グローカルな旅をしようvol.3 前編

グローカルな旅とは: Local(地域文化)に足を運びその地の魅力と出会い、Global(地球規模もしくは普遍的)にツナガル視点でLocalを愉しむ旅(Global × local = Glocal)

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 1999年3月、大学の卒業旅行で友達と二人でネパールに行くことにした。これから社会人になる前に、志を高く世界一のエベレストを見てみたい。そこでエベレストのみならずチョーオユー、ローツェ、マカルーと8000m峰を大パノラマで展望できる、ゴーキョピーク(Gokyo peak)という5357メートルの山の頂上へ、トレッキングコースに挑戦したのだ。

写真右は、同行した友達と、現地で知り合った旅人

 成田空港からタイを経由して、ネパールのカトマンドゥに到着。まずは適度に観光地化された、歴史と生活の息づかいが残る繁華街で滞在した。世界は多様性に満ちていて美しい。ネパール独特の人々の活気、古い建築、信仰など、若い感性には刺激的で、滞在そのものがただただ面白かった。安宿のゲストハウスでは同世代の旅人とすぐに意気投合したりと、旅の醍醐味を満喫した。

 トレッキングコースの出発地域には小型飛行機でアプローチした。ヒマラヤ山脈を見下ろしながら飛ぶので絶景に次ぐ絶景だったのだが、あまりに小型な飛行機なのでとても揺れる。山腹の谷間に着陸するので、山の気流の影響を受けやすく、欠航や引き返すことも多いという。本当か、嘘か、ときどき墜落もしてる、とか。

 今回も着陸が近づくと、気流が乱れ、機体がジェットコースターさながらのアップダウンを繰り返した。ふとパイロットを見ると、ハンドルを握っている手に血管が浮き出るほど力を入れていた。機体が流されないように必死だったようで、恐ろしい形相だった。なんとか無事に到着すると、隣に座っていた白人の若い女の子が揺れの恐怖のあまり、貧血を起こして顔面蒼白でぐったりしていて、歩けなくなっていた。

 トレッキングコースは2週間ほどかけて、標高3000メートルから5357メートルまでゆるやかに登る。途中、高度に順応するため、ナムチェバザールという標高3400メートルほどの町で2泊したりする。

 先に若気の至りの懺悔をしておきたい。同行していた友達がナムチェバザールの時点で高山病になってしまい、標高の低い町に下る必要が出た。そこで回復すればトレッキングを再開し、回復がおそれければ目的地までたどり着けないかもしれない。友達は気を使ってくれて、1人で下るから先に登っていってくれ、と。絶対に登頂したい想いがあった私は先に登ることを選択したのだが、仲間を想うなら一緒に下るべきだったかもしれない。

 結果、彼は早く回復して一緒に登頂することができたのだが、20年経った今も、仕事で絶対達成を背負ったときに、このことがふと頭をよぎることがある。絶対達成と仲間意識が両立しないことがあるわけで、単純に割り切れない揺らぎがありつつも判断せねばならないのだ。

 ナムチェバザールを出た直後ぐらいに見た景色が未だに忘れられない。歩いていく左手が山で右手が崖だったのだが、富士山より高い標高だから、その崖が何千メートルもあるかのような深さで切り立っていた。さらに崖の展望で見えている山々が7000メートル級の山だから見上げるほど高い。その落差が体験したことがないほど巨大な視界を作り、その景色を体に刻み込むようにただただ感動して歩いていった。

 社会人となり仕事や私事で思い悩むとき、この圧巻の景色を良く思い出したものだ。小さなことに囚われすぎない、そして世界は圧倒的に美しい、そう思い返すことができ、満たされた気持ちに戻れるのだ。

後編に続く…


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