掲載日:2024.11.14

ハラールって何?食べられないものとその理由について解説!

ハラールとは何でしょうか?なぜイスラム教徒には食べられるものと食べられないものがあり、どのような理由があるのでしょうか。

グローバル化やインバウンドなどで「ハラールフード」や「ムスリムフレンドリー」などの言葉を耳にする機会が増えたと思いますが、一般的に知られているのは、「豚肉禁止・アルコール禁止」です。

では、それ以外の食べ物は全てハラールなのでしょうか。いいえ、実はもっとたくさん禁じられているものがあります。今回はコーランやその他学派の説明を交えながら、ハラールについて解説していきます。

イスラム教の分布と宗派

イスラム教の分布と宗派

イスラム教は現在世界で18.5億人の信仰者がおり、キリスト教に次いで信仰者人口が多い一神教の宗教です。イスラム教発祥の地サウジアラビア周辺の中東諸国、北アフリカ、南アジア、東南アジアでは国の宗教がイスラム教である国が多く、それ以外にも欧米や他のアジア諸国でも信仰者数が増加しています。

イスラム教にも宗派が存在しています。最も信仰者が多いのはスンニ派で、他にもイランやパキスタン北部に多いシーア派、神秘主義で知られるスーフィーなどがあります。

スンニ派には学派が多数あり、特にシーフードに関するハラール・ハラームの概念には多少異なる部分があります。
シーア派でもイスラム教の大前提である「豚肉を食さない」は変わりませんが、礼拝の仕方がスンニ派とは異なりますし、宗教行事も全く別物になります。学派の一つでは、畜産のハラール処理をせず食する地域もまれにあります。

ハラールとは?

イスラム教で「許されている」という意味です。飲食物に限らず人間の行動全てにおいて使われる概念で、言い換えれば人間の生き方の指針がハラールになります。
イスラム教では常に善行を実践するのが良いとされており、身の回りを清潔に保つ、募金や寄付をする、貧しい人を助ける、丁寧な言葉を使う、清潔で品の良い服装をする、などがハラール行為になります。

ハラームとは?

上記のハラールと反対の意味で、「禁じられている、または禁忌」という意味です。こちらも飲食物に限らず、人間行動の全てにおいて通じる概念です。飲食が禁じられているものは想像がつきやすいですが、人間行動においては犯罪につながるものと解釈するとわかりやすいです。

また、日常生活においても、嘘をつく、暴言を吐く、ふしだらな服装や男女関係、不当に高額な利子などつけて利益を得るビジネスなどもハラームと呼ばれます。
ハラールとハラームに関しては、コーランにはっきりと記載があります。

どんなものがハラールフードなの?

ハラールフードとはイスラム教で食べることが許されている食品を指し、主に野菜・魚・海藻類・卵・穀物・牛乳、ハラール処理された鶏・牛・羊・ヤギ・バッファロー・ラクダなどが該当します。

どんなものがハラールフードなの? ムスリムの食事を大まかに分類すると、ハラール・ハラームシュブハの3つに分けられる

しかし、適切に処理されたものでなければ、たとえそれが野菜や魚であってもハラールフードでなくなる場合があります。以下で詳しく見ていきましょう。

畜産について

イスラム法に従って処理された畜産のみがハラール肉として食されます。この食肉処理はムスリム(イスラム教徒)しか行えず、非ムスリムが行った場合はハラールとは認められません。

また、豚肉はコーランに「不浄」とあるためハラールとして扱われません。
これは豚が雑食であること(腐敗したものでもなんでも食す)、寄生虫やバクテリア、ウイルスを媒介することなどが理由として挙げられます。

野菜について

果物や野菜、穀物は基本全てハラールです。
ただし野菜であっても、ハラームの(イスラムで不浄とされる)肥料を用いて栽培された場合、ハラールには該当せず食することができません。例えば豚やハラール牛ではない牛の骨紛飼料などが該当します。

また、ハラームの原材料と一緒に調理してしまうといくらハラールの野菜でもハラームとなります。

魚について

シーフード全般はハラールなのでは?との疑問は、実はイスラム教徒間でも共通しています。シーフード全般はハラールと言えます。以下コーランの内容です。

Lawful to you is game from the sea and its food as provision for you and the travelers, but forbidden to you is game from the land as long as you are in the state of ihram. (5:96)

下線部訳:海の獲物と食料は合法である

しかしながら学派により異なる点があります。
ここでは最も信仰者が多いスンニ派とシーア派を例に挙げ、それぞれの違いを見ていきましょう。

■ スンニ派では

パキスタンやバングラデシュ、アフガニスタン、中央内陸アジアに多いスンニ派に属するハナフィー派では、甲殻類や軟体動物は魚とは定義されないとハディース(預言者ムハンマドが日常で語った言葉や行動などの証言をまとめた、コーランに次ぐ重要な聖典のこと。預言者ムハンマドの言行動をスンナと呼び、スンニ派の由来になっています)にあるため、食べることが許されていません。うろこのない魚も同様です。

しかしながら、エビなどはマクルー(推奨されない)として食されている場合もあります。また、学派の最高位学者(Mufti:ムフティー)または法学者などが宗教的な見解で状況によりYesと言ってしまえば、マクルーとしての扱いになる場合があります。

東南アジアのインドネシアやマレーシアに多いシャフィー派、北アフリカに多いマリキ派、サウジアラビアのハンバリ派は、ハナフィー派ほどシーフードに関する制限が厳しくありません。

どんなものがハラールフードなの? 例えば、マレーシアやインドネシア、シンガポールで食される「ラクサ」はエビの出汁とうまみが効いた代表的な料理です。

■ シーア派では

イランやイラクの一部、パキスタンの北部などに多いシーア派では、スンニ派よりもハラーム定義がはっきりとしています。
うろこのない魚(うなぎやナマズ)はハラームです。甲殻類でもエビを除いたほかは全てハラームです。

魚(シーフード)に関しては、さまざまな見解があります。ですが共通して言えるのは、うろこがあるかないか、甲殻類でエビのように柔らかめの殻をもつのか、ロブスターのように固い殻を持つのか、内骨格なのか、甲殻類の殻がうろこに値するのか、ヒレやエラがあるのか、水の外に出ても生きられるか(肺呼吸)、このような点で海の生物がハラールかハラームかに分かれるようです。

ムスリムが食べてはいけないハラームフード

周知のとおり、豚肉やアルコールはハラームですので口にすることはできません。
ハラームフードとされる食品は次のようなものが挙げられます。

ハラームフードとされるもの

肉食動物(ライオン、トラ、オオカミ、犬、猫、クマなど) 爪のある肉食猛禽類(タカ、トンビ、ワシ、はやぶさ) サル、ゾウ、亀、両生類、虫(イナゴは除く) フグなど毒を持つ魚 血、腐肉または死肉 豚由来製品(ゼラチン、ラード) ハラール未処理の動物由来製品(コンソメ、乳化剤、動物性油脂など) 培養された乳酸菌入りのヨーグルト(菌培養の際の培地が豚原料由来のため)

現在日本では、乳化剤やショートニング、マーガリンなど植物由来の原料を使用しているものも多くあります。(大豆由来)または(植物油)との表示があります。これらはハラームではありませんがハラールでもありません。このような食品はシュブハと呼ばれます。

※シュブハに関しては後半に解説します。

何故アルコールがハラームなの?

アルコールに関しては色々な見解があるようです。
アルコールは飲酒が人間を堕落させ犯罪につながるという理由で神が禁じました。しかし、医薬品や調味料には酔うまでの量に程遠い微量のアルコールが含まれていることがあります(消毒や薬のシロップ、調味料など)。

イスラム教発祥の地であるサウジアラビアの見解では、加熱中にアルコールが飛ぶような微量に含まれた調味料などは、イスラム教が国教である国以外に住む場合には許容と言われています。しかしながら、このようなごく微量のアルコールですら口にしない敬虔なムスリムもいます。

雑学

ムスリムでもお酒が飲める場所がある?

ムスリムでもお酒が飲める場所がある?

イスラム教では飲酒が禁じられていますが、国民の90%以上がイスラム教徒であるトルコでは、実はお酒が飲めることで知られています。これはトルコ共和国初の大統領「ムスタファ・ケマル・アタテュルク」による、政教分離政策がとられたからです。

トルコでは信仰の自由が認められており、イスラム教の戒律についてどこまで従うかは、個人の判断に委ねられています。これは観光客も同様で、お酒を飲むムスリムもいれば、一滴も飲まないムスリムもいます。

パキスタン北部の山間部は、シーア派イスマイリームスリムが多く住んでいることで知られています。保守的なパキスタンのスンニ派ムスリムに比べると、とても開放的で同じイスラム教徒には見えません。国の認可があるわけではありませんが、杏やブドウを使って果実酒を製造している場所があります。地元の方の密かな楽しみのようです。観光客に向けてひそかに販売をしているようです。あくまでも、「密かに」です。

隠れた酒飲みが沢山!イスラム教徒とお酒の関係はこちら

シュブハとマクルーとハラール認証

ここまではハラールとハラームについて解説してきましたが、この2つに分類されない(もしくは自分でハラールかハラームか判断がつかない)ものは何と呼ぶのでしょうか?
ハラール認証と合わせて解説していきます。

疑わしいもの「シュブハ」

シュブハとは、「疑わしいもの」という意味です。
例を挙げるなら、ハラール処理をされているのか判断がつかない食肉、成分由来のわからない調味料、みりんや料理酒などで、イスラム法に従ったハラール食品なのかそうでないのかわからない時に「疑わしい」となります。疑わしいので、飲食は避けた方がよい、との結論に至ります。

できれば避けたい「マクルー」

シュブハの他にマクルーという概念も存在します。マクルーは「推奨しない」という意味になります。ハラールでもなければハラームでもありません。だからと言って常日頃から好んで食べてよいものではなく、できることなら食べない方が良い、という意味合いの言葉です。

例を挙げれば、食べるものがなくなってマクルーのものしかない状態のときに、食べるのが許されます。十分にハラール食品に囲まれているのであれば、あえてマクルーの食べ物を選択して食べてはいけない、という意味です。馬肉が一番の例になります。

ハラール認証で安心して食事を楽しむ

ハラール認証で安心して食事を楽しむ

輸入食品に「ハラール認証」マークがついているのを見かけたことがあるかと思います。
生産した国や認証機関によりハラールマークのデザインに違いがありますが、意味は全て同じ「ハラール」です。アラビア語のハラールをもとにデザインされています。

このマーク(認証)がある商品やレストランは、イスラム法でハラームとされた成分が含まれない製品を販売・提供していることが正式に認められています。
原料から製造工程、その間の品質管理、包材や管理、販売に至るまで、一貫してハラーム材料を使わない・触れない製品であることの証です。商品だけでなく、設備もハラールであるという意味です。

日本や非イスラムの国で食品を購入する際は、このマークでハラール食品であることがわかります。中東やその周辺地域のイスラム教が国教になっている国であれば、ベーカリーのパンやケーキなども、何の気兼ねなく安心して購入することができます。

このようにイスラム教徒にとって日頃購入する食料品(石鹸・化粧品などの日用品も含む)が確実にハラール食品であることは、何よりも大事です。

ムスリムが豚肉を食べてしまうと刑罰がある?

万が一豚肉や豚由来の者を食べてしまった場合であっても、故意でなければ罪には問われません。コーランには「故意に違反せず、法を超えず必要に迫られた場合は罪にならない。ALLAHは寛容で慈悲深い」とあります。

アルコールに関しても、飲酒してしまった場合、しっかりとお祈りをして許しを請い、ザカート(貧しい人に寄付をする)することで撤回されるとあります。しかしながら敬虔で真摯なムスリムは、自から進んでアルコールを飲もうとはしません。

まとめ

ハラールフードとは神から食べることを許された食べ物のことです。
しかし、悩んで考えるほど難しいものではなく、豚とアルコールを除けばごく自然に手に入れることのできる野菜・果物・穀物や豆類、牛乳や卵などの身近なものです。

食肉などは、神に感謝を捧げながら動物を処理することでハラールミートになります。
食べ物を与えてくれる神に感謝する、命を犠牲にして食肉となる動物に感謝をする。ハラールフードとは、このような意味合いも存在するのです。

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