危険な街ボリビア・ラパスで見つけた、世界一おいしいアイスクリーム

首を絞めて気絶させ服や荷物を身ぐるみ奪う首絞め強盗がいたり、賄賂を要求する警官や、警官のフリをして旅行者を犯罪に巻き込む偽警官がいたり、なにかと物騒な話が多い南米ボリビア。

でも私はこの国で世界で一番おいしいアイスクリーム屋さんに出会いました。今回はボリビアの甘いアイスクリームのお話です。

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ラパスはアイスが美味しいよ!

「ボリビアでアイス?なぜ?」ごく自然な反応だと思います。私もずっとそう思っていました。
出会う旅人みんなが「ボリビアの首都ラパスには美味しいアイスクリーム屋さんがあるよ」と教えてくれていたにも関わらず、「貧困国でアイスなんて…」とイマイチ信じきれないでいました。

想像の中のラパスは、少し汚れた石造りの家と、その日暮らしに近い貧しい人々の街。
アイスやケーキなどの西洋風のお洒落な食べ物は、どう頑張っても似合わないと思っていました。

危険な街のはずが…ラパスの昼は驚くほど明るい

ラパスに到着して3日目、気持ちに余裕ができた私は街を散策していました。
通りには人の流れが絶えず、道路の両脇には小さな商店やカフェ、山積みのカバンや靴を売る露店が並んでいます。
昼間のラパスは活気に満ちていました。思っていたよりもずっと明るく、女性ひとりでも歩ける雰囲気です。

かつてスペインの支配を受けた名残でしょうか。通り沿いには重厚な石造りの建物が整然と並び、キラキラと輝いて見えました。お洒落な街ラパス、明るい街ラパス。

ゆるやかに曲がる大きな通りを抜けると、人だかりが見えました。綺麗な格好をした若い女性たちが何かを待っています。近付いていくと、それはアイスクリームの列でした。

アイスクリームの移動販売 アイスクリームの移動販売

街中で見つけた人気アイス店

道路側に向かって掲げられた大きな看板。ズラリと並ぶショーケースには、色とりどりのアイスクリームが宝石のように並んでいました。見た者の目を釘付けにするお洒落なディスプレイに、思わず心が躍ります。

ここはテイクアウト専門店。周囲にテーブルも椅子もありません。
それでも大繁盛していて、10~20代の若い女性たちが笑顔で順番を待っていました。みんな綺麗な服を着て、とても楽しそう。ヨーロッパの一コマと間違えそうなほど洗練された雰囲気です。

「おいしいアイスクリーム屋さんがある」と沢山の旅人が教えてくれたのは、このお店のことだとピンと来ました。途切れることのない行列に混ざり私もアイスを注文しました。

口に入れた瞬間、私はこれまで食べたどの国のアイスよりも美味しいと直感しました。まさに世界で一番の味です。何より美しいディスプレイは「選ぶ楽しさ」を与えてくれました。

純喫茶のような落ち着いた空間

ラパスでは本当によく散歩をしました。
市場、バスターミナル、教会、どこも少し雑多で、音に満ち溢れています。
クラクション、子どもの声、遠くの音楽。でも時折、静かすぎる通りもあり、そんな時は足早にその道を去るか、方向転換していました。

エクアドルで購入したケーキ。素朴な味わい エクアドルで購入したケーキ。素朴な味わい

ある日、大人気のアイスクリーム屋さんを通り過ぎた繁華街に、小さなアイスクリーム専門店を見つけました。
そのお店はラパスの中でもいちばん都市的な通りにありました。外観はシンプルで、扉を開けると白を基調とした明るく清潔な空間が広がっています。
南米ではプラスチックのテーブルと椅子が主流ですが、このお店にはきちんとした素材のテーブルと椅子が置かれていました。日本の純喫茶のような落ち着いた印象です。

店内には若い現地の女の子たちが多く、笑い声や話し声が響いています。私に気付いた店員さんが笑顔で席へ案内してくれました。
テーブルとテーブルの間隔も広く、誰も外国人の私を好奇な目で見たりしません。扉を開けた瞬間から、このお店が気に入りました。

選ぶワクワク、注文のドキドキ

注文の仕方がまだよく分からない私。それに気付いた店員さんがにこやかに手招きしてくれます。
導かれるままショーケースの前に立つと、8種類ほどのアイスが並んでいました。派手さはありませんが、素朴さが逆に心に残ります。

「どれにする?」

「うーん…」

「何個でも選べるよ?」

店員さんは丁寧に教えてくれますが、私のつたないスペイン語ではまだ完全には理解できません。料金も味もよく分からず、少し緊張します。
周囲を見ると、ほとんどの人がガラスの器に盛られたアイスを手に楽しそうに食べています。

「私もアレがいい。あのガラスの器のやつ。」

「OK。◎◎と△△は入れていい?」

好みのアイスは伝えられたものの、一部トッピングが聞き取れません。
迷いましたが、「全部入れていいよ!」とお願いしました。少しドキドキしながら注文を終えると、旅の小さな冒険を終えたような達成感がありました。

小さな幸福の記憶

テーブルに戻ると、ガラスの器に盛られたアイスが届きました。
山盛りのバナナ、チョコソース、白い粒砂糖で彩られた姿は、まるで歴史あるホテルのプリンアラモードのよう。少し溶けかけたアイスは南米らしさも感じさせます。
口に入れると、冷たさと甘さが口いっぱいに広がりました。

窓の外を眺めると街は相変わらずざわついていました。
ラパスは危険な街です。スリや詐欺、偽警官などに常に注意を払わなければなりません。
女性一人でも歩ける街ですが、私はきっと想像以上に緊張していたのでしょう。一口アイスを食べるごとに、体中から無駄な力がスルスルと抜けていくのが分かりました。

このお店には笑顔の店員さんとアイスに夢中な女性客しかいません。穏やかに流れる時間の中に、安心と小さな喜びが詰まっていました。

旅の途中で出会う「おいしいもの」は、味だけでなく、その土地の空気や、人のやさしさを閉じ込めています。

ラパスはアイスクリームがおいしい街です。世界でいちばんおいしいアイスクリーム屋さんもあります。
でも、ラパスのアイスを思い出すときに浮かぶのは、大繁盛していた有名店ではなく
―――あの小さな店―――
冷たくて、やさしくて、私の心そっとほどいてくれた、一皿なのです。

ガラスの器で提供されたアイスクリーム。バナナとチョコソース付き ガラスの器で提供されたアイスクリーム。
バナナとチョコソース付き
R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel


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