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みなさんは、モンゴルの「ゲル」という住居スタイルを知っていますか? まったく聞いたことがないという方、子どものころに習ったことがあるという方、実際に泊まったことがあるという方など、さまざまではないでしょうか。
このコラムでは、モンゴルのゲルについて、特徴や歴史について詳しく解説していきます。また、ゲルの中身や、人々がゲルで暮らしている理由などについてもご紹介します。
ぜひ最後まで読んで、ゲルについて詳しくなりましょう♪
ゲルは、モンゴルの遊牧民の人々が住む、移動式の家のことを指します。私たちがイメージする一般的な家というよりは、「テント」に近い見た目をしています。しかし、中長期的に住むのに適したつくりをしています。
日本では、中国語の呼び名に由来するパオ(包)という名前で呼ばれることもありますが、「ゲル」という方が一般的です。ゲルという名前は、モンゴル語で「家」という意味があります。
移動式住居は、モンゴルのゲルだけではなく、世界中にさまざまなものがあります。
上記のとおり、中国語ではパオ(包)と呼ばれており、中国の内モンゴル自治区に住むモンゴル民族の人々は「パオ」と呼んでいます。ゲルとパオは同じものを指します。
ユルト(またはユルタ)というものもありますが、こちらはテュルク系統遊牧民である、カザフ人やキルギス人が暮らす家です。こちらも、多少内装などに違いはあるものの、基本的にはゲルと同じような形をしています。
地域によって呼び方が異なります。
ゲルの形は、円形で屋根部分には中心から放射状に梁が渡されています。色は白一色が基本で、モンゴルの美しい草原の緑に映えます。
大きさは、内部が直径4~6mほどで、重さは床材を除いて約250~300kg。 屋根や壁となる覆いの素材はヒツジの毛でつくったフェルトです。構造は、中心の柱(2本)によって支えられた骨組があり、屋根部分には中心から放射状に梁が渡されています。壁の外周部分の骨格は木組みで、菱格子に組まれています。
このような構造をしているため、コンパクトに畳むことができ、 持ち運びや組み立てがしやすい。そのため、 ゲルは解体と移動に最適な住宅ですよ。
続いて、モンゴルゲルの配置と設備についてご紹介します。ゲルの中身の間取りを知ることで、遊牧民の人々の生活が見えてくるかもしれません。
入口を入って、正面がゲルのもっとも大切な場所です。そこは「ホイモリ」、また「ホイヌ」と呼ばれる、いわゆる奥の間です。祭壇が設けられており、仏画や仏像が置かれています。「ホイモリ」はモンゴル語「後ろ」という意味があり、つまりホイモリはゲルの後ろのことを指すのです。
入口から見て左側は男性、右側は女性(と子ども)の居住空間となります。
男性の空間はモンゴル語で「バローン・ビイ」と言い、ゲル内部の西側に位置します。日常生活でも、特別な年中行事でも、年齢順に座ることが特徴です。 女性の空間は「ジューン・ビイ」と言い、ゲル内部で男性の空間から見て左に位置します。こちらも年代順または世代順に座ります。夜になると食卓を片付け、この場所に集まって就寝します。
中央には、かまどが置かれます。ここは「ゴォル」と呼ばれます。料理に使うだけでなく、ストーブとして暖を取る際にも使われます。
続いて、ゲルの中にはどんな特別な設備があるのかについて、詳しく見ていきましょう!
頂点部には換気や採光のために使う、「トーノ」と呼ばれる開閉可能な天窓があります。ストーブの煙もここから出せるようになっています。昼間はゲル内部の室温が上がるため、「トーノ」を開けて風を通します。
それに、この天窓には「ウルフ」と呼ばれる布をかけて、朝になったらウルフを開けて太陽の光をゲルに入れます。雨が降ったり、夕方などに気温が下がってきたら「ウルフ」をかぶせます。
また、虫よけに工夫もされています。暑い季節には「ウルフ」を薄い木綿製にしたり、虫を防ぐための網目の布を使ったりしています。
今でもモンゴルの遊牧民の人々はゲルで暮らしていますが、そこで気になるのが現代設備ではないでしょうか。
まず、基本的にゲルのなかに水道はありません。そのため、川の近くにゲルを建てることが多いです。また、井戸が近くにある場合はそこから水を汲みます。
お手洗いはゲルから離れた場所に「掘っ立てトイレ」のようなものがある場合もありますし、屋外の茂みなどでそのまま用を足す場合もあります。
お風呂やシャワーも多くの場合はないため、大きなプラスチック容器にお湯を入れて利用したり、温泉が湧いている場所の近くであればそこに行くということもあるようです。
電気については、ソーラーパネルが設置されているゲルが多いです。モンゴルは1年のうち250日も太陽が出ているというほどですから、太陽光発電をうまく活用しているのですね。
私たちからすると、どうしてゲルで暮らしているのか、ちょっと不思議に感じますよね。そこで、ゲルの起源や歴史、地域文化をご紹介します。
モンゴルの気候は、降水量が少ないことが特徴です。年間の降水量は東京の約1/4と言われており、湿度が低く乾燥しています。
季節ごとの特徴としては、夏は暑く冬はとても寒いです。1年間で気温差が大きく、夏は40度近くまで上がり、冬はマイナス30度近くまで下がります。特に、モンゴル南東部に広がる大きなゴビ砂漠は、1日や季節の中で気温が大きく変化する、世界でも有数の極端な環境条件となっています。
厳しい寒さが続く冬や、強い風から守るため、円形で屋根に向かって流線形をしているゲルは最適なのです。夏は壁側の裾を上にめくりあげ風通しを良くし、冬はフェルトを数枚重ねて寒さをしのぎます。
遊牧民は、ひつじ・牛・馬などの家畜とともに、草原を移動しながら生活しています。
草は無限にあるわけではないため、家畜たちが食べつくしてしまったら、放牧の牧草を探しに別の場所へ移動しなければなりません。とはいえ、しょっちゅう動き回っているのではなく、移動するのは1年に4回ほどです。 こうした生活スタイルに合うように生まれたのが、組み立てやすく移動しやすい「ゲル」なのです。
そのほか、家畜の乳をしぼって乳製品をつくったり、料理などの燃料に糞を私用したりします。また、ゲルを覆うのは、ひつじの毛で作ったフェルト。こうしてみると、遊牧民の生活は動物たちと密接にかかわっていることがわかりますね。
移動するために、建てやすく、解体しやすい構造が必要です。ここからは、遊牧民たちがゲルを組立や解体、移動することの便利さを見てみましょう。
まず組立について解説します。 最初に、平らな土地に床材(フェルトや布、寒い場合は板とじゅうたん)を敷きます。続いて格子状の骨組み(テレム)をつなげ、円形にしていきます。壁を作り、南の方角に戸をつけます。 屋根を支える支柱とトーノを取り付けます。次に骨組みから梁を延ばし、屋根部分をつくっていきます。最後に、屋根の上から順番に布をかぶせていけば完成です!
ちなみに、大人2~3人で作業した場合、組み立てには約2時間、解体には約1時間かかります。
続いて解体の方法をご紹介します。 解体は基本的に組立の逆の順番で行います。まず屋根の上からかけた布をはがしていきます。次に屋根部分の枠組を解体し、最後に壁の骨組みを蛇腹状に畳んで終了です。
それに、移動する時には、牛やラクダが引く荷車に部材を乗せて、ゲルの運搬をさせます。家畜はいつでも大きな役割を果たしていますね。
ゲルは、古代の記述や壁画などから、数千年の歴史があると考えられています。
最初の古代の住居は、乾いた枝や動物の毛皮といった周りの資源を用いてゲルを作っていました。
中世の時代において、チンギス・ハーンが代表する王たちや遊牧民族の首長は、大型のゲル集落に住み、頻繁に長距離遠征していたのです。長距離遠征をしやすいよう、ゲルを荷車の上にのせて、たくさんの牛に引っ張らせて移動していました。なので、あの時のゲルは車付きだったと言われています。
16世紀以降は、そうした遠征がなくなったため、車付きではなく、現代のゲルに近いものになっていきました。基本的な構造は変わらないものの、時代とともに軽量化され、設置や解体がしやすいものへと変化していきました。
モンゴルの人々は、家族をとても大切にしています。 1つのゲルには、1つの小さな家族が住んでいることが多いです。しかし、遊牧民の人々は2~3のゲルからなる拡大家族集団を構成し、その人たちがまとまって遊牧生活を行います。
実は、モンゴル人の家族への絆は円形ゲルと深く関連しています。 ゲルの内部には壁がなく、1つの丸い空間を共有する家族団欒の居間で、家族の団結を強めています。ゲルの大きさは家族構成によってさまざまですが、人数の多くない家族であればゲル一張りに家財道具一式を収納して、家族全員が体を寄せ合って暮らしているのです。
また、大部分の人々はモンゴル仏教を信仰しており、円形ゲルのもっとも重要な部分とされる正面には、祭壇が設けられています。神聖な場所であり、仏画や仏像が置かれる場所でもあります。
先ほどもご紹介したとおり、モンゴルは1年のあいだや1日のあいだでの寒暖差が激しいです。また、冬はマイナス30度近く下がることもあります。
そんな寒さ対策として使っているのが、なんと「家畜の糞」。冬場、ゲルの床部分は寒くなるため、乾燥した家畜の糞を断熱材として地面に敷きます。こうすることで、地面の冷たさが伝わりにくくなるんですよ。
さらに、家畜の糞は燃料としても使えます。同じく乾燥した家畜の糞をゲル内部の中央にあるストーブに入れて、数分燃やすだけですぐに暖かくなるそうですよ。
「デーブリ」というゲルの屋根組を覆うフェルトは、季節や天気によって開け閉めしています。
暑いときにはめくって風を通し、寒くなれば重ねて乗せて内部をあたためます。こうして、暑さや寒さによって簡単に変化できるのもゲルの魅力のひとつですね。
夏はゲル内部に風を通すためにフェルトをめくり上げておきます。このときのポイントは、天窓を開けて置くこと。そうすることで、横風が通りやすくなるんです。ちなみに、こうした状態のゲルのことは「ハヤーショホ(すそをめくるという意味)」と言いますよ。
雨が降ったときには、「ウルフ」をかぶせて天窓を閉めます。現在では技術がすすみ、防水性のベルチュヒンブレスを屋根にかぶせているので雨漏れの心配はありません。しかし、少し前までは雨が降り出してから4~5時間ほどで雨漏りしてしまったといいます。ちなみに、雨漏り対策として、ゲルの淵に「ブサリンソワク」と呼ばれる水路を作り、水を流すようにする地域もあるんですよ。
モンゴルの家・ゲルは、長い歴史とともに発展してきたことがわかりましたね。 厳しいモンゴルの気候に適していて、遊牧民の人々の生活や文化を感じられるゲルは、素敵な住まい、かつ遊牧民たちの知恵ですよね。 このコラムが、みなさんがゲルを知り、興味を持つきっかけになればうれしいです。
みなさんは、モンゴルの「ゲル」という住居スタイルを知っていますか?
まったく聞いたことがないという方、子どものころに習ったことがあるという方、実際に泊まったことがあるという方など、さまざまではないでしょうか。
このコラムでは、モンゴルのゲルについて、特徴や歴史について詳しく解説していきます。また、ゲルの中身や、人々がゲルで暮らしている理由などについてもご紹介します。
ぜひ最後まで読んで、ゲルについて詳しくなりましょう♪
目次
モンゴルのゲルとは?
ゲルは、モンゴルの遊牧民の人々が住む、移動式の家のことを指します。私たちがイメージする一般的な家というよりは、「テント」に近い見た目をしています。しかし、中長期的に住むのに適したつくりをしています。
日本では、中国語の呼び名に由来するパオ(包)という名前で呼ばれることもありますが、「ゲル」という方が一般的です。ゲルという名前は、モンゴル語で「家」という意味があります。
ゲル、パオ、ユルト?どっち?
移動式住居は、モンゴルのゲルだけではなく、世界中にさまざまなものがあります。
上記のとおり、中国語ではパオ(包)と呼ばれており、中国の内モンゴル自治区に住むモンゴル民族の人々は「パオ」と呼んでいます。ゲルとパオは同じものを指します。
ユルト(またはユルタ)というものもありますが、こちらはテュルク系統遊牧民である、カザフ人やキルギス人が暮らす家です。こちらも、多少内装などに違いはあるものの、基本的にはゲルと同じような形をしています。
地域によって呼び方が異なります。
モンゴルゲルの特徴
ゲルの形は、円形で屋根部分には中心から放射状に梁が渡されています。色は白一色が基本で、モンゴルの美しい草原の緑に映えます。
大きさは、内部が直径4~6mほどで、重さは床材を除いて約250~300kg。
屋根や壁となる覆いの素材はヒツジの毛でつくったフェルトです。構造は、中心の柱(2本)によって支えられた骨組があり、屋根部分には中心から放射状に梁が渡されています。壁の外周部分の骨格は木組みで、菱格子に組まれています。
このような構造をしているため、コンパクトに畳むことができ、 持ち運びや組み立てがしやすい。そのため、 ゲルは解体と移動に最適な住宅ですよ。
モンゴルゲルの中身
続いて、モンゴルゲルの配置と設備についてご紹介します。ゲルの中身の間取りを知ることで、遊牧民の人々の生活が見えてくるかもしれません。
ゲル内部の配置
入口を入って、正面がゲルのもっとも大切な場所です。そこは「ホイモリ」、また「ホイヌ」と呼ばれる、いわゆる奥の間です。祭壇が設けられており、仏画や仏像が置かれています。「ホイモリ」はモンゴル語「後ろ」という意味があり、つまりホイモリはゲルの後ろのことを指すのです。
入口から見て左側は男性、右側は女性(と子ども)の居住空間となります。
男性の空間はモンゴル語で「バローン・ビイ」と言い、ゲル内部の西側に位置します。日常生活でも、特別な年中行事でも、年齢順に座ることが特徴です。
女性の空間は「ジューン・ビイ」と言い、ゲル内部で男性の空間から見て左に位置します。こちらも年代順または世代順に座ります。夜になると食卓を片付け、この場所に集まって就寝します。
中央には、かまどが置かれます。ここは「ゴォル」と呼ばれます。料理に使うだけでなく、ストーブとして暖を取る際にも使われます。
ゲルの設備
続いて、ゲルの中にはどんな特別な設備があるのかについて、詳しく見ていきましょう!
天窓
頂点部には換気や採光のために使う、「トーノ」と呼ばれる開閉可能な天窓があります。ストーブの煙もここから出せるようになっています。昼間はゲル内部の室温が上がるため、「トーノ」を開けて風を通します。
それに、この天窓には「ウルフ」と呼ばれる布をかけて、朝になったらウルフを開けて太陽の光をゲルに入れます。雨が降ったり、夕方などに気温が下がってきたら「ウルフ」をかぶせます。
また、虫よけに工夫もされています。暑い季節には「ウルフ」を薄い木綿製にしたり、虫を防ぐための網目の布を使ったりしています。
現代設備
今でもモンゴルの遊牧民の人々はゲルで暮らしていますが、そこで気になるのが現代設備ではないでしょうか。
まず、基本的にゲルのなかに水道はありません。そのため、川の近くにゲルを建てることが多いです。また、井戸が近くにある場合はそこから水を汲みます。
お手洗いはゲルから離れた場所に「掘っ立てトイレ」のようなものがある場合もありますし、屋外の茂みなどでそのまま用を足す場合もあります。
お風呂やシャワーも多くの場合はないため、大きなプラスチック容器にお湯を入れて利用したり、温泉が湧いている場所の近くであればそこに行くということもあるようです。
電気については、ソーラーパネルが設置されているゲルが多いです。モンゴルは1年のうち250日も太陽が出ているというほどですから、太陽光発電をうまく活用しているのですね。
なぜゲルで暮らしているのか?
私たちからすると、どうしてゲルで暮らしているのか、ちょっと不思議に感じますよね。そこで、ゲルの起源や歴史、地域文化をご紹介します。
移動生活に適した設計
環境気候
モンゴルの気候は、降水量が少ないことが特徴です。年間の降水量は東京の約1/4と言われており、湿度が低く乾燥しています。
季節ごとの特徴としては、夏は暑く冬はとても寒いです。1年間で気温差が大きく、夏は40度近くまで上がり、冬はマイナス30度近くまで下がります。特に、モンゴル南東部に広がる大きなゴビ砂漠は、1日や季節の中で気温が大きく変化する、世界でも有数の極端な環境条件となっています。
厳しい寒さが続く冬や、強い風から守るため、円形で屋根に向かって流線形をしているゲルは最適なのです。夏は壁側の裾を上にめくりあげ風通しを良くし、冬はフェルトを数枚重ねて寒さをしのぎます。
牧畜生活
遊牧民は、ひつじ・牛・馬などの家畜とともに、草原を移動しながら生活しています。
草は無限にあるわけではないため、家畜たちが食べつくしてしまったら、放牧の牧草を探しに別の場所へ移動しなければなりません。とはいえ、しょっちゅう動き回っているのではなく、移動するのは1年に4回ほどです。
こうした生活スタイルに合うように生まれたのが、組み立てやすく移動しやすい「ゲル」なのです。
そのほか、家畜の乳をしぼって乳製品をつくったり、料理などの燃料に糞を私用したりします。また、ゲルを覆うのは、ひつじの毛で作ったフェルト。こうしてみると、遊牧民の生活は動物たちと密接にかかわっていることがわかりますね。
便利な組立と解体
移動するために、建てやすく、解体しやすい構造が必要です。ここからは、遊牧民たちがゲルを組立や解体、移動することの便利さを見てみましょう。
まず組立について解説します。
最初に、平らな土地に床材(フェルトや布、寒い場合は板とじゅうたん)を敷きます。続いて格子状の骨組み(テレム)をつなげ、円形にしていきます。壁を作り、南の方角に戸をつけます。
屋根を支える支柱とトーノを取り付けます。次に骨組みから梁を延ばし、屋根部分をつくっていきます。最後に、屋根の上から順番に布をかぶせていけば完成です!
ちなみに、大人2~3人で作業した場合、組み立てには約2時間、解体には約1時間かかります。
続いて解体の方法をご紹介します。
解体は基本的に組立の逆の順番で行います。まず屋根の上からかけた布をはがしていきます。次に屋根部分の枠組を解体し、最後に壁の骨組みを蛇腹状に畳んで終了です。
それに、移動する時には、牛やラクダが引く荷車に部材を乗せて、ゲルの運搬をさせます。家畜はいつでも大きな役割を果たしていますね。
歴史起源
ゲルは、古代の記述や壁画などから、数千年の歴史があると考えられています。
最初の古代の住居は、乾いた枝や動物の毛皮といった周りの資源を用いてゲルを作っていました。
中世の時代において、チンギス・ハーンが代表する王たちや遊牧民族の首長は、大型のゲル集落に住み、頻繁に長距離遠征していたのです。長距離遠征をしやすいよう、ゲルを荷車の上にのせて、たくさんの牛に引っ張らせて移動していました。なので、あの時のゲルは車付きだったと言われています。
16世紀以降は、そうした遠征がなくなったため、車付きではなく、現代のゲルに近いものになっていきました。基本的な構造は変わらないものの、時代とともに軽量化され、設置や解体がしやすいものへと変化していきました。
社会文化
モンゴルの人々は、家族をとても大切にしています。
1つのゲルには、1つの小さな家族が住んでいることが多いです。しかし、遊牧民の人々は2~3のゲルからなる拡大家族集団を構成し、その人たちがまとまって遊牧生活を行います。
実は、モンゴル人の家族への絆は円形ゲルと深く関連しています。
ゲルの内部には壁がなく、1つの丸い空間を共有する家族団欒の居間で、家族の団結を強めています。ゲルの大きさは家族構成によってさまざまですが、人数の多くない家族であればゲル一張りに家財道具一式を収納して、家族全員が体を寄せ合って暮らしているのです。
また、大部分の人々はモンゴル仏教を信仰しており、円形ゲルのもっとも重要な部分とされる正面には、祭壇が設けられています。神聖な場所であり、仏画や仏像が置かれる場所でもあります。
不思議なゲル暮らし
寒さ対策は家畜の糞?
先ほどもご紹介したとおり、モンゴルは1年のあいだや1日のあいだでの寒暖差が激しいです。また、冬はマイナス30度近く下がることもあります。
そんな寒さ対策として使っているのが、なんと「家畜の糞」。冬場、ゲルの床部分は寒くなるため、乾燥した家畜の糞を断熱材として地面に敷きます。こうすることで、地面の冷たさが伝わりにくくなるんですよ。
さらに、家畜の糞は燃料としても使えます。同じく乾燥した家畜の糞をゲル内部の中央にあるストーブに入れて、数分燃やすだけですぐに暖かくなるそうですよ。
変化できるゲル
「デーブリ」というゲルの屋根組を覆うフェルトは、季節や天気によって開け閉めしています。
暑いときにはめくって風を通し、寒くなれば重ねて乗せて内部をあたためます。こうして、暑さや寒さによって簡単に変化できるのもゲルの魅力のひとつですね。
夏はゲル内部に風を通すためにフェルトをめくり上げておきます。このときのポイントは、天窓を開けて置くこと。そうすることで、横風が通りやすくなるんです。ちなみに、こうした状態のゲルのことは「ハヤーショホ(すそをめくるという意味)」と言いますよ。
雨が降ったときには、「ウルフ」をかぶせて天窓を閉めます。現在では技術がすすみ、防水性のベルチュヒンブレスを屋根にかぶせているので雨漏れの心配はありません。しかし、少し前までは雨が降り出してから4~5時間ほどで雨漏りしてしまったといいます。ちなみに、雨漏り対策として、ゲルの淵に「ブサリンソワク」と呼ばれる水路を作り、水を流すようにする地域もあるんですよ。
まとめ:モンゴルの文化を感じられる家・ゲルには魅力がいっぱい
モンゴルの家・ゲルは、長い歴史とともに発展してきたことがわかりましたね。
厳しいモンゴルの気候に適していて、遊牧民の人々の生活や文化を感じられるゲルは、素敵な住まい、かつ遊牧民たちの知恵ですよね。
このコラムが、みなさんがゲルを知り、興味を持つきっかけになればうれしいです。