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キルギスは酪農が盛んな国。だから「チーズも種類豊富で、とってもおいしいよ。特に個人や村単位の手作りがおススメ」そんな話を聞いたら、どうしてもキルギス産のチーズが食べたくなってしまいました。
今回は、キルギス産のチーズを求めて市場へ行ったお話です。
Lucia Travel連載一覧はこちら
私が持っていたキルギスのイメージは「大自然・遊牧民・素朴・少し貧しい国」でした。きっと静かで人が温かい国なのだろうなと。でもカザフスタンからキルギスへ陸路で国境を越えた瞬間、そのイメージが崩壊します。
国境を越えた私を待っていたのは、タクシードライバーの熱心な客引きでした。10代にも見える若者から60を過ぎていそうなおじいさんまでがズラリと道路の片側に並び、観光客を捕まえようと必死にアピールしています。
でも怖さはありません。「タクシーで観光するのが便利だよ!」「素敵な場所に案内するよ」といった熱烈なWELCOMEでした。開店直後のデパートより手厚いお出迎えに私は戸惑います。
はじめからキルギスではタクシーを利用するつもりでしたし、交渉しようとも思っていました。でも、ここまで歓迎されてしまうと誰を選ぶべきか見極めが付きません。混乱した私は客引きの顔を眺めながら、足早に歩きました。
でもそんな状況でも出会いがあります。一人のおじさんと目が会いました。なぜか、この人なら大丈夫そうだと直感が働きました。おじさんも私を気に入ってくれたようで、話はすぐにまとまりました。
おじさんは「キルギス産のチーズが買いたい」という私の願いを叶えるため、市場へと車を走らせました。
スイスイ進んでいた車ですが、市場が近付くにつれ渋滞に巻き込まれる頻度が高くなっていきます。どこからこんなに?と思うほどの数の車が前にも後ろにもいて、車が全く動かなくなることもありました。抜け道をたくさん知っているおじさんですら「ダメだ。動かない」と言い出す始末です。
やっと辿り着いた市場。たくさんの荷物を抱えた人が行き来しています。そして、道路には無造作に駐車された車が何十台と連なっていました。右を見ても左を見ても車・車・車…。車を整理する係員らしき人もいましたが、私達が駐車できるスペースはどこにもありません。すれ違う他の車も駐車スペースを求めて減速していました。
駐車場難民になってしまった私達。おじさんは窓を開け、道行く人にアレコレ聞いては、両手を上げたり、首を振ったりしています。その様子を見ているだけで、厳しいことが分かりました。結局、私達はグルリと市場を一周して有料駐車場に車を入れました。おじさんが機転をきかせてくれたとはいえ、駐車場に車を入れるだけでも一苦労でした。
車を降りて市場へ向かいます。箒や食材を入れる籠など生活用品を売っているお店が角にありました。見たこともないような巨大なショッピングバッグを軽々と抱える青年、色のついたビニール袋を何個も抱えた家族連れ、小さな子を連れた若いお母さん。キルギスの人の日常が垣間見えます。
小さなフェンスのような入口から中に入ると、両サイドに露店のようなお店が所狭しと並んでいました。中央アジア名物の美しいナンを売っているお店もあります。
少し歩いて建物の中に入ると、長い長い廊下のような場所が広がっています。やはり両サイドにお店がびっしり並んでいました。石鹸屋さん、お菓子屋さん、スパイス屋さん…。お客も店員もいない無人のお店、お喋りで人だかりができているお店、ゆったりお茶を飲んでる店主。どのお店もどこかのんびりした雰囲気です。
スパイス売り場の鮮やかな赤に見とれていると、おじさんが「チーズは奥だよ。そっちじゃない!」と私を連れ戻しに来ました。
目移りしながら進んでいくと、突然広い空間に出ました。グルリと見渡しても全容がつかめません。肉売り場、野菜売り場、お菓子売り場…。市場という言葉から想像していた景色が、そこに広がっていました。
お肉売り場を抜け、野菜売り場を抜け、私達はチーズ売り場に辿り着きました。そこには、小さなチーズ店が集まっていました。一メートルほどのテーブルに、おばさんが一人座っています。そんなお店が何軒も並んでいて、それぞれのお店に大きなチーズの塊が飾られていました。
おじさんは何人かのお店の人と言葉を交わすと、私に「このお店にしよう。ここのチーズは手作りだ」と振り返って私に告げます。私には全部同じに見えたチーズでしたが、おじさん曰くキルギス産でないものも多いそう。おじさんのお眼鏡にかなったチーズ屋さんは一つ一つチーズの説明をしてくれます。
でも、正直よく分かりませんでした。「ヤギのチーズ」と言われれば「ヤギのチーズなんだ」となりますが、「ヤギのチーズの塩を加えなかった版」とか「〇〇で乾燥させた版」とか、説明が詳しすぎて味が全く想像できないのです。
お店の人は、東洋からやってきた旅行者の頭にハテナが浮かんだのを察したのでしょう。その場でチーズを削って試食する方向へシフトしてくれました。
一口食べます。想像よりずっと美味しくて思わず笑みがこぼれました。また別のチーズを食べます。同じように見えても、味が違っていました。牧草の匂いがするもの、ふわっと甘いもの、柔らかい口当たりのものなど多種多様で、チーズと一言で片付けられないほどの奥深さでした。
試食を繰り返しているうちに、自分の好みが少しずつ分かってきます。時々おじさんが「これはロシア産だよ」とアドバイスもくれました。手作りの店ですが、既製品やロシア産も少し扱っているようでした。 好みの品を2つ3つ買うことにしましたが、お店のおばさんとは言葉が通じないため、タクシー運転手のおじさんが間に入ってくれました。想像していたより、ちょっと高い値段。でも、こんな機会は滅多にありません。
お店の人がナイフを出してきて「このくらい?」とジェスチャーをしてくれました。私も「うん!」と答えます。手渡されたチーズは、私が想像していたよりずっと大きな塊で「この大きさでこの値段は、破格の安さなのでは…」と思わせてくれるものでした。
キルギスで購入したチーズはそのまま日本に持ち帰りました。味がとても濃厚だからでしょうか。少量でもチーズ感がすごいので、なかなか減っていきません。
日本へ戻ってから食べ比べてみても、どれも味が違います。同じ「チーズ」なのに、それぞれ個性がありました。すっかりキルギス産チーズの虜になった私は、キルギスのあの市場で再びチーズを買える日がくることを夢見ています。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
キルギスは酪農が盛んな国。
だから「チーズも種類豊富で、とってもおいしいよ。特に個人や村単位の手作りがおススメ」そんな話を聞いたら、どうしてもキルギス産のチーズが食べたくなってしまいました。
今回は、キルギス産のチーズを求めて市場へ行ったお話です。
Lucia Travel連載一覧はこちら
目次
活気あふれる国境での出会い
私が持っていたキルギスのイメージは「大自然・遊牧民・素朴・少し貧しい国」でした。きっと静かで人が温かい国なのだろうなと。
でもカザフスタンからキルギスへ陸路で国境を越えた瞬間、そのイメージが崩壊します。
国境を越えた私を待っていたのは、タクシードライバーの熱心な客引きでした。
10代にも見える若者から60を過ぎていそうなおじいさんまでがズラリと道路の片側に並び、観光客を捕まえようと必死にアピールしています。
でも怖さはありません。「タクシーで観光するのが便利だよ!」「素敵な場所に案内するよ」といった熱烈なWELCOMEでした。
開店直後のデパートより手厚いお出迎えに私は戸惑います。
はじめからキルギスではタクシーを利用するつもりでしたし、交渉しようとも思っていました。でも、ここまで歓迎されてしまうと誰を選ぶべきか見極めが付きません。
混乱した私は客引きの顔を眺めながら、足早に歩きました。
でもそんな状況でも出会いがあります。
一人のおじさんと目が会いました。なぜか、この人なら大丈夫そうだと直感が働きました。おじさんも私を気に入ってくれたようで、話はすぐにまとまりました。
大混雑の市場への道
おじさんは「キルギス産のチーズが買いたい」という私の願いを叶えるため、市場へと車を走らせました。
スイスイ進んでいた車ですが、市場が近付くにつれ渋滞に巻き込まれる頻度が高くなっていきます。
どこからこんなに?と思うほどの数の車が前にも後ろにもいて、車が全く動かなくなることもありました。
抜け道をたくさん知っているおじさんですら「ダメだ。動かない」と言い出す始末です。
やっと辿り着いた市場。たくさんの荷物を抱えた人が行き来しています。
そして、道路には無造作に駐車された車が何十台と連なっていました。右を見ても左を見ても車・車・車…。
車を整理する係員らしき人もいましたが、私達が駐車できるスペースはどこにもありません。すれ違う他の車も駐車スペースを求めて減速していました。
駐車場難民になってしまった私達。
おじさんは窓を開け、道行く人にアレコレ聞いては、両手を上げたり、首を振ったりしています。その様子を見ているだけで、厳しいことが分かりました。
結局、私達はグルリと市場を一周して有料駐車場に車を入れました。おじさんが機転をきかせてくれたとはいえ、駐車場に車を入れるだけでも一苦労でした。
異国情緒あふれるキルギスの市場
車を降りて市場へ向かいます。箒や食材を入れる籠など生活用品を売っているお店が角にありました。
見たこともないような巨大なショッピングバッグを軽々と抱える青年、色のついたビニール袋を何個も抱えた家族連れ、小さな子を連れた若いお母さん。キルギスの人の日常が垣間見えます。
小さなフェンスのような入口から中に入ると、両サイドに露店のようなお店が所狭しと並んでいました。中央アジア名物の美しいナンを売っているお店もあります。
少し歩いて建物の中に入ると、長い長い廊下のような場所が広がっています。やはり両サイドにお店がびっしり並んでいました。
石鹸屋さん、お菓子屋さん、スパイス屋さん…。お客も店員もいない無人のお店、お喋りで人だかりができているお店、ゆったりお茶を飲んでる店主。どのお店もどこかのんびりした雰囲気です。
スパイス売り場の鮮やかな赤に見とれていると、おじさんが「チーズは奥だよ。そっちじゃない!」と私を連れ戻しに来ました。
目移りしながら進んでいくと、突然広い空間に出ました。グルリと見渡しても全容がつかめません。
肉売り場、野菜売り場、お菓子売り場…。市場という言葉から想像していた景色が、そこに広がっていました。
左/市場らしい無造作な売り場
奥深きキルギス産チーズの世界へ
お肉売り場を抜け、野菜売り場を抜け、私達はチーズ売り場に辿り着きました。そこには、小さなチーズ店が集まっていました。
一メートルほどのテーブルに、おばさんが一人座っています。そんなお店が何軒も並んでいて、それぞれのお店に大きなチーズの塊が飾られていました。
おじさんは何人かのお店の人と言葉を交わすと、私に「このお店にしよう。ここのチーズは手作りだ」と振り返って私に告げます。
私には全部同じに見えたチーズでしたが、おじさん曰くキルギス産でないものも多いそう。おじさんのお眼鏡にかなったチーズ屋さんは一つ一つチーズの説明をしてくれます。
でも、正直よく分かりませんでした。「ヤギのチーズ」と言われれば「ヤギのチーズなんだ」となりますが、「ヤギのチーズの塩を加えなかった版」とか「〇〇で乾燥させた版」とか、説明が詳しすぎて味が全く想像できないのです。
お店の人は、東洋からやってきた旅行者の頭にハテナが浮かんだのを察したのでしょう。その場でチーズを削って試食する方向へシフトしてくれました。
気になるお味は?
一口食べます。
想像よりずっと美味しくて思わず笑みがこぼれました。また別のチーズを食べます。同じように見えても、味が違っていました。
牧草の匂いがするもの、ふわっと甘いもの、柔らかい口当たりのものなど多種多様で、チーズと一言で片付けられないほどの奥深さでした。
試食を繰り返しているうちに、自分の好みが少しずつ分かってきます。
時々おじさんが「これはロシア産だよ」とアドバイスもくれました。手作りの店ですが、既製品やロシア産も少し扱っているようでした。
好みの品を2つ3つ買うことにしましたが、お店のおばさんとは言葉が通じないため、タクシー運転手のおじさんが間に入ってくれました。
想像していたより、ちょっと高い値段。でも、こんな機会は滅多にありません。
お店の人がナイフを出してきて「このくらい?」とジェスチャーをしてくれました。私も「うん!」と答えます。
手渡されたチーズは、私が想像していたよりずっと大きな塊で「この大きさでこの値段は、破格の安さなのでは…」と思わせてくれるものでした。
キルギス土産はチーズに決まり
キルギスで購入したチーズはそのまま日本に持ち帰りました。味がとても濃厚だからでしょうか。少量でもチーズ感がすごいので、なかなか減っていきません。
日本へ戻ってから食べ比べてみても、どれも味が違います。同じ「チーズ」なのに、それぞれ個性がありました。
すっかりキルギス産チーズの虜になった私は、キルギスのあの市場で再びチーズを買える日がくることを夢見ています。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel