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「龍」と聞いて、どんな姿を思い浮かべますか?いかめしい顔と細長い身体を持ち、ウロコをきらめかせて空を舞う姿でしょうか。それとも、巨大な胴体と、爪のついた大きな翼を広げて炎を吐く姿でしょうか。
龍のイメージは、伝承が語られた地域や時代によって驚くほど異なります。自然を守護する神か、はたまた邪悪な存在か。今回の記事では、世界各地に伝わる龍の伝説を辿りながら、その種類や歴史を探っていきます。
龍は世界各国において、さまざまな姿で古くから語りつがれてきた架空の動物です。特に、東洋と西洋における龍のイメージには大きな違いがあるとされます。まずは簡単に、東洋と西洋の龍の違いについて解説していきますね。
東洋の龍は、大きな二本の角と長いひげを持ち、ワニのように大きな頭、蛇のようなウロコの細長い身体、鋭い爪がある足を持つ姿で描かれます。
東洋の龍は主に水中で暮らし、時に空へと舞い上がり、嵐や雷を呼んで洪水を起こす存在として恐れられてきました。
その一方で、龍は恵みの雨をもたらす存在とされ、龍神として信仰されてきたという歴史もあります。日照りの時には龍を模した像をまつって、雨乞いの儀式が行われた記録も数多く残っています。
西洋の竜(ドラゴン)は、ヨーロッパにおいてよく知られた存在です。竜は二足歩行で、でっぷりとした爬虫類的な腹、爪のついたコウモリのような翼を持つ姿で描かれます。
そして西洋の竜は炎や毒を吐き、人間を食い殺し、苦しめる存在とされます。西洋では、竜は神の敵として描かれることが多く、聖人によって退治され、竜に虐げられていた人々を改宗させるという展開になることが多いようです。
東洋の龍、西洋の竜、そして干支の辰。これらの区別はどのようにされているのでしょうか。
・龍は東洋のイメージ
「龍」は古代中国の甲骨文字に起源を持ち、日本へ伝えられた漢字で、一般的な東洋の龍をさします。龍という漢字は、頭にとさかのような冠をのせて四本の足を持ち、胴体をくねらせた姿から来ています。
・竜は西洋のドラゴン
「竜」は龍の略字体であり、常用漢字です。ゲームや漫画、小説などのファンタジー世界においては、東洋のイメージが強い龍に対して、竜は西洋のドラゴンとして書き分けられています。
・辰は十二支で五番目
「辰」は干支において五番目の動物で、龍と同一視されています。
もともと干支は古代中国の殷の時代に、日付の名前として使われはじめました。辰という字そのものには「ぶるぶると震え動く」「生気がさかんである」という意味があり、それに関連して、伝説的な存在である龍のイメージを割り当てられたのではないかと考えられています。
中国の龍の歴史はとても古く、前14世紀頃の殷王朝ではすでに龍の概念が確立していたとされています。
中国の龍は力と威厳を象徴し、特に皇帝のシンボルとされました。これは、龍は水を司り天を支配するという思想から、同じく天を支配する皇帝と同一視されるようになったと考えられています。
中国の皇帝は龍の文様を身にまとうことが許されており、元の時代には、五本の爪と二本の角をもつ龍が皇帝専用の文様とされました。
漢の時代、王符という思想家が、龍の姿は九つの生物に似ているとしました。これを「九似(きゅうじ)説」と呼び、角は鹿に、頭はラクダに、目は鬼に、うなじは蛇に、腹は蜃(みずち)に、ウロコは魚に、爪は鷹に、たなごころ(手のひら)は虎に、耳は牛に似ているとされます。
また、龍の喉の下には「逆鱗(げきりん)」と呼ばれる逆さまに生えたウロコがあり、これに触れると龍が激怒すると考えられました。
中国の龍にはさまざまな種類があり、いずれも人智を超えた強い力を持つと考えられています。
青龍とは、中国で信仰されている四神のうちの一柱です。東の方角を守護する霊獣とされ、青龍偃月刀や青龍旗など、青龍の名前を冠するものがあります。
四神には他に朱雀(南)、白虎(西)、玄武(北)があり、それぞれが四方を守ると考えられています。そこへ麒麟もしくは黄龍を加えると五神となり、全方位を守護する存在として崇拝されてきました。
五龍とは、中国の五行説にもとづいて五つの方角を守護する五色の龍神のことです。古代中国では、龍は麒麟や鳳凰・亀などと並ぶ霊獣の頂点であると考えられていました。
・青龍
先ほども登場した青龍は、五龍においても特に神聖な存在とされています。東の方角を守り、五行では「木」に対応しています。青龍の身体は青みがかかった緑色であり、中国の星座では東方七宿(角宿・亢宿・氐宿・房宿・心宿・尾宿・箕宿)をつなげた姿と考えられました。
・赤龍
南の方角を守り、五行において対応する性質は「火」です。全身が赤い姿をしており、紅龍とも呼ばれています。中国の説話に、青龍と赤龍が争うところを漁師が目撃し、青龍が負け続けていたので漁師が弓矢で赤龍を射ると、青龍がお礼として宝玉を漁師に与えたというものがあります。
・黄龍
黄龍が守る方角は中央。五行では「土」に対応します。黄金に輝く龍として有名な存在であり、古代中国の黄帝の治世において出現し、吉兆として喜ばれたという伝説があります。
・白龍
白龍は西の方角を守り、五行において対応する性質は「金」です。天上界を統べる天帝に仕えている龍とされ、他の龍に比べて飛翔速度が速いという伝説があります。台風などで激しい大雨が降りそそぎ、家屋が破壊される時、「白龍が現れた」と恐れられたとも伝えられました。
・黒龍
北の方角を守る黒龍は、五行では「水」に対応します。全身のウロコが黒色を帯びており、暗雲を呼び嵐を招く存在として恐れられてきました。中国神話には半人半蛇の女媧(じょか)という神がおり、その女媧が人間たちの危機を助けようとしていたとき、それを邪魔して人間を苦しめたという伝説が残っています。しかし黒龍は邪悪な存在というだけではなく、漢の時代には、儒家の始祖である孔子が黒龍の力を受けて生まれたという話が流行しました。
日本の龍は、現代においても中国の龍のイメージが強く反映され、蛇に似た姿をしています。しかし中国とは違い、皇帝のシンボルといった側面はありません。
日本における龍の信仰は、弥生時代に中国から伝わったと考えられています。特に弥生時代後期には、煮沸用の土器に龍の絵が描かれるようになりました。こうした土器は近畿地方を中心に出土しているため、この時代には龍の存在が信仰の対象となっていたことがうかがえますね。
日本では、縄文時代ごろから蛇を水神として崇拝する文化があったと考えられています。弥生時代以降、中国から伝来した龍の概念に影響を受けて蛇と龍のイメージが習合し、水を司る神としての性質を持つ龍信仰が形づくられたと考えられています。
日本神話に登場する八岐大蛇(やまたのおろち)は八つの頭を持つ大蛇とされ、毎年出雲の地を訪れて生贄の娘を喰らい、人々を苦しめていました。アマテラスの弟であるスサノオが出雲を訪れた際、クシナダヒメの両親から八岐大蛇の退治を依頼され、生贄となる予定のクシナダヒメとの結婚を条件に退治を引き受けます。スサノオは八岐大蛇のそれぞれの頭に酒を飲ませ、酔わせたところを剣で切り、退治することに成功します。この神話では八岐大蛇が龍であったと明確に記されてはいませんが、日本の蛇信仰が龍信仰とつながっていることからも、関係が深い存在といえるでしょう。
八岐大蛇伝説について、詳しくはこちら
神話が伝えるヤマタノオロチ伝説!娘を喰らう大蛇の正体とは【日本の神話】
頭が九つある九頭龍(くずりゅう)の伝承は、日本各地に伝えられています。神奈川県の箱根にある九頭龍神社は、芦ノ湖において災いを呼びこんでいた毒龍を万巻上人(まんがんしょうにん)が調伏し、改心させて九頭龍大神となったということです。
五つの頭を持つ五頭龍(ごずりゅう)の伝説は、神奈川県鎌倉市の江の島において伝えられています。かつて鎌倉の深沢には、人々に雨をもたらす五頭龍が住んでいました。五頭龍は嵐で害を及ぼすことがあったため、人々が困り果てていたところ、弁財天が龍王の使いとして江の島とともに現れました。五頭龍は弁財天に求婚しますが、行いの悪さによって拒否されたため、五頭龍は人々のために尽くすようになります。そして弁財天と五頭龍は夫婦となり、平和が訪れました。
仏教においての龍は、水神という側面に加えて仏法の守護神としても扱われます。僧が仏教を学ぶ法堂の天井には龍の姿が描かれることが多く、これは「仏法の雨を降らせる」という伝承から信仰が深まったとされます。
また、仏教が生まれた地であるインドにおいて、サンスクリット語で「ナーガ」と呼ばれる生物は、本来コブラを神格化した蛇の神さまでした。そのナーガが中国へ仏教とともに伝えられる際、中国にはコブラがいなかったため、もともと皇帝のシンボルとして信仰されてきた「龍」と同一視されたのです。ナーガの王はナーガラージャと呼ばれ、中国では「龍王」としてまつられることになりました。
西洋において語られる竜は、神と敵対する怪物という特徴があります。
西洋の竜にはコウモリのような翼があり、爬虫類のような見た目で火や毒を吐く存在であることが多いです。特に西洋の竜は神に敵対する存在として描かれ、『旧約聖書』に登場するレヴィアタンという怪物や、ギリシャ神話において最高神ゼウスに戦いを挑んだテューポーンもこれに含まれます。
西洋の竜は旧約聖書やギリシャ神話などに登場し、さまざまな姿や特徴を持っています。
ラードンはギリシャ神話に登場する、百の頭を持つ竜です。この竜はヘスペリデスというニンフ(精霊)たちともに、不死となる黄金の林檎を守っていました。英雄ヘラクレスは十二の功業のひとつとして、この林檎を得るためラードンに挑みます。伝承によれば、ヘラクレスがラードンを倒した後、ラードンはりゅう座として夜空に上げられたとされています。
サラマンダーは、西洋における四大精霊のうち火を司る精霊です。炎の中に生息し、翼はなく、トカゲやサンショウウオに似た竜のような姿をしていると考えられています。中世からその神秘性が語られていたサラマンダーですが、近世にはレオナルド・ダ・ヴィンチが「火を食べる」と記したことも広く知られています。
バジリスクは西洋の伝承に登場する獣です。その名前はギリシャ語で「小さな王」という意味があり、蛇のような姿や鶏の頭を持つ蛇、さらには8本足のトカゲとして描かれることもありました。バジリスクは強い毒を持ち、視線だけで相手を死に追いやる能力があるとされています。
アイスランドやノルウェーなどにおいて、北ゲルマン民族によって伝えられてきた北欧神話。北欧神話に登場する竜とは、どのような存在なのでしょうか。
北欧神話の竜は、蛇に似た姿で描かれます。西洋の竜と同じく悪の存在であることが多いですが、「ただの敵」ではなく、人間の内面(欲・死・知)や世界の循環構造を象徴する哲学的な存在でもあります。
ゲームなどにもたびたび登場する北欧神話の竜。今回紹介する中にも、聞いたことのある名前があるのではないでしょうか?
ファフニールは、北欧神話のうちアイスランド語で伝わる伝説(サガ)に登場する竜です。もとは人間(ドワーフ)だったファフニールは、欲に目がくらんで財宝を独占し、指輪の呪いによって毒を吐きながら黄金を守る竜となります。ファフニールの弟レギンは英雄シグルズを養子として育てあげ、ファフニールを退治するようシグルズへ頼みます。シグルズはレギンの願いを聞き、魔剣グラムをたずさえてファフニールを倒しました。
ニーズヘッグは北欧神話における悪竜です。北欧神話では、この世界はユグドラシルという世界樹によって支えられていると考えられています。この世界樹の三つめの根をかじっているとされるのがニーズヘッグです。やがて来たる終末の日(ラグナロク)では生き残り、死者を翼に乗せて飛び立つとされます。
「大いなる精霊」という意味を持つヨルムンガンドは、大蛇の姿をした怪物です。北欧神話に登場する神・ロキと女巨人アンクルボザの子どもであり、狼の幻獣フェンリルの弟でもあります。ヨルムンガンドは神々に災いをもたらすとオーディンが判断し、海の底へ投げ込まれますが、ヨルムンガンドは海の中で成長し、人間世界であるミズガルズを取り囲んで自分の尻尾をくわえるほどになりました。ラグナロクでは、ヨルムンガンドは雷神トールと戦う運命にあります。
東洋では自然とともに生き吉兆をもたらす神として、西洋では神の敵や悪魔的なものとして語りつがれてきた龍・竜という存在。東洋の龍は水を司ることが多く、西洋の竜は炎や毒を吐くことが多いというのは、相反する水と火に関連するようにも見えますし、興味深いですね。
伝説の中の龍たちは、今も私たちのすぐそばにいるのかもしれません。ふとしたときに、そんな気配を思い出していただけたら幸いです。
八岐大蛇を倒した、スサノオノミコトについて▼
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「龍」と聞いて、どんな姿を思い浮かべますか?
いかめしい顔と細長い身体を持ち、ウロコをきらめかせて空を舞う姿でしょうか。
それとも、巨大な胴体と、爪のついた大きな翼を広げて炎を吐く姿でしょうか。
龍のイメージは、伝承が語られた地域や時代によって驚くほど異なります。
自然を守護する神か、はたまた邪悪な存在か。
今回の記事では、世界各地に伝わる龍の伝説を辿りながら、その種類や歴史を探っていきます。
目次
龍とはどんな存在?東洋と西洋の違い
龍は世界各国において、さまざまな姿で古くから語りつがれてきた架空の動物です。
特に、東洋と西洋における龍のイメージには大きな違いがあるとされます。
まずは簡単に、東洋と西洋の龍の違いについて解説していきますね。
東洋における龍とは?
東洋の龍は、大きな二本の角と長いひげを持ち、ワニのように大きな頭、蛇のようなウロコの細長い身体、鋭い爪がある足を持つ姿で描かれます。
東洋の龍は主に水中で暮らし、時に空へと舞い上がり、嵐や雷を呼んで洪水を起こす存在として恐れられてきました。
その一方で、龍は恵みの雨をもたらす存在とされ、龍神として信仰されてきたという歴史もあります。
日照りの時には龍を模した像をまつって、雨乞いの儀式が行われた記録も数多く残っています。
西洋における竜(ドラゴン)とは?
西洋の竜(ドラゴン)は、ヨーロッパにおいてよく知られた存在です。
竜は二足歩行で、でっぷりとした爬虫類的な腹、爪のついたコウモリのような翼を持つ姿で描かれます。
そして西洋の竜は炎や毒を吐き、人間を食い殺し、苦しめる存在とされます。
西洋では、竜は神の敵として描かれることが多く、聖人によって退治され、竜に虐げられていた人々を改宗させるという展開になることが多いようです。
龍/竜/辰は何が違うの?
東洋の龍、西洋の竜、そして干支の辰。
これらの区別はどのようにされているのでしょうか。
・龍は東洋のイメージ
「龍」は古代中国の甲骨文字に起源を持ち、日本へ伝えられた漢字で、一般的な東洋の龍をさします。
龍という漢字は、頭にとさかのような冠をのせて四本の足を持ち、胴体をくねらせた姿から来ています。
・竜は西洋のドラゴン
「竜」は龍の略字体であり、常用漢字です。
ゲームや漫画、小説などのファンタジー世界においては、東洋のイメージが強い龍に対して、竜は西洋のドラゴンとして書き分けられています。
・辰は十二支で五番目
「辰」は干支において五番目の動物で、龍と同一視されています。
もともと干支は古代中国の殷の時代に、日付の名前として使われはじめました。
辰という字そのものには「ぶるぶると震え動く」「生気がさかんである」という意味があり、それに関連して、伝説的な存在である龍のイメージを割り当てられたのではないかと考えられています。
中国の龍
中国の龍の歴史はとても古く、前14世紀頃の殷王朝ではすでに龍の概念が確立していたとされています。
中国の龍は皇帝のシンボル
中国の龍は力と威厳を象徴し、特に皇帝のシンボルとされました。
これは、龍は水を司り天を支配するという思想から、同じく天を支配する皇帝と同一視されるようになったと考えられています。
中国の皇帝は龍の文様を身にまとうことが許されており、元の時代には、五本の爪と二本の角をもつ龍が皇帝専用の文様とされました。
中国の龍の姿
漢の時代、王符という思想家が、龍の姿は九つの生物に似ているとしました。
これを「九似(きゅうじ)説」と呼び、角は鹿に、頭はラクダに、目は鬼に、うなじは蛇に、腹は蜃(みずち)に、ウロコは魚に、爪は鷹に、たなごころ(手のひら)は虎に、耳は牛に似ているとされます。
また、龍の喉の下には「逆鱗(げきりん)」と呼ばれる逆さまに生えたウロコがあり、これに触れると龍が激怒すると考えられました。
中国の龍にはどんな種類があるの?
中国の龍にはさまざまな種類があり、いずれも人智を超えた強い力を持つと考えられています。
四神のうちの一神【青龍】
青龍とは、中国で信仰されている四神のうちの一柱です。
東の方角を守護する霊獣とされ、青龍偃月刀や青龍旗など、青龍の名前を冠するものがあります。
四神には他に朱雀(南)、白虎(西)、玄武(北)があり、それぞれが四方を守ると考えられています。
そこへ麒麟もしくは黄龍を加えると五神となり、全方位を守護する存在として崇拝されてきました。
五つの方角を守護する五色の龍神【五龍】
五龍とは、中国の五行説にもとづいて五つの方角を守護する五色の龍神のことです。
古代中国では、龍は麒麟や鳳凰・亀などと並ぶ霊獣の頂点であると考えられていました。
・青龍
先ほども登場した青龍は、五龍においても特に神聖な存在とされています。
東の方角を守り、五行では「木」に対応しています。
青龍の身体は青みがかかった緑色であり、中国の星座では東方七宿(角宿・亢宿・氐宿・房宿・心宿・尾宿・箕宿)をつなげた姿と考えられました。
・赤龍
南の方角を守り、五行において対応する性質は「火」です。
全身が赤い姿をしており、紅龍とも呼ばれています。
中国の説話に、青龍と赤龍が争うところを漁師が目撃し、青龍が負け続けていたので漁師が弓矢で赤龍を射ると、青龍がお礼として宝玉を漁師に与えたというものがあります。
・黄龍
黄龍が守る方角は中央。五行では「土」に対応します。
黄金に輝く龍として有名な存在であり、古代中国の黄帝の治世において出現し、吉兆として喜ばれたという伝説があります。
・白龍
白龍は西の方角を守り、五行において対応する性質は「金」です。
天上界を統べる天帝に仕えている龍とされ、他の龍に比べて飛翔速度が速いという伝説があります。
台風などで激しい大雨が降りそそぎ、家屋が破壊される時、「白龍が現れた」と恐れられたとも伝えられました。
・黒龍
北の方角を守る黒龍は、五行では「水」に対応します。
全身のウロコが黒色を帯びており、暗雲を呼び嵐を招く存在として恐れられてきました。
中国神話には半人半蛇の女媧(じょか)という神がおり、その女媧が人間たちの危機を助けようとしていたとき、それを邪魔して人間を苦しめたという伝説が残っています。
しかし黒龍は邪悪な存在というだけではなく、漢の時代には、儒家の始祖である孔子が黒龍の力を受けて生まれたという話が流行しました。
日本の龍
日本の龍は、現代においても中国の龍のイメージが強く反映され、蛇に似た姿をしています。
しかし中国とは違い、皇帝のシンボルといった側面はありません。
日本の龍の歴史
日本における龍の信仰は、弥生時代に中国から伝わったと考えられています。
特に弥生時代後期には、煮沸用の土器に龍の絵が描かれるようになりました。
こうした土器は近畿地方を中心に出土しているため、この時代には龍の存在が信仰の対象となっていたことがうかがえますね。
日本の龍にはどんな種類があるの?
日本では、縄文時代ごろから蛇を水神として崇拝する文化があったと考えられています。
弥生時代以降、中国から伝来した龍の概念に影響を受けて蛇と龍のイメージが習合し、水を司る神としての性質を持つ龍信仰が形づくられたと考えられています。
八つの頭を持つ大蛇【八岐大蛇(やまたのおろち)】
日本神話に登場する八岐大蛇(やまたのおろち)は八つの頭を持つ大蛇とされ、毎年出雲の地を訪れて生贄の娘を喰らい、人々を苦しめていました。
アマテラスの弟であるスサノオが出雲を訪れた際、クシナダヒメの両親から八岐大蛇の退治を依頼され、生贄となる予定のクシナダヒメとの結婚を条件に退治を引き受けます。
スサノオは八岐大蛇のそれぞれの頭に酒を飲ませ、酔わせたところを剣で切り、退治することに成功します。
この神話では八岐大蛇が龍であったと明確に記されてはいませんが、日本の蛇信仰が龍信仰とつながっていることからも、関係が深い存在といえるでしょう。
八岐大蛇伝説について、詳しくはこちら
神話が伝えるヤマタノオロチ伝説!娘を喰らう大蛇の正体とは【日本の神話】
災いの龍、転じて神へ【九頭龍(くずりゅう)】
頭が九つある九頭龍(くずりゅう)の伝承は、日本各地に伝えられています。
神奈川県の箱根にある九頭龍神社は、芦ノ湖において災いを呼びこんでいた毒龍を万巻上人(まんがんしょうにん)が調伏し、改心させて九頭龍大神となったということです。
弁財天のもとに仕えし龍【五頭龍】
五つの頭を持つ五頭龍(ごずりゅう)の伝説は、神奈川県鎌倉市の江の島において伝えられています。
かつて鎌倉の深沢には、人々に雨をもたらす五頭龍が住んでいました。
五頭龍は嵐で害を及ぼすことがあったため、人々が困り果てていたところ、弁財天が龍王の使いとして江の島とともに現れました。
五頭龍は弁財天に求婚しますが、行いの悪さによって拒否されたため、五頭龍は人々のために尽くすようになります。
そして弁財天と五頭龍は夫婦となり、平和が訪れました。
仏教と龍の関係とは?
仏教においての龍は、水神という側面に加えて仏法の守護神としても扱われます。
僧が仏教を学ぶ法堂の天井には龍の姿が描かれることが多く、これは「仏法の雨を降らせる」という伝承から信仰が深まったとされます。
また、仏教が生まれた地であるインドにおいて、サンスクリット語で「ナーガ」と呼ばれる生物は、本来コブラを神格化した蛇の神さまでした。
そのナーガが中国へ仏教とともに伝えられる際、中国にはコブラがいなかったため、もともと皇帝のシンボルとして信仰されてきた「龍」と同一視されたのです。
ナーガの王はナーガラージャと呼ばれ、中国では「龍王」としてまつられることになりました。
西洋の竜(ドラゴン)
西洋において語られる竜は、神と敵対する怪物という特徴があります。
悪魔の化身とされる西洋の竜
西洋の竜にはコウモリのような翼があり、爬虫類のような見た目で火や毒を吐く存在であることが多いです。
特に西洋の竜は神に敵対する存在として描かれ、『旧約聖書』に登場するレヴィアタンという怪物や、ギリシャ神話において最高神ゼウスに戦いを挑んだテューポーンもこれに含まれます。
西洋生まれの竜にはどんな種類があるの?
西洋の竜は旧約聖書やギリシャ神話などに登場し、さまざまな姿や特徴を持っています。
黄金の実を守る百の頭【ラードン】
ラードンはギリシャ神話に登場する、百の頭を持つ竜です。
この竜はヘスペリデスというニンフ(精霊)たちともに、不死となる黄金の林檎を守っていました。
英雄ヘラクレスは十二の功業のひとつとして、この林檎を得るためラードンに挑みます。
伝承によれば、ヘラクレスがラードンを倒した後、ラードンはりゅう座として夜空に上げられたとされています。
火を司る精霊【サラマンダー】
サラマンダーは、西洋における四大精霊のうち火を司る精霊です。
炎の中に生息し、翼はなく、トカゲやサンショウウオに似た竜のような姿をしていると考えられています。
中世からその神秘性が語られていたサラマンダーですが、近世にはレオナルド・ダ・ヴィンチが「火を食べる」と記したことも広く知られています。
その視線、死を招く【バジリスク】
バジリスクは西洋の伝承に登場する獣です。
その名前はギリシャ語で「小さな王」という意味があり、蛇のような姿や鶏の頭を持つ蛇、さらには8本足のトカゲとして描かれることもありました。
バジリスクは強い毒を持ち、視線だけで相手を死に追いやる能力があるとされています。
北欧神話の竜(ドラゴン)
アイスランドやノルウェーなどにおいて、北ゲルマン民族によって伝えられてきた北欧神話。
北欧神話に登場する竜とは、どのような存在なのでしょうか。
北欧神話の竜とは?
北欧神話の竜は、蛇に似た姿で描かれます。
西洋の竜と同じく悪の存在であることが多いですが、「ただの敵」ではなく、人間の内面(欲・死・知)や世界の循環構造を象徴する哲学的な存在でもあります。
北欧神話の竜にはどんな種類があるの?
ゲームなどにもたびたび登場する北欧神話の竜。
今回紹介する中にも、聞いたことのある名前があるのではないでしょうか?
貪欲が生んだ恐怖の守護者【ファフニール】
ファフニールは、北欧神話のうちアイスランド語で伝わる伝説(サガ)に登場する竜です。
もとは人間(ドワーフ)だったファフニールは、欲に目がくらんで財宝を独占し、指輪の呪いによって毒を吐きながら黄金を守る竜となります。
ファフニールの弟レギンは英雄シグルズを養子として育てあげ、ファフニールを退治するようシグルズへ頼みます。
シグルズはレギンの願いを聞き、魔剣グラムをたずさえてファフニールを倒しました。
世界樹の根を喰らう破壊者【ニーズヘッグ】
ニーズヘッグは北欧神話における悪竜です。
北欧神話では、この世界はユグドラシルという世界樹によって支えられていると考えられています。
この世界樹の三つめの根をかじっているとされるのがニーズヘッグです。
やがて来たる終末の日(ラグナロク)では生き残り、死者を翼に乗せて飛び立つとされます。
世界を取り巻く大蛇【ヨルムンガンド】
「大いなる精霊」という意味を持つヨルムンガンドは、大蛇の姿をした怪物です。
北欧神話に登場する神・ロキと女巨人アンクルボザの子どもであり、狼の幻獣フェンリルの弟でもあります。
ヨルムンガンドは神々に災いをもたらすとオーディンが判断し、海の底へ投げ込まれますが、ヨルムンガンドは海の中で成長し、人間世界であるミズガルズを取り囲んで自分の尻尾をくわえるほどになりました。
ラグナロクでは、ヨルムンガンドは雷神トールと戦う運命にあります。
善と悪を包括する龍・竜
東洋では自然とともに生き吉兆をもたらす神として、西洋では神の敵や悪魔的なものとして語りつがれてきた龍・竜という存在。
東洋の龍は水を司ることが多く、西洋の竜は炎や毒を吐くことが多いというのは、相反する水と火に関連するようにも見えますし、興味深いですね。
伝説の中の龍たちは、今も私たちのすぐそばにいるのかもしれません。
ふとしたときに、そんな気配を思い出していただけたら幸いです。
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