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フランスでは出産後の食事がリンゴ1個、日本では豪華なお祝い膳。ではドイツでは…?出産後の過ごし方は、国によってこんなにも違います。
今回は、現地で出産した日本人の体験談とともに、フランス・ドイツ・日本の産後の食事事情を紹介します。
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先日、タレントの加藤ローサさんのフランスでの出産エピソードを耳にしました。彼女は第一子をフランスで出産しており、その時の思い出として「産後の食事はリンゴ1個しかもらえなかった」と語っていました。
日本の産院の食事は豪華です。専属のシェフがいたり、こだわりの食材が使われていたり、市民病院でさえ「お祝い膳」が出る昨今です。その感覚を持っている日本人からすると「え?それだけ?」と驚きを隠せないエピソードですが、私はこの話を聞いてドイツで出会った日本人女性との会話を思い出しました。
ドイツを旅行していた時、ある日本人女性と知り合いました。ロマンチック街道を横断するバスが出会いだったような気がします。
私も彼女も一人旅。アジア人の風貌が呼び合って何となくお互い惹かれ合い、日本人同士ということで自然と仲良くなりました。50代のその女性は、会社に頼み込んで休暇をもらい、6週間ほどドイツに滞在していると話してくれました。
「6週間もドイツに?研修ですか?」と、凄く仕事ができそうな感じの人だったので思わず尋ねると、
「違うの、娘が今ドイツに赴任しているんだけど出産したのよ。だから娘の産後のケアと手伝いに来ているの」
意外な答えにビックリしたのを覚えています。観光でも仕事でもなく、海外に産後ケアのために滞在する…。そういう過ごし方をしている人に出会ったのは初めてで、とても興味がわきました。
普通の暮らしに興味があった私は、色々と彼女に質問しました。中でも興味深かったのは食事の話です。美味しい食べ物が沢山あるドイツ。普段の食事はどうしているのか、太らないのかと尋ねると意外な答えが返ってきました。
「ドイツ人ってね、ご飯にあまり手間をかけないの。普段の食事は質素そのもの。火を使わない簡単な食事ばかりで、豪華さとは真逆の食卓よ」ビアホールで食べた、ほっぺが落ちそうなウインナーを毎週食べていると思っていた私は、この答えに驚きました。
「特に夕飯は質素。パンとハムとチーズだけの簡単な食事をする家庭が殆どみたい。私も娘に聞いたんだけど、夜は眠るだけだから、沢山食べる必要はない(そんなにカロリーを接種する必要がない)という考え方が浸透しているみたい」そして彼女は少し考え込むように視線を下に向け、こう続けました。
「夕飯が質素なのにはもう一つ理由があって、ドイツ人は健康に凄く気を使っているみたい。夜たくさん食べるのは健康上よくないでしょう?だから健康の為にも夕飯は控え目にするの。少しお腹が満たされればいいって感覚なんだって」
「でも、それだとお腹すきませんか?娘さんは慣れてますか?」と私が尋ねると、
「う~ん。流石に慣れたのかな。でも、夕飯に私がきちんとした料理を作ると喜んで食べてくれる。娘の旦那の方は…。彼はドイツ人なんだけど、ドイツ人って融通がきかないっていうか…。夕食に豪華な料理を出すと、太るし健康に悪いから絶対に食べないって言われちゃった」と、言葉を選びながらドイツ人の娘婿とのアレコレを話してくれました。
「娘が出産した時の夕飯も、黒パンとハムとチーズだけだったの。娘が『せめて温かいスープが欲しい』って嘆いたから、急いでお味噌汁を作って持って行ったの」
妊婦でも産後すぐの母親でも、夕飯は質素だなんて徹底しているなぁと思っていたら、「ね、ビックリでしょ?」と同意を求められました。
「娘もね、人ひとりをこの世に生み出すっていう大仕事をしたのに、カチカチのパンと乾いたハムとチーズだけ?なんでこんな時まで…って嘆いてた。」会ったこともない娘さんですが、状況を想像するだけで切なくなります。
「心も体も疲れ切っているのに、カチカチのパンなんて食べられないよね?」と彼女に言われ、私はうなずきました。
ドイツには「冷たい食事」という言葉があります。文字通り火を使わない食事のことで、主食(パン)+乳製品(チーズ)+タンパク質(ハム)が基本ベース。実用性を重視するドイツ人らしい食事内容です。
だから産院で出たメニューはドイツらしい食卓といえばそうなのかもしれません。でも産後のクタクタな体で「冷たい食事」を口にするのはあまりに酷。〝食事で癒されたい〟という気持ちは、日本と同じようにあるはずなのに、文化の違いがそこに現れているようでした。
日本では、出産を終えた母親に「ご苦労さま」「おめでとう」というねぎらいの気持ちを込めて、少し特別な食事が用意されることが多くあります。「お祝い膳」はその代表格。食事そのものが母親の産後ケアの一部になっていて「産後の食事=体をいたわり、母を祝福するもの」という考え方が表れています。
一方フランスでは「産後の食事はリンゴ1個」で、ドイツでは「カチカチの黒パンとハムとチーズ」です。日本は「ねぎらいと祝福」、フランスは「シンプルで質素」、ドイツは「健康と実用」という文化の違いがよく見て取れます。出産という大仕事を終えた母親にふるまわれる食事には、それぞれの国の価値観が映し出されているように感じました。
どの国に行っても、その土地のものを「おいしい!」と思える私には、日本食ロスの経験はありません。ですが、産後には温かいスープのように体と心をやさしく包み込んでくれる食事を選びたいと思ったのも事実です。あらためて、私は日本人の感覚を持っているのだと感じました。
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大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
フランスでは出産後の食事がリンゴ1個、日本では豪華なお祝い膳。ではドイツでは…?
出産後の過ごし方は、国によってこんなにも違います。
今回は、現地で出産した日本人の体験談とともに、フランス・ドイツ・日本の産後の食事事情を紹介します。
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目次
フランスの産後の食事はリンゴ1個!?
先日、タレントの加藤ローサさんのフランスでの出産エピソードを耳にしました。
彼女は第一子をフランスで出産しており、その時の思い出として「産後の食事はリンゴ1個しかもらえなかった」と語っていました。
日本の産院の食事は豪華です。専属のシェフがいたり、こだわりの食材が使われていたり、市民病院でさえ「お祝い膳」が出る昨今です。
その感覚を持っている日本人からすると「え?それだけ?」と驚きを隠せないエピソードですが、私はこの話を聞いてドイツで出会った日本人女性との会話を思い出しました。
ドイツで出会った日本人女性
ドイツを旅行していた時、ある日本人女性と知り合いました。ロマンチック街道を横断するバスが出会いだったような気がします。
私も彼女も一人旅。アジア人の風貌が呼び合って何となくお互い惹かれ合い、日本人同士ということで自然と仲良くなりました。
50代のその女性は、会社に頼み込んで休暇をもらい、6週間ほどドイツに滞在していると話してくれました。
「6週間もドイツに?研修ですか?」
と、凄く仕事ができそうな感じの人だったので思わず尋ねると、
「違うの、娘が今ドイツに赴任しているんだけど出産したのよ。だから娘の産後のケアと手伝いに来ているの」
意外な答えにビックリしたのを覚えています。観光でも仕事でもなく、海外に産後ケアのために滞在する…。そういう過ごし方をしている人に出会ったのは初めてで、とても興味がわきました。
質素すぎるドイツの食事事情
普通の暮らしに興味があった私は、色々と彼女に質問しました。
中でも興味深かったのは食事の話です。美味しい食べ物が沢山あるドイツ。普段の食事はどうしているのか、太らないのかと尋ねると意外な答えが返ってきました。
「ドイツ人ってね、ご飯にあまり手間をかけないの。普段の食事は質素そのもの。火を使わない簡単な食事ばかりで、豪華さとは真逆の食卓よ」
ビアホールで食べた、ほっぺが落ちそうなウインナーを毎週食べていると思っていた私は、この答えに驚きました。
「特に夕飯は質素。パンとハムとチーズだけの簡単な食事をする家庭が殆どみたい。私も娘に聞いたんだけど、夜は眠るだけだから、沢山食べる必要はない(そんなにカロリーを接種する必要がない)という考え方が浸透しているみたい」
そして彼女は少し考え込むように視線を下に向け、こう続けました。
「夕飯が質素なのにはもう一つ理由があって、ドイツ人は健康に凄く気を使っているみたい。夜たくさん食べるのは健康上よくないでしょう?だから健康の為にも夕飯は控え目にするの。少しお腹が満たされればいいって感覚なんだって」
「でも、それだとお腹すきませんか?娘さんは慣れてますか?」と私が尋ねると、
「う~ん。流石に慣れたのかな。でも、夕飯に私がきちんとした料理を作ると喜んで食べてくれる。娘の旦那の方は…。彼はドイツ人なんだけど、ドイツ人って融通がきかないっていうか…。夕食に豪華な料理を出すと、太るし健康に悪いから絶対に食べないって言われちゃった」
と、言葉を選びながらドイツ人の娘婿とのアレコレを話してくれました。
ドイツ産院の「冷たい食事」
「娘が出産した時の夕飯も、黒パンとハムとチーズだけだったの。娘が『せめて温かいスープが欲しい』って嘆いたから、急いでお味噌汁を作って持って行ったの」
妊婦でも産後すぐの母親でも、夕飯は質素だなんて徹底しているなぁと思っていたら、
「ね、ビックリでしょ?」と同意を求められました。
「娘もね、人ひとりをこの世に生み出すっていう大仕事をしたのに、カチカチのパンと乾いたハムとチーズだけ?なんでこんな時まで…って嘆いてた。」
会ったこともない娘さんですが、状況を想像するだけで切なくなります。
「心も体も疲れ切っているのに、カチカチのパンなんて食べられないよね?」と彼女に言われ、私はうなずきました。
ドイツには「冷たい食事」という言葉があります。文字通り火を使わない食事のことで、主食(パン)+乳製品(チーズ)+タンパク質(ハム)が基本ベース。実用性を重視するドイツ人らしい食事内容です。
だから産院で出たメニューはドイツらしい食卓といえばそうなのかもしれません。でも産後のクタクタな体で「冷たい食事」を口にするのはあまりに酷。〝食事で癒されたい〟という気持ちは、日本と同じようにあるはずなのに、文化の違いがそこに現れているようでした。
日本と海外の産後ケア文化の違い
日本では、出産を終えた母親に「ご苦労さま」「おめでとう」というねぎらいの気持ちを込めて、少し特別な食事が用意されることが多くあります。
「お祝い膳」はその代表格。食事そのものが母親の産後ケアの一部になっていて「産後の食事=体をいたわり、母を祝福するもの」という考え方が表れています。
一方フランスでは「産後の食事はリンゴ1個」で、ドイツでは「カチカチの黒パンとハムとチーズ」です。日本は「ねぎらいと祝福」、フランスは「シンプルで質素」、ドイツは「健康と実用」という文化の違いがよく見て取れます。
出産という大仕事を終えた母親にふるまわれる食事には、それぞれの国の価値観が映し出されているように感じました。
どの国に行っても、その土地のものを「おいしい!」と思える私には、日本食ロスの経験はありません。ですが、産後には温かいスープのように体と心をやさしく包み込んでくれる食事を選びたいと思ったのも事実です。あらためて、私は日本人の感覚を持っているのだと感じました。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel