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森羅万象、私たちを取り巻くあらゆるものに神が宿るとされる、日本古来の信仰。 その数え上げることができないほどの神々のことを、八百万(やおよろず)の神と言い表します。
今回ご紹介するのは、クラオカミ。日本書紀には「闇龗」と記されています。 命の根源、生きるためになくてはならない水を司る、八百万の神の中でもとても重要な神様。それにもかかわらず、どことなく掴みどころのない、ミステリアスな印象です。
水の神は龍神であるともされますが、このクラオカミはいったいどんな神様なのか。 さあ、私たちはどこまでクラオカミに近づくことができるでしょうか?
このクラオカミが登場するのは、イザナギとイザナミの神生みの場面。
国生みを終え、神生みに取り掛かったイザナミ。多くの神々を産み落としました。 ところが、火の神ヒノカグツチノカミ(火之迦具土神)を産む際、その燃え盛る炎に焼かれ、ホト(陰部)に大火傷を負ってしまいます。
瀕死の重傷を負い、床に伏せるイザナミ。 苦しみ続け、嘔吐し、糞尿を垂れ流すと、そこからも神々が生まれました。 そしてついに、イザナミは神避ってしまいます(かむさる=神様が亡くなること)。
イザナギは「愛しい妻の命を、子ども一人の命と引き換えにすることになろうとは」と、妻の亡骸のそばで泣き伏しました。
そして、悲しみのあまり、産まれたカグツチの首を十拳剣(とつかのつるぎ)で斬り落としてしまうのです。
その剣の切先についた血が、辺りの岩にぱっと走り付くと、岩と剣の神三柱が生まれます。 また、剣の根元の血も岩に飛び散り、そこからタケミカヅチノオノカミ(建御雷之男神)ら三柱の雷と火の神が生まれました。 そして、刃から伝ってきたのでしょうか、剣の柄に溜まり、その柄を握るイザナギの指の間から滴り落ちた血は、水にまつわるクラオカミとクラミツハノカミ(闇御津羽神)の二柱と成ったのです。
このようにクラオカミは、古事記と日本書紀の一書に、斬られたカグツチの血から成った一柱と記されています。
さらに日本書紀の別の一書には、イザナギがカグツチを剣で三段に斬り、それぞれから合わせて三柱が成ったと伝わります。 一段からは雷神が成り、一段からは大山祇神(オオヤマヅミ)が、そしてもう一段から成ったのが、高龗(タカオカミ)です。
このタカオカミは、クラオカミと対をなす神、または同一の神であるとされています。
オカミノカミは、スサノオや大国主命といった、日本神話の中心ともなる神々の系譜に登場する名。 このオカミノカミは、クラオカミとタカオカミ二柱合わせての総称とも考えられています。
ヤマタノオロチを退治したことでも知られる須佐之男命(スサノオ)と櫛名田比売(クシナダヒメ)の子、八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)。 さらに、その子である布波能母遅久奴須奴神(フハノモヂクヌスヌノカミ)が、このオカミノカミの娘日河比売(ヒカワヒメ)を妻とし、深淵之水夜礼花神(フカフチノミズヤレハナノカミ)が生まれたという記述があります。
そして、国造りの神として知られる大国主命へと、系譜は繋がっていきます。
その大国主命の四代孫、甕主日子(ミカヌシヒコノカミ)が妻としたのが、オカミノカミのもう一人の娘比那良志毘売(ヒナラシビメ)でした。
オカミノカミの娘たちもみな、水の神としての性格を持つとみられています。
記述が少ないため、謎も多いクラオカミ。いろいろな角度から、もう少し掘り下げてみましょう。
クラオカミ、いっそう想像をかき立てるのが「闇龗」というこの名。
「闇龗」の龗の字、あめかんむりに口が三つ、その下に龍の字がきます。 こんな字初めて見た!という方も多いのではないでしょうか。総画数なんと33。 「おかみ」または「おがみ」と読み、水を司る水神、龍神を表す漢字です。
この字の成り立ちをみてみましょう。 「霝」という漢字も単体で存在します。これは、レイと読み、雲から雨が滴る、また滴り落ちる雫のことを指します。
この三つの口、雲から滴り落ちる雨粒とも、神に捧げる祝詞を入れるための器である、ともいわれます。 雨乞いのための儀式に供えた器であるとも考えられます。
「龗」は、この一字で、雲から滴り落ちる雨を司る龍神であるということを表しているのがよくわかります。
クラオカミ・タカオカミを御祭神とする京都・貴船神社。
京都市北部の山地、京都の奥座敷ともいわれる貴船は、京都御所の水源涵養林(すいげんかんようりん)として、古の時代からとても大切にされてきました。
この水源涵養林というのは、降り注いだ雨水をしっかりその土壌に蓄え、浄化しながら湧き出させて、安定した量を河川に供給する機能を持つ森林のこと。 大雨が降った際、川の急激な増水を防いだり、しばらく雨が降らない時でも、水が枯れることなく流れ出るよう調節したりする役目を果たしています。
都が奈良から京都に遷ると、貴船神社は朝廷から篤く庇護されます。
稲作とともに歩んできたこの国にとって、水、天の恵みである雨は、人々の命に直結する非常に大切なもの。 日照りや霖雨(ながあめ)の折には、朝廷から勅使を遣わし何度となく雨乞い・雨止みを祈願させました。貴船神社には「その数 数百度に及ぶ」と記されています。
クラオカミの「クラ」というのは、谷あいの意味を持ち、谷底を流れる水を象徴しているとされています。 一方タカオカミの「タカ」は、山の頂や峰、ひいては天といった意味。天から峰に降り注ぐ水、雨を象徴しています。
そしてこの二柱が合わさることで、降り注いだ雨が山を伝い降り、谷底に流れ集まるさまが見えてくるでしょうか。
また、クラオカミは「稲光して雨を降らす」神、またタカオカミは「遠雷となって雨を止める」神である、という説もあります。※
稲妻が走るさまは、大空を駆ける龍の姿にもたとえられますよね。 雷を操り、雨を降らせる神、雨を止ませる神とも捉えられているのです。
水神や雷神であるともいわれる龍。誰ひとり見たことがない霊獣です。 龍はどうしてこんなにも深く長く、私たちの暮らしに関わってきたのでしょう。
龍の存在が中国から日本に伝わったとされるのは、紀元前。弥生時代後期の土器に、龍と思われる生き物が描かれています。 それから龍を神とする龍神信仰が広まるのは、仏教伝来の影響だと考えられています。
インド神話の神、コブラを神格化した「ナーガ」が仏教とともに中国に伝わります。 そこで、コブラがいない中国では、天地を自由にわたり、雲を吐き、雨を操る龍と同一視されるようになりました。
やがて日本に伝わると、さらに日本古来の水神信仰、水辺の主(ぬし)である蛇神とも習合して龍蛇、龍神信仰へとつながっていくのです。
稲作はもちろん、暮らしそのものになくてはならない水を司るクラオカミ・タカオカミ。
この水の神を御祭神とする神社は、大小を問わず全国各地に数多く建てられています。 その呼び名を少しずつ変えたりしながら、その土地の人々の暮らしに根付き、祀られ続けているのです。
京都市の北、貴船山と鞍馬山の間に建つ貴船神社。
この一帯の地名は「きぶね」と読みますが、神社の名は「きふね」。 水を司る神を祀るため、水が濁らぬよう、その名も濁らずに読むのだそうです。
また、気の生ずる根源のところとして、「氣生根」という表記が使われてきました。
この貴船神社奥宮本殿下には、日本三大龍穴の一つがあります。 龍穴とは、古代道教や風水で用いられる言葉で、地中を流れる運気の流れ「龍脈」が行き着き、その気が地上に噴き上がる場所といわれています。 そこには龍が棲むともいわれ、繁栄するとされる土地。
貴船神社奥宮は、この神社創建の地。 初代神武天皇の皇母玉依姫命(タマヨリビメ)が、 「吾は皇母玉依姫なり。恒に雨風を司り以て國を潤し土を養う。また黎民(れいみん)の諸願には福運を蒙(こうむ)らしむ。よって吾が船の止まる処に祠(ほこら)を造るべし」※ と大阪湾から淀川、鴨川、貴船川を遡ってこの奥宮に至ったとされます。
社殿の傍らにある石組み。この時玉依姫命が乗っていた船が隠されているとも伝わる、船形石です。
貴船神社は縁結びの神さまとしても広く知られ、平安時代の女流歌人和泉式部も訪れたといわれています。 男女の仲ばかりでなく人と人、仕事、学問など、さまざまな縁をとりもつ神様として、多くの人が訪れるパワースポットです。
【貴船神社】
所在地:京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
上賀茂神社境内奥に建つ新宮神社、上賀茂神社の摂社です。 御祭神はタカオカミノカミ。
江戸時代まで、ここから約7km北にある貴船神社が、上賀茂神社の第二摂社とされてきましたが、山深く、たびたび雪や水害で参拝できなくなることもあったことから、上賀茂神社境内に分霊を祀ったのが始まりとされています。
通常、正門は閉じられており門の前から参拝となりますが、毎月第2・4日曜日に開門し、巫女による神楽が奉納されます。
上賀茂神社の御祭神は賀茂別雷大神(カモワケイカヅイチオオカミ)。 上賀茂神社本殿の背後、神山の山頂にある磐座に、賀茂別雷大神が降臨したと伝わります。 境内にはこの神山から湧く「神山湧水」を汲み上げた手水舎があり、社務所横にはこの名水で淹れたコーヒーを味わえる休憩所も。
平成六年、上賀茂神社は境内全域が「古都・京都の文化財」として、ユネスコ世界文化遺産に登録されました。
【新宮神社】
所在地:京都市北区上賀茂本山339
丹生川上神社下社は、日本最古とされる水の神様を祀る神社。
約1,300年前の創祀と伝わりますが、都が京都に移り戦国の世になると、一度は所在も不明になってしまった歴史を持ちます。 その中で、丹生川上神社は上社・中社・下社に分かれたとされています。
拝殿から丹生山山頂の本殿まで、まっすぐに急峻な木製の75段の階(きざはし)が掛かるのは、全国的にも珍しい造り。 年に一度、6月1日の例祭の日のみ、人々はこの階を昇ることが許され、本殿そばで参拝することができます。
また絵馬発祥の地とも伝わります。 朝廷から、雨乞いには黒馬を、雨止めには白馬か赤馬を奉納される習わしは、京都貴船神社に受け継がれ、現在の絵馬の奉納に形を変えたとされているのです。
【丹生川上神社下社】
所在地:奈良県吉野郡下市町長谷1−1
クラオカミ、タカオカミをイメージしたブレスレット。 石の中にちらちらと輝くクラックが針のように見える「針入り水晶」(ルチルクォーツ)を使用しています。邪念を吸収し、精神的な安定をもたらすといわれ、心身のバランスを整える健康のお守りとして人気の高い石です。
水は空から降り注ぎ、地中から湧き出る。
クラオカミ・タカオカミが謎に包まれ、捉えどころがないように感じるのは、今を生きるわたしたちにとって、水は蛇口から、当たり前のように出てくれるものになったから?
汲み上げた水を大切に大切に使い、空を見上げ雨を祈る。 そんな時代の人たちは、水の神様をもっとずっと近く、暮らしの中に感じていたのかもしれません。
古の時代から守り継がれてきた水の神様を祀る神社や本当に小さな祠までが、日本中にはこんなにも、数えきれないほどあるのですから。
天と地を自由にわたる龍神クラオカミやタカオカミは、きっと水そのもの。
私たちがどう思おうが、そんなことにはおかまいなく、雨になり、雲になり、そして水道から、水は今日もわたしたちのそばに。
大明神?権現さま?呼び方のルーツも紹介▼
水で災いを押し流す!浄めのの神様▼
森羅万象、私たちを取り巻くあらゆるものに神が宿るとされる、日本古来の信仰。
その数え上げることができないほどの神々のことを、八百万(やおよろず)の神と言い表します。
今回ご紹介するのは、クラオカミ。日本書紀には「闇龗」と記されています。
命の根源、生きるためになくてはならない水を司る、八百万の神の中でもとても重要な神様。それにもかかわらず、どことなく掴みどころのない、ミステリアスな印象です。
水の神は龍神であるともされますが、このクラオカミはいったいどんな神様なのか。
さあ、私たちはどこまでクラオカミに近づくことができるでしょうか?
目次
クラオカミってどんな神様?
火の神の血から生まれた水の神
このクラオカミが登場するのは、イザナギとイザナミの神生みの場面。
国生みを終え、神生みに取り掛かったイザナミ。多くの神々を産み落としました。
ところが、火の神ヒノカグツチノカミ(火之迦具土神)を産む際、その燃え盛る炎に焼かれ、ホト(陰部)に大火傷を負ってしまいます。
瀕死の重傷を負い、床に伏せるイザナミ。
苦しみ続け、嘔吐し、糞尿を垂れ流すと、そこからも神々が生まれました。
そしてついに、イザナミは神避ってしまいます(かむさる=神様が亡くなること)。
イザナギは「愛しい妻の命を、子ども一人の命と引き換えにすることになろうとは」と、妻の亡骸のそばで泣き伏しました。
そして、悲しみのあまり、産まれたカグツチの首を十拳剣(とつかのつるぎ)で斬り落としてしまうのです。
その剣の切先についた血が、辺りの岩にぱっと走り付くと、岩と剣の神三柱が生まれます。
また、剣の根元の血も岩に飛び散り、そこからタケミカヅチノオノカミ(建御雷之男神)ら三柱の雷と火の神が生まれました。
そして、刃から伝ってきたのでしょうか、剣の柄に溜まり、その柄を握るイザナギの指の間から滴り落ちた血は、水にまつわるクラオカミとクラミツハノカミ(闇御津羽神)の二柱と成ったのです。
タカオカミとの関係は?
このようにクラオカミは、古事記と日本書紀の一書に、斬られたカグツチの血から成った一柱と記されています。
さらに日本書紀の別の一書には、イザナギがカグツチを剣で三段に斬り、それぞれから合わせて三柱が成ったと伝わります。
一段からは雷神が成り、一段からは大山祇神(オオヤマヅミ)が、そしてもう一段から成ったのが、高龗(タカオカミ)です。
このタカオカミは、クラオカミと対をなす神、または同一の神であるとされています。
オカミノカミとは?
オカミノカミは、スサノオや大国主命といった、日本神話の中心ともなる神々の系譜に登場する名。
このオカミノカミは、クラオカミとタカオカミ二柱合わせての総称とも考えられています。
ヤマタノオロチを退治したことでも知られる須佐之男命(スサノオ)と櫛名田比売(クシナダヒメ)の子、八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)。
さらに、その子である布波能母遅久奴須奴神(フハノモヂクヌスヌノカミ)が、このオカミノカミの娘日河比売(ヒカワヒメ)を妻とし、深淵之水夜礼花神(フカフチノミズヤレハナノカミ)が生まれたという記述があります。
そして、国造りの神として知られる大国主命へと、系譜は繋がっていきます。
その大国主命の四代孫、甕主日子(ミカヌシヒコノカミ)が妻としたのが、オカミノカミのもう一人の娘比那良志毘売(ヒナラシビメ)でした。
オカミノカミの娘たちもみな、水の神としての性格を持つとみられています。
クラオカミにまつわる神話
記述が少ないため、謎も多いクラオカミ。いろいろな角度から、もう少し掘り下げてみましょう。
龗ってどんな意味⁈
クラオカミ、いっそう想像をかき立てるのが「闇龗」というこの名。
「闇龗」の龗の字、あめかんむりに口が三つ、その下に龍の字がきます。
こんな字初めて見た!という方も多いのではないでしょうか。総画数なんと33。
「おかみ」または「おがみ」と読み、水を司る水神、龍神を表す漢字です。
この字の成り立ちをみてみましょう。
「霝」という漢字も単体で存在します。これは、レイと読み、雲から雨が滴る、また滴り落ちる雫のことを指します。
この三つの口、雲から滴り落ちる雨粒とも、神に捧げる祝詞を入れるための器である、ともいわれます。
雨乞いのための儀式に供えた器であるとも考えられます。
「龗」は、この一字で、雲から滴り落ちる雨を司る龍神であるということを表しているのがよくわかります。
朝廷が頼ったそのご神徳
クラオカミ・タカオカミを御祭神とする京都・貴船神社。
京都市北部の山地、京都の奥座敷ともいわれる貴船は、京都御所の水源涵養林(すいげんかんようりん)として、古の時代からとても大切にされてきました。
この水源涵養林というのは、降り注いだ雨水をしっかりその土壌に蓄え、浄化しながら湧き出させて、安定した量を河川に供給する機能を持つ森林のこと。
大雨が降った際、川の急激な増水を防いだり、しばらく雨が降らない時でも、水が枯れることなく流れ出るよう調節したりする役目を果たしています。
都が奈良から京都に遷ると、貴船神社は朝廷から篤く庇護されます。
稲作とともに歩んできたこの国にとって、水、天の恵みである雨は、人々の命に直結する非常に大切なもの。
日照りや霖雨(ながあめ)の折には、朝廷から勅使を遣わし何度となく雨乞い・雨止みを祈願させました。貴船神社には「その数 数百度に及ぶ」と記されています。
闇龗・高龗とは?
クラオカミの「クラ」というのは、谷あいの意味を持ち、谷底を流れる水を象徴しているとされています。
一方タカオカミの「タカ」は、山の頂や峰、ひいては天といった意味。天から峰に降り注ぐ水、雨を象徴しています。
そしてこの二柱が合わさることで、降り注いだ雨が山を伝い降り、谷底に流れ集まるさまが見えてくるでしょうか。
また、クラオカミは「稲光して雨を降らす」神、またタカオカミは「遠雷となって雨を止める」神である、という説もあります。※
稲妻が走るさまは、大空を駆ける龍の姿にもたとえられますよね。
※引用:佐藤ひろみ「水神のルーツと生活文化―貴船と阿蘇の水神探訪から―」雷を操り、雨を降らせる神、雨を止ませる神とも捉えられているのです。
龍神とは?
水神や雷神であるともいわれる龍。誰ひとり見たことがない霊獣です。
龍はどうしてこんなにも深く長く、私たちの暮らしに関わってきたのでしょう。
龍の存在が中国から日本に伝わったとされるのは、紀元前。弥生時代後期の土器に、龍と思われる生き物が描かれています。
それから龍を神とする龍神信仰が広まるのは、仏教伝来の影響だと考えられています。
インド神話の神、コブラを神格化した「ナーガ」が仏教とともに中国に伝わります。
そこで、コブラがいない中国では、天地を自由にわたり、雲を吐き、雨を操る龍と同一視されるようになりました。
やがて日本に伝わると、さらに日本古来の水神信仰、水辺の主(ぬし)である蛇神とも習合して龍蛇、龍神信仰へとつながっていくのです。
クラオカミをお祀りしている神社
稲作はもちろん、暮らしそのものになくてはならない水を司るクラオカミ・タカオカミ。
この水の神を御祭神とする神社は、大小を問わず全国各地に数多く建てられています。
その呼び名を少しずつ変えたりしながら、その土地の人々の暮らしに根付き、祀られ続けているのです。
貴船神社
京都市の北、貴船山と鞍馬山の間に建つ貴船神社。
この一帯の地名は「きぶね」と読みますが、神社の名は「きふね」。
水を司る神を祀るため、水が濁らぬよう、その名も濁らずに読むのだそうです。
また、気の生ずる根源のところとして、「氣生根」という表記が使われてきました。
この貴船神社奥宮本殿下には、日本三大龍穴の一つがあります。
龍穴とは、古代道教や風水で用いられる言葉で、地中を流れる運気の流れ「龍脈」が行き着き、その気が地上に噴き上がる場所といわれています。
そこには龍が棲むともいわれ、繁栄するとされる土地。
貴船神社奥宮は、この神社創建の地。
初代神武天皇の皇母玉依姫命(タマヨリビメ)が、
「吾は皇母玉依姫なり。恒に雨風を司り以て國を潤し土を養う。また黎民(れいみん)の諸願には福運を蒙(こうむ)らしむ。よって吾が船の止まる処に祠(ほこら)を造るべし」※
と大阪湾から淀川、鴨川、貴船川を遡ってこの奥宮に至ったとされます。
社殿の傍らにある石組み。この時玉依姫命が乗っていた船が隠されているとも伝わる、船形石です。
貴船神社は縁結びの神さまとしても広く知られ、平安時代の女流歌人和泉式部も訪れたといわれています。
※引用: 貴布禰総本宮 貴船神社 由緒男女の仲ばかりでなく人と人、仕事、学問など、さまざまな縁をとりもつ神様として、多くの人が訪れるパワースポットです。
【貴船神社】
所在地:京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
新宮神社
上賀茂神社境内奥に建つ新宮神社、上賀茂神社の摂社です。
御祭神はタカオカミノカミ。
江戸時代まで、ここから約7km北にある貴船神社が、上賀茂神社の第二摂社とされてきましたが、山深く、たびたび雪や水害で参拝できなくなることもあったことから、上賀茂神社境内に分霊を祀ったのが始まりとされています。
通常、正門は閉じられており門の前から参拝となりますが、毎月第2・4日曜日に開門し、巫女による神楽が奉納されます。
上賀茂神社の御祭神は賀茂別雷大神(カモワケイカヅイチオオカミ)。
上賀茂神社本殿の背後、神山の山頂にある磐座に、賀茂別雷大神が降臨したと伝わります。
境内にはこの神山から湧く「神山湧水」を汲み上げた手水舎があり、社務所横にはこの名水で淹れたコーヒーを味わえる休憩所も。
平成六年、上賀茂神社は境内全域が「古都・京都の文化財」として、ユネスコ世界文化遺産に登録されました。
【新宮神社】
所在地:京都市北区上賀茂本山339
丹生川上神社下社
丹生川上神社下社は、日本最古とされる水の神様を祀る神社。
約1,300年前の創祀と伝わりますが、都が京都に移り戦国の世になると、一度は所在も不明になってしまった歴史を持ちます。
その中で、丹生川上神社は上社・中社・下社に分かれたとされています。
拝殿から丹生山山頂の本殿まで、まっすぐに急峻な木製の75段の階(きざはし)が掛かるのは、全国的にも珍しい造り。
年に一度、6月1日の例祭の日のみ、人々はこの階を昇ることが許され、本殿そばで参拝することができます。
また絵馬発祥の地とも伝わります。
朝廷から、雨乞いには黒馬を、雨止めには白馬か赤馬を奉納される習わしは、京都貴船神社に受け継がれ、現在の絵馬の奉納に形を変えたとされているのです。
【丹生川上神社下社】
所在地:奈良県吉野郡下市町長谷1−1
おすすめアイテム
クラオカミ、タカオカミをイメージしたブレスレット。
石の中にちらちらと輝くクラックが針のように見える「針入り水晶」(ルチルクォーツ)を使用しています。邪念を吸収し、精神的な安定をもたらすといわれ、心身のバランスを整える健康のお守りとして人気の高い石です。
わたしたちのすぐそば
水は空から降り注ぎ、地中から湧き出る。
クラオカミ・タカオカミが謎に包まれ、捉えどころがないように感じるのは、今を生きるわたしたちにとって、水は蛇口から、当たり前のように出てくれるものになったから?
汲み上げた水を大切に大切に使い、空を見上げ雨を祈る。
そんな時代の人たちは、水の神様をもっとずっと近く、暮らしの中に感じていたのかもしれません。
古の時代から守り継がれてきた水の神様を祀る神社や本当に小さな祠までが、日本中にはこんなにも、数えきれないほどあるのですから。
天と地を自由にわたる龍神クラオカミやタカオカミは、きっと水そのもの。
私たちがどう思おうが、そんなことにはおかまいなく、雨になり、雲になり、そして水道から、水は今日もわたしたちのそばに。
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大明神?権現さま?呼び方のルーツも紹介▼
水で災いを押し流す!浄めのの神様▼