然現象を表す言葉でした。古代中国では、山の北側や日陰になる場所を「陰」、南側や日当たりのよい場所を「陽」と呼んでいたとされています。そこから、暗い・冷たい・静かな性質を陰、明るい・暖かい・活発な性質を陽として捉える考え方が生まれました。人々は季節の移り変わりや昼夜の循環を観察する中で、自然界のあらゆる変化を陰と陽の働きとして理解するようになり、それが後の陰陽思想や太極図の誕生へとつながっていったのです。
「太極」とはどういう意味かについては冒頭でお伝えしましたが、そもそもこの考え方は古代中国の易経に由来します。易という言葉は占いでも見かける言葉なのでなじみ深いですよね。「当たるも八卦当たらぬも八卦」ということわざがありますが、この「八卦」を生み出したのがこの易経だとされています。八卦に至るまでには、「太極→陰陽(両儀)→四象→八卦」と思想の段階があります。陰陽を「陽の中の陽」などのように分類したものを四象、八卦は四象をさらに分類したものとされています。易経によれば、太極とは宇宙のはじまり、混沌(カオス)からはじまる世界そのもの。易占いで使う後天図の中心には、太極図が描かれていることからも関係の深さがうかがえます。ちなみに、陰陽師が職務で行った占いは主に占星術によるものでしたが、その中で八卦も用いられていたようです。陰陽師には様々な知識が求められていたことがわかりますね。
現在よく知られている白と黒が渦を巻く太極図は、古代中国で陰陽思想が発展する中で形づくられてきました。『易経』では太極から陰陽が生まれるという考え方が示されていましたが、当初から現在の図柄が使われていたわけではありません。時代とともに様々な表現が考案され、宋代(960~1279年頃)になると、陰と陽が循環しながら互いを内包する様子を表した現在に近い形が広まりました。シンプルな図形でありながら、宇宙や自然の成り立ちを表現した奥深いシンボルなのです。
太極図を初めて見る人の中には、「勾玉?」と思う人もいるかもしれません。ここでちょっと寄り道して、勾玉について見ていきましょう。
日本には、「三種の神器」があるのは有名ですね。
このうちの八尺瓊勾玉は、712年に成立した『古事記』に登場しますが、勾玉自体は縄文時代から使われていたようです。縄文時代や弥生時代の遺跡から発掘されており、獣の骨や石などで作りやすい形だったのかもしれませんね。弥生時代にはガラス様の石で作られているものがあったそうで、時代の変化とともに宝石などの素材も使われ、権力の象徴にも変化していったと考えられています。
一見すると、太極図をモチーフにできたものが勾玉ではないかと思えます。実は日本の勾玉は、元々は現在のようにゆるやかに丸いものがメインではありませんでした。縄文時代は研磨技術も発達しておらず、現在のように優美なラインを描く「う」の形ではなく、「C」の方が似ていたようです。また、勾玉を片方がもう一方を追いかけるように並べると、太極図のように巡る形になったことで、二つは同じルーツを持つのではないかと思われるようになったそう。
実は同じルーツかと思っていたら、勾玉の方がずっと昔に歴史上に登場していることがわかりました。では、具体的にどのように違うのかを見ていきましょう。
性質としては、勾玉は呪術や祭祀、また権力や富の象徴であったのに対し、太極図は哲学や宇宙のあらましを示すものです。哲学と祭祀は近くて遠いものですが、時を経るにつれ、その境界が曖昧になり、太極図と勾玉は関係が深いと思われるようになったのかもしれません。
1970年代以降、ヒッピーやサーフカルチャー、東洋思想ブームの中で、太極図はファッションモチーフとしても広く知られるようになりました。陰陽マークがモチーフとなっているグッズについて見ていきましょう。
陰陽(インヤン)香
陰陽マークをデザインしたお守りネックレス
近年は漢方による癒しや、東洋医学による治癒を目指す動きもメジャーとなり、外科的西洋医学と身体全体のバランスを重視する東洋医学とがミックスされた診療を行う医療機関も増えてきています。現代の私たちの生活に、陰陽の考え方はどんなことを教えてくれるのでしょうか。
前述した陰と陽の対比表を思い出してください。現代ではどちらかというと「陽」の要素が大事にされ、働くことや強いことが尊ばれがちです。問題は解決せねばならないし、悪いものは取り除かなくてはならない。休んでいる余裕などないのだ、24時間戦うのだ、という勢いで高度経済成長期以降も日本人は走りっぱなしです。
しかし、近年ではその動きも変わりつつあります。東洋思想ブームの再燃によって、心身をゆるめることも大切で、そこに罪悪感は必要ないという考え方が広まっています。それはマインドフルネスやヨガ、太極拳などで心身の循環をよくする様々なアクティビティが人気であることにも表れているでしょう。体調管理は「体の調子」だけでなく、「心身全体の状態を整える」というのが陰陽の考え方。忙しすぎる現代日本人には、ぜひ取り入れたい考え方です。
人間関係にも、陰陽の考えが活用できます。人間関係には、「この人と相性が合うか」という直感と、「話をよく聞いて判断しよう」という論理的思考が大事です。第一印象が最悪だったものの、気が付いたら親友だったということも少なくありませんよね。
また、SNS時代とも言える現代では、少しの油断で大炎上、ということも珍しくはありません。娯楽であるはずのSNSを利用するのに、私たちは無意識に緊張していないでしょうか。気づかないうちに炎上のスイッチを押さないだろうか、と。陰陽思想では、受け流すことや、そこから距離をとることを選びます。炎上という現象を陰陽思想で考えると剛、離脱は柔となりますが、「柔よく剛を制す」と言うように、柔らかく受け流すことや離れることでバランスをとり、戦わずに自分の心を守ることができます。しばらく休んでいたとしても、SNSではさほど抵抗なくあっさりと迎え入れられるもの。様々な人とのおつき合いは、やはりバランスが一番大事だと言えるでしょう。
太極図を読み解くと、自然も人間社会も、すべてがつながっていることがわかります。現代人はどうしても働き続けることがよくて静かに過ごすことはダメ、という思考になりがちですが、陰陽の考えではどちらも正解。どんなに静かに過ごしていても、常に変化し続けていることを教えてくれます。大切なのはどちらかに固執せず、偏りすぎないこと。生活の中に上手に陰陽の考え方を取り入れると、違った毎日が見えてくるかもしれません。
ただし、陰陽思想は「陰と陽」の二つだけで世界を説明するものではありません。やがて古代中国では、木・火・土・金・水という五つの要素で自然界を捉える「五行説」が生まれ、陰陽思想と結び付いて発展していきます。次の機会に、この陰陽五行説について詳しく見ていきましょう。
かつて日本には陰陽寮という機関があったことをご存知でしょうか。
陰陽寮はその名の通り、陰陽師が勤務する機関でした。彼らの技術や知識の基礎となる陰陽道で、欠かせないマークが太極図です。
この太極図は白と黒が渦を巻いて円を成す、不思議な形をしていますね。
この不思議な模様には、陰陽道をはじめとする古代東洋思想に欠かせないものが凝縮されています。
どんな意味があるものなのでしょうか。
目次
陰陽マークってなに?──世界をシンプルに表した図
白と黒が渦巻こうとしているようなマークは、「陰陽マーク」とも呼ばれています。
これは陰と陽を表すだけでなく、宇宙や世界全体、自然の理を示していると考えられています。
深い意味を持つ陰陽マークについて、詳しく見ていきましょう。
太極図という名前
「陰陽マーク」と呼ばれるこの図は、正式には「太極図」といいます。「太極」とは、陰と陽に分かれる前の宇宙の根源を意味する言葉です。太極図は、その太極から陰陽が生まれ、互いに循環する様子を表しています。では「太極」とはどういう意味でしょうか。
辞書を引いてみると、「古代中国の宇宙観で、万物を構成する陰陽二つの気に分かれる以前の根元の気」とあります。
つまり宇宙を含めた世界は陰陽で表される太極によってできていて、陰陽二つは分かちがたいものだということです。
読み方は?
では、太極図とは切れない関係の「陰陽」とは、正しくはどう読むのでしょうか?
また辞書を引いてみると、次のように書かれていました。
・いん-よう
・おん-よう
・おん-みょう
「いん-よう」はそれぞれの性質を表す時の読み方。
「おんみょう」は「おんよう」を発音しているうちに自然と言いやすいように変わったものだそう。
現代にもそういう単語は色々ありますね。
英語読みだと「イン-ヤン(Yin-Yang)」となります。
現在世界的に知られている太極図は、英語では「Yin-Yang Symbol」、「Taijitu(タイジートゥ)」のどちらでも呼ばれます。「Taijitu」は中国語の「太極図」をそのままローマ字表記したものです。
陰と陽ってどういう意味?
太極図では、陰と陽は巡り続けるものだという考えが示されています。
ではこの陰と陽は、具体的には何を示すのでしょうか?
ネガティブとポジティブ、白と黒、影と光、といったことは想像がつきやすいですね。
しかし、太極図に込められている意味はこれだけではありません。簡単に挙げるとこんなものがあります。
陰陽にはこうした様々な意味がこめられ、対になりながら支え合っている、という思想が隠されています。
この二つの要素は、どちらが欠けても世界が成り立ちませんよね。
太陽があるから月が輝き、女性と男性が交わることで生命が生まれる。
夏が終わるとゆるやかに秋が来て、その後には冬が来る。
陰陽思想は古代から脈々と続いてきた自然の変化を出発点とし、自然界にあるすべてのものは陰陽に分けられ、循環していると考えています。
では、次に陰陽マークの構造について考えていきましょう。
陰陽マークの基本構造
まずは陰陽マークをよく見ると、以下のような特徴がありますね。
はっきりと分かれているようで、それぞれの大きな部分には逆の色が入っているという興味深い形をしています。
この〇には大きな意味があり、「陰の中にも陽があり、陽の中にも陰がある」という考えを示すものです。
完全な陰も、完全な陽もない。それぞれの要素が極まると、また逆の要素が生まれる。
1日の変化を考えると、陰陽が循環し続けることがよくわかります。
太陽は陽ですから、太陽が出ている間は「陽の時間」。しかし、「陽の中の陰」とされる時間帯があり、それは正午から日暮れに向かう間です。
同じように、日没からが「陰の時間」になりますが、真夜中から夜明けに向かう時間を「陰の中の陽」と考えます。
人生にも陽の時間と陰の時間があるのは、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。
苦労が報われるように、苦労した後にはよいことが待っていると信じているから人は努力し続けますよね。「この仕事が終わったらおいしいお酒が飲める」のように、小さなよいことと苦労が巡っているのが私たちの日常です。
陰陽は私たちの暮らしの身近にあるものと言えるでしょう。
なぜあの形?ぐるぐるした曲線の意味
ところで太極図は、なぜあの形なのでしょうか。
見つめ続けると目が回りそうなあの図形に、東洋思想の核があるためです。
ゆるやかなS字で流れを表現
陰と陽は、影と光のように対極にあると思わせながら実はお互いを内包しているものだとお話ししましたね。これがまっすぐな線で白黒が分断されていない理由です。
さらに緩やかなS字を描いているのは、気やエネルギーが常に流れて形を変え続けていることを示しています。じっと見ていると「完成された静止図形」ではなく、陰陽が循環し続ける動きを表現した図であると感じられるのではないでしょうか。
仏教で言う「諸行無常」が近い概念ですね。
太極図は、そうして世界が循環してゆく様を示しているとも言えます。
「陰陽魚」と呼ばれる理由
太極図には、「陰陽魚」という別名があります。
古代中国では、一説では老子が始祖とされる道教が尊ばれていましたが、太極図はそのシンボルマークでした。
その中で、陰と陽の二匹の魚が抱き合っている姿に見立てる流れができ、陰陽魚と呼ばれるようになったそう。たしかに白黒の鯉がお互いのしっぽを追いかけて泳いでいるように見えなくもありませんね。そう見るとかわいく見えてくるのが不思議。
陰陽は“対立”せずに補い助け合う関係
ここからは、太極図から陰陽という思想と歴史について詳しく見ていきましょう。
ケンカする関係ではない
陰陽に代表される東洋思想には、対立するよりも支え合うという概念が含まれます。
前述したように、どのようなものもはっきりと分けることはできず、変化しながらも共存しているのだという考えです。
「陰や黒は悪、陽や白が善」とは言い切らない、グレーを受け入れることも東洋思想の魅力とも言えます。
これに対して、「白黒はっきりつけようじゃないか」というのが西洋思想の二元論です。
西洋の二元論との違い──善と悪ではない世界観
西洋思想の中で言う二元論は、東洋思想のものとはずいぶん異なります。
まず、善と悪ははっきりと分けられ、グレーゾーンはありません。善人の中にも悪意はありますが、キリスト教文化圏では善悪を明確に区別する考え方が重視される傾向があります。
また、心と体も別のものとして考え、体の不調は機械の故障と同じと考えて悪い箇所にフォーカスします。近代西洋医学は、まず原因となる病変部位を特定して治療する発想が発達しました。
月と太陽も同様です。
一方、東洋思想は太極図の「陽の中の陰」のように、陰陽はすべて共存して循環すると考えます。片方だけでは世界は成立しないとする点が、西洋思想との決定的な違いだと言えるでしょう。
ではここで、また太極図を思い出してみましょう。
バランスが大切という考え方/「バランス」が崩れると何が起こるか
太極図は、陰と陽を示していると言い続けていますが、この陰と陽がまったく同じサイズだと気づかれましたか?中に描かれた白丸黒丸も同じサイズです。
つまり、調和しているのがもっとも大切である、というのが陰陽の考え方。このバランスが崩れた時、私たちは様々な場面で影響を受けると考えられています。
人体への影響:
心のバランスが崩れて体調が悪くなる、体のバランスが崩れて心がそれに引きずられて気力がなくなる。
人間関係への影響:
拮抗していたエネルギーやパワーバランスが崩れてしまうため、物事がうまく進まなくなることや、人間関係が破綻することも。
太極図のはじまり──古代中国の知恵
太極図とは、陰陽の関係性と宇宙の成り立ちを表した、陰陽が生まれる根源である太極まで含めて表した図です。
そもそも太極図は、どこからやってきたのでしょうか?
もともとは天気の言葉?
実は「陰」と「陽」は、もともと哲学用語ではなく自然現象を表す言葉でした。
古代中国では、山の北側や日陰になる場所を「陰」、南側や日当たりのよい場所を「陽」と呼んでいたとされています。そこから、暗い・冷たい・静かな性質を陰、明るい・暖かい・活発な性質を陽として捉える考え方が生まれました。
人々は季節の移り変わりや昼夜の循環を観察する中で、自然界のあらゆる変化を陰と陽の働きとして理解するようになり、それが後の陰陽思想や太極図の誕生へとつながっていったのです。
「太極」という考え方
「太極」とはどういう意味かについては冒頭でお伝えしましたが、そもそもこの考え方は古代中国の易経に由来します。
易という言葉は占いでも見かける言葉なのでなじみ深いですよね。「当たるも八卦当たらぬも八卦」ということわざがありますが、この「八卦」を生み出したのがこの易経だとされています。
八卦に至るまでには、「太極→陰陽(両儀)→四象→八卦」と思想の段階があります。
陰陽を「陽の中の陽」などのように分類したものを四象、八卦は四象をさらに分類したものとされています。
易経によれば、太極とは宇宙のはじまり、混沌(カオス)からはじまる世界そのもの。易占いで使う後天図の中心には、太極図が描かれていることからも関係の深さがうかがえます。
ちなみに、陰陽師が職務で行った占いは主に占星術によるものでしたが、その中で八卦も用いられていたようです。陰陽師には様々な知識が求められていたことがわかりますね。
この形になるまで
Public domain, via Wikimedia Commons
現在よく知られている白と黒が渦を巻く太極図は、古代中国で陰陽思想が発展する中で形づくられてきました。
『易経』では太極から陰陽が生まれるという考え方が示されていましたが、当初から現在の図柄が使われていたわけではありません。時代とともに様々な表現が考案され、宋代(960~1279年頃)になると、陰と陽が循環しながら互いを内包する様子を表した現在に近い形が広まりました。
シンプルな図形でありながら、宇宙や自然の成り立ちを表現した奥深いシンボルなのです。
太極図と似ている形のものといえば?
太極図を初めて見る人の中には、「勾玉?」と思う人もいるかもしれません。
ここでちょっと寄り道して、勾玉について見ていきましょう。
勾玉とは何か
日本には、「三種の神器」があるのは有名ですね。
このうちの八尺瓊勾玉は、712年に成立した『古事記』に登場しますが、勾玉自体は縄文時代から使われていたようです。
縄文時代や弥生時代の遺跡から発掘されており、獣の骨や石などで作りやすい形だったのかもしれませんね。弥生時代にはガラス様の石で作られているものがあったそうで、時代の変化とともに宝石などの素材も使われ、権力の象徴にも変化していったと考えられています。
太極図と勾玉/共通点は?
一見すると、太極図をモチーフにできたものが勾玉ではないかと思えます。
実は日本の勾玉は、元々は現在のようにゆるやかに丸いものがメインではありませんでした。
縄文時代は研磨技術も発達しておらず、現在のように優美なラインを描く「う」の形ではなく、「C」の方が似ていたようです。
また、勾玉を片方がもう一方を追いかけるように並べると、太極図のように巡る形になったことで、二つは同じルーツを持つのではないかと思われるようになったそう。
太極図と勾玉/違い──ルーツと思想の背景
実は同じルーツかと思っていたら、勾玉の方がずっと昔に歴史上に登場していることがわかりました。
では、具体的にどのように違うのかを見ていきましょう。
性質としては、勾玉は呪術や祭祀、また権力や富の象徴であったのに対し、太極図は哲学や宇宙のあらましを示すものです。
哲学と祭祀は近くて遠いものですが、時を経るにつれ、その境界が曖昧になり、太極図と勾玉は関係が深いと思われるようになったのかもしれません。
陰陽マークの商品紹介
1970年代以降、ヒッピーやサーフカルチャー、東洋思想ブームの中で、太極図はファッションモチーフとしても広く知られるようになりました。
陰陽マークがモチーフとなっているグッズについて見ていきましょう。
陰陽(インヤン)香
陰陽マークをデザインしたお守りネックレス
今の暮らしにもつながる陰陽の考え方──バランスの時代へのヒント
近年は漢方による癒しや、東洋医学による治癒を目指す動きもメジャーとなり、外科的西洋医学と身体全体のバランスを重視する東洋医学とがミックスされた診療を行う医療機関も増えてきています。
現代の私たちの生活に、陰陽の考え方はどんなことを教えてくれるのでしょうか。
何事もバランスが大事
前述した陰と陽の対比表を思い出してください。
現代ではどちらかというと「陽」の要素が大事にされ、働くことや強いことが尊ばれがちです。問題は解決せねばならないし、悪いものは取り除かなくてはならない。休んでいる余裕などないのだ、24時間戦うのだ、という勢いで高度経済成長期以降も日本人は走りっぱなしです。
しかし、近年ではその動きも変わりつつあります。
東洋思想ブームの再燃によって、心身をゆるめることも大切で、そこに罪悪感は必要ないという考え方が広まっています。
それはマインドフルネスやヨガ、太極拳などで心身の循環をよくする様々なアクティビティが人気であることにも表れているでしょう。
体調管理は「体の調子」だけでなく、「心身全体の状態を整える」というのが陰陽の考え方。
忙しすぎる現代日本人には、ぜひ取り入れたい考え方です。
人間関係にもある陰と陽
人間関係にも、陰陽の考えが活用できます。
人間関係には、「この人と相性が合うか」という直感と、「話をよく聞いて判断しよう」という論理的思考が大事です。第一印象が最悪だったものの、気が付いたら親友だったということも少なくありませんよね。
また、SNS時代とも言える現代では、少しの油断で大炎上、ということも珍しくはありません。
娯楽であるはずのSNSを利用するのに、私たちは無意識に緊張していないでしょうか。気づかないうちに炎上のスイッチを押さないだろうか、と。
陰陽思想では、受け流すことや、そこから距離をとることを選びます。
炎上という現象を陰陽思想で考えると剛、離脱は柔となりますが、「柔よく剛を制す」と言うように、柔らかく受け流すことや離れることでバランスをとり、戦わずに自分の心を守ることができます。
しばらく休んでいたとしても、SNSではさほど抵抗なくあっさりと迎え入れられるもの。
様々な人とのおつき合いは、やはりバランスが一番大事だと言えるでしょう。
太極図・陰陽の考え方からバランスを学ぼう
太極図を読み解くと、自然も人間社会も、すべてがつながっていることがわかります。
現代人はどうしても働き続けることがよくて静かに過ごすことはダメ、という思考になりがちですが、陰陽の考えではどちらも正解。どんなに静かに過ごしていても、常に変化し続けていることを教えてくれます。
大切なのはどちらかに固執せず、偏りすぎないこと。
生活の中に上手に陰陽の考え方を取り入れると、違った毎日が見えてくるかもしれません。
ただし、陰陽思想は「陰と陽」の二つだけで世界を説明するものではありません。やがて古代中国では、木・火・土・金・水という五つの要素で自然界を捉える「五行説」が生まれ、陰陽思想と結び付いて発展していきます。次の機会に、この陰陽五行説について詳しく見ていきましょう。
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