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今年も、暑い暑い夏がやってきました。暑い季節に思い出す国といえば、やっぱりジブチ共和国。最高気温は70度超、暑すぎて国民が隣国へ避難、洗ったバスタオルが5分で乾く…。今思い出してもジブチの暑さはやっぱり別次元でした。今回はそんなジブチのお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
ジブチの町には公共交通機関がありません。そのため必然的に移動はタクシーになります。比較的キレイなタクシーで快適ではありますが、値段は結構お高め。また首都以外の場所では、食料や水が手に入らないことも多いため、遠方へ足を延ばす場合は個人ツアーを予約することになります。水、食料、ガソリンを積んで悪路を走るため、大きくて丈夫な車が必要になります。
ジブチの一大観光地・アッサル湖と、映画『猿の惑星』の舞台にもなったアベ湖をどうしても見たかった私は、安宿のご主人に教えてもらったツアー会社を頼りました。
ツアー会社は知らなければ素通りしてしまうほど、簡素でした。壁にも机にもパンフレットは一枚もありません。カウンターテーブルだけが置かれた飾り気のない空間で、人の良さそうな男性がスマホ一本で仕事をしています。安宿のご主人が電話を入れておいてくれたので、私を見た瞬間に彼は二コリと微笑みました。人の良さそうな温和そうな笑顔に気が緩みます。
外国人旅行者の不安を知ってか知らずか「まずは自己紹介をするね!」と、彼は会社のこと、自身のことを語り出しました。数々の実績の中には、なんと日本の自衛隊からのオファーも混ざっています。「君は日本人でしょ?僕は日本の自衛隊からもオファーを受けるんだよ」と、得意げに資料を見せてくれます。※あまり知られていませんが、ジブチには自衛隊唯一の海外基地があります
そして本題。私の要望を聞いた彼は、「大丈夫、僕が希望を叶えてあげるよ!」とウインクをするなり、スマホで電話をかけあっという間に車と運転手、プロのガイドを確保してくれました。何て仕事の早い人なのでしょう。話しぶり、人相、雰囲気、仕事の段取りすべてが信頼に値する人物でした。
でも問題なのは料金。私が想定していたより、ずっとずっと高額だったのです。高額なタクシー料金を基準に考えても、上乗せがそこそこあるように感じました。料金に難色を示す私に、彼は内訳を説明します。
どれも納得の説明です。でも…やっぱりかなり高額でした。東南アジアやエジプトを旅した時は、ドライバー兼任のガイドさんが一人でアレコレ案内してくれたのを思い出します。
「ドライバーだけじゃダメなの?」
「ダメ。スタッフは最低でも2人は必要だよ」
「でもガイドしてもらわなくてもいいよ。車で連れて行ってくれるだけで充分」
「ここはジブチなんだ。タイヤがパンクした時、君はタイヤ交換を手伝える?野生動物に襲われた時、君は戦力になれる?地方の集落では英語は通じないし、Wi-Fiもないよ。君はジブチの言葉でコミュニケーションが取れる?集落には独自のルールがあるから、コミュニケーションが取れないと身に危険が及ぶよ。だから、英語ガイドと悪路に慣れたドライバーは絶対に必要なんだ」
彼の言葉は至極当然、私は納得するしかありませんでした。
それでも私が裕福な旅人ではないと知った彼は、私をじーっと見つめたあと、少しばかり値引きをしてくれました。15ドルの値引きです。大感謝。でも、もうちょっと値引きできるのでは?という感覚がありました。
他愛無い話を続けながらも、値段交渉は続きます。彼は話し上手であり聞き上手でもありました。経験上スタッフと仲良くなると値引きの額は大幅にあがります。それでも、彼はこれ以上はムリという姿勢を崩しませんでした。
そうして最後に本音がポロリ。「ごめん。値引きしてあげたいのは山々なんだけど、ジブチってめちゃくちゃ暑い国なんだよ。これから先のシーズンは暑すぎて観光客はゼロになり、自国民も隣国に避難するから国から人がいなくなる。だから僕は今稼がなきゃいけないんだ。このシーズンに一年分の稼ぎを出さなきゃいけないんだ。稼がせてくれよ」と。
台所事情を知ってしまった私は、支払に応じることにしました。でも、それで終わりではありません。値引きできない代わりにと、彼は以下のサービスをつけてくれました。
旅行が始まる日。私たちの前に表れたのは大きなSUVでした。どんな悪路でも走っていけそうな立派なタイヤを持っています。そしてなぜかドライバーが2人もいました。
一人は車を持ってきてくれただけで、どちらかは降りるのでは?と思っていたのは私だけのようで、3人のスタッフは颯爽と車に乗り込みます。「スタッフ2人分の料金って聞いてたけど、3人なの?」見送りにきてくれた例の仕事の早い彼に尋ねます。「一人は途中の集落で降りるから」という答えが返ってきます。
〝現地の人に見えるけど旅行者?それとも誰かの友達で同乗するの?〟少し疑問は残りますが「料金は変わらない」ということを確認し出発します。ただ何時間走っても3人のスタッフの誰一人、車から降りませんでした。
夜、私たちはアベ湖近くにある集落に到着しました。この世の果てと言い切ってしまえそうなほど寂しい場所です。そこでスタッフの一人が「お~息子よ!」というような熱烈な歓迎を受けていました。〝あぁ彼の集落はここだったんだ〟〝こんな遠い場所から来ていたんだ〟抱擁する姿にちょっとだけウルッとします。
しかし集落からの帰り道、車にはやっぱり3人のスタッフが乗り込んでいました。〝アレ?〟再び疑問が沸き起こります。〝集落に残ると思っていたのに、また私たちと一緒に車に乗るの?〟結局私たちは全員で首都に戻りました。
到着すると例の仕事の早い彼が、出迎えてくれました。自衛隊のオファーを受けているだけあって、細やかな気遣いをしてくれます。「結局、みんなで帰ってきたよ」と私が言うと、彼は「そう?」と特に気にもしていない様子でした。
大量の水やガソリンを荷下ろしした今回の旅、スタッフ2人ではかなりハードだったので3人いてくれて助かったという事実はあります。でも、皆が同じだけ働いていたので、誰がスタッフで誰が同乗者なのか最後まで分からず仕舞でした。もしかしたら私の知らないところで、働くから乗せて?という交渉があったのかも知れません。ジブチの人の助け合いの精神を間近に見れた旅だったと思っています。
ジブチの想像を絶する暑さ!▼
世界一の塩分濃度を誇る湖▼
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
今年も、暑い暑い夏がやってきました。
暑い季節に思い出す国といえば、やっぱりジブチ共和国。最高気温は70度超、暑すぎて国民が隣国へ避難、洗ったバスタオルが5分で乾く…。
今思い出してもジブチの暑さはやっぱり別次元でした。今回はそんなジブチのお話です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
タクシー以外の移動手段が無いジブチ
ジブチの町には公共交通機関がありません。そのため必然的に移動はタクシーになります。比較的キレイなタクシーで快適ではありますが、値段は結構お高め。
また首都以外の場所では、食料や水が手に入らないことも多いため、遠方へ足を延ばす場合は個人ツアーを予約することになります。水、食料、ガソリンを積んで悪路を走るため、大きくて丈夫な車が必要になります。
ジブチの一大観光地・アッサル湖と、映画『猿の惑星』の舞台にもなったアベ湖をどうしても見たかった私は、安宿のご主人に教えてもらったツアー会社を頼りました。
自衛隊からのオファーもあるツアー会社
ツアー会社は知らなければ素通りしてしまうほど、簡素でした。
壁にも机にもパンフレットは一枚もありません。カウンターテーブルだけが置かれた飾り気のない空間で、人の良さそうな男性がスマホ一本で仕事をしています。
安宿のご主人が電話を入れておいてくれたので、私を見た瞬間に彼は二コリと微笑みました。人の良さそうな温和そうな笑顔に気が緩みます。
外国人旅行者の不安を知ってか知らずか「まずは自己紹介をするね!」と、彼は会社のこと、自身のことを語り出しました。
数々の実績の中には、なんと日本の自衛隊からのオファーも混ざっています。
「君は日本人でしょ?僕は日本の自衛隊からもオファーを受けるんだよ」と、得意げに資料を見せてくれます。
※あまり知られていませんが、ジブチには自衛隊唯一の海外基地があります
そして本題。私の要望を聞いた彼は、「大丈夫、僕が希望を叶えてあげるよ!」とウインクをするなり、スマホで電話をかけあっという間に車と運転手、プロのガイドを確保してくれました。
何て仕事の早い人なのでしょう。話しぶり、人相、雰囲気、仕事の段取りすべてが信頼に値する人物でした。
高額なツアー料金。その理由とは…
でも問題なのは料金。私が想定していたより、ずっとずっと高額だったのです。高額なタクシー料金を基準に考えても、上乗せがそこそこあるように感じました。
料金に難色を示す私に、彼は内訳を説明します。
どれも納得の説明です。でも…やっぱりかなり高額でした。
東南アジアやエジプトを旅した時は、ドライバー兼任のガイドさんが一人でアレコレ案内してくれたのを思い出します。
「ドライバーだけじゃダメなの?」
「ダメ。スタッフは最低でも2人は必要だよ」
「でもガイドしてもらわなくてもいいよ。車で連れて行ってくれるだけで充分」
「ここはジブチなんだ。タイヤがパンクした時、君はタイヤ交換を手伝える?野生動物に襲われた時、君は戦力になれる?地方の集落では英語は通じないし、Wi-Fiもないよ。君はジブチの言葉でコミュニケーションが取れる?集落には独自のルールがあるから、コミュニケーションが取れないと身に危険が及ぶよ。だから、英語ガイドと悪路に慣れたドライバーは絶対に必要なんだ」
彼の言葉は至極当然、私は納得するしかありませんでした。
ジブチの人々の厳しい懐事情
それでも私が裕福な旅人ではないと知った彼は、私をじーっと見つめたあと、少しばかり値引きをしてくれました。15ドルの値引きです。大感謝。でも、もうちょっと値引きできるのでは?という感覚がありました。
他愛無い話を続けながらも、値段交渉は続きます。
彼は話し上手であり聞き上手でもありました。経験上スタッフと仲良くなると値引きの額は大幅にあがります。それでも、彼はこれ以上はムリという姿勢を崩しませんでした。
そうして最後に本音がポロリ。
「ごめん。値引きしてあげたいのは山々なんだけど、ジブチってめちゃくちゃ暑い国なんだよ。これから先のシーズンは暑すぎて観光客はゼロになり、自国民も隣国に避難するから国から人がいなくなる。だから僕は今稼がなきゃいけないんだ。このシーズンに一年分の稼ぎを出さなきゃいけないんだ。稼がせてくれよ」と。
台所事情を知ってしまった私は、支払に応じることにしました。でも、それで終わりではありません。
値引きできない代わりにと、彼は以下のサービスをつけてくれました。
突如現れた3人目のスタッフ
旅行が始まる日。私たちの前に表れたのは大きなSUVでした。どんな悪路でも走っていけそうな立派なタイヤを持っています。そしてなぜかドライバーが2人もいました。
一人は車を持ってきてくれただけで、どちらかは降りるのでは?と思っていたのは私だけのようで、3人のスタッフは颯爽と車に乗り込みます。
「スタッフ2人分の料金って聞いてたけど、3人なの?」
見送りにきてくれた例の仕事の早い彼に尋ねます。「一人は途中の集落で降りるから」という答えが返ってきます。
〝現地の人に見えるけど旅行者?それとも誰かの友達で同乗するの?〟少し疑問は残りますが「料金は変わらない」ということを確認し出発します。
ただ何時間走っても3人のスタッフの誰一人、車から降りませんでした。
夜、私たちはアベ湖近くにある集落に到着しました。この世の果てと言い切ってしまえそうなほど寂しい場所です。
そこでスタッフの一人が「お~息子よ!」というような熱烈な歓迎を受けていました。〝あぁ彼の集落はここだったんだ〟〝こんな遠い場所から来ていたんだ〟抱擁する姿にちょっとだけウルッとします。
ルーズだけど暖かいジブチ文化
しかし集落からの帰り道、車にはやっぱり3人のスタッフが乗り込んでいました。〝アレ?〟再び疑問が沸き起こります。
〝集落に残ると思っていたのに、また私たちと一緒に車に乗るの?〟結局私たちは全員で首都に戻りました。
到着すると例の仕事の早い彼が、出迎えてくれました。自衛隊のオファーを受けているだけあって、細やかな気遣いをしてくれます。
「結局、みんなで帰ってきたよ」と私が言うと、彼は「そう?」と特に気にもしていない様子でした。
大量の水やガソリンを荷下ろしした今回の旅、スタッフ2人ではかなりハードだったので3人いてくれて助かったという事実はあります。
でも、皆が同じだけ働いていたので、誰がスタッフで誰が同乗者なのか最後まで分からず仕舞でした。もしかしたら私の知らないところで、働くから乗せて?という交渉があったのかも知れません。
ジブチの人の助け合いの精神を間近に見れた旅だったと思っています。
関連記事
ジブチの想像を絶する暑さ!▼
世界一の塩分濃度を誇る湖▼
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel