人気のキーワード
★隙間時間にコラムを読むならアプリがオススメ★
2025年は巳年! 今年の干支である“蛇”は古くから神聖な動物とされ、日本各地にも蛇を祀った伝承が残っています。 とはいえ、「爬虫類はちょっと苦手、蛇は特に・・・」という方は多いのではないでしょうか? 一方で近年、蛇はペットとしても人気があり、蛇が好きという人も増えています。あるいは怖い物見たさで興味を持っている人だっているかもしれません。
いずれにせよ、蛇のことを少しでも知れば、その奥深さに魅力を感じるはずです。 今回は蛇の中でもとくに恐れられる「インド四大毒蛇」についてご紹介します!
【注意】 蛇の画像が出てきますので、苦手な方はご注意ください。
「インド四大毒蛇」、いわゆる“ビッグフォー(Big Four)”とは、ラッセルクサリヘビ、インドアマガサヘビ、インドコブラ、カーペットバイパーの四種です。 それぞれどのような特徴を持つ毒蛇なのでしょうか? さっそく見ていきましょう。
有鱗目クサリヘビ科クサリヘビ亜科、ラッセルクサリヘビ(Daboia russelii) 分布:パキスタン、インド(タミール・ナドゥ、ケララ州など広範囲)、ネパール、スリランカ 毒の種類:出血毒、神経毒
ラッセルクサリヘビは三角形の頭が特徴的なクサリヘビ科の毒蛇です。なお、日本に生息する蛇では、マムシやハブがこのクサリヘビ科に属しています。 強烈かつ致命的な毒を持ち、南アジアでもっとも恐れられる危険な毒蛇です。毒の強さのため、ラッセルクサリヘビに噛まれると命を取り留めても後遺症が残ったり、手足の切断に至ったりすることが少なくありません。 ちなみに、実は日本でも1980年7月に暴力団員が東南アジアから持ち込んで遺棄したラッセルクサリヘビが滋賀県で見つかるという恐ろしい事件が起きています。
有鱗目ヘビ亜目コブラ科アマガサヘビ属、アマガサヘビ(Bungarus caeruleus) 分布:中国(雲南省)、ミャンマー(カチン州)、インド(ナガランド、マニプール州) 毒の種類:神経毒
アマガサヘビ属は中国、東南アジアにも分布するコブラ科の毒蛇で、インドでもナガランド州、マニプール州という中国寄りの地域に生息します。 陸生蛇の中ではトップクラスの強力な神経毒を持ち、噛まれると全身が麻痺して死に至ります。夜行性で、噛まれた直後の痛みも強くないため、就寝中に咬まれ、気づかぬうちに手遅れになることもあるそうです。 アマガサヘビ属の中でもインドアマガサヘビの毒は特に強く、治療を受けなかった場合の死亡率は70~80%と極めて高い数値が報告されています。
有鱗目ヘビ亜目コブラ科フードコブラ属、インドコブラ(Naja naja) 分布:パキスタン、インド全土 毒の種類:神経毒
インドコブラは強力な神経毒を持つとともに、人の多い農耕地に生息するため、インドでは被害が後を絶ちません。 毒性自体はそれほど強くないものの、一度に注入する毒の量が多く、命が助かっても咬まれた所が壊死することがあるという恐ろしい毒蛇です。 コブラは興奮すると首の肋骨を左右に広げ、体長の約3分の1を直立させます。「フードコブラ」という属名はこの姿から付けられたものです。ちなみに日本では、ヤマカガシも同様に威嚇の際に首の骨を広げます。
「インドと言えば蛇遣い」というイメージもありますね。蛇遣いは籠の中のコブラに、笛を吹いて「コブラ踊り」を踊らせます。一見、蛇遣いがコブラを操っているように見えますが、実際にはコブラは笛の音を聴き取ってはおらず、蛇遣いがコブラの動きに合わせているそうです。 また、インドコブラは背面に眼鏡のような模様があることから「メガネヘビ」の異名があります。
有鱗目ヘビ亜目クサリヘビ科刺クサリヘビ属、カーペットバイパー(Echis carinatus) 分布:アフガニスタン、イラン、インド、パキスタン、スリランカ、バングラディシュ、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン 毒の種類:出血毒
カーペットバイパーの体長は60センチメートル以下と蛇の中では小型で、日本のマムシと同じくらいですが、毒の強さは日本マムシの130倍、かつコブラの5倍と言われます。 蛇はおおよそ、毒蛇であってもいたって憶病な動物で、こちらから攻撃しないかぎり被害を受けることはあまりありません。 しかし、このカーペットバイパーは攻撃的な性格であることが知られており、人間が近付くと容赦なく咬みつきます。 このようにけんかっ早いだけではなく、咬まれた場合の死亡率も高いことから、非常に危険な毒蛇といえるでしょう。
そもそも、なぜ危険な毒を持つ蛇がいるのでしょうか? 蛇は小型哺乳類や爬虫類(トカゲ、他種の蛇)、鳥、爬虫類や鳥の卵、魚や昆虫などの動物を生きたまま捕食します。 毒のない蛇は獲物に噛みついたり、長い体で絞め上げたりして捕らえますが、毒蛇は毒を利用して獲物の動きを止めます。 毒蛇の毒は、いわば狩りのための道具、つまり生きるために必要なものなのです。
さて、前項で紹介したように、毒蛇の毒には「神経毒」と「出血毒」の2種類があります。
神経毒は動物の神経筋接合部の神経伝達を乱れさせます。この毒に侵された動物は全身が麻痺して、多くの場合は横隔膜の動きが停止し、呼吸困難に至ります。 インド四大毒蛇のうち、コブラ科のインドコブラ、アマガサヘビはこの神経毒を持っており、咬まれると全身がしびれ、呼吸困難や心停止を起こさせます。 微量の毒で、咬まれた後の痛みが強くなくともただちに命に関わるのが、毒蛇の持つ神経毒の恐ろしいところです。
クサリヘビ科の毒蛇がこの出血毒を持っており、インド四大毒蛇では、ラッセルクサリヘビとカーペットバイパーがこれにあたります。 なお、ラッセルクサリヘビは神経毒と出血毒の両方を持っています。
出血毒は血液の一部を凝固させ、その反動で出血を止まりにくくさせます。さらに血管の細胞を破壊して出血を引き起こし、血圧の降下や体内出血をもたらします。 とくに腎臓には血栓による壊死など、致命的な影響が起こることがあり、ひどい場合には多臓器不全を起こして死に至ります。
中国や東南アジア、南アジアの各国に分布するキングコブラ(有鱗目ヘビ亜目コブラ科キングコブラ属、キングコブラOphiophagus hannah)は、インドに生息しているにもかかわらず、インド四大毒蛇には含まれていません。 体長は3~4メートルと大型で、毒量の多さから現地では「象をも咬み殺す」と言われます。 日本でも、毒蛇といえばまず名が挙がるほど有名ですが、なぜ四大毒蛇には入らないのでしょうか。
それはインド四大毒蛇が、「分布の広さ」と「致死率の高さ」を基準に定められているからです。
キングコブラは山中の森林に生息しています。 一方、インド四大毒蛇に属する蛇は、農耕地や草原などの低地に生息しており、行動範囲が人間の生活する地域と重なっているのです。 そのため、現地の人々はキングコブラよりもインド四大毒蛇に遭遇することのほうが多く、危険性も高いと言えるでしょう。
キングコブラは世界最大の毒蛇と言われ、体長5メートル以上の個体が報告されています。
一方、インド四大毒蛇はというと、ラッセルクサリヘビは約120~170センチメートル、インドアマガサヘビとインドコブラは約100~150センチメートルと、せいぜい日本のアオダイショウ程度の体長で、それほど大型ではありません。さらに、カーペットバイパーに至っては約40~80センチメートルとかなり小型です。
3メートル以上のキングコブラが鎌首をもたげて威嚇すれば、たいていの人は気がつき、逃げることができます。 それに対して、小型の毒蛇は草むらなどで気がつきづらく、しかも咬まれた際の痛みの少ない神経毒を持つ蛇などはいっそう危険で、命に関わります。
キングコブラは繁殖期を除けば温和な性格で、人間の方から攻撃しなければ咬まれることは少ないといいます。 インド四大毒蛇にはカーペットバイパーのように攻撃的な種も含まれていて、やはりキングコブラに比べると危険性が高いといえるでしょう。 なお、キングコブラは日本でも複数の施設での飼育例があります。
インドでは年間の毒蛇咬傷による死亡および後遺症が、世界一多いとされます。 すでに触れたように、インド四大毒蛇はいずれも強い毒を持っています。 そして、その多くは餌のネズミなどを捕食するため夜行性であり、就寝中に被害に遭う場合もあるため、きわめて危険です。
ただ、四大毒蛇に含まれる毒蛇は、インド以外のアジア、中東諸国の広範囲にも分布しています。それではなぜ、インドではこれほどまでに毒蛇による死者が多いのでしょうか。
インドは2023年に世界第1位の人口を誇る国となりました。世界第7位の国土面積の中に、中国よりも多い人数が暮らしています。 このように人口密度が高くなった結果、人間の居住地域は毒蛇の生息する地帯にも広がりました。 とくにインドの国土の多くを占める農村地帯は、インド四大毒蛇の生息地と重なっており、そのために毒蛇の被害が後を絶たないのです。
インド四大毒蛇に咬まれた場合、ただちに処置をほどこさなければ命に関わります。 インドの都市部では先進的な医療体制が整っていますが、農村地帯では未だ医療が行き届いていないところも残されています。
そのため、インド四大毒蛇による咬傷が多い地帯では、咬まれてもすぐに適切な処置ができず、命を落としてしまう人が多いわけです。 また、インドでは四大毒蛇の毒を中和する血清が生産されていますが、その効果が疑われるものもあることが指摘されています。
インド四大毒蛇による被害の多い地域に、毒蛇への迷信が残っていることも、死者の数が多い原因のひとつです。 たとえば、インドでは毒蛇を神様として傷つけずにうやまう地域があります。
また、地域のコミュニティでは、蛇に噛まれた後に「止血帯(蛇の毒が回らないように傷の近くにバンドを巻いて血を止める方法)」を用いることが優先されます。 加えて、薬草を用いたり、医療機関へ駆けつける前に祈祷による治療を頼ったりすることもあるといいます。
このように、伝統医療を好む習慣が生きていることから、かえって毒蛇に咬まれた人への適切な処置が遅れ、命を落とす人や後遺症を負う人々が出てしまうのです。
恐ろしい毒蛇から身を守るための注意点には、どのようなことがあるのでしょうか。 毒蛇の被害を避けるのは、実はそれほど難しくありません。注意すべきポイントを5点ご紹介します。
毒蛇の生息する地域に旅行する前に、遭遇する可能性のある蛇について知っておきましょう。 それぞれの毒蛇が分布する地域や、性質、どのような場所に生息するか(山地、平地、草むらなど)などを調べておくとよいでしょう。
自然の多い場所を歩く時には足を毒蛇から守るため、常に丈夫なブーツや長ズボンを着用するのが効果的です。
田園地帯などを徒歩で移動する場合には、人通りの多い開けた道を歩きましょう。 草の深い所や落ち葉の集まった所、岩場など、蛇の隠れていそうな所に近付かないのが安全です。
多くの蛇は夜間に活動的になるので、夜間の外出はできるだけ避けるのが賢明です。 もしもやむを得ず夜間に出歩く場合には、光りが遠くまで届く懐中電灯を持ち、毒蛇に遭遇しても十分な距離をとれるよう注意をはらいましょう。
もしも蛇に遭遇してしまったら、十分な距離を取り、決して触ったり捕まえようとしたり、ましてや殺そうとしたり挑発したりすることのないようにしましょう。 蛇は自分が身の危険を感じないかぎり咬んでくることはありません。
万が一、毒蛇に咬まれてしまったら、どうすればよいのでしょうか。緊急時の対応をまとめます。
毒蛇に咬まれてしまった! と気づいたら、まずは落ち着いてその場を離れましょう。 人間を咬んだ蛇は怯えて攻撃的になっています。何度も咬まれる前にすぐに距離を取るのが最優先です。 そして、体の血液が循環しないようできるだけ安静に、最低限の運動量で助けを呼びましょう。
このコラムでも触れたように、一口に毒蛇と言っても、持っている毒の種類はさまざまに異なります。 咬まれた蛇の種類を判別することが、治療への近道です。 あくまでその余裕があればですが、全身が写っていなくとも、咬んだ蛇の写真が一部でもあれば、専門家が判別できる可能性は上がります。
毒蛇から十分に距離をとったら、すみやかに医療機関を受診しましょう。 適切な処置のためには蛇の毒に対応する「血清」が必要になります。 医療機関によって備えられている血清の種類が異なるので、できるだけ早く受診することが、迅速な対処に繋がります。
血清とは、特定の毒への免疫体を大量に含む動物の血清を注射して、毒を中和する治療法です。 現在の日本では、血清を作るのには馬の血液が用いられます。 馬に微量の毒を約半年かけて注射し、体内でその毒への免疫のできた血清を治療に利用するのです。 現代では、馬の血清に代わる製剤法の研究も進められています。
インド四大毒蛇の特徴や、死者の多い背景、身を守る方法についてご紹介してきました。
恐ろしい毒蛇とはいえ、彼らの毒は彼らが生きるためのものであって、人間をむやみに傷つけるためのものではありません。 人間の一方的な事情で排除することはできないのです。 私たちに身近な日本の蛇も含め、蛇の多くは憶病な性格で、身の危険を感じなければ人間に咬みつくことはほとんどないはずです。 毒蛇の生息する国を訪れる時には、できるだけ毒蛇の隠れやすい所に近付かないよう注意しましょう。
爬虫類や蛇が苦手な人がいるのは仕方ないものの、お互いを刺激しないよう平和に共存したいものですね。
それと、機会があれば、蛇の顔を正面からよく見てみてください。丸い目におちょぼ口のとてもかわいらしい顔をしていますよ。 蛇と正しく付き合って、2025年巳年の福を呼び寄せましょう!
2025年は巳年!
今年の干支である“蛇”は古くから神聖な動物とされ、日本各地にも蛇を祀った伝承が残っています。
とはいえ、「爬虫類はちょっと苦手、蛇は特に・・・」という方は多いのではないでしょうか? 一方で近年、蛇はペットとしても人気があり、蛇が好きという人も増えています。あるいは怖い物見たさで興味を持っている人だっているかもしれません。
いずれにせよ、蛇のことを少しでも知れば、その奥深さに魅力を感じるはずです。
今回は蛇の中でもとくに恐れられる「インド四大毒蛇」についてご紹介します!
【注意】
蛇の画像が出てきますので、苦手な方はご注意ください。
目次
インド四大毒蛇 “ビッグフォー(Big Four)”とは?
「インド四大毒蛇」、いわゆる“ビッグフォー(Big Four)”とは、ラッセルクサリヘビ、インドアマガサヘビ、インドコブラ、カーペットバイパーの四種です。
それぞれどのような特徴を持つ毒蛇なのでしょうか? さっそく見ていきましょう。
ラッセルクサリヘビ
有鱗目クサリヘビ科クサリヘビ亜科、ラッセルクサリヘビ(Daboia russelii)
分布:パキスタン、インド(タミール・ナドゥ、ケララ州など広範囲)、ネパール、スリランカ
毒の種類:出血毒、神経毒
ラッセルクサリヘビは三角形の頭が特徴的なクサリヘビ科の毒蛇です。なお、日本に生息する蛇では、マムシやハブがこのクサリヘビ科に属しています。
強烈かつ致命的な毒を持ち、南アジアでもっとも恐れられる危険な毒蛇です。毒の強さのため、ラッセルクサリヘビに噛まれると命を取り留めても後遺症が残ったり、手足の切断に至ったりすることが少なくありません。
ちなみに、実は日本でも1980年7月に暴力団員が東南アジアから持ち込んで遺棄したラッセルクサリヘビが滋賀県で見つかるという恐ろしい事件が起きています。
インドアマガサヘビ
有鱗目ヘビ亜目コブラ科アマガサヘビ属、アマガサヘビ(Bungarus caeruleus)
分布:中国(雲南省)、ミャンマー(カチン州)、インド(ナガランド、マニプール州)
毒の種類:神経毒
アマガサヘビ属は中国、東南アジアにも分布するコブラ科の毒蛇で、インドでもナガランド州、マニプール州という中国寄りの地域に生息します。
陸生蛇の中ではトップクラスの強力な神経毒を持ち、噛まれると全身が麻痺して死に至ります。夜行性で、噛まれた直後の痛みも強くないため、就寝中に咬まれ、気づかぬうちに手遅れになることもあるそうです。
アマガサヘビ属の中でもインドアマガサヘビの毒は特に強く、治療を受けなかった場合の死亡率は70~80%と極めて高い数値が報告されています。
インドコブラ
有鱗目ヘビ亜目コブラ科フードコブラ属、インドコブラ(Naja naja)
分布:パキスタン、インド全土
毒の種類:神経毒
インドコブラは強力な神経毒を持つとともに、人の多い農耕地に生息するため、インドでは被害が後を絶ちません。
毒性自体はそれほど強くないものの、一度に注入する毒の量が多く、命が助かっても咬まれた所が壊死することがあるという恐ろしい毒蛇です。
コブラは興奮すると首の肋骨を左右に広げ、体長の約3分の1を直立させます。「フードコブラ」という属名はこの姿から付けられたものです。ちなみに日本では、ヤマカガシも同様に威嚇の際に首の骨を広げます。
「インドと言えば蛇遣い」というイメージもありますね。蛇遣いは籠の中のコブラに、笛を吹いて「コブラ踊り」を踊らせます。一見、蛇遣いがコブラを操っているように見えますが、実際にはコブラは笛の音を聴き取ってはおらず、蛇遣いがコブラの動きに合わせているそうです。
また、インドコブラは背面に眼鏡のような模様があることから「メガネヘビ」の異名があります。
カーペットバイパー
有鱗目ヘビ亜目クサリヘビ科刺クサリヘビ属、カーペットバイパー(Echis carinatus)
分布:アフガニスタン、イラン、インド、パキスタン、スリランカ、バングラディシュ、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン
毒の種類:出血毒
カーペットバイパーの体長は60センチメートル以下と蛇の中では小型で、日本のマムシと同じくらいですが、毒の強さは日本マムシの130倍、かつコブラの5倍と言われます。
蛇はおおよそ、毒蛇であってもいたって憶病な動物で、こちらから攻撃しないかぎり被害を受けることはあまりありません。
しかし、このカーペットバイパーは攻撃的な性格であることが知られており、人間が近付くと容赦なく咬みつきます。
このようにけんかっ早いだけではなく、咬まれた場合の死亡率も高いことから、非常に危険な毒蛇といえるでしょう。
毒蛇の毒は何のためにある?
そもそも、なぜ危険な毒を持つ蛇がいるのでしょうか?
蛇は小型哺乳類や爬虫類(トカゲ、他種の蛇)、鳥、爬虫類や鳥の卵、魚や昆虫などの動物を生きたまま捕食します。
毒のない蛇は獲物に噛みついたり、長い体で絞め上げたりして捕らえますが、毒蛇は毒を利用して獲物の動きを止めます。
毒蛇の毒は、いわば狩りのための道具、つまり生きるために必要なものなのです。
さて、前項で紹介したように、毒蛇の毒には「神経毒」と「出血毒」の2種類があります。
神経毒
神経毒は動物の神経筋接合部の神経伝達を乱れさせます。この毒に侵された動物は全身が麻痺して、多くの場合は横隔膜の動きが停止し、呼吸困難に至ります。
インド四大毒蛇のうち、コブラ科のインドコブラ、アマガサヘビはこの神経毒を持っており、咬まれると全身がしびれ、呼吸困難や心停止を起こさせます。
微量の毒で、咬まれた後の痛みが強くなくともただちに命に関わるのが、毒蛇の持つ神経毒の恐ろしいところです。
出血毒
クサリヘビ科の毒蛇がこの出血毒を持っており、インド四大毒蛇では、ラッセルクサリヘビとカーペットバイパーがこれにあたります。
なお、ラッセルクサリヘビは神経毒と出血毒の両方を持っています。
出血毒は血液の一部を凝固させ、その反動で出血を止まりにくくさせます。さらに血管の細胞を破壊して出血を引き起こし、血圧の降下や体内出血をもたらします。
とくに腎臓には血栓による壊死など、致命的な影響が起こることがあり、ひどい場合には多臓器不全を起こして死に至ります。
キングコブラが四大毒蛇に入らない理由
中国や東南アジア、南アジアの各国に分布するキングコブラ(有鱗目ヘビ亜目コブラ科キングコブラ属、キングコブラOphiophagus hannah)は、インドに生息しているにもかかわらず、インド四大毒蛇には含まれていません。
体長は3~4メートルと大型で、毒量の多さから現地では「象をも咬み殺す」と言われます。
日本でも、毒蛇といえばまず名が挙がるほど有名ですが、なぜ四大毒蛇には入らないのでしょうか。
それはインド四大毒蛇が、「分布の広さ」と「致死率の高さ」を基準に定められているからです。
キングコブラの生息地
キングコブラは山中の森林に生息しています。
一方、インド四大毒蛇に属する蛇は、農耕地や草原などの低地に生息しており、行動範囲が人間の生活する地域と重なっているのです。
そのため、現地の人々はキングコブラよりもインド四大毒蛇に遭遇することのほうが多く、危険性も高いと言えるでしょう。
体長の違い
キングコブラは世界最大の毒蛇と言われ、体長5メートル以上の個体が報告されています。
一方、インド四大毒蛇はというと、ラッセルクサリヘビは約120~170センチメートル、インドアマガサヘビとインドコブラは約100~150センチメートルと、せいぜい日本のアオダイショウ程度の体長で、それほど大型ではありません。さらに、カーペットバイパーに至っては約40~80センチメートルとかなり小型です。
3メートル以上のキングコブラが鎌首をもたげて威嚇すれば、たいていの人は気がつき、逃げることができます。
それに対して、小型の毒蛇は草むらなどで気がつきづらく、しかも咬まれた際の痛みの少ない神経毒を持つ蛇などはいっそう危険で、命に関わります。
性格
キングコブラは繁殖期を除けば温和な性格で、人間の方から攻撃しなければ咬まれることは少ないといいます。
インド四大毒蛇にはカーペットバイパーのように攻撃的な種も含まれていて、やはりキングコブラに比べると危険性が高いといえるでしょう。
なお、キングコブラは日本でも複数の施設での飼育例があります。
インドの毒蛇による死者はなぜ多い?
インドでは年間の毒蛇咬傷による死亡および後遺症が、世界一多いとされます。
すでに触れたように、インド四大毒蛇はいずれも強い毒を持っています。
そして、その多くは餌のネズミなどを捕食するため夜行性であり、就寝中に被害に遭う場合もあるため、きわめて危険です。
ただ、四大毒蛇に含まれる毒蛇は、インド以外のアジア、中東諸国の広範囲にも分布しています。それではなぜ、インドではこれほどまでに毒蛇による死者が多いのでしょうか。
人口密度の高さ
インドは2023年に世界第1位の人口を誇る国となりました。世界第7位の国土面積の中に、中国よりも多い人数が暮らしています。
このように人口密度が高くなった結果、人間の居住地域は毒蛇の生息する地帯にも広がりました。
とくにインドの国土の多くを占める農村地帯は、インド四大毒蛇の生息地と重なっており、そのために毒蛇の被害が後を絶たないのです。
医療体制の未発達
インド四大毒蛇に咬まれた場合、ただちに処置をほどこさなければ命に関わります。
インドの都市部では先進的な医療体制が整っていますが、農村地帯では未だ医療が行き届いていないところも残されています。
そのため、インド四大毒蛇による咬傷が多い地帯では、咬まれてもすぐに適切な処置ができず、命を落としてしまう人が多いわけです。
また、インドでは四大毒蛇の毒を中和する血清が生産されていますが、その効果が疑われるものもあることが指摘されています。
信仰と迷信
インド四大毒蛇による被害の多い地域に、毒蛇への迷信が残っていることも、死者の数が多い原因のひとつです。
たとえば、インドでは毒蛇を神様として傷つけずにうやまう地域があります。
また、地域のコミュニティでは、蛇に噛まれた後に「止血帯(蛇の毒が回らないように傷の近くにバンドを巻いて血を止める方法)」を用いることが優先されます。
加えて、薬草を用いたり、医療機関へ駆けつける前に祈祷による治療を頼ったりすることもあるといいます。
このように、伝統医療を好む習慣が生きていることから、かえって毒蛇に咬まれた人への適切な処置が遅れ、命を落とす人や後遺症を負う人々が出てしまうのです。
毒蛇から身を守るには
恐ろしい毒蛇から身を守るための注意点には、どのようなことがあるのでしょうか。
毒蛇の被害を避けるのは、実はそれほど難しくありません。注意すべきポイントを5点ご紹介します。
毒蛇について知る
毒蛇の生息する地域に旅行する前に、遭遇する可能性のある蛇について知っておきましょう。
それぞれの毒蛇が分布する地域や、性質、どのような場所に生息するか(山地、平地、草むらなど)などを調べておくとよいでしょう。
衣服で身を守る
自然の多い場所を歩く時には足を毒蛇から守るため、常に丈夫なブーツや長ズボンを着用するのが効果的です。
蛇のいそうな場所を避ける
田園地帯などを徒歩で移動する場合には、人通りの多い開けた道を歩きましょう。
草の深い所や落ち葉の集まった所、岩場など、蛇の隠れていそうな所に近付かないのが安全です。
夜間の行動を控える
多くの蛇は夜間に活動的になるので、夜間の外出はできるだけ避けるのが賢明です。
もしもやむを得ず夜間に出歩く場合には、光りが遠くまで届く懐中電灯を持ち、毒蛇に遭遇しても十分な距離をとれるよう注意をはらいましょう。
蛇を挑発しない
もしも蛇に遭遇してしまったら、十分な距離を取り、決して触ったり捕まえようとしたり、ましてや殺そうとしたり挑発したりすることのないようにしましょう。
蛇は自分が身の危険を感じないかぎり咬んでくることはありません。
もしも毒蛇に咬まれたら?
万が一、毒蛇に咬まれてしまったら、どうすればよいのでしょうか。緊急時の対応をまとめます。
まずは落ち着いてその場を離れる
毒蛇に咬まれてしまった! と気づいたら、まずは落ち着いてその場を離れましょう。
人間を咬んだ蛇は怯えて攻撃的になっています。何度も咬まれる前にすぐに距離を取るのが最優先です。
そして、体の血液が循環しないようできるだけ安静に、最低限の運動量で助けを呼びましょう。
蛇の種類を見分ける
このコラムでも触れたように、一口に毒蛇と言っても、持っている毒の種類はさまざまに異なります。
咬まれた蛇の種類を判別することが、治療への近道です。
あくまでその余裕があればですが、全身が写っていなくとも、咬んだ蛇の写真が一部でもあれば、専門家が判別できる可能性は上がります。
迅速に医療機関を受診する
毒蛇から十分に距離をとったら、すみやかに医療機関を受診しましょう。
適切な処置のためには蛇の毒に対応する「血清」が必要になります。
医療機関によって備えられている血清の種類が異なるので、できるだけ早く受診することが、迅速な対処に繋がります。
血清とは?
血清とは、特定の毒への免疫体を大量に含む動物の血清を注射して、毒を中和する治療法です。
現在の日本では、血清を作るのには馬の血液が用いられます。
馬に微量の毒を約半年かけて注射し、体内でその毒への免疫のできた血清を治療に利用するのです。
現代では、馬の血清に代わる製剤法の研究も進められています。
知っておきたい!インド四大毒蛇の特徴と共存のヒント
インド四大毒蛇の特徴や、死者の多い背景、身を守る方法についてご紹介してきました。
恐ろしい毒蛇とはいえ、彼らの毒は彼らが生きるためのものであって、人間をむやみに傷つけるためのものではありません。
人間の一方的な事情で排除することはできないのです。
私たちに身近な日本の蛇も含め、蛇の多くは憶病な性格で、身の危険を感じなければ人間に咬みつくことはほとんどないはずです。
毒蛇の生息する国を訪れる時には、できるだけ毒蛇の隠れやすい所に近付かないよう注意しましょう。
爬虫類や蛇が苦手な人がいるのは仕方ないものの、お互いを刺激しないよう平和に共存したいものですね。
それと、機会があれば、蛇の顔を正面からよく見てみてください。丸い目におちょぼ口のとてもかわいらしい顔をしていますよ。
蛇と正しく付き合って、2025年巳年の福を呼び寄せましょう!