ウズベキスタンの美しき地下鉄と親切な個人タクシー

ウズベキスタンの首都タシュケントには、それはそれは豪華で美しい地下鉄が走っています。
今回は世界で一番美しいとも言われるウズベキスタンの地下鉄と、お世話になった個人タクシーのお話です。

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まるで宮殿!ウズベキスタンの美しき地下鉄

ウズベキスタンから日本へ帰国する日、フライトまで少し時間があった私は悩んでいました。早めに空港に行き飛行機を待つか、それとも目的を決めずフラフラと街を散策するか。

大通りに面した窓から外を覗くと、現地の子どもたちが何かを叫びながら駆けていく姿が見えました。何だかすごく楽しそう。決めた。「1分でも1秒でも長くこの街にいよう!」
とはいえ時間は限られています。色々考えた末、最悪タクシーで空港まで行っても良いかな?という距離まで地下鉄で移動し、誰も名前を知らないような駅で降りてみることにしました。

初めての地下鉄。少し緊張しながら地下へ降りる階段を下っていきます。
日本の3~4倍はありそうな、広々とした駅が出迎えてくれました。ピカピカに磨かれた床は美しく、歩く度にコツコツと靴音が響きます。床のタイルは巨大なモザイク模様を描いていました。
改札の前には切符売り場。どこまで行っても一律料金なので、それほど混乱せず切符が買えます。でもなぜでしょうか。有人切符のボックス周辺には何となく暗い雰囲気が漂っていました。

改札を通ります。そこからは、また美しい世界。床も天井も壁も、大理石でしょうか?切り取って美術館の一角と紹介されたなら、信じてしまいそうなほどの美しさでした。
よく見ると壁の一部分にウズベキスタンの伝統的な装飾が施されています。緻密なモザイク画に思わず見惚れてしまいました。
美しい世界。地上のちょっとだけ貧しさの漂う暮らしとはまるで別物です。

まるで宮殿!ウズベキスタンの美しき地下鉄 まるで宮殿!ウズベキスタンの美しき地下鉄

随所に残る社会主義の面影

美術館と見紛うほど美しい地下鉄。でも、ガランとしていて利用している人はほとんどいません。
駅全体が凄くキレイなのに、どこか暗い雰囲気が漂っています。照明が暗めだから?床が黒基調だから?ゴミ一つ落ちていない広々とした空間にいると、なぜか少しだけ怖くなりました。

ソビエトの軍用帽子に似た小さめのベレー帽をかぶった女性が私の前を通り過ぎます。
セキュリティー?それとも兵士?銃の所持の有無は分かりませんが、銃を持っていてもおかしくない出で立ちでした。

鋭い眼光を持った彼女は、駅のホームを行ったり来たり…。何となく彼女の姿を追っていると、ふと監視されているような気分になりました。やっぱりまた〝なんだか怖い〟雰囲気です。
ウズベキスタンはソビエト連邦を構成した共和国の一つ。今もそこかしこに、社会主義の影響が残っています。私がずっと感じていた〝暗さ〟と〝怖さ〟の理由はコレでした。

美しく整備された地下鉄構内。でもその空間に、陽気さや温かさや包容力という言葉は似合いません。似合うのは、氷のような美しさや無機質の美といった冷たい感じの言葉です。
制服がそう思わせるのでしょうか?働いている人々もどこか重く暗い影を背負ったかのような空気を纏っていて、とっつきにくい印象がありました。

陽気な国を旅していると突然「WELCOME!」と話しかけられることがありますが、そういうのは絶対に無いんだろうなと思わせる雰囲気です。
〝これが社会主義の暗さ?〟
やがてホームに入ってきた電車は、目の覚めるような青色をしていました。

こちらは(地上を走る)鉄道の駅ですが、駅がとにかく美しい! こちらは(地上を走る)鉄道の駅ですが、駅がとにかく美しい!

ウズベキスタンの日常の景色

地下鉄を降りて地上に出ると、そこには朝、宿の窓から見たままの明るい世界が広がっていました。乾燥で砂が舞います。アスファルトの道路は少し凸凹していて、両サイドには白みがかったベージュ色の建物が並んでいます。
伝統衣装のスザニを着た女性が玄関の中に消えていきます。道路の向こう側にはTシャツを着た若い男の子が3人で空を見上げていました。

普通の人が暮らす普通の街。余所行きの顔など、どこにもありません。ウズベキスタンの日常に紛れ込めて、一気に肩の力が抜けました。

車が行き来する2車線の大通りを見つけました。新しい発見を求めて大通り沿いを歩きます。
緩やかな坂道を登っていると、右手に墓地が見えました。小高い丘にたくさんの墓石が並んでいます。
なんとなく同じ方向をむいてはいるけれど、きっちり場所が決まっている訳ではない、ゆる~いお墓の並びは、おおらかなウズベキスタン人の心そのもののようでした。

丘の上の白い石が墓石 丘の上の白い石が墓石

容易でないタクシー探し

大通り沿いをどんどん進みます。夕暮れが迫ってきました。
そして私の飛行機の時間も迫ってきていました。40分前からタクシーを探しているのに、まだ一台も見かけません。

気持ちが焦ってきます。それでも歩みを進めていると、左手に大きなスーパーを発見しました。コストコのような巨大なスーパー。〝ラッキー、ここならタクシーがいるかも〟
が、巨大なスーパーなのにタクシーは一台もいませんでした。何十台と止まっている車はどれも自家用車。

〝そろそろ本当に時間がない…〟
スーパーの入り口で困り果てた私は、目の前を通りかかった男性に声をかけます。

「タクシーに乗りたいんですけど、どこに行けば乗れますか?」

男性は驚いたような困ったような顔をして私に言います。

「この辺りにタクシーはいないよ。待ってても、来ないと思う」

今度は私が驚く番でした。

男性は何も知らない私をちょっと憐れむような顔をして「どこに行きたいの?」と。
私は空港に行きたいこと、今夜の飛行機に乗る事、もう1時間以上タクシーを探していることを伝えます。
「う~ん」男性は車の中で待っている仲間と会話をすると「送っていくよ」と。

安宿にあったTV。昔ながらのぷっくりしたフォルムがキュート 安宿にあったTV。昔ながらのぷっくりしたフォルムがキュート

ウズベキスタンの良心的な個人タクシー

「空港まででしょ?送ってあげるよ」
想定していなかった言葉を貰った私は一瞬だけ固まります。

そして改めて彼を観察しました。20代後半でしょうか。Tシャツに短パン、スニーカーのシンプルな服装、首にはゴールドのネックレスを重ね付しています。左手にはやはりゴールドの腕時計。右手にはダークブルーの色をしたお洒落なクラッチバッグを持っています。
育ちの良さそうな雰囲気と、余裕のある服装をしていました。

白い乗用車には彼以外に2人の男性が乗っています。彼らは、私にはわからないウズベキスタンの言葉でほんの少しだけ言葉を交わすと、車のドアを開けてくれます。

全神経を集中させて彼らの様子を見ていましたが、イヤな雰囲気は全くありませんでした。
過去の何度も騙された経験と純粋な親切を受けた記憶がそれぞれ甦ります。騙された時は毎回、自分の中で赤信号が点滅していました。でも今、赤信号は点滅していません。だから誘いに乗ることにしました。

「いいの?」

「いいよ。時間ないんでしょ?送ってあげる」

「料金は?いくら?」

事前に調べていたタクシー料金より、1/3ほど安い金額を提示されました。自分の中で色々と納得がいったので、乗せてもらうことにします。

4人乗りの白い乗用車の後ろ側に私は乗せてもらいました。スピーカーからは軽快な音楽が流れています。
私のことを気にしているようで「うるさい?」と尋ねられます。音楽は全くうるさくありませんでした。むしろウズベキスタン人の素を知れて嬉しいくらい。

傾いていた陽はすっかり落ちて、道路に街頭が灯ります。車はどんどんスピードをあげて高速のような場所を走り出しました。20分も走らないうちに飛行場が見えてきます。

〝あぁこれでウズベキスタンとはお別れなんだ〟しんみりしているとお喋りをしていた男性たちが突然笑い出しました。余りに楽しそうで、私もつられて笑顔になります。
「笑顔で帰って、またこの国に戻ってきてね」旅の神様がそうメッセージをくれているような温かな空気が車の中に満ちていました。

ウズベキスタンの良心的な個人タクシー
R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP: Lucia Travel

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