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ネイティブアメリカンに伝わる、聖なる地下空間「キヴァ」。そこでは何が行われるのでしょうか?なぜ地下でなければならないのでしょうか?地下空間が及ぼす祈りの力に仕掛けとは?
この記事では、精霊や宇宙とつながる地下空間「キヴァ」について、ネイティブアメリカンの創世神話から独特の文化、激動の歴史まで徹底解説します。さらに、キヴァをモチーフに建てられたシルクロード舞踏館もご紹介。
「地下の祈りの空間」とは何か、あなたも実感してみませんか?
アメリカ南西部の乾燥地帯、ニューメキシコ州・アリゾナ州を中心に、プエブロ族と呼ばれるネイティブアメリカンたちが暮らしています。「プエブロ」は「町・村」を意味するスペイン語に由来し、集団をさすと同時に集落全体をさす言葉です。
スペイン人がこう呼んだ理由は、彼らの集落があまりに独特だったから。この地域では泥でつくった「アドベ」と呼ばれる日干しレンガや石を用いて、複数階建ての集合住宅が建築されていたのです。特に大きな集合住宅には数千人が住んだともされ、ここに住むコミュニティ全体がプエブロと呼ばれました。
この地域の複数の部族にこの文化が広まっていたため、彼らを総称してプエブロ族と呼んでいます。プエブロ族は単一の民族ではなく、ホピ族やズニ族など、複数の民族の総称なのです。
有名な世界遺産のメサ・ヴェルデは、古代プエブロ人と呼ばれる人々が残した集合住宅の集落遺跡。同様の集合住宅が、現在のプエブロ族の集落でも受け継がれています。
この独特の建築文化・集落構造を持つプエブロ族の社会の中心にあるのが、「キヴァ」という謎の地下空間です。
プエブロ族にとって、地下は非常に重要な場所。彼らの創世神話と深い関わりがあるのです。
例えば、ホピ族の伝説によると、創造神である太陽の精霊「タワ」は、四つの世界を創造したとされます。生きものは地下世界に住んでいたのですが、精霊に導かれてより高次の世界に移動しながら人間になり、最終的に地上の第四世界、つまり現在の世界に出てきたというのです。
この神話に登場する重要な存在が、「コキヤンウティ (Kokyangwuti)」。英語でスパイダーグランドマザーと訳される、クモの姿をした女神です。コキヤンウティは、タワの助手としてほかの神々や大地、生きものを創造したとされます。
人間が地上に出てくるまでの細かい経緯は、言い伝えによりさまざまです。例えばある伝説では、人間が正しい心を忘れるたびに世界は滅ぼされ、一部の正しい人間がコキヤンウティによって高次の世界に導かれたとされます。
また別の伝説では、最初の世界では生きものは昆虫のような姿でしたが、コキヤンウティに導かれて高次の世界に到達するにつれてオオカミやクマになり、ついに人間になったともいいます。
細部の違いはあれ、どの言い伝えでもコキヤンウティは人間を導き知恵を授けた存在であり、善なるものの象徴。そして大地の女神であり、地下の穴に住むとされるのです。
プエブロ族にとって、地下にある空間のキヴァは、創造神話の舞台であると同時に、祈りを捧げる聖域であり、精霊と人間のコミュニケーションを媒介する場です。キヴァはプエブロの集落における共同体の心臓部であり、そこでは集会や儀式、物語の伝承などが行われます。
日常空間であるプエブロの集合住宅と、地下空間のキヴァ。どちらも非常に特徴的なこの二つの空間は、彼らの社会において明確に分けられています。キヴァは、生活の場とは異なる、精神的・象徴的な空間なのです。
ここで行われる重要な儀式の一つが、儀礼舞踏。儀礼舞踏は、集落の人間関係を高めるだけでなく、目に見えない精霊や神と交信し、さらには宇宙そのものとつながるための儀式です。そもそもキヴァはプエブロの人々にとって宇宙を表現した空間であり、その思想は構造に表れています。
キヴァは、外界から隔絶された特別な空間です。深さや形は地域や部族により多少の違いがありますが、多くの場合、地中に円形の部屋が掘られ、木の柱などで補強された半地下の建築構造をしています。
外に通じているのは天井に開いた穴のみで、そこからはしごで出入りするしかありません。この穴は「シパプ」といい、「出現の地」という意味。創世神話で人間が地下の世界からこの世界に現れた場所であり、あの世への扉であると考えられています。
キヴァの構造は、単に彼らの神話を模倣しているだけではありません。そこには人類に共通する根源的な感覚が込められています。キヴァが地下にあることは母なる大地の胎内の象徴、円形の空間は太陽や星など天上の循環の象徴。そしてシパプからのはしごは、天と地をつなぐ軸の象徴です。
「天と地をつなぐ軸(Axis Mundi)」は、世界各地の神話に登場します。例えば日本神話では「天の御柱」、仏教・道教・ギリシャ神話などでは山、北欧神話やマヤ・アステカ神話では世界樹が「天と地をつなぐ軸」であり、各神話における宇宙の中心です。
天と地をつなぐ軸を通って移動するということは、人間が普段いる世界とは異なる次元に移動することを意味します。キヴァは先祖や神、宇宙といった目に見えない存在とつながる空間であり、儀式のあとはシパプを通って現世に戻ってくるわけです。
最古のキヴァは、一説によると600年頃につくられたとされます。当時のプエブロ族は、地下に竪穴式住居をつくって生活し、居住空間もキヴァと同様に地下だったようです。
その後、700年~900年頃に、日干しレンガのアドベを用いた建築技術の革新が起きました。すると生活の場は地上の共同住宅に移り、地下空間のキヴァは日常とは異なる特別な場所になっていったと考えられるのです。
メサ・ヴェルデやチャコ・キャニオンなどにあるプエブロ族の遺跡では、非常に大きなグレートキヴァと呼ばれるキヴァもあります。現在のプエブロの集落にも地下にキヴァがあり、集会や儀礼舞踏などが行われているのです。
新大陸に到達したスペイン人がアメリカ南西部の先住民と接触し始めたのは16世紀のことです。16世紀末になると、本格的にプエブロ族をキリスト教に改宗させるための伝道活動を開始しました。スペインの姿勢は強硬で、多くのキヴァが破壊されてしまったのです。
プエブロ族は1680年に反乱を起こしますが、12年後には鎮圧され、植民地支配を受けることになりました。その後、1821年にメキシコがスペインから独立。さらに1848年、プエブロ族が居住する地域はアメリカ合衆国に組み込まれます。
アメリカ政府は先住民に対してアメリカ文化に同化させる政策を取り、多くの伝統文化とともにキヴァも一時衰退しました。しかし、スペインによる支配やアメリカの同化政策を受けながらも、キヴァは密かに守られ続けてきたのです。
1978年、アメリカは同化政策を撤回し、先住民の文化を保護する方針に転換しました。こうして、自治権を与えられたプエブロ族の集落で、キヴァは儀礼の中心として復活。先住民文化の観光地化が進むなかでも、多くの場合キヴァでの儀式は部外者立ち入り禁止で保護され、観光と区別されています。
部外者にとっては秘密のベールに包まれた、キヴァでの儀式。プエブロ族の宇宙を体現する空間で祈り、舞踏するのは、どのような感覚なのでしょうか?その体験を味わえる場所をご紹介しましょう。
横浜の中華街にある「シルクロード舞踏館」は、プエブロ族のキヴァを模した地下空間。どなたでも利用可能で、舞踏や演劇、上映会などのイベントが行われています。
キヴァと同様に、中に入ると「大地と宇宙の一体感」を体感できる仕組みになっており、日常とは異なる神秘的な感覚を呼び覚まします。ネイティブアメリカンが精霊と交信することでそうするように、ここでは宇宙の創造・運行の営みに参加している実感が得られるでしょう。
『舞踏館』と名づけられたのは、身体を動かすことで自分自身と向き合う意識の充実を大切にしており、その場でありたいという思いからです。この理念を追求するシルクロード舞踏館がプエブロ族の儀礼舞踏が行われるキヴァを再現するに至ったのは、必然といえるでしょう。身体を動かすことで生まれる身体表現が、キヴァの儀式空間と重なり、感性が響き合って増幅されます。
また、地下空間であることの包容感も、時間・空間を共にする仲間との共同体意識を高め、舞踏と祈りが共鳴する不思議な感覚を味わうことができます。そして、大地の胎内である地下空間で非日常の体験をした後は、地母神から生まれ変わったような新鮮な気持ちで日常を再び歩み出せるはずです。
もちろん、異文化の建築に触れること自体が感性を高め、自身の中にある普遍的な価値を発見させてくれるでしょう。
実は、共同体の中心にある空間で、身体表現によって宇宙や目に見えない世界を体感するという在り方は、古来日本人が神楽や田楽、能などを通じて親しんできたものです。盆踊りも、先祖の霊と踊る行事ですね。
さらに、集団で身体を動かしながら祈り、同時に共同体意識も高まる行事は、インドネシアのケチャやニュージーランドのハカ、ギリシャのディオニュシア祭など、世界各地で見られます。
シルクロード舞踏館では、人類に普遍的な根源の感覚を呼び覚ますことができるでしょう。
1981年、中華街の片隅に、赤い木で縁取られ通りから中が覗けるガラス張りの舞踏館が誕生しました。チャイハネがこころをときめかせる刺激の場所ならば、舞踏館はからだを動かし自分と向き合う意識の場所。対であり影響しあう存在です。
街並みも暮らしぶりも行き交う人も変容していくなか、1993年に余儀なく閉館となりましたが、2001年月に旧舞踏館のあった隣で再び産声を上げました。地下階に作られた今度の舞踏館は、ネイティブ・アメリカンの神聖な場所キヴァを模しています。ネイティブ・アメリカンたちは屋根から出入りする半地下のキヴァの中で、そこにこもって、そして大地の懐に抱かれ、祭の歌詞を作り、歌を歌い、踊りを習い、お話を聞き、布を織り、瞑想をし、体を清めたりします。
▼シルクロード舞踏館
アクセス
▼シルクロード舞踏館について、詳細はこちら
ネイティブアメリカンの地下空間「キヴァ」は、祈り、精霊と交信し、創造神話に参加する聖なる場です。彼らはここで舞い、歌い、大地と宇宙のつながりを確かめながら、共同体の連帯をも高めてきたのです。
スペインによる植民地支配やアメリカの同化政策など、苦難の歴史のなかでも守られてきた、民族精神の中核。――その精神を現代に伝える空間が、シルクロード舞踏館です。
地下の聖域と共鳴する祈りの力を体感してみませんか?
ネイティブアメリカンの神話から▼
シルクロード舞踏館で月2回稽古をしている「さんさ踊り」について▼
ネイティブアメリカンに伝わる、聖なる地下空間「キヴァ」。そこでは何が行われるのでしょうか?
なぜ地下でなければならないのでしょうか?地下空間が及ぼす祈りの力に仕掛けとは?
この記事では、精霊や宇宙とつながる地下空間「キヴァ」について、ネイティブアメリカンの創世神話から独特の文化、激動の歴史まで徹底解説します。
さらに、キヴァをモチーフに建てられたシルクロード舞踏館もご紹介。
「地下の祈りの空間」とは何か、あなたも実感してみませんか?
目次
プエブロ族とその世界
アメリカ南西部の乾燥地帯、ニューメキシコ州・アリゾナ州を中心に、プエブロ族と呼ばれるネイティブアメリカンたちが暮らしています。「プエブロ」は「町・村」を意味するスペイン語に由来し、集団をさすと同時に集落全体をさす言葉です。
スペイン人がこう呼んだ理由は、彼らの集落があまりに独特だったから。この地域では泥でつくった「アドベ」と呼ばれる日干しレンガや石を用いて、複数階建ての集合住宅が建築されていたのです。特に大きな集合住宅には数千人が住んだともされ、ここに住むコミュニティ全体がプエブロと呼ばれました。
この地域の複数の部族にこの文化が広まっていたため、彼らを総称してプエブロ族と呼んでいます。プエブロ族は単一の民族ではなく、ホピ族やズニ族など、複数の民族の総称なのです。
有名な世界遺産のメサ・ヴェルデは、古代プエブロ人と呼ばれる人々が残した集合住宅の集落遺跡。同様の集合住宅が、現在のプエブロ族の集落でも受け継がれています。
この独特の建築文化・集落構造を持つプエブロ族の社会の中心にあるのが、「キヴァ」という謎の地下空間です。
地下と創世神話の関わり
See page for author,
Public domain, via Wikimedia Commons
プエブロ族にとって、地下は非常に重要な場所。彼らの創世神話と深い関わりがあるのです。
例えば、ホピ族の伝説によると、創造神である太陽の精霊「タワ」は、四つの世界を創造したとされます。生きものは地下世界に住んでいたのですが、精霊に導かれてより高次の世界に移動しながら人間になり、最終的に地上の第四世界、つまり現在の世界に出てきたというのです。
この神話に登場する重要な存在が、「コキヤンウティ (Kokyangwuti)」。英語でスパイダーグランドマザーと訳される、クモの姿をした女神です。コキヤンウティは、タワの助手としてほかの神々や大地、生きものを創造したとされます。
人間が地上に出てくるまでの細かい経緯は、言い伝えによりさまざまです。
例えばある伝説では、人間が正しい心を忘れるたびに世界は滅ぼされ、一部の正しい人間がコキヤンウティによって高次の世界に導かれたとされます。
また別の伝説では、最初の世界では生きものは昆虫のような姿でしたが、コキヤンウティに導かれて高次の世界に到達するにつれてオオカミやクマになり、ついに人間になったともいいます。
細部の違いはあれ、どの言い伝えでもコキヤンウティは人間を導き知恵を授けた存在であり、善なるものの象徴。そして大地の女神であり、地下の穴に住むとされるのです。
キヴァ(Kiva)とは何か?役割とは?
George Wharton James, 1858—1923,
Public domain, via Wikimedia Commons
プエブロ族にとって、地下にある空間のキヴァは、創造神話の舞台であると同時に、祈りを捧げる聖域であり、精霊と人間のコミュニケーションを媒介する場です。キヴァはプエブロの集落における共同体の心臓部であり、そこでは集会や儀式、物語の伝承などが行われます。
日常空間であるプエブロの集合住宅と、地下空間のキヴァ。どちらも非常に特徴的なこの二つの空間は、彼らの社会において明確に分けられています。キヴァは、生活の場とは異なる、精神的・象徴的な空間なのです。
ここで行われる重要な儀式の一つが、儀礼舞踏。儀礼舞踏は、集落の人間関係を高めるだけでなく、目に見えない精霊や神と交信し、さらには宇宙そのものとつながるための儀式です。そもそもキヴァはプエブロの人々にとって宇宙を表現した空間であり、その思想は構造に表れています。
キヴァに宿る宇宙観
キヴァは、外界から隔絶された特別な空間です。深さや形は地域や部族により多少の違いがありますが、多くの場合、地中に円形の部屋が掘られ、木の柱などで補強された半地下の建築構造をしています。
外に通じているのは天井に開いた穴のみで、そこからはしごで出入りするしかありません。この穴は「シパプ」といい、「出現の地」という意味。創世神話で人間が地下の世界からこの世界に現れた場所であり、あの世への扉であると考えられています。
キヴァの構造は、単に彼らの神話を模倣しているだけではありません。そこには人類に共通する根源的な感覚が込められています。キヴァが地下にあることは母なる大地の胎内の象徴、円形の空間は太陽や星など天上の循環の象徴。そしてシパプからのはしごは、天と地をつなぐ軸の象徴です。
「天と地をつなぐ軸(Axis Mundi)」は、世界各地の神話に登場します。例えば日本神話では「天の御柱」、仏教・道教・ギリシャ神話などでは山、北欧神話やマヤ・アステカ神話では世界樹が「天と地をつなぐ軸」であり、各神話における宇宙の中心です。
天と地をつなぐ軸を通って移動するということは、人間が普段いる世界とは異なる次元に移動することを意味します。キヴァは先祖や神、宇宙といった目に見えない存在とつながる空間であり、儀式のあとはシパプを通って現世に戻ってくるわけです。
歴史の中のキヴァ
チャコ文化国立歴史公園 George A. Grant,
Public domain, via Wikimedia Commons
最古のキヴァは、一説によると600年頃につくられたとされます。当時のプエブロ族は、地下に竪穴式住居をつくって生活し、居住空間もキヴァと同様に地下だったようです。
その後、700年~900年頃に、日干しレンガのアドベを用いた建築技術の革新が起きました。すると生活の場は地上の共同住宅に移り、地下空間のキヴァは日常とは異なる特別な場所になっていったと考えられるのです。
メサ・ヴェルデやチャコ・キャニオンなどにあるプエブロ族の遺跡では、非常に大きなグレートキヴァと呼ばれるキヴァもあります。現在のプエブロの集落にも地下にキヴァがあり、集会や儀礼舞踏などが行われているのです。
新大陸に到達したスペイン人がアメリカ南西部の先住民と接触し始めたのは16世紀のことです。16世紀末になると、本格的にプエブロ族をキリスト教に改宗させるための伝道活動を開始しました。スペインの姿勢は強硬で、多くのキヴァが破壊されてしまったのです。
プエブロ族は1680年に反乱を起こしますが、12年後には鎮圧され、植民地支配を受けることになりました。その後、1821年にメキシコがスペインから独立。さらに1848年、プエブロ族が居住する地域はアメリカ合衆国に組み込まれます。
アメリカ政府は先住民に対してアメリカ文化に同化させる政策を取り、多くの伝統文化とともにキヴァも一時衰退しました。しかし、スペインによる支配やアメリカの同化政策を受けながらも、キヴァは密かに守られ続けてきたのです。
1978年、アメリカは同化政策を撤回し、先住民の文化を保護する方針に転換しました。こうして、自治権を与えられたプエブロ族の集落で、キヴァは儀礼の中心として復活。先住民文化の観光地化が進むなかでも、多くの場合キヴァでの儀式は部外者立ち入り禁止で保護され、観光と区別されています。
シルクロード舞踏館とキヴァのつながり
部外者にとっては秘密のベールに包まれた、キヴァでの儀式。プエブロ族の宇宙を体現する空間で祈り、舞踏するのは、どのような感覚なのでしょうか?その体験を味わえる場所をご紹介しましょう。
横浜の中華街にある「シルクロード舞踏館」は、プエブロ族のキヴァを模した地下空間。どなたでも利用可能で、舞踏や演劇、上映会などのイベントが行われています。
キヴァと同様に、中に入ると「大地と宇宙の一体感」を体感できる仕組みになっており、日常とは異なる神秘的な感覚を呼び覚まします。ネイティブアメリカンが精霊と交信することでそうするように、ここでは宇宙の創造・運行の営みに参加している実感が得られるでしょう。
『舞踏館』と名づけられたのは、身体を動かすことで自分自身と向き合う意識の充実を大切にしており、その場でありたいという思いからです。この理念を追求するシルクロード舞踏館がプエブロ族の儀礼舞踏が行われるキヴァを再現するに至ったのは、必然といえるでしょう。身体を動かすことで生まれる身体表現が、キヴァの儀式空間と重なり、感性が響き合って増幅されます。
また、地下空間であることの包容感も、時間・空間を共にする仲間との共同体意識を高め、舞踏と祈りが共鳴する不思議な感覚を味わうことができます。そして、大地の胎内である地下空間で非日常の体験をした後は、地母神から生まれ変わったような新鮮な気持ちで日常を再び歩み出せるはずです。
もちろん、異文化の建築に触れること自体が感性を高め、自身の中にある普遍的な価値を発見させてくれるでしょう。
実は、共同体の中心にある空間で、身体表現によって宇宙や目に見えない世界を体感するという在り方は、古来日本人が神楽や田楽、能などを通じて親しんできたものです。盆踊りも、先祖の霊と踊る行事ですね。
さらに、集団で身体を動かしながら祈り、同時に共同体意識も高まる行事は、インドネシアのケチャやニュージーランドのハカ、ギリシャのディオニュシア祭など、世界各地で見られます。
シルクロード舞踏館では、人類に普遍的な根源の感覚を呼び覚ますことができるでしょう。
「芸能の庭」シルクロード舞踏館について
1981年、中華街の片隅に、赤い木で縁取られ通りから中が覗けるガラス張りの舞踏館が誕生しました。
チャイハネがこころをときめかせる刺激の場所ならば、舞踏館はからだを動かし自分と向き合う意識の場所。
対であり影響しあう存在です。
街並みも暮らしぶりも行き交う人も変容していくなか、1993年に余儀なく閉館となりましたが、2001年月に旧舞踏館のあった隣で再び産声を上げました。
地下階に作られた今度の舞踏館は、ネイティブ・アメリカンの神聖な場所キヴァを模しています。
ネイティブ・アメリカンたちは屋根から出入りする半地下のキヴァの中で、そこにこもって、そして大地の懐に抱かれ、祭の歌詞を作り、歌を歌い、踊りを習い、お話を聞き、布を織り、瞑想をし、体を清めたりします。
▼シルクロード舞踏館
アクセス
▼シルクロード舞踏館について、詳細はこちら
精霊と舞う空間—ネイティブアメリカンの聖域に学ぶ
ネイティブアメリカンの地下空間「キヴァ」は、祈り、精霊と交信し、創造神話に参加する聖なる場です。彼らはここで舞い、歌い、大地と宇宙のつながりを確かめながら、共同体の連帯をも高めてきたのです。
スペインによる植民地支配やアメリカの同化政策など、苦難の歴史のなかでも守られてきた、民族精神の中核。――その精神を現代に伝える空間が、シルクロード舞踏館です。
地下の聖域と共鳴する祈りの力を体感してみませんか?
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シルクロード舞踏館で月2回稽古をしている「さんさ踊り」について▼