バリのお盆ガルンガン&クニンガン|装飾の意味や日本との違いは?

バリ島には日本のお盆と同じように神々や祖先を迎え、見送る伝統行事があります。
それが「ガルンガン」と「クニンガン」です。島全体が美しい装飾で彩られ、街は祈りと祝祭の雰囲気に包まれます。

このコラムでは、バリのお盆文化の背景から華やかな装飾、さらに儀式に込められた意味までかりやすく解説します。

バリのお盆
「ガルンガン&クニンガン」とは

ガルンガンは、日本でいうお盆にあたる日。祖先や神々が地上に戻ってくるとされ、バリの人々にとって特別な意味を持ちます。そして10日後のクニンガンは、迎えた祖先を天界へと送り出す「送り盆」にあたり、祈りと感謝を込めて別れを告げる日です。

この時期になると、街には長くしなやかな竹飾り「ペンジョール」が立ち並びます。風に揺れるその姿は、まるで祖先を導く道しるべのよう。飾りには果物やココナッツの葉が使われ、実りある生活や暮らしの豊かさを願う意味も込められています。

バリのお盆「ガルンガン&クニンガン」とは ペンジョールは電線に届きそうなほど巨大

また、儀式の後には家族や親戚が集まり、バビグリン(豚の丸焼き)やラワール(野菜や肉、ココナッツをスパイスで和えたもの)といった伝統料理を囲むまでが習わし。これらはただの食事ではなく、「先祖と共にある時間」を象徴する大切な文化なのです。

日本のお盆との共通点と違い

バリのガルンガン・クニンガンと日本のお盆では、どちらも「お盆休み」が設けられ、家族が集まって食べ物や花を捧げ、祖先に感謝を示すという点が共通しています。
しかし違いも多いのが興味深いところ。日本ではナスやキュウリで作る「精霊馬」に祖先が乗って帰ってくると信じられていますが、バリにはそうした風習はありません。その代わりに、お金や食べ物を供え、より現実的な形で祖先をもてなします。

さらに大きな違いは、バリでは祖先の霊だけでなく、ヒンドゥー教の神々や自然霊までが地上に訪れると考えられていることです。日本のお盆が「先祖との再会」を中心にしているのに対し、バリのお盆は「神々と自然、祖先すべてとのつながり」を感じさせる壮大な世界観があります。こうした広がりを知ると、バリの人々が長い年月をかけ、祈りと生活が結びついた独自の文化を育んできたことが見えてきます。

街を彩る美しいペンジョール

ガルンガンの時期になると、バリの街道は「ペンジョール」と呼ばれる竹の飾りで彩られます。各家庭の門先に立てられる長い竹竿は、ココナッツの葉や果物、米菓子、花などで美しく装飾され、風に揺れる姿が祖先を導く目印になるとされています。

街を彩る美しいペンジョール ペンジョールはガルンガンや田んぼの儀礼、
地霊儀礼の日にも立てられる

ペンジョールは、先祖が迷わず家を見つけられるようにとの思いから、次第に大きく豪華になったとされています。

ペンジョールは購入すると1本7,000円ほどすることもあり、多くの家庭では手作りされます。花や葉を繊細に編み込んで波のような形を表現するもの、高さを強調して神々に届くよう祈るもの、実や菓子をたくさん吊るして繁栄を象徴するものなど、デザインには多彩なバリエーションが存在します。

祭礼用に豪華に仕上げるものもあれば、あえてシンプルに立てる家庭もあり、その違いを眺めるのも楽しみのひとつといえるでしょう。

道の両脇に立ち並ぶペンジョールが風に揺れる光景は、まさにガルンガンの象徴です。竹と葉が風にさざめく音の中を歩けば、祝祭のにぎやかさと神聖さが同時に伝わってきます。

ガルンガンが華やかでにぎやかな印象を持つのに対し、10日後のクニンガンは感謝と見送りを重んじる静かな行事とされており、この対比を知ると、両者の行事が持つ独自の意味合いがより深く感じられます。

家族で作る供物「チャナン」

ガルンガンの日、各家庭では女性たちが「チャナン」と呼ばれる小さな供物を手作りします。椰子の葉で編んだ小さな器に花びらや米粒、お菓子を載せたもので、普段から見られる供物ですが、ガルンガンにはより丁寧に数多く用意されます。
祭壇や家のあちこちに並べられたチャナンは、祖先や神々への感謝を表すとともに、家庭を清らかに保つ役割もあるのです。

家族で作る供物「チャナン」 チャナンは神様だけでなく悪霊にも捧げる小さな供物

ガルンガンでは、チャナン以外にもさまざまな供物が登場します。
中でもバナナやココナッツ、サトウキビといった自然の恵みを積み上げた「グボガン」と呼ばれる供物を頭に乗せ、寺院まで運ぶ女性の姿は、歩く芸術品とも言えるでしょう。

家族で作る供物「チャナン」_02 グボガンは大きなものになると高さ1メートル、
重さは20キロ以上にもなる

供物は一つひとつに意味が込められており、「豊穣への祈り」や「家族の安全」「神々への感謝」など、願いの形が表れています。

祈りを終えると、家族や親戚が集まり食事を共にします。代表的なのは「バビグリン(豚の丸焼き)」で、香辛料を詰めてじっくり焼き上げるこの料理は、ガルンガンのご馳走として欠かせない存在です。また、「ラワール」と呼ばれる挽き肉と野菜、ココナッツを混ぜた料理もよく食卓に並びます。味わいは地域や家庭ごとに少しずつ異なり、その違いを楽しむのも魅力の一つと言えます。

家族で作る供物「チャナン」_03 ラワールはバリ島の伝統料理の一つ。豚の生血を加える場合もある

さらに翌日は「マニス・ガルンガン」と呼ばれる日。親戚や友人を訪ね歩き、おしゃべりや食事を楽しみます。にぎやかな集まりの中で人々はつながりを深め、祝祭の余韻を共有するのです。ガルンガンは供物や祈りの場面だけでなく、家族と地域を結びつける時間としても大切にされています。

祖先の霊が天界へ還るクニンガンでは何をする?

クニンガンは、ガルンガンからちょうど10日後の土曜日(サニスカラ・クリウォン・クニンガン)に行われる送り盆です。迎え盆にあたるガルンガンでは、バナナやマンゴー、マリーゴールドといった華やかな供物を並べて祖先を迎えますが、クニンガンは感謝を込めて祖先を天界へ送り出す日であり、しめやかな雰囲気が漂っています。

この日には「ナシ・クニン」と呼ばれる黄色いターメリックライスを食べ、祭壇には「タミアン」と呼ばれる細工を施した特別な供物が飾られます。タミアンはバリ語で「盾」を意味し、黄色は神聖さや繁栄を象徴すると言われ、送り盆にふさわしい色とされているそう。こうした供物からも、バリの人々が大切にしてきた感謝の心が伝わってきますね。

先祖へのお土産「エンドンガン」を飾る

前述の「タミアン」と同じように、クニンガンの日には「エンドンガン」と呼ばれる装飾も欠かせません。袋のような形をしており、中には種子や果物、芋などの食料が入れられます。これは天界へ帰る祖先の霊が、旅の途中で困らないようにという思いやりの表れです。

さらに地域や家系によっては、霊の休息場所や生命の器を象徴する「コレム」、聖なる武具を模した「ジェジャヒタン」といった様々な供物が作られます。形や種類は異なりますが、それぞれに込められた願いは共通しており、祖先を敬い、無事に天へ送り届けたいという深い祈りが込められているのです。

参加前に知っておきたいマナー

バリ島のガルンガンやクニンガンの儀式、そして寺院を訪れる際には、神聖な場に敬意を払うことが必須。特にお祈りの場では、バリの正装に着替える必要があります。

正装の構成 詳細
女性 クバヤ、サロン(カイン)、スレンダン クバヤというレースの美しいブラウス(長袖が基本)に、腰布のサロン(またはカイン)を巻き、さらにその上からスレンダン(帯)を締める
男性 ウダン、サファリ/クバヤ、カイン、スレンダン 頭にはウダンと呼ばれる独特な結び方をした布を巻き、上着(サファリクバヤなど)を着用します。腰にはカインスレンダンを締めるのが基本

正装は現地でレンタルできることもあり、観光客でも安心。正装でなくても、肌の露出を控え、サロンやスレンダンを身につければ寺院に入れる場合もあります。

さらに儀式におけるマナーも大切です。
寺院に入る際は履物を脱ぎ、供物を頭より高く掲げないようにします。バリでは頭が最も神聖とされているため、子どもの頭であってもむやみに触れてはいけません。

また、道端に置かれたチャナン(お供え物)は踏まないよう注意が必要です。月経中の女性や傷口がある人は、神聖な場への立ち入りが禁じられているため、控えましょう。身だしなみや振る舞いを整えることが、そのまま信仰への尊重につながります。

伝統が今も生きる、祈りの島バリ

ガルンガンとクニンガンは、祖先や神々を迎え、そして見送るバリ島ならではのお盆です。街を彩るペンジョールや、心を込めて作られる供物、家族と囲む食卓には、信仰と暮らしが一体となった文化が息づいています。

日本のお盆と比べてみると、共通点の温かさ、バリ独自の壮大な世界観の両方が感じられますよね。祈りと日常が重なり合うこの行事を知ることで、バリの人々が大切にしてきた精神文化に少し触れられるのではないでしょうか。


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