“危険都市”ボリビアのラパスを一人旅して分かった、本当の姿

ボリビアは、南米の中でもちょっと治安が悪い国。なかでも首都ラパスは〝賄賂警官〟がいる要注意スポットとして有名です。
ペルーからバスに揺られて一晩、ラパスに降り立った私に声をかけてきたのは…なんと、警官でした。

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意外と快適!14時間のバス旅

ボリビアの首都ラパスへは、ペルーのクスコから夜行バスで向かいました。公式に表示された所要時間は14時間。南米の道路事情を考えると16~20時間はみておきたいところです。

バックパッカーの間で「ラパスは危ない」と有名だったので、明るい時間に着けるよう複数のバス会社を比べました。
乗り込んだバスは意外にも立派。日本で走っていても違和感のない大型車で内装も国際バスに相応しいものでした。

ゆったりした座席はリクライニング機能付き。思いのほか快適なバスの旅に、私は完全にリラックスモードになっていました。国境越えもスムーズで、大きな窓からどんどん変わっていく景色を見つめます。

スリと賄賂を求める警官に注意

南米では一泊1~10ドル程度の安宿に宿泊していました。
バックパッカーが集う安宿には鮮度のいい情報が集まります。いろんな宿で耳にしました。「ラパスは危ないらしい」と。

南米は凄く危険ではないけれど、油断して旅ができるほど安全でもありません。
女一人でも観光はできますが、昼でも近付いてはいけない場所があり、夜は複数人でも出歩くのはご法度でした。
そんな中で耳に入ってきたのが、ラパスの警官情報です。

ラパスはスリが多い街です。入国したばかりの外国人を狙ったスリが多発していました。
さらに気を付けなければいけないのが、賄賂を要求する警官の存在。入国したばかりの外国人に「パトカーで送ってあげる」「タクシーを呼んであげる」等と親切に接したり、「所持品検査をする」などと理由をつけて賄賂を要求してくる――そんな話でした。

「そんなの無視してもいいんじゃない?」

「いや、警察だよ。従わなかったら何が起きるかわからない」

「でも賄賂なんて。渡す必要ないよね?」

「日本の常識が通じない国にいるんだよ。最悪、逮捕される可能性だってある。警官に目を付けられたら理不尽でも素直に従った方がいい」

巨大なすり鉢の底に沈んだ街ラパス

そんな怖い警察の話を思い出していたら、バスのエンジンが止まりました。快適だった旅の終わりです。気を引き締めなきゃいけないのに、リラックスモードから抜けきれず、心がふわりと揺れました。
バスを降りると、背中をすっと風がなでます。
「あっ、すごくいい場所」
直感が思わず叫びました。

ラパスは、すり鉢状をした不思議な地形の都市です。私が降りたのは、すり鉢の縁のいちばん高い場所。見下ろすと、斜面に沿って家々がぎっしりと重なり合い、底に向かうほど人工物の密度が増していました。

標高は3700m(富士山の山頂に匹敵)。太陽はギラギラ輝き、高地の乾いた空気があたりを包んでいます。行き交うバスの排気ガスの匂い。どこからか届く人々の喧騒…。
ラパスの街並みは、まるでエッシャーの版画の中に迷い込んだような不思議な魅力を持っていました。屋根も階段も斜面に沿って小さく重なっていて、どこが現実で、どこが幻想なのか、目が迷うほどでした。

そんなラパスの美しさに魅了されていると、正面からゆっくり警察が近づいてきました。

ボリビアの景色。パッチワークのような山が印象的でした ボリビアの景色。パッチワークのような山が印象的でした

到着した瞬間に警察の洗礼?

男性と女性、若い2人組みの警官です。青い制服が太陽の光を浴びてキラリと光っていました。あまりのタイミングに私は身構えました。

「Hola(オラ)」
女性の警官がにこやかに話しかけてきました。
「Hola」
私もなるべく愛想よく、でも気を緩めず答えます。

「あなた今着いたの?」

「はい、そうです」

「どこから?」

「ペルーから…」

(そうです。今まさに国際線バスから降りてきた外国人の私は、格好のカモですよ…)

「違う、どこの国の人なの?日本?日本から来たの!それは遠い国から来たわね。あなた一人なの?ここは危ない場所だから、本当に気をつけなさい。」

いつお金を要求されるのか、気が気じゃない私の心配を知ってか知らずか、彼女はまるで友達のようにフランクに話しかけてきます。

一通り世間話をした後、「あのあたりのタクシーは乗らないで。街の中心に行きたいなら、この先から出ている〇番のバスに乗って。値段は〇円、それ以上は支払わなくていい」と的確なアドバイスを残し、「チャオ」とにこやかに去っていきました。
私は拍子抜けしたようにうなずき「チャオ」と小さく返します。

都市部以外では、こんなのどかな光景が広がります。牛を使った畑仕事 都市部以外では、こんなのどかな光景が広がります。
牛を使った畑仕事

すり鉢の底で見つけたやさしさ

キツネにつままれたような気持ちのまま、警官に教えてもらったバスに乗りました。
街の中心へ向かう道は、急勾配を避けるようにクネクネと曲がっています。細い道をバスはゆっくりと下っていきます。

窓からすり鉢状の街を眺めます。斜面にびっしりと並ぶ家々、半分壊れたような建物、色褪せた洗濯物、崩れかけた木の階段、土埃、行き交う人々――すべてが混ざり合った景色に、心は自然とほどけていきます。

バスの代金は、警官が教えてくれた額ぴったりでした。それ以上を誰も私に請求しません。それどころか、運転手も乗客も親切でした。
運転手は荷物を抱えた私のために席を空けるよう促し、乗客も「ここに座りなさい」と笑顔で手招きしてくれました。

怖い怖いと聞いていたラパス。もちろん、見知らぬ国に降り立つ怖さや緊張感はあります。
「でも…、私は何だかこの都市が好き」
すり鉢の底へと向かうバスの中で、私は小さくつぶやきました。世間の評判と自分の感性は違う。危険で怖い街かもしれないけれど、私には居心地が良い。

バスから見た街並み。雑な洗濯物の干し方に親近感を覚えました バスから見た街並み。雑な洗濯物の干し方に親近感を覚えました
R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel


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